Author Archive

【離婚】親権者の変更

2019-07-02

未成年の子の父母が離婚する場合,父母の一方が未成年の子の親権者に指定されますが,離婚後,子の利益のため必要があると認められる場合には親権者の変更をすることができます。

 

一 親権者の変更とは

未成年の子の父母が離婚するときは,父母の一方を未成年の子の親権者に指定しなければなりません。
しかし,離婚後,子の利益のため必要があると認められるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができます(民法819条6項)。

親権者の変更は,単独親権者の親から他の親に親権者を変更するものです。
そのため,親権者となった親が再婚し,その再婚相手が子と養子縁組した場合には実親と養親の共同親権となるので,非親権者の実親が親権者の変更を求めることはできません。

 

二  手続

1 親権者変更の調停または審判

親権者の変更は,子への影響が大きいことから,当事者の協議だけで行うことはできません。
家庭裁判所の親権者変更の調停または審判によらなければなりません(家事事件手続法39条,別表2第8項,244条)。
親権者変更の審判をするには,当事者の陳述を聴くほか,15歳以上の子の意見を聴取しなければなりません(家事事件手続法169条2項)。

 

2  戸籍の届出

親権者変更の調停が成立した場合や審判が確定した場合には,親権者となった親は,調停成立日または審判確定日から10日以内に,調停調書または審判書と確定証明書を添付して,親権者変更の届け出をしなければなりません(戸籍法79条,63条1項)。
また,子を変更後の親権者の戸籍に入籍させるには,家庭裁判所に子の氏の変更の許可の申立てをし,許可をとってから,入籍届をすることになります。

 

三 親権者変更の判断基準

親権者の変更が認められるには,子の利益のため必要があると認められることが必要となります。
具体的な基準としては,離婚時の親権者指定の場合の判断基準が参考となりますが,既に親権者が指定されていますので,単純に父母のどちらが親権者としてふさわしいかということではなく,親権者を変更する必要性があるかどうかも問題となります。

親権者の変更が認められる場合としては,①親権者が子の虐待や育児放棄をしている場合,②親権者が病気で育児ができない場合,③親権者が行方不明の場合,④親権者が死亡した場合,⑤非親権者の親が子を監護しており,子も非親権者の親との生活を望んでいる場合等が考えられます。

 

四 親権者が死亡した場合

親権者が死亡した場合,非親権者である親が親権者となるわけではなく,後見が開始します(民法838条1号)。
もっとも,未成年後見人の選任の前後に関わりなく,親権者の変更が認められれば,非親権者であった親が親権者となることができます。

未成年後見人と親権者の変更のどちらが優先するという規定はありませんので,どちらによるかは,監護の実績や子の意思を考慮して,どちらが子の利益になるかで判断されます。

【離婚】養育費の変更(増額請求・減額請求)

2019-06-21

養育費の額を決めた後に,失業や病気で収入がなくなった場合等,事情の変更があった場合には,養育費の増額や減額を請求することができます。

 

一 養育費の増額請求・減額請求

民法880条は「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」と規定しており,この規定により,養育費の額を決めた後に事情の変更がある場合には,養育費の増額または減額の請求をすることができます。
養育費の増額,減額のほか,養育費の終期を変更することもあります。また,養育費不請求の合意をした後に,事情の変更があれば,養育費の請求が認められることもあります。

 

二 事情の変更

養育費の増額請求や減額請求が認められるには,養育費を決めた当時予測することができなかった重大な事情の変更があり,従前の養育費が不相当となったことが必要となります。
例えば,増額請求する場合としては,①権利者の失業,病気,怪我により収入が減少した場合,②子が進学して学費が増える場合,③子が病気になって医療費がかかる場合等があります。
また,減額請求する場合としては,①義務者が失業,病気,怪我により収入が減少した場合,②義務者が再婚して扶養家族が増えた場合,③子が権利者の再婚相手の養子となった場合等があります。
事情の変更の有無が争いとなることに備えて,養育費の取決めをする際には,「収入の状況の変更,子の進学,病気などの事情があったときは,養育費の額について別途協議する」などの取決めをしておくことも考えられます。

 

三 変更の始期

養育費の増額や減額の請求した場合,養育費がいつから変更されるのかについては,増額や減額を請求したとき(調停や審判の申立てをしたときは,申立てをしたとき)からだと考えられています。

 

