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【離婚】婚姻の要件・効果

2015-11-06

離婚は婚姻関係の解消ですが,そもそも婚姻とはどのようなものなのでしょうか。

 

一 婚姻とは

婚姻とは,結婚すること,夫婦となることです。

民法では,法律上の手続を要求しており,法律婚といいます。

 

二 婚姻の要件

1 婚姻の意思の合致

婚姻をするには,当事者の婚姻意思の合致が必要です

婚姻意思とは,社会通念上,夫婦関係を形成しようとする意思のことです。

婚姻意思がなかった場合には,婚姻の無効原因となります(民法742条1号)

2 届出

婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,効力を生じます(民法739条1項)。

届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面またはこれらの者からの口頭でしなければなりません(民法739条2項)。

婚姻意思は,届出の時点で存在することが必要であり,届出の時点で婚姻意思を欠くと婚姻は無効となります。

3 その他の要件(婚姻障害事由の不存在)

以下の婚姻障害事由が存在しないことが要件となります。

(1)婚姻適齢

男性は18歳,女性は16歳にならなければ婚姻することができません(民法731条)。

(2)重婚の禁止

配偶者のある者が重ねて婚姻することはできません(民法732条)。

(3)再婚禁止期間

女性は,前婚の解消または取消しの日から6か月を経過した後でなければ再婚することができません(民法733条1項)。

女性が,前婚の解消または取消しの前から懐胎していた場合には,出産の日から前項の規定は適用されません(民法733条2項)。

*最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決は,民法733条1項の規定のうち,100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分について,憲法14条1項,憲法24条2項に違反すると判断しました。この判決を受けて,平成28年6月1日,民法733条を改正する法律が成立し,同月7日に施行されました。改正後は,①女性の再婚禁止期間が前婚の解消又は取消しの日から起算して100日となり(民法733条1項),②女性が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合又は女性が前婚の解消若しくは取消しの後に出産した場合には,再婚禁止期間の規定を適用しないこととなりました(民法733条2項)。

(4)近親婚の禁止

直系血族または三親等内の傍系血族の間(養子と養方の傍系血族の間は除きます。)では,婚姻することはできません(民法734条1項)。

特別養子縁組により養子と実方との親族関係が終了した後も同様です(民法734条2項)。

(5)直系姻族間の婚姻の禁止

直系姻族間では婚姻することはできません。離婚等により姻族関係が終了した後(民法728条)や特別養子縁組により養子と実方との親族関係が終了した後(民法817条の9)であっても同様です(民法735条)。

(6)養親子などの間の婚姻の禁止

養子もしくはその配偶者または養子の直系卑属もしくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では,離縁によって親族関係が終了した後でも婚姻をすることはできません(民法736条)。

(7)未成年者の婚姻についての父母の同意

未成年の子が婚姻するには,父母の同意がなければなりません(民法737条1項)。

父母の一方が同意しないとき,知れないとき,死亡したとき,または意思表示をしないときは,他の一方の同意だけで足ります(民法737条2項)。

 

三 婚姻の効果

1 同居・協力・扶助義務

夫婦は,同居し,互いに協力し扶助しなければなりません(民法752条)。

2 貞操義務

夫婦は互いに貞操義務を負います。

不貞行為は離婚原因となります(民法770条1項1号)。

3 夫婦財産制

(1)夫婦財産契約

夫婦は,婚姻の届け出前に,財産関係について契約をすることができます。

届け出までに登記をしなければ夫婦の承継人や第三者に対抗することはできません(民法756条)。

(2)法定夫婦財産制

夫婦財産契約がなかった場合,法定夫婦財産制度として以下の規定があります。

①婚姻費用分担義務

夫婦は,資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生じる費用を分担します(民法760条)。

②日常家事債務の連帯責任

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他方は,これによって生じた債務について,第三者に対して責任を負わない旨予告した場合を除き,連帯して責任を負います(民法761条)。

