【相続・遺言】相続法改正 配偶者居住権
相続法の改正により,令和2年4月1日から,配偶者居住権制度が開始します。
一 配偶者居住権とは
配偶者居住権とは,被相続人の配偶者が居住していた建物(居住建物)を無償で使用収益する権利のことです(民法1028条)。
配偶者居住権制度は,配偶者が相続開始後も従前の住居で生活できるようにするため,配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも低額で居住権を確保することができるようにする制度です。
「無償」とは,使用収益の対価を支払う義務がないということです。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合には,配偶者の具体的相続分の中から取得することになりますので,その分,配偶者が取得できる財産が減少します。
また,配偶者が遺贈や死因贈与契約により配偶者居住権を取得する場合には,配偶者の特別受益となります。
ただし,配偶者居住権の遺贈には民法904条3項が準用されますので(民法1028条4項),婚姻期間が20年を超える配偶者が遺贈等により配偶者居住権を取得した場合には持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
二 配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権の成立要件は,以下のとおりです。
①被相続人の配偶者が,相続開始時に相続財産である建物に居住していたこと(民法1028条1項)
②配偶者居住権を取得させる遺産分割(民法1028条1項1号),遺贈(民法1028条1項2号),死因贈与契約がなされたこと(民法554条)
なお,遺産分割審判により配偶者居住権を設定する場合には,㋐共同相続人間で配偶者が配偶者居住権を取得することの合意が成立していること,または,㋑配偶者が家庭裁判所に配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合で,建物所有者の不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められることが必要です(民法1029条)。
また,条文には,特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言)は含まれておらず,特定財産承継遺言で配偶者居住権を設定することできません。配偶者が配偶者居住権の取得を望まない場合,配偶者は相続放棄しなければならなくなり,配偶者の利益を害してしまうからです。
③被相続人が相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していなかったこと(民法1028条1項但書)
所有者が建物を単独所有または配偶者と共有していた場合です。
第三者が建物に共有持分を有する場合に配偶者居住権が認められるとすると,第三者の利益を害することになるからです。
三 存続期間
配偶者居住権の存続期間は,原則として,配偶者の終身の間となりますが(民法1030条本文),遺産分割や遺言で存続期間を定めることもできます(民法1030条但書)。
四 配偶者居住権の効力
1 使用収益
配偶者は,居住建物を使用収益することができます(民法1032条1項)。
配偶者は,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって,使用収益しなければなりませんが(民法1032条1項本文),従前居住の用に供していなかった部分についても居住の用に供することができます(民法1032条1項但書)。
また,所有者の承諾がなければ,配偶者は建物の増改築や第三者に使用収益させることができません(民法1032条3項)。
2 譲渡禁止
配偶者居住権は譲渡することができません(民法1032条2項)。
配偶者居住権制度は,配偶者が相続開始後も従前の住居で生活できるようにするための制度であり,第三者に配偶者居住権を譲渡することは制度趣旨と合わないからです。
3 修繕等
配偶者は建物の使用収益に必要な修繕をすることができます(民法1033条1項)。
修繕が必要であるのに,配偶者が相当期間内に必要な修繕をしないときは,所有者が修繕をすることができます(民法1033条2項)。
修繕が必要なとき(配偶者が自ら修繕するときを除きます。)や建物について権利を主張する人がいるときは,所有者が知っている場合を除き,配偶者は,所有者に対し,遅滞なく,通知しなければなりません(民法1033条3項)。
4 費用負担
配偶者は,建物の通常の必要費を負担します(民法1034条1項)。
配偶者が特別の必要費や有益費を負担した場合には,配偶者は所有者に償還請求をすることができます(民法1034条2項,民法583条2項)。
五 登記
1 登記義務
居住建物の所有者は配偶者居住権設定の登記を備えさせる義務を負いますので(民法1031条1項),配偶者居住権を取得した配偶者は建物所有者に対し登記請求権を有します。
2 対抗要件
配偶者居住権は登記を具備しなければ,第三者に対抗することができません(民法1031条2項,605条)。
登記を具備した場合には,配偶者は第三者に対し妨害停止請求や返還請求をすることができます(民法1031条2項,605条の4)。
六 配偶者居住権の消滅
1 消滅事由
配偶者居住権は,以下の場合に消滅します。
①存続期間が満了した場合(民法1036条,民法597条1項)
②配偶者が死亡した場合(民法1036条,民法597条3項)
③建物が全部滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合(民法1036条,民法616条の2)
④所有者が消滅請求をした場合
配偶者が,用法遵守義務・善管注意義務に違反した場合(民法1032条1項違反)や所有者の承諾なく,建物の増改築や第三者に使用収益させた場合(民法1032条3項違反)に,所有者が相当期間を定めて是正の催告をしたのに,是正されないときは,所有者は配偶者に対し,配偶者居住権の消滅を請求することができます(民法1032条4項)
⑤配偶者が建物の所有権を取得した場合
混同により配偶者居住権は消滅します。なお,他者が建物の共有持ち分を有するときは配偶者居住権は消滅しません(民法1028条2項)。
⑥配偶者が配偶者居住権を放棄した場合
2 建物の返還
(1)建物の返還義務
配偶者居住権が消滅したときは,配偶者は建物を返還しなければなりません(民法1035条1項本文)。
ただし,配偶者が建物の共有持ち分を有する場合は,所有者は配偶者居住権の消滅を理由に建物返還を求めることはできません(民法1035条1項但書)。
(2)附属物の収去義務・収去権
配偶者が相続開始後に建物に附属させた物がある場合,配偶者には,その物を収去する義務(分離できない場合,分離に過分の費用を要する場合を除きます。)または権利があります(民法1035条2項,民法599条1項,2項)。
(3)原状回復義務
相続開始後に建物に損傷(通常の使用収益によって生じた損耗場合や経年変化を除きます。)が生じた場合,配偶者の責めに帰すことができない事由によるものでない限り,配偶者は原状回復義務を負います(民法1035条2項,民法621条)。
七 配偶者居住権の財産的評価
配偶者が配偶者居住権を取得した場合には,配偶者の具体的相続分の中から取得することになりますので,配偶者居住権の財産的価値を評価することが必要となります。
評価額については,当事者の合意や鑑定により定めることになります。