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【相続・遺言】相続法の改正
平成30年7月6日,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号),法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立し(平成30年7月13日公布),相続法が改正されました。
改正された点は以下のとおりです。
なお,①自筆証書遺言の方式緩和については,公布の日から6か月を経過した日(平成31年1月13日),②配偶者の居住権の保護,自筆証書遺言の保管制度については,公布の日から2年を超えない範囲で政令が定める日,③それ以外については,公布の日から1年を超えない範囲で政令が定める日から施行されます。
一 配偶者の居住権保護
1 配偶者短期居住権
被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいた場合には,一定期間,無償で建物に居住する権利が認められます。
2 配偶者居住権
被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物について,遺産分割や遺贈により,終身または一定期間,配偶者に居住権を取得させることができるようになります。
二 遺産分割等の改正
1 配偶者保護のため,持戻し免除の意思表示の推定
婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用不動産を遺贈又は生前贈与した場合には,特別受益の持戻し免除の意思表示が推定されます。
持戻しが免除されることにより,配偶者が遺産分割で取得できる財産が増えることになります。
2 預貯金の仮払制度
遺産である預貯金について,生活費や葬儀費用の支払等のため,遺産分割前に払戻しを受けられる制度が創設されます。
また,預貯金について家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件も緩和されます。
3 共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合
共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合(例えば,相続開始後に共同相続人の一人が無断で遺産である預金を引き出した場合),これまでは不法行為や不当利得の問題として,処分者を含む共同相続人全員の合意がなければ,民事訴訟で解決しなければなりませんでしたが,改正により処分者以外の共同相続人の同意があれば,処分者の同意がなくても,計算上,処分された財産を遺産に戻して,遺産分割をすることができるようになります。
三 遺言制度の改正
1 自筆証書遺言の方式緩和
改正前は自筆証書遺言は遺言者が全文を自書しなければなりませんが,改正後は相続財産の目録について自書する必要がなくなり,パソコン等で作成した目録を添付して,自筆証書遺言を作成することができるようになります。
2 遺言執行者の権限明確化
改正により,遺言執行者の権限が明確化されました。
3 法務局における自筆証書遺言の保管
自筆証書遺言を法務局に保管してもらうことができるようになります。
相続開始後,相続人等は遺言書の写し(遺言書情報証明書)の交付請求や遺言書原本の閲覧請求ができます。交付や閲覧されたときは,他の相続人等に遺言書が保管されている旨通知されます。
また,遺言書が保管されている場合には,検認が不要となります。
四 遺留分制度の改正
改正前は遺留分減殺請求権の行使により物権的効果が生じるものと解されてきましたが,改正後は,遺留分侵害額に相当する金銭債権が生じることになります。
例えば,改正前は,遺留分減殺請求権の行使により遺産である不動産は,遺留分侵害者
と遺留分権者の共有となり,遺留分侵害者が価額弁償しない限りは,共有関係の解消は共有物分割の問題となります。
これに対して,改正後は,遺留分権者は金銭債権を取得することになりますので,不動産について共有にはなりません。
また,裁判所は,受遺者等の請求により,金銭の支払いについて相当の期限を許与することができます。
五 相続の効力等の改正
法定相続分を超える権利の承継については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができなくなります。
六 相続人以外の者の貢献を考慮
相続人以外の被相続人の親族が,無償で被相続人の療養監護等を行い,被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には,相続開始後,相続人に対し金銭の支払いを請求することができるようになります。
【相続・遺言】使途不明金
被相続人の預貯金から多額の引出しがあり,使途不明金があった場合,どのように遺産分割をすればよいでしょうか。
一 使途不明金の問題
被相続人の預貯金の口座から使途不明な多額の引出しがある場合,使途不明金の問題として,共同相続人間で争いとなることがあります。
1 通帳や取引履歴の確認
まずは被相続人の預貯金の通帳や取引履歴を見て,使途不明金があるかどうか確認します。
通帳については,通帳を管理している人から見せてもらうことになりますが,見せてもらえない場合や古い通帳がない場合には,金融機関から被相続人の口座の取引履歴をとります。
金融機関は,相続開始後,相続人から開示の求めがあれば,基本的に取引履歴の開示に応じてくれます。なお,開示してくれる範囲(10年分の履歴しか開示しない等)や手数料については,金融機関により異なります。
2 使途等の確認
口座から多額の引き出しがあり,その使途が不明な場合には,通帳やキャッシュカード等を管理していた相続人や被相続人と同居していた相続人等,引出しに関係していると思われる人に説明を求める等して,①誰が引き出したのか,②使途は何なのか,③被相続人の認識はどうだったのかを確認します。