③夫婦間の財産の帰属

夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)となります(民法762条1項)。

夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,共有に属するものと推定します(民法762条2項)。

4 夫婦間の契約の取消権

夫婦間でした契約は,婚姻中,いつでも夫婦の一方から取り消すことができます。ただし,第三者の権利を害することはできません(民法754条)。

5 相続権

被相続人の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。

6 子の嫡出化

婚姻中に生まれた子は嫡出子となります。

また,認知後に婚姻した場合(婚姻準正)や婚姻後に認知した場合(認知準正)も嫡出子となります(民法789条)。

7 夫婦同姓

夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫または妻の氏を称します(民法750条)。

8 姻族関係の発生

配偶者の一方と他方配偶者の血族との関係を姻族といいます。

三親等以内の姻族は親族となります(民法725条3号)。

9 成年擬制

未成年者が婚姻したときは,成年に達したものとみなされます(民法753条)。

10 生命侵害に対する慰謝料

配偶者の生命が侵害された場合,他方の配偶者は慰謝料請求をすることができます(民法711条)。

【離婚】不貞行為の慰謝料額に影響する要素

2015-11-04

不貞行為をされた配偶者は,不貞行為をした配偶者とその不貞相手に対して,不法行為に基づいて慰謝料請求をすることができます(民法709条)。

不貞行為の慰謝料額の算定について客観的な基準があるわけではなく,案件ごとに異なります。

基本的には,慰謝料額は,不貞行為の有責性と精神的苦痛の大きさによりますが,以下のような事情が慰謝料額に影響すると考えられています。

 

1 婚姻関係

(1)婚姻期間の長さ

婚姻期間が長い場合には,慰謝料額が高くなる傾向にあります。

(2)未成熟子の有無

未成熟子がいる場合には,慰謝料額が高くなる傾向にあります。

(3)当事者の資力,性別

婚姻関係破綻による影響は,通常は資力がない妻のほうが大きいため,資力のある夫が不貞行為をした場合には慰謝料額が高くなる傾向があります。

(4)不貞行為前の婚姻生活の状況

夫婦関係が円満であったにもかかわらず,不貞行為があった場合には,有責性や精神的苦痛は大きいといえます。

不貞行為前から夫婦が別居している等,夫婦関係に問題があり,そのことにつき,不貞行為をされた配偶者にも落ち度があった場合には,慰謝料額が低くなる傾向にあります。

 

2 不貞行為

(1)どちらが主導的な役割を果たしたのか

不貞行為は,不貞行為者両名の共同不法行為であり,不貞行為をされた者は,不貞行為者両名に対し慰謝料全額を請求できることからすれば,どちらが主導したかは不貞行為者間における負担割合の問題になるだけであり,慰謝料額には影響しないのではないかとも思われます。

しかし,一方に対してのみ慰謝料請求した場合には,主導的役割でなかったかどうかが慰謝料額に影響することがあります。

(2)不貞行為の期間,回数

不貞行為の期間が長い程,不貞行為の回数が多い程,不貞行為の有責性や不貞行為をされた配偶者の精神的苦痛が大きくなるので,慰謝料が高くなる傾向にあります。

(3)不貞行為者の関係

不貞行為をした配偶者と不貞相手が同棲している場合や,二人の間に子が生まれた場合には,不貞行為をされた者の精神的苦痛が大きくなり,慰謝料額が高くなると考えられます。

 

3 婚姻関係が破綻したかどうか

不貞行為により婚姻関係が破綻していない場合であっても,慰謝料請求をすることはできますが,婚姻関係がいまだ破綻しておらず,離婚や別居までに至っていない場合には,精神的苦痛は相対的に小さいと考えられ,慰謝料額が減額される方向に働きます。

 

