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【交通事故】素因減額
例えば、事故自体は軽微であったのに、交通事故被害者の精神的な要因や事故前からの病気により、通常よりも傷害が重くなり、治療が長期化することがあります。
そのような場合に、加害者に損害の全部を賠償させるのは公平ではなく、加害者の損害賠償額を減額すべきではないかというのが、素因減額の問題です。
1 素因減額とは
素因減額とは、被害者の精神的性質(心因的要因)や疾患・既往症、身体的特徴(身体的要因)といった被害者の素因により、交通事故による損害が発生・拡大した場合に、公平の見地から、損害賠償額を減額することをいいます。
この点、損害賠償額が減額されるかどうかという以前に、交通事故と損害との間に因果関係があるかどうかが争いとなることもあります。
例えば、交通事故の被害者が亡くなったが、事故前から病気を抱えていた場合に、加害者側が、被害者は交通事故が原因で亡くなったのではなく、病気が原因で亡くなったのだと主張して、因果関係が争われることがあります(因果関係のない損害について、加害者は賠償義務を負いません。)。
これに対し、素因減額とは、交通事故と損害との間に因果関係があることを前提に、被害者の素因が損害の発生・拡大に影響している場合に、民法722条の過失相殺の規定を類推適用して、損害賠償額を減額することです。
先の例でいえば、交通事故により被害者が亡くなったが、被害者が病気を抱えていたことも影響している場合に、素因減額の問題となります。
素因減額が問題となる場合としては、心因的要因による場合と身体的要因による場合がありますので、それぞれの場合について簡単に説明します。
2 心因的要因による素因減額
例えば、被害者の性格等の心理的な要因により、通院が非常に長期間続いた場合に、加害者に損害の全部を賠償させることは公平を失します。
そのため、被害者に発生した損害が通常発生する程度、範囲を超えるものであり、損害の拡大に被害者の心因的要因が関与している場合には、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、減額されることがあります。
3 身体的要因による素因減額
(1)被害者に病気(疾患・既往症)がある場合
交通事故の被害者に疾患や既往症があり、損害の発生や拡大に影響している場合に、加害者に損害の全部を賠償させることは公平を失するといえます。
そのため、交通事故の被害者に疾患や既往症があり、その疾患や既往症が損害の発生又は拡大に寄与していることが明白な場合には、損害賠償額の算定にあたって考慮されることがあります。
(2)被害者が高齢の場合
高齢になるにつれ、体力が低下したり、身体が弱くなったりするため、高齢者が交通事故にあった場合に損害が発生・拡大することがあります。
しかし、年をとれば、体力が低下したり、身体が弱くなったりするのは通常のことであり、高齢であること自体から素因減額するのは相当ではありません。
また、高齢者には骨が弱くなる等、加齢的変性がありますが、年齢相応の加齢的変性の場合にまで素因減額するのは相当ではなく、交通事故の被害者に疾患といえるような状態であったと認められない限り、損害賠償額の算定において考慮されないと考えられます。
(3)被害者の身体的特徴
例えば、被害者に通常よりも首が長い、肥満である等の身体的特徴がある場合です。
被害者に通常と異なる身体的特徴があったとしても、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されている範囲の身体的特徴についてまで、素因減額するのは相当ではありません。
そのため、身体的特徴が、疾患に比肩すべきものであり、かつ、被害者が負傷しないように慎重な行動をとることが求められるような特段な事情がない限り、損害賠償額算定において考慮されることはないと考えられます。
4 まとめ
以上のように、被害者の心因的要因や身体的要因がある場合には、素因減額が問題となります。
素因減額されるかどうか、されるとして、どの程度減額されるかどうかについては、個別具体的に判断されることになりますので、素因減額が問題となる事案では、具体的な事情や裁判例を慎重に検討する必要があります。
そのため、素因減額が問題となる事案では、弁護士にご相談ください。
交通事故 無償同乗(好意同乗)
交通事故を起こし、同乗者が損害を被った場合、自動車の運転者又は運行供用者の同乗者に対する損害賠償が問題となります。
その際、自動車に無償または好意で人を乗せていた場合に、自動車の運転者又は運行供用者の同乗者に対する損害賠償義務が制限されるかどうかというのが、無償同乗(好意同乗)の問題です。
この点について、無償や好意で同乗させていたこと自体から、同乗者への損害賠償額が減額されることは基本的にありません。
もっとも、運転者が飲酒運転していることを知りながら同乗した場合等、同乗者が運転者の危険な運転を容認していた場合や、同乗者が運転者の危険な運転を助長、誘発した場合や、同乗者に一定の運行支配が認められる場合には、過失相殺の規定を適用する等して、減額されることがあります。