3 遺産分割手続で解決できるか
使途不明金の問題については,遺産分割手続きの中で解決を図ることができる場合とできない場合があります。
遺産分割について,家庭裁判所に申立てをしますが,使途不明金の問題について遺産分割手続で解決することができないときは,地方裁判所や簡易裁判所に民事訴訟を提起します。
二 相続開始前の預貯金の引出し
1 被相続人のために遣われた場合
被相続人が,自分で預貯金を引き出し,自分のために遣った場合には,問題となりません。
また,被相続人以外の人が預貯金を引き出した場合であっても,被相続人から預貯金の管理を任された人が,被相続人の入院費等,被相続人のために遣ったときは,金額が妥当であれば,基本的に問題とはならないでしょう。
2 他の相続財産として存在している場合
引き出した預貯金が形を変え,別の相続財産として存在している場合には,その財産の種類によって,遺産分割の対象となったり,ならなかったりします。
例えば,預貯金を引き出し,現金として保管してある場合,現金は遺産分割の対象となりますので,遺産分割手続の中で解決します。
他方,預貯金を引き出して,他者に貸し付けた場合,貸付金は可分債権であり,相続開始により各共同相続人の法定相続分に応じて当然に分割されますので,遺産分割の対象とはなりません。
3 被相続人から贈与を受けた場合
引き出された預貯金の使途が,被相続人から相続人への贈与である場合には,特別受益の問題となります。
特別受益については,遺産分割の手続の中で解決します。
4 被相続人に無断で引き出して取得した場合
被相続人に無断で預貯金が引き出された場合には,被相続人は,預貯金を引き出した人に対し,①債務不履行による損害賠償請求(預金管理の受任者が引き出した場合等),②不法行為による損害賠償請求,③不当利得返還請求をすることができます。
これらの損害賠償請求権や不当利得返還請求権は,相続開始後は相続財産になりますが,可分債権であるため,相続開始により各共同相続人に法定相続分に応じて当然に分割され,遺産分割の対象とはなりません。
相続人間で話合いがまとまれば,遺産分割手続の中で解決することもできますが,話合いがまとまらなければ,別途,損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟で解決することになります。
三 相続開始後の預貯金の引出し
相続開始後に被相続人の預貯金が引き出された場合,相続人は,預貯金を引き出した人に対し,損害賠償請求権または不当利得返還請求権を有することになります。
これらの損害賠償請求権や不当利得返還請求権は,相続開始後に発生したものであり,相続財産ではありませんので,遺産分割の対象とはなりません。
遺産分割の対象とならない場合であっても,相続人全員で合意ができれば,遺産分割手続の中で解決することもできますが,合意ができなければ,別途,損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟で解決することになります。
なお,引き出した預貯金を相続債務,葬儀費用,遺産管理の費用の支払いにあてた場合であっても,これらは遺産分割の対象とはなりませんので,相続人全員の合意がない限りは民事訴訟で解決を図ることになります。
相続法の改正(2019年7月1日施行)により,共同相続人の一部の人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合には,他の共同相続人全員の同意があれば,処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになります(民法906条の2)。
【相続・遺言】遺言無効確認訴訟と遺留分減殺請求の短期消滅時効
遺留分を侵害する遺言がある場合,遺留分権者は侵害者に対し遺留分減殺請求をすることができますが,遺留分減殺請求については短期消滅時効の規定があり,「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間」以内に行使しなければなりません。
遺言の効力に争いがあり,遺言無効確認訴訟を提起する場合,解決まで時間がかかりますので,遺留分減殺請求権が消滅時効にかからないか問題となります。
一 遺留分減殺請求の行使期間
遺留分減殺請求権の行使期間については,権利関係を早期に確定させるため,民法1042条は「減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも,同様とする。」と規定しております。
「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った」とは,単に贈与や遺贈があったことを知ったことではなく,贈与や遺贈が遺留分を侵害し,減殺請求の対象となることを知ったことをいうものと解されています。
二 遺言の効力について争いがある場合
遺言の効力について争いがある場合,民法1042条の「知った時」とはいつの時点を指すのでしょうか。
この点については,遺留分を侵害する内容の遺言があっても,その遺言が無効であれば,遺留分の侵害はないことになるので,遺言が有効であることが確定した時が「知った時」にあたるのではないかとも考えられます。
しかし,最高裁判所昭和57年11月12日判決では,短期消滅時効の規定の趣旨に鑑みれば,遺留分権利者が訴訟上無効の主張をすれば,根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当でないから,被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者がその事実を認識している場合には,無効の主張について,一応,事実上・法律上の根拠があって,遺留分権利者が無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともであると首肯しうる特段の事情が認められない限り,贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当というべきであるとされています。