4 不貞行為発覚後の当事者の対応

(1)不貞行為者の対応

不貞行為発覚後,不貞行為をした者が,不貞行為を認めて謝罪したのかどうか,不貞関係を解消する等,誠実な対応をしたのかどうかは,慰謝料額に影響します。

(2)不貞行為をされた配偶者の対応

不貞行為をされた配偶者が,怒って,不貞行為者に嫌がらせをした場合には慰謝料額に影響することがあります。

また,嫌がらせ行為が不法行為にあたる場合には,逆に不貞行為者から損害賠償請求されるおそれもあります。

【交通事故】交通事故による損害賠償請求権の消滅時効

2015-10-28

交通事故の傷害の程度が重い場合や,後遺障害の等級認定が問題となる場合には交通事故が発生してから何年間も損害賠償の問題が解決しないことがあります。

その場合には,損害賠償請求権が消滅時効にかからないように注意しましょう。

※令和2年4月1日に施行された改正民法により,消滅時効制度の内容が変わりました。このページは改正前の制度について説明しておりますのでご注意ください。

一 時効期間

交通事故による損害賠償請求権は,不法行為に基づく損害賠償請求権です。

不法行為による損害賠償請求ができる期間について,民法724条は「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも同様とする。」と規定しております。

そのため,交通事故による損害賠償請求権についても,被害者または法定代理人が,「損害及び加害者を知ったときから3年間」で消滅時効にかかりますし,「不法行為の時から20年」の除斥期間を経過することにより権利行使ができなくなります。

なお,交通事故による損害賠償請求については,民法上の不法行為責任を追及するほか,自動車損害賠償保障法の運行供用者責任を追及することがありますが,運行供用者責任を追及することができる期間についても,民法724条が適用されます(自動車損害賠償保障法4条)。

 

二 消滅時効の起算点

1後遺障害がない場合

消滅時効の起算点(時効の進行が開始する時点)は「損害及び加害者を知ったときから」です。

「損害…を知ったとき」とは,損害の発生を現実に認識したときであると解されております。

また,「加害者を知ったとき」とは,加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度に知ったときであると解されております。

通常は事故があった日に損害が発生や加害者を知ることになりますので,交通事故があった日が起算点となります。

もっとも,損害や加害者を知ったのが事故日より後の場合には,知ったときが起算点となりますので,時効の起算点がいつか争いになることもあります。

 

2 後遺障害がある場合

後遺障害の場合には,通常,症状固定日には後遺障害に関する損害が発生したことを知ることができますので,症状固定日が起算点になると解されております。

もっとも,症状固定日後に予期せぬ後遺症が発症することもあり,その場合には,後遺症があらわれたときに損害が発生したことを知りますので,その後遺症があわられたときが起算点になると解されます。

 

三 時効の中断

損害賠償請求権が消滅時効にかかるのを防ぐには,時効を中断させる必要があります。

時効は,①請求,②差押え,仮差押え又は仮処分,③承認により中断します(民法147条)。

時効が中断した場合には,中断事由が終了したときから,新たに進行を始めます(民法157条1項)。

 

1 請求

被害者が,加害者に対し,裁判上の請求その他の裁判所の関与する手続をとること(民法149条から152条)や,裁判外で催告すること(民法153条)により,時効は中断します。裁判外で催告した場合には,6か月以内に,裁判上の請求その他の裁判所の関与する手続をとらなければ,時効中断の効力は生じません(民法153条)。

なお,自賠責保険の後遺障害等級認定に異議申立てをしても,請求にはあたりませんので,時効は中断しません。

2 承認

加害者が債務の存在を認めたり,一部弁済をしたりすることは,債務の承認にあたり,時効は中断します。

また,任意保険会社が被害者に対し支払をすることも,任意保険会社は加害者を代理して行っておりますので,債務の承認にあたると解されます。

これに対し,被害者が自賠責保険に被害者請求して保険金の支払を得たり,自賠責保険会社から時効中断承認書をもらったりしても,加害者が債務を承認したことにはなりませんので,時効は中断しません。

 

四 まとめ

以上のとおり,交通事故の損害賠償請求権は短期消滅時効にかかるため,損害賠償請求は時効にかからないよう早めにおこないましょう。

また,解決まで長期間を要する場合には,時効が中断しているかどうか注意しましょう。

【労働問題】退職後の競業避止義務契約と退職金返還義務

2015-10-23

会社は,従業員が退職する際,競合する事業を営んだり,競合他社に就職したりする等の競業行為を禁止し,違反した場合には,退職金の返還を約束させることがあります。

会社からすれば,自社の営業秘密やノウハウを守るため,元従業員に競業避止義務を負わせる必要があるですが,元従業員からすれば,前職での経験を生かせるので前職と同種の仕事をしたいという考えがあるため,使用者と元従業員との間で争いになることがあります。

