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【交通事故】自賠責保険と任意保険との関係

2017-12-06

自動車保険には自賠責保険と任意保険がありますが,どのような関係にあるでしょうか。

 

一 自賠責保険と任意保険

自賠責保険は,すべての自動車について加入が義務づけられている強制保険であり,自動車の運行によって他人の生命・身体を害した場合に加害者が損害賠償責任を負うことによる損害を填補する保険です。
これに対し,任意保険は,任意に加入する保険であり,自賠責保険では填補されない損害を補償する保険です。任意保険では人損事故に限らず,対物事故も対象となりますし(対人賠償責任保険,対物賠償責任保険),自損事故保険,無保険車傷害保険,搭乗者傷害保険,人身傷害補償保険,弁護士費用保険,車両保険等,様々な特約があります。

人損事故の損害賠償責任保険としては,自賠責保険と任意保険(対人賠償責任保険)がありますが,対人賠償責任保険では自賠責保険で支払われる金額を超える金額のみ支払われます。そのため,対人賠償責任保険は自賠責保険の上積み保険または上乗せ保険であるといわれています。
ただし,自賠責保険では,運行によって他人の生命又は身体を害した事故が対象となるのに対し,対人賠償責任保険では,自動車の所有,使用または管理に起因して他人の生命または身体を害した事故が対象となり,「所有,使用または管理」は「運行」よりも広いので,自賠責保険では支払われない場合であっても,対人賠償責任保険で支払われることがあります。

 

二 一括払制度

1 一括払制度とは

一括払制度とは,対人賠償責任保険の保険会社が,被害者に対し自賠責保険から支払われる金額を含めて損害賠償金額の全額を一括して支払ってから,自賠責保険支払分を自賠責保険会社に請求する制度です。
自賠責保険と任意保険から個別に支払を受けなければならないとすると手続が煩雑になりますので,一括払制度により,任意保険会社が自賠責保険分も含めて支払をすることができます。
なお,自賠責保険と任意保険で保険会社が異なる場合でも一括払制度を利用することはできます。

 

2 被害者にとってのメリット

一括払制度により,加害者の任意保険会社が医療機関に被害者の治療費を直接支払ってくれます。
また,示談代行制度により任意保険会社は加害者に代わって被害者と示談交渉をすることができますので,被害者は任意保険会社と示談交渉することで,任意保険会社から自賠責保険分も含めて支払を受けることができます。

 

3 一括払制度を利用しない場合

被害者は,一括払制度を利用しないこともできます。
その場合には,被害者は,自賠責保険に被害者請求をしてから,不足分について加害者の任意保険会社から支払を受けることができます。

 

三 事前認定

任意保険会社は,一括払いをする場合,自賠責保険から支払われるのか知るため,加害者の損害賠償責任の有無,重過失減額の有無,後遺障害の有無・程度(等級)について,損害保険料算出機構の下部組織である自賠責調査事務所に事前認定をしてもらうことができます。
事前認定の結果を基に,任意保険会社は被害者と示談交渉を行いますし,被害者も事前認定された後遺障害の等級を基に損害額を計算し,損害賠償請求をすることができます。
また,被害者は,事前認定の結果に不服がある場合には,任意保険会社宛てに異議申立てをすることができます。

【交通事故】自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)

2017-12-01

自動車保険には自賠責保険と任意保険がありますが,自賠責保険とはどのようなものでしょうか。

 

一 自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とは

自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とは,自動車損害賠償責任保障法(自賠法)に基づいて契約が強制されている保険であり,自動車の運行によって他人を死傷させたことにより,加害者が被害者に対し法律上の損害賠償責任を負うことによる損害を填補するための保険です(自賠法5条,11条)。
自賠責保険とは別に自動車損害賠償責任共済(自賠責共済)もありますが,ほぼ同じものです。
自賠責保険は人身事故の被害者の保護を目的とするものであり,被害者保護の観点から,強制保険であること,免責事由や過失相殺が制限されていること,被害者請求ができること等の特徴があります。

 

二 自賠責保険により填補される損害

自賠法3条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は,その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定しており,自賠責保険は,この責任を負うことによる損害を填補するものです(自賠法11条,3条)。
自動車の運行によって他人の生命・身体を害した事故が対象となりますので,自損事故や物損事故は対象となりません。
また,加害者が①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと,②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと,③自動車に構造上の欠陥又は機能に障害がなかったことを証明したときには,加害者は責任を負いませんので(自賠法3条但書),被害者は自賠責保険から支払を受けることはできません。