そのため,遺言の効力について争っていても特段の事情がない限り時効は進行し,相続開始の事実と遺留分を侵害する内容の遺言があることを知った時から1年間の経過で遺留分減殺請求権を行使することができなくなってしまいます。
三 まとめ
遺言の効力について争いがある場合,遺言無効確認訴訟に敗訴した後に遺留分減殺請求をしようとしても,短期消滅時効により遺留分減殺請求が行使できないおそれがあります。
そのため,遺言の効力について争う場合には,遺言無効確認請求が認められなかったときに備えて,予備的に遺留分減殺請求をしておいたほうがよいでしょう。
【相続・遺言】遺言無効
遺産分割の前提問題として,遺言の有効性が争いとなることがあります。
どのような場合に遺言は無効となるのか,また,どのような方法で遺言の有効性を争うのか説明します。
一 遺言の無効原因
1 方式違反
遺言者の最終意思であるかどうかを明確にする必要があるため,遺言は民法に定める方式に従わなければすることができません(民法960条)。民法に定める方式に従わないで作成された方式違反のある遺言は無効となります。
例えば,自筆証書遺言の場合,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければなりませんので(民法968条1項),日付の記載がなかったり,押印がなかったりすると無効となります。自筆証書遺言は専門家の関与がなく作成されることが多いため,方式違反で無効にならないよう注意しましょう。
2 遺言能力の欠如
遺言者は,遺言をする時に能力を有していなければならず(民法963条),遺言能力を欠いた者がした遺言は無効となります。
(1)年齢
遺言をするには15歳に達していることが必要であり(民法961条),15歳未満の者がした遺言は無効となります(民法961条)。
(2)意思能力
遺言能力については行為能力の規定は適用されませんが(民法962条),遺言をするには意思能力が必要であり,意思無能力者のした遺言は無効となります。
成年被後見人も意思能力がなければ遺言はできませんが,事理弁識能力を回復したときは,一定の方式により遺言をすることができます(民法973条)。
3 公序良俗違反
公序良俗に違反する法律行為は無効となりますので(民法90条),公序良俗に違反する遺言は無効となります。
例えば,不倫相手に遺贈する旨の遺言は公序良俗に違反するか問題となります。
4 意思表示に瑕疵がある場合(錯誤,詐欺,強迫)
遺言の意思表示についても錯誤無効の規定(民法95条)や,詐欺または強迫の取消しの規定(民法96条)が適用されます。
そのため,遺言の要素に錯誤がある場合には遺言者に重過失がない限り遺言は無効となりますし,詐欺または強迫による遺言は取消しにより無効となります。
5 相続欠格事由がある場合
相続欠格事由がある者は,相続人となることができませんし(民法891条),受遺者となることもできません(民法965条)。
そのため,相続欠格事由がある者に相続または遺贈させる旨の遺言は無効となります。
6 被後見人による後見人またはその近親者に対する遺言
後見人が被後見人の直系血族,配偶者,兄弟姉妹以外の場合に,被後見人が,後見の計算終了前に,後見人またはその配偶者や直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは,遺言は無効となります(民法966条)。
7 証人,立会人の欠格事由がある場合
遺言の証人や立会人には欠格事由があります(民法974条)。
遺言の作成に証人や立会人が要求されている場合,欠格事由のある証人等の立会いにより作成された遺言は方式違反により無効となります。
8 共同遺言
遺言は2人以上の者が同一の証書ですることはできません(民法975条)。
2人以上の者が同一の証書でした遺言は無効となります。
9 遺言者の死亡以前に相続人や受遺者が死亡した場合
遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,遺贈の効力は生じません(民法994条1項)。
相続させる旨の遺言の場合も同様であり,遺言者の死亡以前に相続人が死亡したときは原則として代襲相続することはないと解されています。
また,停止条件付きの遺贈について受遺者が条件成就前に死亡したときも,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,遺贈の効力は生じません(民法994条2項)。
10 遺言の撤回
①遺言者が遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回した場合(民法1022条),②前の遺言と後の遺言が抵触し,前の遺言を撤回したとみなされる場合(民法1034条),③遺言者が遺言者または遺贈の目的物を破棄して遺言を撤回したとみなされる場合(民法1024条)には,撤回された遺言は効力がなくなります。
撤回行為が,撤回され,取消され,または効力を生じなくなるに至ったときであっても,詐欺または強迫による場合を除き,撤回された遺言の効力が回復することはありません(民法1025条)。
二 遺言の有効性を争う方法
1 遺言無効確認訴訟
遺言の有効性の争いは,実体法上の権利関係に係る争いであり,家庭裁判所の審判事項ではなく,訴訟事項です。
そのため,遺言の有効性を争うには地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起することになります。
遺言無効確認訴訟は,原則として固有必要的共同訴訟ではなく,共同相続人全員が当事者となる必要はありません。
