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取扱業務案内 遺留分減殺請求

2014-07-09

一 遺留分とは

民法は、法定相続制度を定める一方、被相続人の意思を尊重して、被相続人が誰に財産を帰属させるか決めることができるようにするため遺言制度を設けております。

被相続人は遺言により、法定相続分と異なる相続分を指定したり、法定相続人以外の者に遺贈したりすることができるため、法定相続人が相続財産を取得することができない場合や取得できてもごく僅かの財産しか取得できない場合があり、遺言の内容によっては遺族の生活が守られなくなるおそれがあります。

そのため、民法は遺留分制度を設けており、兄弟姉妹以外の相続人には、遺言によっても侵害されない権利(「遺留分」といいます。)があり、遺言の内容が遺留分を侵害する場合、遺留分を侵害された相続人は遺留分減殺請求をすることができます。

 

相続法の改正(2019年7月1日施行)により、遺留分制度の内容が大きくかわりました。本ページのは改正前の制度についての説明ですので、ご注意ください。

 

二 遺留分減殺請求権

1 遺留分権利者

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分を有します(民法1028条)。

なお、子の代襲相続人、再代襲相続人も遺留分を有します(民法1044条は民法887条2項、3項を準用しています。)。

2 遺留分侵害額の計算方法

(1)遺留分割合

遺留分の割合は

①直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1

②その他の場合には、被相続人の財産の2分の1

となります(民法1028条)。

また、遺留分権利者が複数人いる場合、各遺留分権利者の遺留分は、上記の遺留分を相続分の原則にしたがって配分し計算します(民法1044条で民法900条が準用されています。)。

例えば、被相続人が夫で、法定相続人が妻、長男、長女で、遺言で長男が全財産を相続することになった場合、妻の遺留分割合は4分の1(法定相続分2分の1の2分の1)、長女の遺留分割合は8分の1(法定相続分4分の1の2分の1)となります。

 

(2)遺留分額

民法1029条1項は「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。」と規定しています。

そのため、各相続人の遺留分額の算定方法は以下の計算式のとおりです。

 

遺留分額=(積極財産額+贈与額-債務額)×遺留分割合

 

なお、民法1030条は、贈与は①相続開始前の1年間にしたもの、②贈与が1年前の日より前であっても、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものを遺留分額算定の基礎財産に算入するとしております。

また、民法1044条は特別受益についての民法903条を準用しており、特別受益がある場合、特段の事情がない限り、上記①②にかかわりなく、遺留分算定の基礎財産に算入されると解されております。

 

財産の評価については、相続財産開始時を基準時として評価します。

 

(3)遺留分侵害額

遺留分侵害額は、遺留分権利者の遺留分額から遺留分権利者が相続によって得た財産を控除し、その者が負担する相続債務額を加算して算定します。

また、遺留分権利者に特別受益がある場合、特段の事情がない限り特別受益の額を控除します。

そのため、遺留分侵害額の算定方法は以下の計算式のとおりです。

 

遺留分侵害額=遺留分額-相続によって得た財産+相続債務分担額-特別受益の額

 

3 遺留分減殺請求の対象と順序

(1)遺留分減殺請求の対象

遺贈や贈与により遺留分が侵害された場合には、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈や贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。

また、相続分の指定や分割方法の指定により遺留分が侵害された場合にも遺留分減殺請求ができると解されております。

 

(2)遺留分減殺請求の順序

「贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。」(民法1033条)

「遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」(民法1034条)

「贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。」(民法1035条)

 

死因贈与については、遺贈と同順位とみる見解と最も新しい贈与とみる見解があります。

 

相続分の指定や分割方法の指定については、遺贈と同順位で減殺の対象になるものと解されています。

 

減殺請求の対象となる目的物が複数ある場合、対象となる物件を選択することができるかどうかという問題がありますが、否定的に解されております。そのため、全物件につき一律に減殺請求することになります。

 

三 遺留分減殺請求の行使方法

1 遺留分減殺請求の意思表示

遺留分減殺請求は、遺留分権利者が遺留分を侵害する者に対する意思表示により効果が生じます。

2 遺留分減殺請求権を行使することができる期間

民法1042条は「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始のときから10年を経過したときも、同様とする。」と規定しております。

