【民事事件】分割払の合意と期限の利益喪失条項

2020-02-20

金銭債務について分割払の合意をする場合,履行の確保を図るため,分割払の条項とあわせて期限の利益喪失条項を入れるのが基本です。

一 分割払の合意

金銭債務の支払について,債権者と債務者が示談交渉・調停・訴訟上の和解等の話合いをする際,債務者が,資金繰りの関係から,一括で支払うことができないので,分割払にしてほしいと要求してくることがあります。
債権者からすれば,支払金額の総額を一括で早期に支払ってもらいたいでしょうが,債務者が支払可能な条件で合意したほうが債権回収実現の可能性が高まることから,債権者としても分割払に応じる意味があります。

分割払の合意をする場合には,支払金額の総額,支払期間,各回の支払金額等を定めます。
例えば,以下のような条項を定めます。1 被告は,原告に対し,本件○○金(「本件和解金」,「本件解決金」等)として金○○○万円の支払義務があることを認める。
2 被告は,原告に対し,前項の金員を次のとおり分割して,○○の口座(銀行名・支店名,種類,口座名義,口座番号を記載します。)に振り込む方法で支払う。
(1)令和○年○月末日限り金○○万円
(2)令和○年○月から令和○年○月まで毎月末日限り金○○万円ずつ

 

二 期限の利益喪失条項

分割払の合意をする場合には,あわせて期限の利益喪失条項を入れるのが基本です。

分割払の合意により,債務者は期限の利益を有し,各分割金の支払期限が到来するまで支払をしなくてよいことになります。
そのため,債務者が分割金の支払を怠った場合であっても,債権者が請求できるのは支払期限が到来した分割金だけであり,未だ支払期限が到来していない分割金については請求できないのが原則です。
支払期間が短い場合には余り問題ないかもしれませんが,支払期間が数年にわたるような長い場合には債権者の不利益が大きいといえます。

債務者が分割金の支払を遅滞した場合に債権者が未履行分全額の支払を請求できるようにするには,債務者の期限の利益を失わせる必要がありますが,期限の利益が喪失する場合として民法に規定されているのは,①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき,②債務者が担保を滅失,損傷,減少させたとき,③債務者が担保を供する義務を負う場合に担保を供しないときであり(民法137条),債務者が分割金の支払を怠った場合は含まれていません。
そのため,債務者が分割金の支払を怠った場合に債権者が残金全額を請求することができるようにするためには,合意内容に期限の利益喪失条項を入れておくことが必要となります。
例えば,「被告が分割金の支払を○回以上怠り,かつ,その額が○○万円に達したときは,当然に期限の利益を喪失し,被告は,原告に対し,残金を直ちに支払う。」というような条項を定めます。

期限の利益喪失条項については,①債務者が分割金の支払を怠ったときは,当然に期限の利益を失うと定める場合と,②債務者が分割金の支払を怠ったときは,債権者は期限の利益を喪失させる旨の意思表示をすることができ,その意思表示があったときに期限の利益が喪失すると定める場合があります。
①の場合と②の場合では,残金の請求をすることができる時点が異なりますので,消滅時効の起算点が異なります。

 

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