そこで,退職後の競業避止義務契約と退職金の返還義務について簡単に説明します。

一 退職後の競業避止義務

競業避止義務とは,使用者と競業する行為をしない義務をいいます。

従業員は,在職中は,雇用契約上の付随義務として競業避止義務を負いますが,退職した後まで当然に競業避止義務を負うわけではありません。

しかし,従業員が,退職後に競業行為を行い,在職中に知り得た使用者の営業秘密を利用したり,使用者の顧客を奪ったりすれば,使用者は不利益を被りますので,使用者の立場からすれば,退職後の従業員にも競業避止義務を負わせる必要があります。

そのため,使用者は,就業規則に退職後も競業避止義務を負うと規定したり,従業員の退職時に競業避止義務契約を締結したりして,元従業員に退職後も競業避止義務を負わせようとします。

 

二 競業避止義務契約の有効性

使用者からすれば,元従業員に競業避止義務を負わせる必要がある一方で,競業避止義務は,元従業員の職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約となります。

そのため,競業避止義務契約は当然に効力が認められるわけではなく,内容によっては無効となります。

競業避止義務契約が有効かどうかは,①使用者の目的,②元従業員の地位,③期間,地域,職種の限定の有無,④代償措置の有無といった事情を総合的に考慮して判断されると解されております。

①使用者が営業秘密や独自のノウハウを守るために,元従業員に競業避止義務を負わせることは必要性があるといえますが,②営業秘密や独自のノウハウとは関わりの薄い従業員にまで退職後も競業避止義務を負わせることは,必要性,合理性があるとはいえないでしょう。

また,③退職後,無制限に競業避止義務を負わせることは元従業員の職業選択の自由の観点から問題がありますので,競業行為を禁止する期間,地域,職種の限定の有無や限定の範囲が有効性判断に影響します。

期間が1年以内であれば合理性があると判断されやすいですが,2年以上の場合には合理性がないと判断されるおそれがあります。

また,職種を限定せず,一般的,抽象的に競業行為を禁止することも合理性がないと判断されるおそれがあるでしょう。

さらに,④元従業員に競業避止義務を負わせることの代償措置が全くとられていない場合には有効性が否定されることが多いですし,代償措置がとられていても不十分な場合には,有効性が否定されるおそれがあります。

 

三 退職金の返還義務

競業避止義務契約では,競業避止義務に違反した場合のペナルティとして,使用者は元従業員に対し損害賠償請求することができると規定するほか,退職金の返還を請求することができると規定することがあります。

もっとも,退職金は労働の対価の後払いとしての性質もありますし,使用者に損害が生じていない場合や軽微な違反の場合にまで,退職金を返還しなければならないとすると,元従業員に酷な場合もあります。

そのため,競業避止義務に違反しても顕著な背信性がない場合には退職金の返還が認められないことがありますし,使用者が被った損害と退職金額が釣り合っていない場合には,返還額が制限されることがあります。

 

四 まとめ

以上のとおり,使用者は,元従業員に退職後も競業避止義務を負わせることはできますが,元従業員の職業選択の自由の観点から,無制限に競業避止義務を負わせることができるわけではなく,合理的な範囲に限られます。

また,元従業員が競業避止義務に違反したとしても,退職金の返還義務があるかどうか問題となります。

そのため,使用者と元従業員との間で争いになった場合には,競業避止義務契約の内容,元従業員の退職前後の仕事の内容,使用者の被った損害等を具体的に検討する必要があります。

【相続・遺言】負担付遺贈

2015-10-06

一 負担付遺贈とは

遺贈は,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることですが,条件を付けること(条件付遺贈)や期限を付けること(期限付遺贈)もできますし,受遺者に一定の義務を負担させること(負担付遺贈)もできます(なお,これらが付されていない遺贈のことを単純遺贈といいます。)。

負担付遺贈は,包括遺贈,特定遺贈いずれの場合でもできます。

また,負担の内容は遺贈の目的物と関係がなくてもかまいませんし,負担の受益者に制限はなく,相続人以外の第三者でも一般公衆でも受益者になれます。

 