 

三 強制保険

適用外自動車(自賠法10条)を除き,自動車を運行の用に供する場合には,自賠責保険か自賠責共済のいずれかと契約しなければなりません(自賠法5条)。契約は,自動車一両ごとに締結します(自賠法12条)。
契約していない自動車を運転すると処罰されます(自賠法86条の3)。

また,強制保険であることから,契約の解除は制限されていますし(自賠法20条の2),保険会社は契約の締結を拒否できません(自賠法24条)。

 

四 免責事由の制限

自賠責保険では,被害者保護の観点から免責事由が制限されており,重複契約の場合(自賠法82条の3)を除いては,保険契約者または被保険者の悪意によって生じた損害についてのみ免責されます(自賠法14条)。

 

五 請求方法

1 被保険者からの保険金請求(加害者請求)

被保険者は,被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度において,保険会社に対し保険金の支払を請求することができます(自賠法15条)。

 

2 被害者からの損害賠償額の請求(被害者請求)

被害者は,保険会社に対し,保険金額の限度において,損害賠償額の支払を請求することができます(自賠法16条1項)。

 

3 仮渡金の請求

損害賠償責任の有無が賠償額が確定しない場合であっても,被害者は,保険会社に対し,賠償額の一部を仮渡金として請求することができます(自賠法17条)。
仮渡金の額は,死亡の場合は290万円,傷害の場合は,傷害の内容に応じて,40万円,20万円,5万円です(自賠法施行令5条)。

 

六 支払額

保険金等の支払には支払基準があり,請求者には,支払基準で算定した金額が保険金額の限度で支払われます。
自賠責保険では損害賠償額の全額が支払われるわけではありませんので,不足分は加害者に損害賠償請求することになります。

 

1 支払基準

支払基準では,傷害による損害は①積極損害(治療関係費,文書料,その他の費用),②休業損害,③慰謝料,後遺障害による損害は①逸失利益,②慰謝料等,死亡による損害は①葬儀費,②逸失利益,③死亡本人の慰謝料,④遺族の慰謝料とし,それぞれの損害及び金額の算定についての基準を定めています。

 

2 保険金額(支払限度額)

自賠責保険の保険金額は,被害者一人につき,死亡による損害については3000万円,傷害による損害については120万円,介護の要する後遺障害による損害については1級4000万円,2級3000万円,それ以外の後遺障害による損害については1級3000万円,2級2590万円,3級2219万円,4級1889万円,5級1574万円,6級1296万円,7級1051万円,8級819万円 ,9級616万円,10級461万円,11級331万円,12級224万円,13級139万円,14級75万円です(自賠法施行令2条,別表1,2)。
傷害を負ってから死亡した場合の保険金額は傷害の120万円と死亡の3000万円となりますし,後遺障害がある場合の保険金額は傷害の120万円と後遺障害の等級に応じた金額になります。

 

3 減額される場合

(1)重過失減額

自賠責保険では,被害者保護の観点から過失相殺が制限されており,被害者に重大な過失がある場合に限り,損害額(損害額が保険金額以上となる場合には,保険金額)から減額されます。
傷害にかかるものについては,被害者の過失が7割以上ある場合には2割減額され,後遺障害または死亡にかかるものについては被害者の過失が7割以上8割未満の場合には2割,8割以上9割未満の場合には3割,9割以上10割未満の場合には5割減額されます。
なお,被害者の損害額が20万円以下の場合には減額されません。
被害者の過失が7割未満の場合には自賠責保険からの支払額は減額されませんので,自賠責保険の支払額が損害賠償額を上回ることがあります。

 

(2)受傷と死亡・後遺障害との因果関係が不明な場合の減額

被害者に既往症などがあり,死因や後遺障害発生原因が明らかでない場合など,受傷と死亡・後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合には,死亡による損害・後遺障害による損害について損害額(損害額が保険金額以上となる場合には,保険金額)から5割減額されます。

 