また,遺言者の生存中は遺言の効力が生じていませんので,確認の利益はなく,訴え提起は不適法となります。
訴訟により,遺言が無効であることが確定した場合には,遺言が無効であることを前提に遺産分割をすることになります。
遺言が有効であることが確定した場合には,遺言が有効であることを前提に対応することになります。遺産分割が必要な場合には遺産分割をすることになりますし,遺留分が侵害されている場合には遺留分減殺請求をすることになります。なお,遺留分減殺請求には期間制限があるため(民法1042条),遺言の有効性を争っているうちに期間が過ぎてしまわないよう,予備的にでも遺留分減殺請求をしておいたほうがよいでしょう。
2 遺言無効確認調停
遺言の無効確認をする手続としては,家庭裁判所に遺言無効確認の調停申立てをすることができます。
この調停は一般調停事件であり(家事事件手続法244条),調停前置主義(家事事件手続法257条)が適用されます。そのため,まずは調停の申立てをしなければならず,調停の申立てをせずに訴えを提起すると調停に付されることになりますが,調停に付することが相当でないと認められるときはこの限りではありませんので(家事事件手続法257条2項),合意が成立する見込みがない場合には最初から訴訟提起することが考えられます。
3 遺産分割手続の中での解決
遺産分割の手続において遺言の有効性が争いとなることがあります。
共同相続人間で遺言の有効性について合意できれば,それを前提に遺産分割の手続をすることができます。
また,遺産分割審判では,裁判所は遺言の有効性について審理・判断した上で遺産分割を行うことができますが,遺言の有効性についての争いは訴訟事項であり,家庭裁判所の審判には既判力がありませんので,訴訟で異なる判断がなされた場合には審判の効力が失われてしまいます。
そのため,遺産分割の手続において遺産の有効性が争いとなった場合,共同相続人間で合意ができなければ,遺言無効確認訴訟を提起し,訴訟が解決してから遺産分割の手続を進めるのが通常です。
【相続・遺言】認知症の相続人がいる場合の遺産分割
高齢化社会では高齢の被相続人を高齢の相続人が相続することが増えますので,相続人に認知症の相続人がいて遺産分割の手続に苦労することが少なくありません。
共同相続人のなかに認知症の相続人がいる場合,遺産分割をするにはどうしたらよいでしょうか。
一 認知症の相続人がいる場合
遺産分割は共同相続人全員で行わなければならず,共同相続人の一部の人だけで遺産分割をしても無効となります。そのため,認知症の相続人に判断能力がなく,その人が遺産分割の手続に加わることができないからといって,その人を除いて遺産分割をすることはできません。
また,仮に認知症の相続人を含めて共同相続人全員で遺産分割をしたとしても,認知症の相続人に意思能力(行為の結果を弁識することができる能力)がない場合には遺産分割は無効となります。
なお,認知症だからといって必ずしも意思無能力であるとは限らないため,共同相続人人のなかに認知症の人がいても,それだけで遺産分割が無効であるとはいえませんが,意思能力の有無や認知症の相続人が遺産分割の内容を理解できているのか確認せずに遺産分割を行ってしまうと,後で遺産分割の有効性が争われ,遺産分割が無効と判断されてしまうおそれがあるので注意しましょう。
判断能力がない人が法律行為をするための制度として成年後見制度がありますので,認知症の相続人がいる場合に遺産分割をするには,成年後見制度を利用すべきです。
二 遺産分割の方法
1 後見人による遺産分割
認知症の相続人に成年後見人が選任されている場合,成年後見人が法定代理人として,遺産分割協議や調停・審判の手続に加わります(民法859条,家事事件手続法17条1項,民事訴訟法31条)。
成年被後見人である認知症の相続人は行為無能力者であり,被後見人本人が遺産分割協議をした場合には取消しの対象となります(民法9条)。
また,被後見人は一定の事件を除いて手続行為能力(家事事件の手続上の行為をすることができる能力)を有さず(家事事件手続法17条1項,民事訴訟法31条),遺産分割調停や審判の手続行為をすることができませんが,法定代理人である後見人は家事事件の手続行為について代理権を有しますので(家事事件手続法17条1項,民事訴訟法28条),後見人が遺産分割調停や審判の手続を行います。
後見人は,被後見人の利益を保護するために行動しますので,基本的に相続分に見合った財産を取得するよう行動します。
2 成年後見人も相続人である場合
親族が後見人となる場合,後見人も相続人であることがあります。
後見人も相続人である場合,後見人と被後見人は遺産を分け合うことになりますので,後見人と被後見人の利益は相反することになります。
後見人が被後見人を代理して利益相反行為をしたときは無権代理行為となり,追認がない限り無効となりますので,相続人である後見人が同じく相続人である被後見人を代理して遺産分割をすることはできません。
後見人と被後見人の利益が相反するときは,後見監督人が選任されているときは,後見監督人が被後見人を代理して遺産分割を行いますし(民法851条4号),後見監督人がいない場合には,家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい(民法860条,826条),特別代理人が被後見人を代理して遺産分割を行います。
三 まとめ
認知症の相続人に判断能力がない場合には遺産分割はできませんから,成年後見人を選任し,成年後見人と遺産分割を行うことになります。
また,成年後見人も相続人の場合には特別代理人の選任申立てをし,特別代理人と遺産分割を行うことになります。
【相続・遺言】遺産分割の確認・検討事項
遺産分割は,相続が開始し,共同相続人の遺産共有に属する相続財産(遺産)がある場合に,その遺産共有状態を解消するために行われます。当事者全員で合意ができれば,遺産分割の内容を自由に決めることができますが,話し合いをまとめる上でも,遺産分割の基本的な流れを理解しておいたほうがよいでしょう。