四 変更後の養育費の額

変更後の養育費の額は,増額請求や減額請求をしたときの権利者,義務者双方の収入をもとに簡易算定表や簡易算定方式により算定するだけではなく,養育費の合意をした当時の事情や合意後の事情も考慮されます。

 

五 手続

当事者間の合意により養育費の額を変更することができますが,協議による合意ができないときには,家庭裁判所に養育費の増額請求または減額請求の調停または審判の申立てをすることができます。

【交通事故】ドライブレコーダーのデータ保存を忘れずに

2019-06-13

交通事故の法律相談を受けていると,相談者の方から,ドライブレコーダーを取り付けているけれども,映像が上書きされて消えてしまったと言われることがあります。

最近は,車にドライブレコーダーを取り付けている方が増えています。
交通事故の損害賠償の話合いにおいて,当事者間で事故の有無や事故態様について争いになった場合には,ドライブレコーダーの映像は非常に重要な証拠になりますので,ドライブレコーダーを取り付けておくことは交通事故への備えとなります。

しかし,取り付けただけで安心してはいけません。データの保存が重要です。

ドライブレコーダーは,走行時に,メモリーカードなどの記録媒体に映像が記録されますが,記録媒体の容量には限界がありますので,一定時間の走行でデータが上書きされてしまいます。
車が大破した大きな事故の場合には,事故後,車は走行できないので,事故時の映像が上書きされることはないでしょうが,軽微な物損事故の場合には,事故後にも車を走行させることができますので,ひとまず車で帰宅し,あとから事故時の映像データを保存しておこうとしたときには,すでに上書きされてなくなってしまっていたということがよくあります。

事故後に相手と事故状況を巡って主張が対立した場合にドライブレコーダーのデータがないと,自分の主張を立証することが非常に困難になり,解決まで時間や手間がかかったり,納得できない内容で示談せざるをえなくなったりすることになりかねません。

交通事故が起きた場合には,相手との損害賠償の話合いに備えて,記録媒体をドライブレコーダーから外すなど,データが上書きされないようにし,データを保存しておくことを忘れないでください。

【相続・遺言】相続法改正 特別の寄与の制度

2019-06-10

相続法の改正により,2019年7月1日から,特別の寄与をした被相続人の親族は,相続人に対し,金銭の支払を請求することができるようになります。

 

一 特別の寄与の制度

寄与分の制度では,寄与分が認められるのは相続人に限られており,相続人以外の親族が被相続人の療養看護等をしても寄与分は認められないため,不公平となる場合がありました。
そこで,公平の観点から相続法の改正により,特別の寄与の制度が創設されました。

特別の寄与の制度では,特別の寄与をした被相続人の親族(特別寄与者)は,相続開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができます(民法1050条)。

 

二 請求権者の範囲

請求することができるのは,被相続人の親族(ただし,相続人,相続放棄をした人,欠格・廃除により相続権を失った人は除きます。)です(民法1050条1項)。

被相続人の親族以外の人が特別の寄与をしても,特別寄与料の請求はできません。

 

三 特別の寄与

請求することができるのは,被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合です(民法1050条1項)。

寄与分の場合と異なり,無償で労務の提供をした場合に限定されています。

 

四 特別寄与料

特別寄与者は寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができます(民法1050条1項)。
特別寄与料の支払については,まずは当事者間の協議で定めます。協議が調わないとき,または協議ができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができ(民法1050条2項),家庭裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定めます(民法1050条3項)。
具体的な額の算定については,寄与分の場合の算定方法を参考にすることが考えられます。

また,特別寄与料の額は,被相続人が相続開始時に有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません(民法1050条4項)。

 

五 請求の相手方

請求の相手方は相続人です。
相続人が複数いる場合には,各相続人は,特別寄与料の額に民法900条から902条の規定により算定した当該相続人の相続分(法定相続分または指定相続分)を乗じた額を負担することになります(民法1050条4項)。

 

六 手続

特別寄与料の支払については,まずは当事者間の協議で定め,協議が調わないとき,または協議ができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法1050条2項)。

特別の寄与に関する処分は家事事件手続法別表第二の事件であり,調停手続または審判手続を行うことになります。

寄与分については遺産分割事件と併合しなければなりませんが(家事事件手続法192条,245条3項),特別の寄与に関する処分については遺産分割事件と併合することは強制されていません。

 

七 請求期間

特別寄与者が家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができるのは,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内,または相続開始時から1年以内です(民法1050条2項但書)。この期間は除斥期間です。