七 損害調査

1 損害保険料算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査

自賠責保険から支払われるかどうかは,損害保険料算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査によります。
損害保険料算出機構の自賠責損害調査センターは,全国に地区本部と自賠責損害調査事務所を設置し,自賠責保険の損害調査を行っています。
損害調査では,自賠法上の請求権の存在,被保険者の賠償責任の有無,損害額の調査が行われます。
また,その中で後遺障害の等級認定も行われます。

 

2 損害調査の流れ

①請求者(加害者または被害者)は,保険会社に対し,自賠責保険の請求書等の必要書類を送ります。
②保険会社は,契約の存在や書類に不備がないことを確認し,自賠責損害調査事務所に書類を送付します。
③自賠責損害調査事務所が損害調査を行います。
特定事案(認定困難事案や異議申立事案)については自賠責保険審査会で審査が行われ,特定事案以外で自賠責損害調査事務所では判断が困難な事案については地区本部や本部で審査が行われます。
④自賠責損害調査事務所は保険会社に調査結果を報告します。
⑤保険会社は支払額を決定し,請求者に支払います。

 

3 調査結果や支払金額に不服がある場合

調査結果や支払金額に不服がある場合は,保険会社に異議申立てをすることができますし,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請を行うこともできます。

 

八 時効

1 加害者請求の時効期間

加害者請求権の消滅時効期間は以前は2年でしたが,平成22年4月1日以降は3年です(自賠法23条,保険法95条1項)。
加害者は被害者に損害賠償債務を履行した場合に保険会社に請求できますので,時効の起算点は,加害者が被害者に損害賠償債務を履行した日になります。

 

2 被害者請求の時効期間

被害者からの請求権の消滅時効期間は3年です(自賠法19条)。
以前は時効期間は2年であり,平成22年3月31日までに発生した事故の時効期間は2年でしたが,平成22年4月1日以降に発生した事故の時効期間は3年になります。
時効の起算点は,基本的には事故日ですが,後遺障害による損害については症状固定日,死亡による損害については死亡日です。
時効にかかるおそれがある場合には,保険会社に請求するか時効中断の手続を取りましょう。

【交通事故】物損 修理費

2017-11-24

交通事故により車両が損壊し,被害者が車両を修理した場合,被害者は修理費について損害賠償請求することが考えられますが,どのようなことが問題となるでしょうか。

 

一 どのような場合に修理費が損害と認められるのか

①技術的にも経済的にも修理ができる場合(全損ではない場合)には,②必要かつ相当な範囲で,修理費が損害と認められます。

 

1 全損ではないこと

技術的に修理ができない場合(物理的全損)や,技術的には修理できても,修理費用が車両の時価等を上回る場合(経済的全損)には全損と判断されます。
全損の場合には車両の時価額や買替費用が損害となり,修理費は損害とはなりません。

 

2 必要かつ相当な範囲であること

修理ができる場合であっても,必要かつ相当な範囲の修理費が損害と認められます。
修理費の全額が損害と認められるとは限りませんので注意しましょう。
例えば,塗装の範囲(全塗装が必要なのか,部分塗装で足りるのか)が問題となり,全塗装しても部分塗装の限度で損害と認められることがあります。
また,部品交換の必要性(部品交換が必要なのか,板金修理で足りるのか)が問題となり,部品を交換しても板金修理の限度で損害と認められることがあります。

 

二 未修理の場合でも請求できるか

車両の修理がなされていない場合であっても,現実に損傷を受けている以上,損害は既に発生しているといえます。
修理が必要な場合には,修理費相当額分,車両の価値が下落しているので,修理費相当額が損害に当たると考えられます。

 

三 所有権留保やリースの場合でも請求できるか

所有権留保されている車両やリースされている車両の場合には,車両の使用者(所有権留保付売買契約の買主,リース契約のユーザー)は所有者ではありませんが,修理費の損害賠償請求はできると考えられています。
使用者が修理をし,修理費を負担した場合には,損害賠償による代位の規定である民法422条の類推適用により,使用者は損害賠償請求権を代位取得し,損害賠償請求権を代位行使できると考えることができます。
また,未だ修理していない場合であっても,所有権留保の場合には実質的な所有権は買主にある,買主は担保価値を維持する義務がある等の理由で,リース契約の場合には使用者が修理義務を負っている等の理由で,民法709条により,使用者は修理費相当額の損害賠償請求ができると考えることができます。

 