このように遺留分減殺請求権には行使することができる期間に制限があることから、いつ遺留分減殺請求をしたのか争いにならないようにするため、遺留分減殺請求の意思表示は内容証明郵便で行うことが一般的です。

 

四 遺留分減殺請求の効果と価額弁償

遺留分減殺請求は意思表示によりただちに効果を生じ、遺留分減殺請求により遺留分を侵害する行為は遺留分を侵害する限度で効力を失い、目的物は減殺請求者に帰属します(形成権・物権的効果説)。

そのため、遺留分減殺請求がなされた場合、現物返還が原則ですし、共有関係になった場合には共有物分割手続をすることになります。

 

もっとも、遺留分減殺請求権を行使された者は、遺留分権利者に対し、価額による弁償をすることで、返還を免れることができます(民法1041条)。

価額弁償額は、現実に弁償がなされるときの目的物の価額です。訴訟の場合は口頭弁論終結時の価額となります。

 

五 遺留分減殺請求の手続

遺留分減殺請求の手続としては

①内容証明郵便で遺留分減殺請求の意思表示をする

②遺留分権利者と遺留分侵害者との間で交渉する

③交渉がまとまらなければ家庭裁判所で調停する

④調停がまとまらなければ地方裁判所で訴訟をする

という流れが一般的です。

 

六 遺留分減殺請求でお悩みの方へ

遺留分は遺言によっても侵害されない権利ですから、遺言により財産を取得することができなかった遺族の方は遺留分減殺請求を検討すべきです。

他方、遺言により財産を取得しても、遺留分減殺請求により財産の処分や利用に支障が生じることから、遺留分減殺請求をされた方はこれを放置しておくべきではありません。

 

遺留分減殺請求でお悩みの方はご相談ください。

取扱業務案内 遺言

2014-06-23

1 遺言

ご家族がお亡くなりになった場合、亡くなった人(「被相続人」といいます。)の財産(「遺産」または「相続財産」といいます。)は、民法の定める者(「法定相続人」といいます。)が相続します。法定相続人が複数いる場合は、民法の定める割合(「法定相続分」といいます。)で共同相続し、誰がどの財産を取得するか遺産分割を行うことになります。

他方、民法は、被相続人の意思を尊重して、被相続人が誰に財産を帰属させるか決めることができるようにするために遺言制度を設けており、被相続人は、遺言を作成することで、遺産分割方法の指定、相続分の指定や、遺贈(法定相続人以外にも財産を与えることができます。)ができます。

 

2 遺言の種類

遺言の種類として、普通方式の遺言と特別方式の遺言があります。

 

普通方式の遺言には、

自筆証書遺言(民法968条)

公正証書遺言(民法969条、969条の2)

秘密証書遺言(民法970条)

があります。

 

特別方式の遺言には、

危急時遺言

疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者の遺言(民法976条)

遭難した船舶にいて死亡の危急に迫った者の遺言(民法979条)

隔絶地遺言

伝染病隔離者の遺言(民法977条)

在船者の遺言(民法978条)

があります。

 

これらのうち、自筆証書遺言と公正証書遺言の方式が利用されることが多いです。

 

3 自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印する方式の遺言です(民法968条)。

作成が簡単で遺言者本人が一人で作成することも可能です。

もっとも、自筆証書遺言については、遺言者本人が作成したのか明らかではない、方式違反がある、内容が不明確であるといった理由等で成立や効力が争われるおそれがありますし、紛失のおそれがあります。

また、相続開始を知った後に家庭裁判所で検認手続き(遺言書の現状を明確にし、後日の変造・隠匿を防ぐ手続)をする必要があります(民法1004条、1005条)。

 

4 公正証書遺言

公正証書遺言とは、公正証書による遺言で

①証人2人以上が立ち会い

②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(遺言者の口がきけない場合は、通訳人の通訳による申述又は自書)し