相続争いの複雑化,長期化を防止するため,権利行使期間は短期間とされています。

【相続・遺言】相続法改正 遺留分制度の改正

2019-06-05

相続法の改正により,2019年7月1日から遺留分制度が改正されます。
改正前と改正後では,遺留分制度の内容が大きくかわります。

 

一 遺留分侵害額請求権

遺留分とは,被相続人の遺言や生前贈与によっても侵害されない相続人の権利のことであり,兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を有します(民法1042条)。
遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる遺言」のことです。)により財産を承継し,または相続分の指定を受けた相続人も含まれます。)または受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法1046条1項)。
この請求権を遺留分侵害額請求権といいます。

改正前は,遺留分を侵害された遺留分権利者は受遺者や受贈者に対し遺留分減殺請求をすることができました。遺留分減殺請求権の行使により,遺贈や贈与は遺留分を侵害する限度で効力を失い,目的物は遺留分権利者に帰属します。そのため,遺留分減殺請求により,遺贈や贈与された財産は遺留分権利者と受遺者や受贈者との共有となってしまいますが,財産が共有になってしまうと受遺者や受贈者の財産の利用や処分に支障が生じます。共有状態を解消するには,受遺者や受贈者が価額賠償をするか,共有物分割手続をしなければなりませんでした。
そのようなことから,改正により,遺留分が侵害されている場合には,金銭の支払を請求する権利が生じることになりました。
また,これにともない名称も遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権にかわりました。

 

二 遺留分額の算定

1 計算式

兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分を有します(民法1042条1項)
遺留分額は,以下の計算式で算定します(民法1042条,1043条)。

遺留分額=遺留分を算定するための財産の価額×遺留分割合=(被相続人の相続開始時の財産額+贈与額-債務額)×遺留分割合

 

2 遺留分割合

遺留分の割合は,①直系尊属のみが相続人であるときは,遺留分を算定するための財産の価額の3分の1,②その他の場合には,遺留分を算定するための財産の価額の2分の1
となります(民法1042条1項)。
また,遺留分権利者が複数人いる場合,各遺留分権利者の遺留分割合は,上記の割合に各自の法定相続分を乗じた割合となります(民法1042条2項)。

例えば,相続人が配偶者,長男,二男の場合で,遺言で長男が全財産を相続することになったときは,配偶者の遺留分割合は4分の1(法定相続分2分の1の2分の1),二男の遺留分割合は8分の1(法定相続分4分の1の2分の1)となります。

 

3 遺留分を算定するための財産の価額

(1)計算式

遺留分を算定するための財産の価額は,以下の計算式で算定します(民法1043条1項)。

遺留分を算定するための財産の価額=被相続人の相続開始時の財産額+贈与額-債務額

 

(2)条件付きの権利,存続期間の不確定な権利

条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価により価格が定められます(民法1043条2項)。

 

(3)贈与

贈与については,①相続開始前の1年間(相続人に対する贈与の場合は10年)にしたもの,または,②当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものに限り,価額(相続人に対する贈与の場合は,婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の額に限ります。)を加算します(民法1044条1項,3項)。

改正前は,相続人に対する特別受益にとなる贈与については,贈与がなされた時期を問わず加算されていましたが,改正により,相続開始10年前のものに限られることになりました。

受贈者の行為により財産が滅失し,または価格の増減した場合は,相続開始時に原状のままであるものとみなして,贈与の価額を算定します(民法1044条2項,904条)。

負担付贈与の場合は,目的の価額から負担の価額を控除した額を贈与の額となります(民法1045条1項)。
また,不相当な対価の有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした場合には,対価を負担額とする負担付贈与とみなされます(民法1045条2項)。

 

三 遺留分侵害額の算定

1  計算式

遺留分侵害額は,以下の計算式により算定します(民法1046条2項)。

遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者の特別受益の額-遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額+遺留分権利者が承継する相続債務の額

 

2 遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額

上記計算式の遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額は,「第900条から第902条まで,第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」です(民法1046条2項2号)。
遺留分権利者の具体的相続分を前提に計算しますが,民法1046条2項2号では寄与分の規定(民法904条の2)は含まれていませんので,寄与分は考慮されません。

 

3 遺留分権利者が承継する相続債務の額

上記計算式の遺留分権利者が承継する相続債務の額は,「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務…の額」です(民法1046条2項3号)。