四 修理費を損害賠償請求するにあたっての注意点

1 修理費の全額が損害と判断されるとは限りません

全損にあたる場合には車両の時価額等が損害となりますし,必要かつ相当な範囲を超える修理費は損害とは認められませんので,実際に車両の修理をしても,修理費の全額が損害と認められるとは限りません。
修理するのであれば,加害者側との間で修理の範囲,方法,金額を確認してから,修理したほうがよいでしょう。

 

2 車両の損傷状況を証拠に残しておく必要があります

加害者側が,交通事故の発生の有無,事故態様,車両の損傷箇所,修理の必要性・範囲等について争ってきている場合には,車両の損傷状況を確認する必要性がありますが,修理してしまうと車両の損傷状況が分からなくなってしまいます。
修理してから損害賠償請求する場合には,少なくとも修理前に車両の損傷個所の写真を撮影する等して損傷状況が分かるよう証拠に残しておくべきです。

 

3 代車を使用する場合

事故後,修理するまでの間に代車を使用した場合には,修理に必要な相当期間の代車使用料が損害と認められます。
相手方との交渉期間についても合理的な範囲であれば相当期間に含められますが,交渉が長引いた場合には,代車使用料の全額が損害と認められるとは限りませんので,早めに修理したほうがよいでしょう。

 

【交通事故】自賠責保険における後遺障害等級認定

2017-11-20

交通事故の被害者に後遺障害がある場合には後遺症慰謝料や後遺症逸失利益が損害となります。そのため,被害者が損害賠償請求するにあたっては後遺障害の有無や程度が問題となりますが,基本的には自賠責保険の後遺障害等級認定により後遺障害の有無や程度が判断されています。

 

一 自賠責保険における後遺障害等級認定

後遺障害とは,これ以上治療しても症状の改善が望めない状態になったとき(症状固定時)に残存する障害のことです。
自賠責保険では,後遺障害の内容に応じて1級から14級の等級が認定され,その等級に応じて保険金の支払額が異なります。

 

二 損害額算定の基準

自賠責保険の認定は自賠責保険金の支払額を定めるものであり,加害者の被害者に対する損害賠償額を定めるものではありません。
もっとも,後遺症逸失利益算定のための労働能力喪失率や後遺症慰謝料の額は基本的に自賠責保険で認定された後遺障害等級によって決まりますので,自賠責保険の後遺障害等級認定は損害額算定の根拠になっています。

 

三  労災保険の等級認定基準との関係

自賠責保険の等級認定は,原則として,労災保険の障害の等級認定基準に準じて行われていますので,自賠責保険の認定基準と労災保険の認定基準はほとんど同じです。
もっとも,交通事故が労働災害にあたる場合には,労災保険と自賠責保険のそれぞれで等級認定を受けることがありますが,認定結果が異なることがあります。一般的には自賠責保険の認定のほうが労災保険の認定よりも厳しいといわれております。

 

四 後遺障害等級認定の手続

自賠責保険の後遺障害の等級認定は,損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所により行われますが,認定が難しい事案では地区本部・本部で審査されますし,認定困難事案等の特定事案では自賠責保険審査会で審査されます。
認定を受ける方法としては,①被害者の直接請求による場合(自賠法16条)と②事前認定による場合があります。

1 被害者請求

被害者は,請求書に後遺障害診断書等の必要書類を添えて,加害者の自賠責保険会社に保険金の支払を請求をすることができ,その際に後遺障害の等級認定を受けることができます。

 

2 事前認定

加害者の任意保険会社は,一括払い(任意保険会社が自賠責保険分も一括して支払い,支払い後に自賠責保険に請求すること)をする場合に予め自賠責保険からいくら支払われるのか知るため,調査事務所に関係書類を送付して損害調査を依頼し,確認することができます。
被害者が加害者の任意保険会社に後遺障害診断書を送ると,任意保険会社は後遺障害等級の事前認定を受け,被害者に結果を知らせてくれます。

 

五 後遺障害診断書

後遺障害の等級認定を受けるには,後遺障害診断書の提出が必要となります。
事故後,被害者が通院しなければ,医師は治療の経過や残存した症状を把握できませんので,後遺障害診断書を作成してくれないことがあります。後遺障害診断書を作成してもらうためにも,事故後,被害者はきちんと通院する必要があります。
また,診断書にはできる限り詳細に記入してもらったほうが良いでしょう。