二 条件付遺贈と負担付遺贈

「○○を負担することを条件として,○○を遺贈する」という表現の場合,条件付遺贈なのか,負担付遺贈なのか問題となります。

条件付遺贈の場合,条件成就時に遺言の効力が生じるか(停止条件),効力がなくなる(解除条件)だけであり,受遺者が義務を負うわけではありません。

これに対し,負担付遺贈の場合,受遺者は一定の義務を負いますが,義務を履行するか否かに関わらず,遺言の効力が生じます。

そのため,受贈者に義務を負わせる趣旨である場合には,負担付遺贈となります。

三 受遺者の義務

負担付遺贈を受けた人は,遺贈の目的物の価額を超えない限度で,負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。

また,負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認または遺留分減殺請求によって減少したときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,受遺者は,その減少の割合に応じて,負担した義務を免れます(民法1003条)。

四 受遺者が義務を履行しない場合

受遺者が負担した義務を履行しないときは,相続人は,相当の期間を定めて履行の催告をすることができます。期間内に履行がないときは,負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)。

 

五 受遺者が遺贈の放棄をした場合

受遺者が遺贈の放棄をしたときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときを除き,負担の利益を受ける人は,自ら受遺者となることができます(民法1002条2項)。

 

【相続・遺言】包括遺贈

2015-10-05

一 包括遺贈

遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます。

遺贈には,特定遺贈(特定の財産を遺贈すること)と包括遺贈(遺贈の目的となる財産を特定せず,遺産の全部または一定割合を遺贈すること)があります。

また,包括遺贈には,「○○に全財産を遺贈する。」というように全部を遺贈する場合(全部包括遺贈または単独包括遺贈)と「○○に全財産の○分の○を遺贈する。」というように一定割合を遺贈する場合(一部包括遺贈または割合的包括遺贈)があります。

包括遺贈は,受遺者が相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),特定遺贈とは効力が異なります。

そのため,遺贈が,特定遺贈と包括遺贈のどちらにあたるのか区別する必要があります。

 

二 包括遺贈の特徴(特定遺贈との違い)

1 相続人と同一の権利義務を有します。

包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。

そのため,包括受遺者は,遺言の効力発生時に,遺言者の一身専属権を除き,一切の権利義務を承継します。

特定遺贈では,受遺者は,被相続人の債務を承継することはありませんが,包括遺贈では,受遺者は被相続人の債務を承継します。

2 遺産分割

一部包括遺贈の場合には,受遺者は他の相続人と遺産を共有する状態になりますので,受遺者と相続人との間で遺産分割を行うことになります。

3 遺贈の承認,放棄

遺贈の承認・放棄についての民法986条,987条の規定の適用はなく,相続の承認,相続放棄の規定が適用されます。

そのため,特定遺贈の場合には,遺言者の死亡後,いつでも放棄することができますが(民法986条1項),包括遺贈の場合には,原則として相続開始を知ったときから3か月以内に放棄しなければなりません(民法915条1項)。

また,包括遺贈の場合には,単純承認のほか,限定承認をすることもできます。

 

三 包括遺贈と相続の違い

受遺者は,相続人と同一の権利義務を有しますが,相続人と全く同じというわけではありません。

以下のような違いがあります。

1 受遺者となることができる者

相続人は自然人に限られますが,包括受遺者は自然人に限られず,法人も包括受遺者となることができます。

2 遺留分の有無

受遺者には遺留分がありません。

そのため,特定遺贈により包括受遺者の受遺分が侵害されても,包括受遺者は特定受遺者に対し遺留分減殺請求をすることはできません。

3 遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合

遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺言の効力はなくなります(民法994条1項)。代襲相続の規定の適用はありません。