民法899条は,各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると規定しておりますので,遺留分侵害額算定において加算する債務の額は,相続債務に遺留分権利者の相続分(法定相続分または指定相続分)に応じて承継する債務の額です。

 

四 受遺者,受贈者の負担額

1 負担額

受遺者や受贈者は,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含みます。)や贈与の目的の価額(受遺者や受贈者が相続人の場合はその人の遺留分額を控除します。)を限度として,遺留分侵害額を負担します(民法1047条1項)。

 

2 受遺者や受贈者が複数人いる場合の負担の順番

受遺者や受贈者が複数人いる場合には,以下の順番で負担します。
①受遺者と受贈者がいるときは,受遺者が先に負担します(民法1047条1項1号)。
②受遺者が複数人いるときは,目的の価額の割合に応じて負担します。ただし,遺言者が遺言に別段の意思表示をしたときは,その意思に従います(民法1047条1項2号)。
③受贈者が複数人いて,贈与が同時にされたものであるときは,目的の価額の割合に応じて負担します。ただし,遺言者が遺言に別段の意思表示をしたときは,その意思に従います(民法1047条1項2号)。
④受贈者が複数人いて,贈与が同時にされたものでないときは,後の贈与の受贈者から順に前の贈与の受贈者が負担します(民法1047条1項3号)。

 

3 受遺者や受贈者が相続債務の弁済等をした場合

受遺者や受贈者が遺留分権利者が承継する債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務額の限度において,受遺者等は,遺留分権利者に対する意思表示により,負担する債務を消滅させることができます。この場合,遺留分権利者に対する求償権も消滅した債務額の限度で消滅します(民法1047条3項)。

 

4 受遺者や受贈者が無資力の場合

受遺者や受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担します(民法1047条4項)。
遺留分侵害額を負担する受遺者や受贈者が無資力であっても,その分,他の受遺者や受贈者が負担するということはありません。

 

五 相当の期限の許与

遺留分侵害請求を受けた受遺者や受贈者が直ちに金銭の支払をすることができない場合があります。
そのようなことから,裁判所は,受遺者または受贈者の請求により,遺留分侵害請求により負担する債務の全部または一部につき相当の期限を許与することができます(民法1047条5項)。

 

六 遺留分侵害額請求権の行使期間

遺留分侵害額請求権は,①遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅し,②相続開始の時から10年を経過したときは,除斥期間により消滅します(民法1048条)。

遺留分請求権はその行使により金銭債権が発生する形成権ですので,遺留分侵害額請求権の行使により生じた金銭債権は,別途,消滅時効にかかります。時効期間は通常の金銭債権と同様です。

 

七 遺留分侵害額請求権の事前放棄

遺留分権利者は,相続開始前に,家庭裁判所の許可を得て,遺留分を放棄することができます(民法1049条1項)。
共同相続人の一人のした遺留分の放棄は,他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません(民法1049条2項)。

なお,相続開始後の遺留分の放棄には,家庭裁判所の許可はいりません。

【お知らせ】2019年ゴールデンウィーク期間中の業務について

2019-04-25

ゴールデンウィーク期間中(2019年4月27日から5月6日)の法律相談等の業務につきましては,ご予約がある場合には対応いたします。

5月7日以降は,通常通りの営業となります。

【相続・遺言】相続法の改正 遺産分割前の遺産の処分

2019-04-23

相続法の改正により,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲についての規定(民法906条の2)が設けられました。この規定は2019年7月1日から施行されます。

 

一 遺産分割前の遺産の処分

民法906条の2第1項では「遺産の分割前に,遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる」と規定されています。
相続開始後,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合,共同相続人全員の同意があれば,処分された財産を遺産分割の対象とすることができるということです。

同条項は処分者を限定していませんので,共同相続人以外の第三者が処分した場合にも適用されます。例えば,第三者が遺産を処分し,共同相続人が第三者に対し損害賠償請求をすることができる場合には,共同相続人全員の同意により,第三者に対する損害賠償請求権を遺産分割の対象とすることができます。

また,同意を撤回できるとする規定はありませんので,共同相続人全員が同意し,処分された財産を遺産とみなす効果が生じた後は,同意を撤回することはできないと考えられます。ただし,同意は意思表示ですから,錯誤,詐欺,強迫等,意思表示の瑕疵・欠缺の規定の適用はあります。

 

