【離婚】養育費・婚姻費用の算定方式・算定表の改定

2020-01-09

養育費や婚姻費用の算定は,実務上,標準算定方式(簡易算定方式ともいいます。)や標準算定表(簡易算定表ともいいます。)を用いて行われていますが,算定方式や算定表が改定され,令和元年12月23日に改定内容が公表されました。
今後,養育費の額や婚姻費用分担額を算定するにあたっては,改定後の算定方式や算定表を用いることになります。

一 養育費・婚姻費用の算定方式・算定表

1 養育費

(1)養育費の算定方式

養育費は,①権利者と義務者の基礎収入(収入のうち生活にあてられる分)を算定し,②義務者が子と同居していると仮定して,義務者の基礎収入を義務者の生活費と子の生活費に按分し,③子の生活費を義務者と権利者の基礎収入で按分するという方法で算定します。
計算式は,以下のようになります。

養育費 (月額)
=義務者の基礎収入×子の生活費指数/義務者と子の生活費指数×義務者の基礎収入/(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)÷12

(2)養育費の算定表

算定表は,標準的なケースについて,算定方式に基づいて算定される養育費を1万円または2万円の幅で表に整理したものであり,権利者が養育している子の人数や年齢に応じて,①子1人(0~14歳),②子1人(15~19歳),③子2人(第1子及び第2子0~14歳),④子2人(第1子15~19歳,第2子0~14歳),⑤子2人(第1子及び第2子15~19歳),⑥子3人(第1子,第2子及び第3子0~14歳),⑦子3人(第1子15~19歳,第2子及び第3子0~14歳),⑧子3人(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳),⑨子3人(第1子,第2子及び第3子15~19歳)の9種類の表があります。
表の縦軸の義務者の年収が表示されているところから横に延ばした線と,横軸の権利者の年収が表示されているところから縦にのばした線の交わるところの数値が養育費の金額(月額)となります。

2 婚姻費用

(1)婚姻費用の算定方式

婚姻費用分担額は,①権利者と義務者の基礎収入を算定し,②権利者と義務者の基礎収入の合計額を権利者世帯と義務者世帯に按分し,③権利者世帯の按分額から権利者の基礎収入額を控除して算定します。
計算式は以下のとおりです。

婚姻費用分担額(月額)
={(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者世帯の生活費指数/(義務者世帯の生活費指数+権利者世帯の生活費指数)-権利者の基礎収入}÷12

(2)婚姻費用の算定表

算定表は,標準的なケースについて,算定方式に基づいて算定される婚姻費用を1万円または2万円の幅で表に整理したものです。
算定表には,権利者が養育している子の人数や年齢に応じて,①夫婦のみ(子がいない場合),②子1人(0~14歳),③子1人(15~19歳),④子2人(第1子及び第2子0~14歳),⑤子2人(第1子15~19歳,第2子0~14歳),⑥子2人(第1子及び第2子15~19歳),⑦子3人(第1子,第2子及び第3子0~14歳),⑧子3人(第1子15~19歳,第2子及び第3子0~14歳),⑨子3人(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳),⑩子3人(第1子,第2子及び第3子15~19歳)の10種類があります。
表の縦軸の義務者の年収が表示されているところから横に延ばした線と,横軸の権利者の年収が表示されているところから縦にのばした線の交わるところの数値が婚姻費用分担額(月額)となります。

二 改定の内容

これまでの算定方式や算定表の基本的な枠組みや考え方自体は改定後も変わりません。
改定では,基礎となっている統計資料や制度等の更新により,基礎収入と生活費指数が見直されました。
また,基礎収入と生活費指数の見直しにより養育費等の額が変わりましたので,算定表の内容も変わりました。

1 基礎収入の見直し

基礎収入とは収入のうち生活にあてられる部分のことです。
基礎収入は,給与所得者の場合は,総収入額から公租公課,職業費(被服費,交通費等),特別経費(住居費等)を控除した金額であり,自営業者の場合は,所得金額から公租公課,特別経費を控除した金額ですが,簡易迅速性,予測可能性,公平性の観点から,収入額に標準的な割合(基礎収入割合)乗じて算定します。
改定前は,給与所得者の基礎収入割合は概ね総収入の34%から42%の範囲,自営業者の基礎収入割合は概ね総所得の47%から52%の範囲であるとされていました(いずれも高額所得者ほど低くなります。)。
改定では,算定方式の基となっている統計資料や制度等を最新のものに更新することや,職業費の一部の費目の計上額について見直しが行われました。
これにより,改定後は,給与所得者の基礎収入割合は概ね総収入の38%から54%の範囲,自営業者の基礎収入割合は,概ね総所得の48%から61%の範囲となりました(いずれも高額所得者ほど低くなります。)。

2 生活費指数の見直し

これまで子の生活費指数について,0歳から14歳までと15歳から19歳までの2つに区分しており,生活費指数を親を100,0歳から14歳までの子を55,15歳から19歳までの子を90としていました。

改定後も子の生活費指数を0歳から14歳までと15歳以上(終期を何歳までとするかは個別の事案によります。)の子の2つに区分しますが,統計資料の更新により,各区分の生活費指数が見直され,改定後の生活費指数は,親100,0歳から14歳までの子62,15歳以上の子85となりました。

三 具体例

例えば,離婚に際して,妻(給与所得者,年収100万円)が子2人(13歳と16歳)の親権者となり,夫(給与所得者,年収800万円)に養育費の支払を請求する場合,改定前の算定方式によると,養育費は月額約12万4000円ですが,改定後の算定方式によると月額約13万7000円となります。

改定前
妻の基礎収入 42万円(=100万円×基礎収入割合42%)
夫の基礎収入 288万円(=800万円×基礎収入割合36%)

288万円×(90+55)/(100+90+55)×288万円/(288万円+42万円)÷12≒12万3962円

改定後
妻の基礎収入 50万円(=100万円×基礎収入割合50%)
夫の基礎収入 320万円(=800万円×基礎収入割合40%)

320万円×(85+62)/(100+85+62)×320万円/(320万円+50万円)÷12≒13万7257円

四 養育費・婚姻費用の増減額請求への影響

養育費や婚姻費用を定めた後に事情の変更があれば,当事者は養育費等の増額請求や減額請求をすることができます。
改定された算定方式や算定表によると養育費等の額が増える場合,養育費等の増額請求ができないか問題となりますが,算定方式や算定表が改定されたこと自体は,事情の変更にはあたらないと解されていますので,算定方式等の改定を理由に養育費等の増額請求をすることはできないのが原則です。

もっとも,事情の変更があり,養育費等の増減額請求がなされた場合,変更後の養育費等を算定するにあたって,改定後の算定方式や算定表が用いられることになるものと考えられます。

 

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