4 他の相続人が相続放棄した場合や他の包括受遺者が遺贈の放棄をした場合

相続人が相続放棄をした場合には,その人は初めから相続人でなかったものとみなされるので(民法939条),他の相続人の相続分が増えます。

また,包括受遺者が遺贈の放棄をした場合にも民法939条が適用されるので,相続人の相続分が増えます。

しかし,相続人が相続放棄をしたり,他の受遺者が遺贈を放棄したりしても,包括受遺者の持ち分は増えません。

5 登記

相続人は自分の法定相続分については,登記なくして第三者に対抗することができますが,包括受遺者は,包括遺贈を受けたことを登記しなければ,第三者に対抗することはできません。

また,相続人は,単独申請で登記をすることができますが,包括受遺者は,遺贈義務者(相続人または遺言執行者)と共同申請をしなければなりません。

【相続・遺言】特定遺贈

2015-10-03

一 特定遺贈とは

遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます。

そして,例えば,「○○に○○の土地を遺贈する。」,「○○に○○の預金を遺贈する。」というように,特定の財産を遺贈することを,特定遺贈といいます。

特定遺贈には,特定物を遺贈の目的とする特定物遺贈と不特定物を遺贈の目的とする不特定物遺贈があります。

 

二 特定遺贈の効果

遺言者が死亡し,遺言の効力が発生したときに(民法985条1項),遺贈の効力が発生し,遺贈された財産について権利が受遺者に移転します(物権的効力)。

受遺者が遺贈により所有権を取得したことを第三者に対抗するためには対抗要件を具備する必要があり,不動産の遺贈の場合には,相続人または遺言執行者(遺贈義務者)が,受遺者と共同で申請して登記をします。

 

三 遺贈の放棄,承認

特定遺贈の受遺者は,遺贈を受けることも(承認),受けないことも(放棄)できます。

1 遺贈の放棄

受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。遺贈の放棄は,遺言者の死亡時にさかのぼって効力を生じます(民法986条2項)。

放棄によって遺贈が効力を生じないときは,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,受遺者が受け取るべきであったものは,相続人に帰属します(民法995条)。

2 遺贈の承認または放棄の催告

遺贈義務者その他の利害関係人は,受遺者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に遺贈を承認するか,放棄するか催告することができます。この場合に,受遺者が期間内に遺贈義務者に対し意思表示をしないときは,遺贈を承認したものとみなされます(民法987条)。

3 受遺者の相続人による遺贈の承認または放棄

受遺者が遺贈の承認または放棄をしないで死亡したときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,受遺者の相続人は自己の相続権の範囲内で,遺贈の承認または放棄をすることができます(民法988条)。

4 遺贈の承認,放棄の撤回,取消し

遺贈の承認及び放棄は,撤回することはできませんが(民法989条1項),意思表示に瑕疵があった場合等一定の場合には,取消しができます(民法989条2項,919条2項,3項)。

 

四 担保の請求

受遺者は,遺贈が弁済期に至らない間や,停止条件付遺贈について条件の成否が未定である間は,遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができます(民法991条)。

 

五 果実の取得

受遺者は,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得します(民法992条)。

 

六 費用の償還請求

遺贈義務者は,遺言者の死亡後に遺贈の目的物について支出した費用の償還を請求することができます(民法993条1項,民法299条)。

果実を収取するために支出した通常の必要費は,果実の価格を超えない限度で,償還請求をすることができます(民法993条2項)。

 

七 相続財産に属しない権利の遺贈

遺贈の目的である権利が遺言者の死亡時に相続財産に属しなかったときは,遺贈は効力が生じません(民法996条本文)。

ただし,権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず,遺贈の目的とするものと認められる場合には,遺贈義務者は,権利を取得して受遺者に移転する義務を負いますが(民法997条1項),権利を取得できないとき,または,取得に過分の費用を要するときは,遺言者が遺言に別段の意思表示がある場合を除き,遺贈義務者は価額弁償しなければなりません(民法997条2項)。

 

八 不特定物の遺贈義務者の担保責任

不特定物が遺贈の目的である場合に,受遺者が第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,売り主と同じく担保責任を負います(民法998条1項)。

また,物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は瑕疵のない物をもってこれに代えなければなりません(民法998条2項)。

 