 

六 認定に不服がある場合

1 異議申立て

非該当と認定されたり,思っていたよりも等級が低く認定されたりして,後遺障害等級認定に不服がある場合には,被害者は異議申立てをすることでき,それにより認定が変更されることがあります。
異議申立ては,被害者請求の場合には自賠責保険会社に行い,事前認定の場合には任意保険会社に行います。
異議申立てをしても認定された等級が下がることはありませんし,異議申立ては何度でも行うことができますので,不服がある場合には異議申立てを検討しましょう。

 

2 自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の申請

後遺障害等級認定に不服がある場合には,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理の申請をすることもできます。
紛争処理機構の結論は調停という形でなされ,保険会社は調停を遵守するものとされています。
紛争処理機構への申請により不利益に変更されることはありませんし,被害者は調停に拘束されませんが,紛争処理機構の調停は自賠責保険における最終の判断となりますので,再度の申請はできません。被害者が紛争処理機構の調停に納得できない場合には訴訟で争うことになります。

 

3 民事訴訟

自賠責保険の後遺障害等級認定に納得できない場合には,被害者は損害賠償請求訴訟で自身が相当であると考える後遺障害を主張して争うことができます。
訴訟でも自賠責保険による後遺障害等級認定の結果に沿った認定がなされるのが通常ですが,裁判所は自賠責保険の認定に拘束されませんので,自賠責保険の等級認定とは異なる認定をすることもできます。
また,自賠責保険では後遺障害等級に応じた労働能力喪失が定められており,訴訟でも参考にされますが,裁判所は被害者の職業・年齢・性別,後遺障害の部位・程度,事故前後の稼働状況,収入の減収額等,具体的な事情を考慮して,自賠責保険とは異なる労働能力喪失率で後遺症逸失利益を算定することがあります。

姻族関係の終了(姻族関係終了届)

2017-11-13

婚姻により,配偶者の親や兄弟姉妹等の血族との間には姻族関係ができます。
姻族関係は配偶者が亡くなっても継続しますが,生存配偶者は,姻族関係終了届を出すことにより,亡くなった配偶者の血族との姻族関係を終了させることができます。

 

一 姻族関係

1 姻族関係とは

配偶者の一方と他方の血族との関係を姻族関係といい,三親等以内の姻族(配偶者の父母,祖父母,曽祖父母,おじおば,兄弟姉妹,甥姪)は親族になります(民法725条3号)。

 

2 姻族関係の効果

(1)扶養義務

直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養義務を負いますが(民法877条1項),特別な事情がある場合には,三親等内の親族間でも扶養義務を負うことがあります(民法877条2項)。
そのため,姻族の間であっても扶養義務を負うことがあります。

(2)婚姻障害

直系姻族の間では婚姻することができません。姻族関係が終了した後も婚姻はできません(民法735条)。

(3)その他

成年後見の申立権者になれるなど,姻族関係(親族関係)があることによるさまざまな効果があります。

 

3 姻族関係の終了

(1)離婚

姻族関係は,配偶者と離婚したことにより終了します(民法728条1項)。

(2)配偶者の死亡

配偶者の一方が死亡した場合には,生存配偶者と死亡配偶者の血族との間の姻族関係は当然には終了しません。生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときに終了します(民法728条2項)。その意思表示は姻族関係終了届の届出により行います。

 

二 姻族関係終了届について

1 姻族関係終了届とは

民法728条2項の規定によって姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は,死亡した配偶者の氏名,本籍及び死亡の年月日を届出書に記載して,その旨を届け出なければなりません(戸籍法96条)。この届け出のことを姻族関係終了届といいます。

 

2 届出人

届出ができるのは,生存配偶者です(民法782条2項)。それ以外の人(死亡配偶者の血族等)が届出をすることはできません。

 

3 届出場所

姻族関係終了届は,届出人の本籍地又は所在地の市区町村役場の窓口に届け出ます(戸籍法1条,25条1項)。

 

4 届出期間

配偶者の死亡後に届け出ができます。提出期限はありません。
届出をした日から法律上の効力が発生します。

 

三 姻族関係終了届の効果

1 姻族関係の終了

生存配偶者が姻族関係終了届を出すことにより,亡くなった配偶者の血族との姻族関係が終了します。
子と亡くなった配偶者の血族との親族関係には影響しません。

 

