【相続・遺言】遺産分割の付随問題

2022-04-20

遺産分割に付随する問題として、①使途不明金、②遺産収益、③遺産管理費用、④葬儀費用、⑤相続債務、⑥祭祀承継等について争いとなることがあります。

 

第1 使途不明金

1 相続開始前の預貯金の引出し

被相続人の預貯金の口座から使途不明の引出しがある場合、誰が引出し、何に使われたのか共同相続人間で争いとなることがあります。

被相続人が自分で引き出して使用した場合や被相続人以外の人が引き出した場合であっても被相続人のために適正に使用された場合には基本的に問題とならないでしょうが、そうでない場合には、被相続人は預貯金を引き出した人に対し損害賠償請求または不当利得返還請求ができることがあります。

これらの請求権は相続開始後は相続財産になりますが、可分債権であり、相続開始により各共同相続人に法定相続分に応じて当然に分割されるため、遺産分割の対象とはなりません。

遺産分割の対象とならない場合であっても、共同相続人全員で合意ができれば、遺産分割手続の中で解決することもできますが、合意ができない場合には、民事訴訟等で解決することになります。

 

なお、引き出した預貯金が別の相続財産として存在している場合には、その財産の種類によって、遺産分割の対象となること(現金として残っている場合)もあれば、可分債権として各共同相続人の法定相続分に応じて当然に分割されること(貸付金に当たる場合)もあります。

また、引き出された預貯金の使途が被相続人から相続人への贈与である場合には特別受益の問題となることもあります。

 

2 相続開始後の預貯金の引出し

相続開始後に被相続人の預貯金が引き出された場合、相続人は預貯金を引き出した人に対し、損害賠償請求または不当利得返還請求ができることがあります。

これらの請求権は相続開始後に発生したものであり、相続財産ではありませんので、遺産分割の対象とはなりません。

 

遺産分割の対象とならない場合であっても、相続人全員で合意ができれば、遺産分割手続の中で解決することもできますが、合意ができなければ、民事訴訟等で解決することになります。

なお、引き出した預貯金を相続債務、葬儀費用、遺産管理の費用の支払いにあてた場合であっても、これらは遺産分割の対象とはなりませんので、相続人全員の合意ができなければ民事訴訟等で解決を図ることになります。

 

また、相続法の改正により、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲についての規定(民法906条の2)が設けられ(2019年7月1日施行)、施行日以降に開始した相続については、共同相続人全員の同意がある場合(相続人の一部が財産を処分した場合には、その相続人の同意は不要です。)には、遺産分割前に処分された財産について遺産として存在するものとみなして、遺産分割の対象とすることができます。

 

第2 遺産収益

相続開始後に遺産から発生する収益や果実のことを遺産収益といいます。

遺産である不動産の賃料収入、株式の配当金、預貯金の利息等がこれにあたります。

 

遺産収益は相続財産ではないため、遺産分割の対象とはならないのが原則です。

共同相続人間で分配について争いがある場合には不当利得返還請求訴訟等の民事訴訟手続で解決することになります。

ただし、遺産分割の当事者が合意すれば、遺産分割の対象とすることができます。

 

第3 遺産管理費用

相続開始後に遺産を管理するために生じた費用のことであり、遺産である不動産の固定資産税、火災保険料等がこれにあたります。

 

遺産管理費用は相続財産ではないため、遺産分割の対象とはならないのが原則です。

共同相続人間で負担について争いがある場合には不当利得返還請求訴訟等の民事訴訟手続で解決することになります。

ただし、遺産分割の当事者が合意すれば、遺産分割において清算することができます。

 

第4 葬儀費用

葬儀費用は遺産分割の対象とはなりません。

葬儀費用を誰が負担することになるかについては、相続人が共同で負担するとする見解、相続財産から負担するとする見解、喪主が負担するとする見解、慣習や条理により誰が負担するか決めるとする見解があります。

もっとも、相続人全員が合意すれば、葬儀費用を遺産分割において清算することもできますので、遺産分割協議の際、葬儀費用について協議することが考えられます。葬儀費用の負担について争いがある場合には、民事訴訟等で解決することになります。

 

なお、香典がある場合、香典を葬儀費用の一部にあてられますが、香典を葬儀費用にあてても余りがある場合には、どのように処理するかについても見解が分かれております。

 

第5 相続債務

遺産分割の対象となるのは積極財産であり、相続債務は遺産分割の対象とはなりません。

金銭債務については相続開始により法定相続分に応じて当然に分割され、各共同相続人に承継されます。

 

遺産分割手続の中で共同相続人間で誰が相続債務を負担するか決めることはできますが、債権者の承諾なく、共同相続人間で負担者を取り決めても、債権者は拘束されません。

 

第6 祭祀承継

位牌、仏壇、墓等の祭祀財産は祖先の祭祀を主宰すべき者が承継しますので(民法897条)、遺産分割の対象となりません。

祭祀を主宰すべき者は、①被相続人の指定がある場合にはそれに従い、②指定がない場合は慣習に従い、③慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めます。

 

ただし、祭祀承継者について当事者全員が合意できる場合には、遺産分割手続の中で誰が祭祀財産を承継するか定めることができます。

 

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