九 物上代位

1 遺贈の目的物の滅失,変造,占有の喪失

遺言者が遺贈の目的物の滅失,変造,占有の喪失により第三者に対し償金を請求する権利を有するときは,その権利を遺贈の目的としたものと推定します(民法999条1項)。

2 遺贈の目的物の符合,混和

遺贈の目的物が他の物と符合または混和した場合に,遺言者が合成物または混和物の単独所有者,共有者となったときは,全部の所有権または持ち分を遺贈の目的としたものと推定します(民法999条2項)。

3 債権を遺贈の目的とした場合

債権を遺贈の目的とした場合,遺言者が弁済を受け,受け取った物が相続財産中にあるときは,その物を遺贈の目的としたものと推定します(民法1001条1項)。

金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合,相続財産中に債権額に相当する金銭がないときであっても,その金額を遺贈の目的としたものと推定します(民法1001条2項)。

 

十 第三者の権利の目的である財産の遺贈

遺贈の目的である物または権利が,遺言者の死亡時に第三者の権利の目的であるときは,遺言者が遺言に反対の意思表示をした場合を除き,受遺者は,遺贈義務者に対し,その権利を消滅させるよう請求することはできません(民法1000条)。

 

【相続・遺言】遺贈

2015-09-28

遺言により,被相続人は自らの意思で誰に財産を承継させるか決めることができます。

そのために,民法は,①相続分の指定(民法902条),②遺産分割方法の指定(民法908条),③遺贈(民法964条)について規定しています。

ここでは,遺贈について簡単に説明させていただきます。

 

一 遺贈とは

遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます(ただし,負担付遺贈もできます。)。

遺贈には,包括遺贈(財産の全部または一定割合を遺贈すること)と特定遺贈(特定の財産を遺贈すること)があります(民法964条本文)。

遺贈は,遺言者の遺言による意思表示により効果が生じる単独行為であり,原則として遺言者が死亡したときに効力が生じます(民法985条1項 条件付遺贈,期限付遺贈もできます。)。

遺贈は,遺留分に関する規定に違反することはできませんので(民法964条但書),遺贈が相続人の遺留分を侵害する場合には,受遺者は遺留分権者から遺留分減殺請求を受けます。

 

二 受遺者

遺贈を受ける人のことを受遺者といいます。

相続人だけでなく,相続人以外の人も受遺者となれます。

また,自然人だけでなく,法人も受遺者となれますし,胎児も受遺者となれます(民法965条,886条)。

もっとも,相続欠格事由がある者は受遺者となることはできません(民法965条,891条)。

また,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺言の効力はなくなり(民法994条1項),受遺者が受け取るべきであった財産は,原則として相続人に帰属します(民法995条)。代襲はありませんので,代襲させたい場合には,受遺者が先に死亡したときには,その子に遺贈させる旨の予備的遺言をすることになります。

 

三   遺贈義務者

遺贈を実行する義務を負う者のことを遺贈義務者といいます。

遺贈義務者は,通常,相続人ですが,遺言執行者がいるときは遺言執行者が相続人の代理人として,遺贈を実行します。

例えば,不動産の登記をする場合には,相続人または遺言執行者が受遺者と共同で申請します。

 

四 特定遺贈

1 特定遺贈とは

「○○に○○の土地を遺贈する。」,「○○に○○の預貯金を遺贈する。」というように,特定の財産を遺贈することを特定遺贈といいます。

遺言が効力を生ずることにより,遺贈された財産について,受遺者に権利が移転します。

2 遺贈の放棄

受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。遺贈を放棄した場合,受遺者が受け取るべきであった財産は原則として相続人に帰属します(民法995条)。

 

五 包括遺贈

1 包括遺贈とは

遺産の全部または一定割合を遺贈することを包括遺贈といいます。

「○○に全財産を遺贈する。」というように全部を遺贈する場合(全部包括遺贈または単独包括遺贈)や「○○に全財産の○分の○を遺贈する。」というように一定割合を遺贈する場合(一部包括遺贈または割合的包括遺贈)があります。

2 包括遺贈の特徴

包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),遺言の効力発生時に,遺言者の一身専属権を除き,一切の権利義務を承継します。