遺産分割をするにあたっては,まず前提問題として
①遺言があるか(遺言の有無等)
②誰が遺産分割の当事者となるのか(相続人の範囲)
③遺産分割の対象となる財産としてどのような財産があるのか(遺産の範囲)
を確認します。
その上で
④遺産の評価を行い
⑤各共同相続人の具体的な取得分額を計算し
⑥その具体的な取得分額に基づいて遺産をどのように分けるか(遺産分割の方法)
を決めます。
一 遺言の有無等
1 遺言の有無・内容・効力
全遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合等,遺言で全遺産の処分について定められている場合には,原則として遺産分割は不要となります。また,遺言で遺産の一部の処分について定めている場合には,原則として,その遺産については遺産分割の対象とはなりません。
そのため,遺産分割を行う必要があるかどうか,まずは遺言の有無や内容を確認する必要があります。
また,遺言があっても有効性が争いとなることがあります。
2 遺言と異なる内容の遺産分割
当事者の合意があれば,遺言と異なる内容の遺産分割をすることもできます。
二 相続人の範囲の確定
遺産分割は当事者全員で行わないと無効になりますので,当事者である共同相続人の範囲を確定する必要があります。
1 相続人
相続人は,①被相続人の配偶者(民法890条)と②以下の順位の親族です。
第1順位 子又はその代襲相続人(孫)・再代襲相続人(曾孫)(民法887条)
第2順位 直系尊属(親等の異なる者の間では近い者)(民法889条1項1号)
第3順位 兄弟姉妹又はその代襲相続人(甥姪)(民法889条1項2号,2項)
2 相続人以外で遺産分割の当事者となる場合
相続人以外に
①割合的包括包受遺者
②相続分の譲受人
は遺産分割の当事者となります。
3 遺産分割の当事者とならない場合
①相続放棄をした人
②相続人の欠格事由がある人
③推定相続人の廃除がなされた人
④相続分の全部を譲渡した人
⑤相続分の全部を放棄した人
は,遺産分割の当事者とはなりません。
ただし,②,③の場合には,代襲相続人が遺産分割の当事者となります。
④,⑤の場合には,不動産に相続登記がなされているときは,遺産分割後に登記するにあたって,譲渡人や放棄者も登記義務者となりますので,その限りで遺産分割の当事者となります。また,相続債務については,債権者が害されないよう債権者との関係では譲渡人や放棄者も債務を負うものと解されております。
三 相続財産(遺産)の範囲の確定
遺産分割を行うに当たっては,遺産分割の対象となる財産の範囲を確定する必要があります。被相続人の財産と思われるものであっても,相続財産となるものとならないものがありますし,相続財産となっても遺産分割の対象となるものとならないものがありますので,財産の種類によって整理することが必要となります。
1 相続財産
相続開始時に被相続人の財産に属する一切の権利義務は,被相続人の一身に専属するものを除き,相続財産(遺産)となります(民法896条)。
相続財産には,遺産共有となる財産と当然分割される財産があります。
(1)遺産共有となる財産
不動産,預貯金,現金,動産等,共同相続人の共有となる財産については,遺産共有状態を解消するため,遺産分割が必要となります。
(2)当然分割される財産
金銭債権等の過分債権や債務は,相続開始時に当然に分割されるため,遺産分割は不要です。
当事者全員が合意をすれば遺産分割の対象とすることは可能ですが,相続債務については,当事者で誰が負担するか決めても当事者間で効力があるだけであり,債権者には効力がありません。
2 相続財産とはならないもの
①生活保護受給権等,被相続人の一身に専属するもの
②生命保険金や死亡退職金等,受取人の固有の権利となるもの
③葬儀費用,遺産管理費用,遺産収益等,相続開始後に発生するもの
は相続財産とはなりません。
四 遺産の評価
1 遺産の評価
遺産分割を行うにあたって各当事者の具体的相続分を計算することになりますが,そのためには遺産を金銭で評価する必要があります。
2 評価の方法
遺産の評価は
①当事者の合意
②鑑定
のいずれかの方法で行います。
裁判所で鑑定を行う場合には,原則として鑑定費用を予納します。
3 評価の基準時
不動産等の財産は評価する時点によって評価額が異なりますので,いつの時点で評価するのか問題となります。
①相続開始時を基準時とする場合
特別受益や寄与分が問題となり,具体的相続分を算定するときには,相続開始時を基準に遺産を評価します。
②遺産分割時を基準とする場合
現実に分割する段階では,遺産分割時を基準に遺産を評価します。
なお,遺産の評価を2時点で行うことは煩雑であり,鑑定費用も余計にかかりますので,当事者の合意があれば,一時点で評価することもできます。
五 各共同相続人の具体的な取得分の計算
各共同相続人は相続分に応じて遺産に持分を有しますが,特別受益や寄与分がある場合には修正されます。
1 相続分
(1)法定相続分
法定相続分とは,民法で定める相続分です(民法900条)。
①配偶者と子が相続人の場合
配偶者の相続分は2分の1,子の相続分は2分の1となります(民法900条1号)。
子が数人いる時は,各自の相続分は均等になります(民法900条4号)。
②配偶者と直系尊属が相続人となる場合
配偶者の相続分は3分の2,直系尊属の相続分は3分の1となります(民法900条2号)。相続人となる直系尊属が数人いるときは,各自の相続分は均等になります(民法900条4号)。
③配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合
配偶者の相続分は4分の3,兄弟姉妹の相続分は4分の1となります(民法900条3号)。
