【相続・遺言】認知症の相続人がいる場合の遺産分割

2017-12-26

高齢化社会では高齢の被相続人を高齢の相続人が相続することが増えますので,相続人に認知症の相続人がいて遺産分割の手続に苦労することが少なくありません。
共同相続人のなかに認知症の相続人がいる場合,遺産分割をするにはどうしたらよいでしょうか。

 

一 認知症の相続人がいる場合

遺産分割は共同相続人全員で行わなければならず,共同相続人の一部の人だけで遺産分割をしても無効となります。そのため,認知症の相続人に判断能力がなく,その人が遺産分割の手続に加わることができないからといって,その人を除いて遺産分割をすることはできません。

また,仮に認知症の相続人を含めて共同相続人全員で遺産分割をしたとしても,認知症の相続人に意思能力(行為の結果を弁識することができる能力)がない場合には遺産分割は無効となります。
なお,認知症だからといって必ずしも意思無能力であるとは限らないため,共同相続人人のなかに認知症の人がいても,それだけで遺産分割が無効であるとはいえませんが,意思能力の有無や認知症の相続人が遺産分割の内容を理解できているのか確認せずに遺産分割を行ってしまうと,後で遺産分割の有効性が争われ,遺産分割が無効と判断されてしまうおそれがあるので注意しましょう。

判断能力がない人が法律行為をするための制度として成年後見制度がありますので,認知症の相続人がいる場合に遺産分割をするには,成年後見制度を利用すべきです。

 

二 遺産分割の方法

1 後見人による遺産分割

認知症の相続人に成年後見人が選任されている場合,成年後見人が法定代理人として,遺産分割協議や調停・審判の手続に加わります(民法859条,家事事件手続法17条1項,民事訴訟法31条)。
成年被後見人である認知症の相続人は行為無能力者であり,被後見人本人が遺産分割協議をした場合には取消しの対象となります(民法9条)。
また,被後見人は一定の事件を除いて手続行為能力(家事事件の手続上の行為をすることができる能力)を有さず(家事事件手続法17条1項,民事訴訟法31条),遺産分割調停や審判の手続行為をすることができませんが,法定代理人である後見人は家事事件の手続行為について代理権を有しますので(家事事件手続法17条1項,民事訴訟法28条),後見人が遺産分割調停や審判の手続を行います。

後見人は,被後見人の利益を保護するために行動しますので,基本的に相続分に見合った財産を取得するよう行動します。

 

2 成年後見人も相続人である場合

親族が後見人となる場合,後見人も相続人であることがあります。
後見人も相続人である場合,後見人と被後見人は遺産を分け合うことになりますので,後見人と被後見人の利益は相反することになります。
後見人が被後見人を代理して利益相反行為をしたときは無権代理行為となり,追認がない限り無効となりますので,相続人である後見人が同じく相続人である被後見人を代理して遺産分割をすることはできません。

後見人と被後見人の利益が相反するときは,後見監督人が選任されているときは,後見監督人が被後見人を代理して遺産分割を行いますし(民法851条4号),後見監督人がいない場合には,家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい(民法860条,826条),特別代理人が被後見人を代理して遺産分割を行います。

 

三 まとめ

認知症の相続人に判断能力がない場合には遺産分割はできませんから,成年後見人を選任し,成年後見人と遺産分割を行うことになります。
また,成年後見人も相続人の場合には特別代理人の選任申立てをし,特別代理人と遺産分割を行うことになります。

 

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