一部包括遺贈の場合には,受遺者は他の相続人と遺産を共有する状態になりますので,受遺者と相続人との間で遺産分割を行うことになります。

また,包括遺贈には,遺贈の承認・放棄についての民法986条,987条の規定の適用はなく,相続の承認,相続放棄の規定が適用されます。

もっとも,包括受遺者は相続人と全く同じというわけではなく,受遺者には遺留分がない,代襲相続の規定の適用がない等,相続とは違いがあります。

【相続・遺言】相続させる旨の遺言

2015-08-14

被相続人は,遺言により,自らの意思で遺産を誰に相続させるかを決めることができます。

この点,民法では,相続分の指定(民法902条),遺産分割方法の指定(民法908条),遺贈(民法964条)について規定していますが,実務では,「○○に△△を相続させる」という内容の遺言(いわゆる「相続させる旨の遺言」)を作成することが多いです。

相続させる旨の遺言については,遺贈と遺産分割方法の指定のどちらにあたるのでしょうか。

 

一 相続させる旨の遺言とは

例えば,「○○に一切の財産を相続させる。」,「○○に土地を相続させる。」といったように,特定の相続人に遺産を相続させる旨記載された遺言のことを,相続させる旨の遺言といいます。

相続させる旨の遺言については,遺贈であるのか(遺言者が遺言により財産を他人に無償で与えること),遺産分割方法の指定であるのか解釈に争いがありましたが,現在では,特段の事情がない限り,分割方法の指定であると解されております。

また,相続させる旨の遺言が遺産分割方法の指定であるとした場合,遺産分割が必要かどうか問題となりますが,相続させる旨の遺言により,受益者は,特段の事情がない限り,遺言者の死亡時に,遺言により指定された財産を相続により承継するため,遺産分割は必要ないと解されております。

 

二 遺贈との違い

相続させる旨の遺言がなされた場合,遺贈とは以下のような違いがあります。

 

1 受益者

遺贈の場合,相続人以外でも,受益者(受遺者)となれます。

これに対し,相続させる旨の遺言の場合,受益者は相続人でなければなりません。

 

2 放棄

相続させる旨の遺言の場合は,相続放棄をしなければなりません。相続放棄の場合は期間制限があります。また,相続放棄をすると相続人の地位がなくなるため,遺言で指定された財産のみを放棄することはできません。

これに対し,遺贈の場合,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),相続放棄の規定が適用されますが,特定遺贈の場合,受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。

3 登記手続

遺贈の場合,受贈者と登記義務者である相続人または遺言執行者の共同申請となります。

これに対し,相続させる旨の遺言の場合は,受益相続人が単独で申請することができます。

 

4 農地の場合

遺贈の場合,所有権の移転には農地法3条の知事の許可が必要となります。

これに対し,相続させる旨の遺言の場合は,許可は必要ありません。

 

三 受益者が遺言者より先に亡くなった場合

遺贈の場合,遺言者が亡くなる以前に受遺者が死亡したときは,効力が生じません(民法944条1項)。

これに対し,被相続人の子が相続開始以前に亡くなった場合には,その子が代襲して相続人となることから(民法887条2項),相続させる旨の遺言において,遺言者が亡くなる以前に受益相続人が亡くなったときには,受益相続人の代襲相続人が相続するかどうかが問題となりますが,遺言者が,受益相続人の代襲者に相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り,効力が生じないものと解されております。

そのため,遺言者が,受益相続人が先に亡くなった場合には,その代襲相続人に相続させたいときには,「遺言者より前または遺言者と同時に○○が死亡していた場合には,○○の子(代襲相続人)に□□を相続させる。」旨の予備的遺言を残しておくことが考えられます。

【お知らせ】お盆休み期間中も平常通り営業致します。

2015-08-02

暑中お見舞い申し上げます。

暑い日が続いておりますが,みなさま,いかがお過ごしでしょうか。

 

当事務所では,平成27年お盆休み期間中の8月13日(木),14日(金)も平常通り営業いたします。

15日(土),16日(日)につきましては,事前にご予約していただいた方の法律相談をお受けいたします。

 

お盆休み期間中に法律相談をご希望の方は,ながせ法律事務所まで,お気軽にお問い合わせください。

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