兄弟姉妹が数人いるときは,各自の相続分は均等になりますが,半血(被相続人と親の一方が共通)の者の相続分は全血(被相続人と両親が共通)の者の半分になります(民法900条4号)。
④代襲相続人
代襲相続人の相続分は被代襲者が受けるべきであった相続分と同じになります。代襲相続人が複数いる場合には,民法900条4号の規定に従い相続分を有します(民法901条)。
(2)指定相続分
指定相続分とは,遺言で指定する相続分です(民法902条)。
被相続人は,遺言で共同相続人の相続分を定めることができますし,遺言で相続分の指定を第三者に委託することができます(民法902条1項)。
共同相続人の一部の相続分を指定した場合には,他の共同相続人の相続分は法定相続分の規定により定めます(民法902条2項)。
2 特別受益や寄与分がない場合の具体的取得分の計算
遺産分割時の遺産総額を基に,各当事者の法定相続分または指定相続分に応じて,具体的取得分額を計算します。
例えば,遺産分割時の遺産総額が1000万円で,相続人が子2名の場合,法定相続分は2分の1ずつになりますので,各人の具体的取得分額は500万円となります(計算式:1000万円×2分の1=500万円)。
3 特別受益や寄与分がある場合の具体的取得分の計算
(1)特別受益
共同相続人の中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた人がいるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,法定相続分または指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額が,その人の具体的相続分となります(民法903条1項)。
(2)寄与分
共同相続人の中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした人がいるときには,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額からその人の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,法定相続分または指定相続分に寄与分を加えた額が,その人の具体的相続分となります(民法904条の2)。
(3)特別受益や寄与分がある場合の具体的取得分額の計算
特別受益や寄与分がある場合には,遺産の評価が2時点で行われることになるため,具体的取得分額の計算も以下のように,2段階で行います。
①相続開始時の遺産総額に特別受益や寄与分による修正を加えて,各当事者の具体的相続分額を計算して,各当事者が具体的に相続する割合(具体的相続分率)を計算し
②遺産分割時の遺産総額に具体的相続分率を乗じて,各当事者の具体的取得分額を計算します。
例えば,①相続開始時評価の遺産総額が1000万円で相続人が子2名の場合で,相続開始時の評価で長男に300万円の特別受益があり,次男に100万円の寄与分があるときには,長男の具体的相続分は300万円(計算式:(1000万円+300万円-100万円)×2分の1-300万円=300万円)となり,次男の具体的相続分は700万円(計算式:(1000万円+300万円-100万円)×2分の1+100万円=700万円)となりますので,具体的相続分率は長男が0.3,次男が0.7となります。
そして,②遺産分割時評価の遺産総額が900万円の場合には,長男の具体的取得額は270万円(計算式:900万円×0.3=270万円)となり,次男の具体的取得額は630万円(計算式:900万円×0.7=630万円)となります。
六 遺産分割方法
1 遺産分割の方法
各当事者の具体的取得分額が確定したら,これを基に具体的な遺産の分割方法を決めます。
遺産分割方法には,以下の方法があります。
①現物分割(遺産である個々の財産を相続人が取得する分割方法)
②代償分割(遺産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う等の債務を負担する方法)
③換価分割(遺産を競売や任意売却して,売却代金を分割する方法)
④共有分割(共同相続人が遺産を共有または準共有する方法)
2 遺産分割協議,遺産分割調停の場合
当事者が合意できれば,いずれの分割方法でもかまいません。
また,当事者の合意ができれば,各当事者の具体的取得分とは異なる内容の遺産分割をすることもできます。
当事者の合意により分割方法を決める場合には,柔軟な解決が可能になります。
3 審判の場合
合意ができず,審判となる場合には,家庭裁判所が,「遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」(民法906条)どのように遺産を分割するか決めますが,①現物分割が原則であり,②現物分割ができない場合等「特別の事情」がある場合に代償分割の方法がとられます(家事事件手続法195条)。③現物分割も代償分割もできない場合には,換価分割の方法をとり,④他の分割方法がとれない場合や,共有を望む相続人がおり,共有にしても特段不当ではない場合には共有分割の方法がとられます。
預貯金の遺産分割
これまで預貯金は一部を除いて法定相続分により当然分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでしたが,平成28年12月19日の最高裁判所の決定が出たことにより,今後は,預貯金についても遺産分割が必要になりました。
一 これまでの扱い
1 遺産分割の要否
預貯金は,可分債権であり,法定相続分の割合により当然に分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでした。
ただし,旧郵便局の定額郵便貯金については,預入から10年が経過して通常貯金となるまで分割払戻しができないので,遺産分割の対象となるとされていました。
2 遺産分割の可否