また、慰謝料額算定の際、考慮されることがあります。
交通事故における損害(傷害)
交通事故により傷害を負った場合の主な損害項目について、簡単に説明します。
なお、後遺症がある場合の損害項目(後遺症逸失利益,後遺症慰謝料)については、交通事故における損害(後遺症)をご覧ください。
一 積極損害
1 治療関係費
(1)治療費
治療費については、必要かつ相当な実費全額が損害として認められます。
ただし、必要性、相当性を欠く場合には、過剰診療、高額診療として損害と認められない場合があります。
(2)鍼灸、マッサージ費用、器具薬品代、温泉治療費等
医師の指示がある場合など、治療のため必要かつ相当な場合には、損害として認められます。
2 付添費
(1)入院付添費
医師の指示がある場合や傷害の程度、被害者の年齢等の事情により、入院中に付添の必要がある場合には損害と認められます。
(2)通院付添費
被害者が幼児の場合等、通院に付き添う必要がある場合には、損害と認められます。
(3)自宅付添費
自宅での看護が必要な場合には、症状固定時までの自宅付添費用も損害となります。
3 将来介護費
重度の後遺障害があり、将来にわたって介護が必要な場合には、介護費用が損害として認められます。
4 入院雑費
入院したときには様々な雑費がかかりますが、少額で計算が煩雑なため、定額で計算するのが一般的です。
「赤い本」の基準では入院1日につき1500円として計算します。
5 通院交通費
通院のための交通費も損害として認められます。
タクシー利用が相当な場合にはタクシー代も損害として認められますが、それ以外の場合は、電車、バスの料金を損害とするのが一般的です。
また、自家用車を利用した場合は実費相当額(ガソリン代、駐車場代等)が損害となります。
6 装具・器具等の購入費
必要があれば損害として認められます。
また、交換の必要がある場合には、将来の費用も損害として認められます。
7 家屋・自動車等改造費、調度品購入費
傷害の内容、後遺症の程度等から必要性があれば、損害として認められます。
二 消極損害
1 休業損害
交通事故により休業した場合には、休業したことにより得られなかった収入が損害となります。
なお、家事従事者の場合、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、家事ができなかった期間について休業損害が認められます。
2 後遺症逸失利益
後遺症逸失利益とは、後遺症により労働能力を喪失し収入が減少したことによる損害です。
三 慰謝料
1 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
交通事故により傷害を負った場合、被害者が被った精神的苦痛について、慰謝料を請求することができます。
慰謝料額は、入院期間・通院期間に基づいて算定され、「赤い本」の基準では、別表Ⅰと別表Ⅱ(むち打ち症で他覚症状のない場合)を使用して、慰謝料額を算定します。
2 後遺症慰謝料
後遺症慰謝料とは、後遺症が残存したことによる精神的苦痛についての慰謝料です。
交通事故における損害(後遺症)
交通事故により被害者が傷害を受け、治療が終了しても被害者に後遺症(後遺障害)が残る場合があります。
交通事故により、被害者に後遺症がある場合の主な損害として
①後遺症逸失利益
②後遺症慰謝料
があります。
一般的な場合について簡単に説明します。
一 後遺症逸失利益
後遺症がなければ将来にわたって得られたであろう利益のことを後遺症逸失利益といいます。
1 後遺症逸失利益の計算式
逸失利益の額は、以下の計算式で計算します。
後遺症逸失利益
=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
2 基礎収入額
通常、被害者の事故前の収入や、賃金センサスの平均賃金を基礎として逸失利益を算定します。
例えば、給与所得者の場合、原則として、事故前の収入を基礎収入としますが、収入が平均賃金を下回る場合であっても、平均賃金が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入とすることができます。
また、家事従事者の場合、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。
3 労働能力喪失率
労働能力喪失率は、後遺障害の等級によります。
原則として以下のとおりです。
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
4 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
(1)原則
労働能力喪失期間は原則として症状固定日から67歳までとされております。
もっとも、後遺症逸失利益は症状固定時を基準に算定することから、逸失利益の算定にあたっては、中間利益を控除する必要があります。
中間利息の割引率は年5%とされています。
また、中間利息の控除の方法として、ライプニッツ方式が用いられております。
(2)平均余命の2分の1とする場合