③公証人が遺言者の口授(遺言者の口がきけない場合は、通訳人の通訳による申述又は自書)を筆記し、遺言者、証人に読み聞かせ(遺言者又は証人が耳が聞こえない場合は筆記した内容を通訳人の通訳により伝えることに代えることができます。)、または閲覧させ

④遺言者と証人が筆記の正確なことを承認した後、各自、署名押印し(ただし、遺言者が署名できない場合には公証人がその事由を付記して署名押印に代えることができます。)

⑤公証人がその証書が①から④の方式に従って作成したものである旨付記して署名押印する

方式の遺言です(民法969条、969条の2)。

 

公正証書遺言については、作成に費用がかかりますし、公証人との打ち合わせが必要であるなど手間がかかります。

しかし、公証人が関与するため、成立や効力が争われるおそれは自筆証書遺言より少ないですし、公証役場で遺言が保存されるため、自筆証書遺言よりも安全で確実だといえます。

また、公正証書遺言は、検認の手続は不要です。

そのため、遺言を作成するのであれば、安全で確実な公正証書遺言の作成をおすすめします。

 

5 遺言の作成をお考えの方へ

遺言が発生したときに家族の間でもめ事を起こさないようにしたいとお考えの方には、遺言書の作成をおすすめします。

 

その際、どのような内容の遺言を作るかについては、先々のことを考える必要があります。

例えば、配偶者がいるのに、自宅を含む全財産を子に相続させる遺言を作成してしまうと、将来、配偶者の生活する場所がなくなるおそれがあります。

そのため、将来、子に財産を相続させたいと考えている場合でも、配偶者の生活のことを考えて遺言を作成する必要があります。

 

また、兄弟姉妹以外の相続人には、遺言によっても侵害されない権利(「遺留分」といいます。)があり、遺言の内容が遺留分を侵害する場合、遺留分を侵害された相続人は遺留分減殺請求をすることができます。

そのため、遺言で財産を取得できない相続人が遺留分減殺請求をすることが予想できる場合には、将来の相続人間の争いを避けるために遺留分を考慮した内容の遺言を作成したほうが良い場合もあります。

 

遺言を作成したいけれども、どのような遺言を作成したらよいかお考えの方は、ご相談ください。

 

 

 

取扱業務案内 遺産分割事件

2014-06-12

1 遺産分割とは

ご家族がお亡くなりになった場合には、相続が開始します。

亡くなった方(「被相続人」といいます。)の財産(「遺産」または「相続財産」といいます。)は、民法が定める相続人(「法定相続人」といいます。)が相続します。

そして、相続人が複数いる場合には、民法で定める相続分(「法定相続分」といいます。なお、遺言で相続分が指定される場合もあります。)で相続財産を共同相続することになるため、誰がどの財産を取得するか遺産分割を行うことになります。

そのため、相続が開始した場合には、①相続人は誰か、②相続財産としてどのような財産があるかを調べた上で、遺産分割を行うことになります。

また、遺言がある場合には原則として遺言の内容に従って相続しますので、遺言の有無や内容も確認する必要があります。なお、兄弟姉妹以外の相続人には、遺言によっても侵害されない権利(「遺留分」といいます。)がありますので、遺言により遺留分を侵害された場合には遺留分減殺請求をすることができます。

 

2 遺産分割の方法

遺産分割の方法としては、①遺産分割協議、②遺産分割調停、③遺産分割審判があります。

まず、共同相続人間で協議します。協議しても遺産分割ができなければ、家庭裁判所に調停を申し立て、家庭裁判所で話し合いを行います。調停も成立しなければ、審判となり、裁判所が判断します。

 

3 遺産分割でお悩みの方へ

相続はどなたにでも起こることですが、遺産分割の手続は簡単ではありません。

また、遺産分割について相続人間で争いになることもございます。

例えば、一部の相続人が相続財産の大部分の取得を主張し、他の相続人が法定相続分を大幅に下回る内容の遺産分割に応じることを迫られて困っている場合や、主だった相続財産として被相続人の自宅の土地建物しかないため、どのように分割するか相続人間で話がまとまらない場合等があります。

遺産分割の手続が分からない場合や相続人間で争いになってしまった場合には、ご相談ください。

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