旧郵便局の定額郵便貯金を除く預貯金は遺産分割の対象ではありませんでしたが,相続人全員の合意で預貯金を遺産分割の対象とすることはできました。
例えば,相続財産が不動産と預貯金の場合に,ある相続人が不動産を取得し,他の相続人が預貯金を取得するという遺産分割をすることができました。
3 金融機関への払戻請求
旧郵便局の定額郵便貯金を除く預貯金は,可分債権であり,相続開始と同時に法定相続分の割合により当然に分割されるので,各相続人は金融機関に対し法定相続分の割合に相当する預貯金の払戻しを請求することができました。
金融機関が相続人全員の同意がなければ払戻請求に応じないという対応をしてきた場合には,各相続人は訴訟を提起することで,法定相続分の割合に相当する預貯金の払戻しを受けることができました。
二 これからの扱い
1 遺産分割の要否
①平成28年12月19日の最高裁判所の決定
普通預金,通常貯金,定期貯金について,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となるとされました。
②平成29年4月6日の最高裁判所の判決
定期預金,定期積金について,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となるとされました。
③その他の預貯金
すべての預貯金について判断されたわけではないですが,今後は,すべての預貯金について遺産分割の対象になると考えられます。
2 可分債権への影響
最高裁判所の決定や判決は,可分債権が遺産分割の対象となると判断したわけではありません。預貯金は,可分債権ではなく,相続人に準共有されていると解したものと思われます。
そのため,貸金債権や損害賠償請求権等の可分債権については,今後も当然分割され遺産分割の対象とはならないと解されます。
3 金融機関への払戻請求
預貯金について遺産分割が必要となるため,今後は,相続人全員の同意に基づき払戻請求するか,遺産分割をしてから払戻請求をしなければなりません。
一部の相続人が,金融機関に対し,法定相続分の割合の預貯金の払戻請求をすることはできなくなりました。
被相続人の預貯金から葬儀費用を支払う必要がある等,早期に預貯金の払戻しをする必要がある場合や,相続人の対立が激しい,行方不明の相続人がいる等の理由で,相続人全員の同意や遺産分割ができない場合には,相続人にとって困ったことになります。
そのような場合には,仮分割の仮処分の申立てをすることが考えられます。また,被相続人としては,遺言を作成して,預貯金を取得する人を決めておいたほうがよいでしょう。
【相続・遺言】遺産分割の方法(遺産の分け方)
共同相続人間で遺産分割をする際,遺産の分け方としては,①現物分割,②代償分割,③換価分割,④共有分割の4種類があります。
どのような方法がとられるかは,相続人の利害に関わる重要な問題です。
一 遺産分割の方法
1 現物分割
現物分割とは,「相続人Aは,別紙遺産目録記載の土地を取得する。」,「相続人Bは,別紙遺産目録記載の預金を取得する。」といったように,遺産である個々の財産を,そのまま相続人に取得させる分割方法です。
2 代償分割
代償分割とは,「相続人Aは,別紙遺産目録記載の土地を取得する。相続人Aは,相続人Bに対し,上記遺産取得の代償として,金○○○万円を支払う。」といったように相続分を超える遺産を現物で取得した相続人が,他の相続人に対し,債務を負担する方法です。
債務の負担方法については,代償金の支払が通常ですが,遺産分割協議や調停では,相続人固有の財産を提供することもできます。
3 換価分割
換価分割とは,遺産を売却して,売却代金を分割する方法です。
換価方法については,①競売の場合と②任意売却の場合があります。
また,換価の時期については,①遺産分割で換価について取り決めをし,遺産分割後に換価をする場合と,②遺産分割手続中に換価して,売却代金を分割する場合があります。
4 共有分割
共有分割とは,「相続人A及びBは,別紙遺産目録記載の土地を各2分の1の割合で共有取得する。」といったように,遺産の全部または一部を共同相続人が共有または準共有する方法です。
共有分割後に共有関係を解消するには,共有物分割の手続をとることになります。
二 どの方法がとられるか
1 遺産分割協議,遺産分割調停の場合
遺産分割協議や遺産分割調停では,共同相続人間で合意ができれば,どのような方法をとることもできますし,審判よりも柔軟な解決を図ることができます。
どのように分割するか各相続人が自由に希望を述べることができますが,合意ができなければ,審判になりますので,審判になったらどうなるのか考えた上で,話し合いをすべきでしょう。
2 遺産分割審判の場合
遺産分割審判では,家庭裁判所が,「遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」(民法906条)どのように遺産を分割するか決めます。
遺産分割方法については,①現物分割,②代償分割,③換価分割,④共有分割の順に検討されます。
①まず,原則的な分割方法である現物分割が検討され,②現物分割ができない場合等「特別の事情」がある場合に代償分割の方法がとられます(家事事件手続法195条)。
③取得を希望する相続人がいなかったり,いても代償金を支払う能力がなかったりする等の理由で,現物分割も代償分割もできない場合には,換価分割の方法(終局審判で競売を命じる場合と中間処分として競売または任意売却を命じる場合(家事事件手続法194条)があります。)がとられます。
④共有分割の方法は,後で共有者間で争いになる可能性がありますので,最後の手段であり,他の分割方法がとれない場合や,共有を望む相続人がおり,共有にしても特段不当ではない場合等に限定されます。
三 まとめ
遺産の内容や相続人の人数,相続人の希望によって,どのような遺産の分け方をすればよいのかが違ってきますので,後悔しないようによく考えましょう。
【相続・遺言】遺産分割はお早めに(数次相続)。