労働能力喪失期間を67歳までとすると、67歳以上の高齢者には逸失利益がないことになるのではないかと思われますが、その場合には平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間として逸失利益を算定します。
また、67歳未満であっても、事故当時の平均余命の2分の1に当たる年数が67歳までの年数より長い場合には、平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間として、逸失利益を算定します。
後遺症逸失利益
=平均賃金×労働能力喪失率×平均余命の2分の1に対応するライプニッツ係数
(3)18歳未満の場合
労働能力喪失期間は症状固定日からとされていますが、症状固定日が18歳未満の場合には18歳から(ただし、大学卒業を前提とする場合には、大学卒業予定時から)労働能力が喪失すると考えます。
そのため、被害者が18歳未満の未就労者の場合には、以下の計算式で計算します。
また、基礎収入については、賃金センサスの平均賃金を用いるのが通常です。
後遺症逸失利益
=平均賃金×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)
5 生活費控除はしません
後遺症逸失利益の場合には、生活費を控除しないのが原則です。
6 むち打ち症の場合
むち打ち症(むち打ち損傷)の場合、後遺症が永続するかどうか明らかではないため、後遺障害の等級が認定された場合であっても、労働能力喪失期間が限定される傾向にあります。
12級で10年程度、14級で5年程度に制限される場合が多いようです。
7 計算式
年収400万円の給与所得者(事故時40歳)に10級の後遺障害がある場合
基礎収入額 | 400万円 |
労働能力喪失率 | 27% |
労働能力喪失期間 | 27年 |
27年に対応するライプニッツ係数 | 14.6430 |
逸失利益
=400万円×0.27×14.6430
=1581万4440円
二 後遺症慰謝料
裁判基準(「赤い本」の基準)では、被害者に後遺障害がある場合の慰謝料額は以下のとおりです。おおよその金額ですので、事案により慰謝料額が異なります。。
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
なお、14級にいたらない後遺症の場合であっても、後遺症慰謝料が認められることはあります。
また、重度の後遺障害があり、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には近親者の慰謝料も認められます。
交通事故における損害(物損事故)
物損事故の場合の主な損害について簡単にご説明します。
1 修理が可能な場合
(1)修理費
事故車両の修理が可能な場合、修理費が損害となります。
ただし、修理が可能であっても、修理費用が事故前の事故車両の時価を上回る場合には、経済的には修理が不能な場合とみなされます。
(2)評価損
評価損は、事故当時の車両価格と修理後の車両価格の差額のことをいいます。
評価損には、
①技術上の評価損(修理をしても、技術上の限界等から事故車両の機能や外観に回復できない欠陥が残る場合)
②取引上の評価損(事故歴があることにより、事故車両の価値が下落する場合)
があります。
2 修理が不可能な場合
(1)買替差額
修理が不能の場合には、原則として、事故時の車両の時価相当額と売却代金の差額(買替差額)が、損害として認められます。
修理が不能な場合としては、
①物理的全損(修理技術上、修理が不可能な場合)
②経済的全損(修理費用が事故前の事故車両の時価を上回る場合)
があります。
(2)車両の買替に要する費用
被害車両が全損の場合、車両の買替が必要ですから、登録手数料等車両の再取得に要する費用は、損害として認められます。
3 代車使用料
原則として、現実に代車を使用しており、代車使用料が現実に発生している場合に、修理や買替に必要な相当期間について、事故車と同等の車種の代車使用料が、損害として認められます。
4 休車損
営業用車両が修理・買替によって営業ができなくなった場合には、買替期間や修理期間として相当な期間について、営業を継続していれば得られたであろう利益の喪失が、損害として認められます。
5 雑費
車両の保管料
レッカー代
廃車料
等についても、損害として認められます。
6 車両以外の損害
車両の積み荷を損壊した場合の積み荷の価格
家屋を損壊した場合の修繕費
店舗を損壊した場合の修繕費や営業損害
等が損害として認められる場合があります。
7 慰謝料
原則として物損について慰謝料は認められません。
ただし、例外的に物損について慰謝料が認められることはあります。
交通事故における損害(死亡事故)
交通事故において被害者が死亡した場合に発生する主な損害として
①逸失利益
②死亡慰謝料
③葬儀費用
があります。
一般的な場合について簡単に説明します。
一 逸失利益
交通事故により亡くなった場合、被害者は収入を得ることができなくなってしまいます。
交通事故により被害者が亡くなったことで、得ることができなくなった利益(「逸失利益」といいます。)は、損害にあたります。
1 逸失利益の計算式
逸失利益の額は、以下の計算式で計算します。
逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除額)×就労可能年数のライプニッツ係数
2 基礎収入額
通常、被害者の事故前の収入や、賃金センサスの平均賃金を基礎として逸失利益を算定します。
例えば、給与所得者の場合、原則として、事故前の収入を基礎収入としますが、収入が平均賃金を下回る場合であっても、平均賃金が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入とすることができます。
また、家事従事者の場合、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。
3 生活費控除率
交通事故により死亡した場合、収入を得られなくなる一方、生活費の負担もなくなります。
そのため、逸失利益の算定にあたっては、生活費の負担分を控除します。
裁判基準では、被害者が家族を支えているか否か、独身か否か等の事情によって、30%から50%の間で控除されるのが通常です。
4 就労可能年齢に対応するライプニッツ係数
(1)原則
就労可能年数は原則として67歳までとされております。
交通事故により死亡した場合、亡くなった時から67歳までの年数、就労できなくなったといえ、逸失利益が発生します。
もっとも、収入は長年にわたって得られる一方、逸失利益は交通事故発生時を基準に算定されることから、逸失利益の算定にあたっては、中間利息を控除する必要があります。
逸失利益の算定にあたって、中間利息の割引率は年5%とされています。また、中間利息の控除の方法として、ライプニッツ方式が用いられております。
(2)平均余命の2分の1とする場合
就労可能な年齢を67歳までとすると、67歳以上の高齢者には逸失利益がないことになるのではないかと思われますが、その場合には平均余命の2分の1の期間について逸失利益を算定します。
また、67歳未満であっても、事故当時の平均余命の2分の1に当たる年数が67歳までの年数より長い場合には、平均余命の2分の1の期間について、逸失利益を算定します。
逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×平均余命の2分の1のライプニッツ係数
(3)18歳未満の場合
就労可能な年齢は原則として18歳からであると考えられております(ただし、大学卒業を前提とする場合には、大学卒業予定時から就労開始すると考えます。)。
そのため、被害者が死亡時に18歳未満の場合には、以下の計算式で計算します。
また、基礎収入については、賃金センサスの平均賃金を用いるのが通常です。
逸失利益=平均賃金×(1-生活費控除額)×(死亡時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)
4計算例
年収400万円の給与所得者の男性(事故時40歳)で独身の場合
基礎収入額 400万円
生活費控除率 50%
就労可能期間 27年
27年に対応するライプニッツ係数 14.6430
逸失利益
=400万円×(1-0.5)×14.6430
=2928万6000円
二 死亡慰謝料
被害者本人の慰謝料のほか、被害者の遺族固有の慰謝料も損害として認められます(民法710条、711条)。
自賠責基準では、死亡した被害者本人の慰謝料を350万円とし、遺族(被害者の父母、配偶者、子)がいる場合、1人なら550万円、2人なら650万円、3人以上なら750万円とし、被害者に被扶養者がいる場合は200万円を加算されます。
これに対し、裁判基準(「赤い本」の基準)では、
一家の支柱の場合 2800万円
母親、配偶者の場合 2400万円
赤い本平成28年版より2500万円
その他の場合 2000万円から2200万円
赤い本平成28年版より2500万円
が、本人及び遺族合わせての慰謝料の目安とされていますが、具体的な事情(被害者の年齢、加害行為の悪質性等)により金額は異なります。
三 葬儀費用
自賠責基準では、原則60万円とし、これを超えることが明らかな場合には100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費が認められます。
これに対し、裁判基準では、原則として150万円(ただし、実際に支出した金額が150万円を下回る場合には、実際に支出した金額)が、損害として認められます。事案によりそれ以上の金額が認められることもあります。
なお、葬儀費用以外に、仏壇や墓の購入費用等を損害と認めた裁判例もあります。
交通事故を起こした場合の責任
一 3つの責任
交通事故を起こした場合、民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任を負いますので、自動車の運転にはくれぐれもお気を付けください。
1 民事上の責任
(1)民法709条に基づく不法行為責任
故意又は過失によって他人の権利又は法律上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。
そのため、過失によって交通事故を起こした場合、被害者に対し、治療費や車の修理費などの損害を賠償する義務を負います。