2 扶養義務

生存配偶者と亡くなった配偶者の血族との間の姻族関係が終了することにより,扶養義務を負うこともなくなります。

 

3 婚姻障害

直系姻族の間では,姻族関係が終了した後であっても婚姻はできません(民法735条)。

 

4 氏や戸籍

姻族関係終了届を出しても,氏や戸籍の変動はありません。
生存配偶者は,復氏届を提出することにより婚姻前の氏に復することができます(民法751条1項,戸籍法95条)。

 

5 相続

姻族関係終了届を出しても,亡くなった配偶者の相続人としての資格はなくなりませんので,生存配偶者は亡くなった配偶者の遺産を取得することができます。

 

6 遺族年金

配偶者が亡くなった場合,生存配偶者は要件を充たせば遺族年金を受給することができます。姻族関係終了届を出しても遺族年金が受け取れなくなるわけではありません。

【相続・遺言】遺産分割の確認・検討事項

2017-11-03

遺産分割は,相続が開始し,共同相続人の遺産共有に属する相続財産(遺産)がある場合に,その遺産共有状態を解消するために行われます。当事者全員で合意ができれば,遺産分割の内容を自由に決めることができますが,話し合いをまとめる上でも,遺産分割の基本的な流れを理解しておいたほうがよいでしょう。

遺産分割をするにあたっては,まず前提問題として
①遺言があるか(遺言の有無等)
②誰が遺産分割の当事者となるのか(相続人の範囲)
③遺産分割の対象となる財産としてどのような財産があるのか(遺産の範囲)
を確認します。
その上で
④遺産の評価を行い
⑤各共同相続人の具体的な取得分額を計算し
⑥その具体的な取得分額に基づいて遺産をどのように分けるか(遺産分割の方法)
を決めます。

 

一 遺言の有無等

1 遺言の有無・内容・効力

全遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合等,遺言で全遺産の処分について定められている場合には,原則として遺産分割は不要となります。また,遺言で遺産の一部の処分について定めている場合には,原則として,その遺産については遺産分割の対象とはなりません。
そのため,遺産分割を行う必要があるかどうか,まずは遺言の有無や内容を確認する必要があります。
また,遺言があっても有効性が争いとなることがあります。

 

2 遺言と異なる内容の遺産分割

当事者の合意があれば,遺言と異なる内容の遺産分割をすることもできます。

 

二 相続人の範囲の確定

遺産分割は当事者全員で行わないと無効になりますので,当事者である共同相続人の範囲を確定する必要があります。

 

1 相続人

相続人は,①被相続人の配偶者(民法890条)と②以下の順位の親族です。
第1順位 子又はその代襲相続人(孫)・再代襲相続人(曾孫)(民法887条)
第2順位 直系尊属(親等の異なる者の間では近い者)(民法889条1項1号)
第3順位 兄弟姉妹又はその代襲相続人(甥姪)(民法889条1項2号,2項)

 

2  相続人以外で遺産分割の当事者となる場合

相続人以外に
①割合的包括包受遺者
②相続分の譲受人
は遺産分割の当事者となります。

 

3 遺産分割の当事者とならない場合

①相続放棄をした人
②相続人の欠格事由がある人
③推定相続人の廃除がなされた人
④相続分の全部を譲渡した人
⑤相続分の全部を放棄した人
は,遺産分割の当事者とはなりません。
ただし,②,③の場合には,代襲相続人が遺産分割の当事者となります。
④,⑤の場合には,不動産に相続登記がなされているときは,遺産分割後に登記するにあたって,譲渡人や放棄者も登記義務者となりますので,その限りで遺産分割の当事者となります。また,相続債務については,債権者が害されないよう債権者との関係では譲渡人や放棄者も債務を負うものと解されております。

 

三 相続財産(遺産)の範囲の確定

遺産分割を行うに当たっては,遺産分割の対象となる財産の範囲を確定する必要があります。被相続人の財産と思われるものであっても,相続財産となるものとならないものがありますし,相続財産となっても遺産分割の対象となるものとならないものがありますので,財産の種類によって整理することが必要となります。

 