相続が開始し,共同相続人間で遺産分割をしなければならないけれども,様々な事情から,遺産分割をしないまま放置されていることがあります。
また,相続開始後,相続人が被相続人の自宅の名義を調べてみたら,被相続人の親の名義で登記されていた場合のように,遺産分割しないまま放置されていた財産が見つかることもあります。
このように遺産分割をしないで放置していた場合,どうなるのでしょうか。
相続開始後,遺産分割をしないうちに,相続人を被相続人とする相続が開始することを数次相続といいます。
最初の相続(第1次相続)開始後に共同相続人の1人が亡くなった場合,亡くなった相続人が有していた相続分は,亡くなった相続人の相続人が相続することになるため(第2次相続),他の第1次相続の相続人は,第2次相続の相続人との間で遺産分割をしなければならなくなります。
例えば,被相続人Xの相続人が子A,Bの2人だけの場合,AとBの2人で遺産分割をすることになります。
しかし,Xの相続について遺産分割をしないうちに,Aが亡くなり,Aに子C,D,E,Fがいる場合には,Xの遺産についてのAの相続分はC,D,E,Fが相続しますので,Xの遺産について,B,C,D,E,Fの5人で遺産分割をしなければならなくなります。
さらに,遺産分割を放置して,BからFについて相続が開始した場合には,それぞれの相続人とも,Xの遺産分割をしなければならなくなります。
このようなことから,長期間,遺産分割をしないで放置しておくと,当初,数人であった相続人が,いつの間にか,数十人あるいは,百人を超える人数になってしまうことがありますし,複数人の相続が絡んできますので,非常に複雑になることがあります(先の例でいえば,Xの相続だけではなく,Aの相続もあり,Aの相続をめぐってAの相続人間で争いが生じた場合,その争いはXの相続にも影響します。)。
遺産分割は,共同相続人全員で行わなければなりませんが,相続人が多数いる場合,相続人全員で合意することは難しいですし,面識がない相続人がいたり,所在が分からない相続人がいたりして,話合いをすること自体が難しくなるため,相続人が多くなればなる程,遺産分割は困難になります。
だからといって,遺産分割をしないで放置しておくと,さらに相続人が増え,遺産分割が,さらに困難になってしまいます。
したがって, 相続開始後,遺産分割が必要なのに放置しておくと,遺産分割が困難となりますし,将来,ご自身の相続人に迷惑をかけることになりますので,相続が開始した後は面倒でも放置せず,早期に解決を図るべきでしょう。
【相続・遺言】生命保険と相続
被相続人が生命保険契約を締結していた場合,相続財産として遺産分割を行う必要はあるのか問題となります。
生命保険契約とは,被保険者の生死を保険事故とし,保険事故が発生した場合に,保険者(生命保険会社等)が,保険金受取人に保険金を支払うことを約し,保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約す契約であり,まずは,保険契約者,被保険者,保険金受取人が,それぞれ誰であるかを確認することが必要となります。
なお,生命保険については,民法と相続税法では扱いが異なりますが,以下は,民法を念頭に説明します。
一 保険契約者と被保険者が被相続人である場合
被保険者である被相続人が亡くなった場合には,保険金受取人に死亡保険金が支払われます。
1 保険金受取人が被相続人以外の者の場合
(1)保険金受取人として特定の相続人が指定されていた場合
被保険者である被相続人が亡くなったことで,保険金請求権が生じますが,保険金請求権は,受取人の固有の権利ですので,相続財産ではなく,遺産分割の対象とはなりません。
そのため,相続人は,相続放棄をしても,死亡保険金を受け取ることができます。
また,特定の相続人が生命保険金を受け取った場合,生命保険金が特別受益にあたるかという問題がありますが,原則として,民法903条の特別受益にあたらないと解されております。ただし,相続人間の不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認できないほどに著しいと評価すべき特段の事情がある場合には特別受益に準ずるものとして,民法903条の類推適用により持戻しの対象となることがあると解されております。
(2)保険金受取人が「相続人」と指定されていた場合
相続人が固有の権利として生命保険金を受け取るため,保険金は,相続財産ではなく,遺産分割の対象とはなりません。
相続人が複数いる場合,民法427条により各相続人は等しい割合で保険金を取得することになるのか(相続人が3人いる場合には3分の1ずつ),法定相続分により保険金を取得することになるのか(相続人が配偶者と子2人の場合,配偶者は2分の1,子は4分の1ずつ)問題となりますが,特段の事情がない限り,民法427条の「別段の意思表示」があるものとして,各相続人は法定相続分の割合で保険金を受け取るものと解されております。
(3)保険金受取人の指定がなく,約款に基づいて相続人が受け取る場合
保険金受取人が相続人と指定されている場合と同じく,相続人は固有の権利として生命保険金を受け取るため,保険金は相続財産ではなく,遺産分割の対象とはなりません。
2 保険金受取人が被相続人の場合
被相続人が受取人となっている場合には,保険金は被相続人の財産ですので,相続財産であり,遺産分割の対象となると考えられます。
ただし,被相続人の意思を合理的に解釈し,相続人の固有の権利とする考えもあります。
二 保険契約者は被相続人であるが,被保険者が被相続人以外の者の場合
被保険者が被相続人以外の者である保険契約は,被相続人が亡くなっても保険金が支払われるわけではありませんが,財産的価値がありますので,保険契約に関する権利は相続財産であり,遺産分割の対象となります。
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