二 共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合

民法906条の2第2項では「前項の規定にかかわらず,共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは,当該共同相続人については,同項の同意を得ることを要しない。」と規定されています。
相続開始後,遺産分割前に,共同相続人の一部の人が遺産に属する財産を処分した場合には,処分をした人以外の共同相続人全員の同意があれば,処分された財産を遺産分割の対象とすることができるということです。

共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合(例えば,相続開始後に共同相続人の一人が他の共同相続人に無断で遺産である預貯金を引き出した場合),改正前も共同相続人全員の同意があれば,処分された財産を遺産分割の対象とすることはできました。
しかし,財産を処分した共同相続人が反対した場合には遺産分割の対象とすることはできず,民事訴訟(損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟)で解決しなければなりませんでした。
改正により,財産を処分した共同相続人の同意は不要となりますので,他の共同相続人全員の同意があれば,処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとして,遺産分割をすることができるようになります。

相続法の改正 遺産分割前の預貯金払戻し,仮分割の仮処分

2019-04-15

相続法の改正により,2019年7月1日から,遺産分割前の預貯金債権の払戻請求ができるようになります。また,預貯金債権の仮分割の仮処分の要件も緩和されます。

 

一 預貯金債権の遺産分割

以前は,預貯金債権は一部を除いて法定相続分により当然分割されるので,遺産分割は不要であるという扱いでした。
しかし,その後,最高裁判所の平成28年12月19日の決定や平成29年4月6日の判決が出て,預貯金債権は,相続開始と同時に当然に分割されることはなく,遺産分割の対象となることとされました。
そのため,相続人が預貯金の払戻しを受けるには,共同相続人全員で同意をするか,遺産分割をしてから払戻請求をしなければなりませんが,葬儀費用の支払い等のために早期の預貯金払戻しが必要な場合には困ったことになります。
そのようなことから,相続法の改正では,遺産分割前の預貯金払戻しの制度が設けられるとともに(民法909条の2),仮分割の仮処分の要件が緩和されました(家事事件手続法200条3項)。

 

二 遺産分割前の預貯金債権の払戻し

相続法の改正により,遺産分割前であっても,各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち一定額については,家庭裁判所の判断を経ずに,単独で金融機関に預貯金の払戻しを請求することができます(民法909条の2)。

払戻請求できる金額は,原則として,遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の預貯債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額です(民法909条の2前段)。この金額は預貯金債権(口座)ごとに算定されます。
ただし,遺産分割前の預貯金の払戻しは他の共同相続人の利益を害するおそれがあることから,払戻請求できる金額には,標準的な当面の必要生活費,平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して,預貯金債権の債務者(金融機関)ごとに,法務省令で定める上限額があります(民法909条の2前段)。法務省令では上限額は150万円とされています(平成30年法務省令第29号)。
上限額は金融機関ごとの金額であり,複数の金融機関に預貯金がある場合には,それぞれの金融機関から上限額まで払戻しを受けられることになります

また,権利行使した預貯金債権については,権利行使した相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。
預貯金の払戻請求をした相続人に特別受益がある等して,払戻金額がその相続人の具体的相続分を超える場合には,払戻しを受けた相続人は,超過額について,他の共同相続人に清算しなければなりません。

 

三 仮分割の仮処分の要件緩和

相続法の改正前も,家事事件手続法200条2項により,預貯金債権について審判前の保全処分(仮分割の仮処分)をすることができましたが,家事事件手続法の改正で要件が緩和されました。
改正後,家庭裁判所は,①遺産分割の審判または調停の申立てがあった場合に,②相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を申立人または相手方が行使する必要があると認められるときは,③他の共同相続人の利益を害する場合でない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金の全部又は一部を申立人に仮に取得させることができます(家事事件手続法200条3項)。

相続法改正 配偶者保護 持戻し免除の意思表示の推定

2019-04-09

相続法の改正により,2019年7月1日から,婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用不動産を遺贈又は生前贈与した場合には,特別受益の持戻し免除の意思表示が推定されます。持戻しが免除されることにより,配偶者が遺産分割で取得できる財産が増えることになります。

 

一 特別受益の持戻しと持戻し免除の意思表示

1 特別受益の持戻し

共同相続人間の公平を図る観点から,共同相続人の中に被相続人から生前贈与等を受け,特別受益にあたる場合には,被相続人が持戻免除の意思表示をした場合を除き,持戻計算が行われます(民法903条)。