(2)自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任
事故のために自動車を運行の用に供する者(「運行供用者」といいます)は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(自動車損害賠償保障法3条本文)。
ただし、①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、②被疑者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと、③自動車に構造上の欠陥又は機能に障害がなかったことを証明したときは責任を負いません(同条但書)。
2 刑事上の責任
危険な運転や不注意で交通事故を起こし人を死傷させた場合、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(「自動車運転死傷行為処罰法」といいます)により処罰されます。
また、救護義務等の道路交通法上の義務に違反した場合には、道路交通法違反として処罰されます。
3 行政上の責任
自動車の運転免許には、点数制度があり、自動車の運転者が交通違反をしたり、交通事故を起こしたりした場合には、内容に応じて点数が付き、点数によって、免許の取り消し又は停止処分をされます。
二 各責任の関係
民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任はそれぞれ目的の異なる別個の責任です。
民事上の責任については被害者救済の観点から広く認められますが、刑事上、処罰するかどうか慎重に判断されるため、刑事では不起訴になったからといって、交通事故を起こした者に民事上の賠償義務がないというわけではありません。
また、刑事裁判で有罪になったからといって、必ずしも、民事上、加害者が、過失割合100%として損害賠償責任を負うというわけではありません。
自動車運転死傷行為処罰法が施行されました
自動車を運転して人を死傷させてしまうと、これまでは、刑法の危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪で処罰されていましたが、平成26年5月20日より、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(「自動車運転死傷行為処罰法」といいます。)が施行されたことから、今後は、同法で処罰されることになります。
この法律の内容を大まかにご紹介します。
1 危険運転致死傷罪(法2条、3条)
(1)法2条の危険運転致死傷罪
従来の危険運転致死傷罪の類型(法2条1号から5号)に加え、
通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(法2条6号)
が新たな類型として追加されました。
(2)法3条の危険運転致死傷罪
アルコール・薬物・病気(自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの)の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、それらの影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷又は死亡させた場合
も、危険運転致死傷罪として処罰されることになりました。
法2条1号では、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」により人を死傷させた場合を処罰していますが、法2条1号で処罰されない場合でも、本条で処罰される可能性があります。
また、法定刑は法2条より軽くなっています。
2 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の新設(法4条)
アルコール又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合に、
運転時のアルコールや薬物の影響の有無や程度の発覚を免れるべき目的で、
更にアルコールや薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコールや薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無や程度の発覚を免れるべき行為をしたとき
は処罰されることになりました。
3 過失運転致死傷罪(法5条)
従来は、自動車運転過失致死傷罪という名称でしたが、自動車運転死傷行為処罰法では「過失運転致死傷罪」という名称になりました。
4 無免許運転による刑罰の加重(法6条)
無免許で自動車を運転をし人を死傷させた場合には、刑罰が加重されることになりました。
以上のとおり、自動車運転死傷行為処罰法により、自動車を運転し人を死傷させた場合に、悪質な行為や危険な行為はこれまで以上に厳しく処罰されることになりました。
お酒を飲んだら絶対に運転しないでください。
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