例えば,遺産総額が4000万円で相続人が配偶者と子2名の場合で,被相続人が配偶者に自宅(2000万円相当)を生前贈与していたときには,特別受益の持戻しにより,配偶者の具体的相続分は1000万円(計算式:(4000万円+2000万円)×2分の1-2000万円=1000万円),子の具体的相続分は,それぞれ1500万円(計算式:(4000万円+2000万円)×4分の1=1500万円)となります。

 

2 持戻し免除の意思表示

被相続人は持戻し免除の意思表示をすることもできます(民法903条)。
持戻し免除の意思表示をした場合には持戻し計算は行われません。

例えば,遺産総額が4000万円で相続人が配偶者と子2名の場合で,被相続人が配偶者に自宅(2000万円相当)を生前贈与するとともに,持戻し免除の意思表示をしていたときは,配偶者の具体的相続分は2000万円(計算式:4000万円×2分の1),子らの具体的相続分は1000万円(計算式:4000万円×4分の1)ずつとなります。

持戻し免除の意思表示に特別な方式はありません。また,明示の意思表示の場合のみならず,黙示の意思表示の場合もあります。

 

二 持戻し免除の意思表示の推定

相続法の改正により,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは,持戻し免除の意思表示をしたものと推定されることになります(民法903条4項)。

被相続人が長年連れ添った配偶者への居住用不動産の贈与等をするのは,配偶者の貢献に報いるとともに,配偶者の老後の生活保障をするためであり,被相続人が持戻し計算をさせる意図であったとは通常考えられないからです。

居住用不動産に限定しているのは,居住用不動産が配偶者の老後の生活保障にとって重要だからですし,対象を広くすると配偶者以外の相続人への影響が大きくなるからです。
また,居住用不動産にあたるかどうかは遺贈や贈与をしたときを基準に判断するのが原則であると考えられます。

なお,推定規定ですので,被相続人は持戻しの免除をしないという意思表示をすることもできます。
また,改正規定が適用されるのは施行日(2019年7月1日)からであり,施行日前の遺贈等については適用されません(附則4条)。

【離婚】不倫相手に対する離婚慰謝料請求

2019-03-28

不貞行為が原因で離婚した場合,不貞行為をされた夫婦の一方は,不貞行為をした夫婦の他方とその相手方に対し,慰謝料請求することが考えられます。
不貞行為が原因で離婚した場合の慰謝料については,①不貞行為による精神的苦痛に対する慰謝料を請求する考え方(不貞慰謝料)と,②離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料を請求する考え方(離婚慰謝料)があります。
①と②では,消滅時効の起算点や遅延損害金の起算日に違いがあり,①では不貞行為をした時が起算点・起算日となるのに対し,②では離婚をした時が起算点・起算日となるという違いがあります。そのため,例えば,不貞行為を知ってから3年経過した後に慰謝料請求する場合には,不法行為の消滅時効の期間(民法724条)が経過しているため,不貞慰謝料ではなく,離婚慰謝料を請求するということが考えられます。

しかし,不貞行為をした第三者に対し離婚慰謝料を請求することについて,平成31年2月19日に最高裁判所の判決がでました。
この判決では,夫婦の一方は他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料請求はできないとされました。離婚は本来,夫婦間で決めるべき事柄であることから,不貞行為により婚姻関係が破綻して離婚に至ったとしても,直ちに,第三者が離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うものではなく,責任を負うのは,単に不貞行為をしただけではなく,離婚させることを意図して,婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして離婚をやむをえなくしたと評価すべき特段の事情がある場合に限られるとのことです。

この判決は,第三者に対する離婚慰謝料の請求は原則としてできないというものであって,第三者に対する不貞慰謝料の請求を否定するものではありません。そのため,今後,第三者に対しては離婚慰謝料ではなく,不貞慰謝料の請求をすることが基本になるでしょうが,消滅時効の期間の点で第三者に慰謝料請求ができなくなるケースもでてきます。

なお,不貞行為をした夫婦の一方と第三者の責任は共同不法行為責任であり,不真正連帯債務であると考えられていますが,夫婦の一方に離婚慰謝料を請求し,第三者に不貞慰謝料を請求した場合,共同不法行為責任・不真正連帯債務や求償についてどのように考えるのか問題となるものと思われます。
また,第三者に対し不貞慰謝料の請求はできるけれども,離婚慰謝料の請求はできないとした場合,慰謝料額にどのような影響を与えるのかも問題となるものと思われます。

« Older Entries Newer Entries »
〒352-0001 埼玉県新座市東北2丁目31番24号 第2安部ビル3階
Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.