1 相続財産

相続開始時に被相続人の財産に属する一切の権利義務は,被相続人の一身に専属するものを除き,相続財産(遺産)となります(民法896条)。
相続財産には,遺産共有となる財産と当然分割される財産があります。

(1)遺産共有となる財産

不動産,預貯金,現金,動産等,共同相続人の共有となる財産については,遺産共有状態を解消するため,遺産分割が必要となります。

 

(2)当然分割される財産

金銭債権等の過分債権や債務は,相続開始時に当然に分割されるため,遺産分割は不要です。
当事者全員が合意をすれば遺産分割の対象とすることは可能ですが,相続債務については,当事者で誰が負担するか決めても当事者間で効力があるだけであり,債権者には効力がありません。

2 相続財産とはならないもの

①生活保護受給権等,被相続人の一身に専属するもの
②生命保険金や死亡退職金等,受取人の固有の権利となるもの
③葬儀費用,遺産管理費用,遺産収益等,相続開始後に発生するもの
は相続財産とはなりません。

 

四 遺産の評価

1 遺産の評価

遺産分割を行うにあたって各当事者の具体的相続分を計算することになりますが,そのためには遺産を金銭で評価する必要があります。

 

2 評価の方法

遺産の評価は
①当事者の合意
②鑑定
のいずれかの方法で行います。
裁判所で鑑定を行う場合には,原則として鑑定費用を予納します。

 

3 評価の基準時

不動産等の財産は評価する時点によって評価額が異なりますので,いつの時点で評価するのか問題となります。

①相続開始時を基準時とする場合
特別受益や寄与分が問題となり,具体的相続分を算定するときには,相続開始時を基準に遺産を評価します。

②遺産分割時を基準とする場合
現実に分割する段階では,遺産分割時を基準に遺産を評価します。

なお,遺産の評価を2時点で行うことは煩雑であり,鑑定費用も余計にかかりますので,当事者の合意があれば,一時点で評価することもできます。

 

五 各共同相続人の具体的な取得分の計算

各共同相続人は相続分に応じて遺産に持分を有しますが,特別受益や寄与分がある場合には修正されます。

 

1 相続分

(1)法定相続分

法定相続分とは,民法で定める相続分です(民法900条)。
①配偶者と子が相続人の場合
配偶者の相続分は2分の1,子の相続分は2分の1となります(民法900条1号)。
子が数人いる時は,各自の相続分は均等になります(民法900条4号)。
②配偶者と直系尊属が相続人となる場合
配偶者の相続分は3分の2,直系尊属の相続分は3分の1となります(民法900条2号)。相続人となる直系尊属が数人いるときは,各自の相続分は均等になります(民法900条4号)。
③配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合
配偶者の相続分は4分の3,兄弟姉妹の相続分は4分の1となります(民法900条3号)。
兄弟姉妹が数人いるときは,各自の相続分は均等になりますが,半血(被相続人と親の一方が共通)の者の相続分は全血(被相続人と両親が共通)の者の半分になります(民法900条4号)。
④代襲相続人
代襲相続人の相続分は被代襲者が受けるべきであった相続分と同じになります。代襲相続人が複数いる場合には,民法900条4号の規定に従い相続分を有します(民法901条)。

 

(2)指定相続分

指定相続分とは,遺言で指定する相続分です(民法902条)。
被相続人は,遺言で共同相続人の相続分を定めることができますし,遺言で相続分の指定を第三者に委託することができます(民法902条1項)。
共同相続人の一部の相続分を指定した場合には,他の共同相続人の相続分は法定相続分の規定により定めます(民法902条2項)。

 

2 特別受益や寄与分がない場合の具体的取得分の計算

遺産分割時の遺産総額を基に,各当事者の法定相続分または指定相続分に応じて,具体的取得分額を計算します。

例えば,遺産分割時の遺産総額が1000万円で,相続人が子2名の場合,法定相続分は2分の1ずつになりますので,各人の具体的取得分額は500万円となります(計算式:1000万円×2分の1=500万円)。

 

3 特別受益や寄与分がある場合の具体的取得分の計算

(1)特別受益

共同相続人の中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた人がいるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,法定相続分または指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額が,その人の具体的相続分となります(民法903条1項)。

 

(2)寄与分

共同相続人の中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした人がいるときには,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額からその人の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,法定相続分または指定相続分に寄与分を加えた額が,その人の具体的相続分となります(民法904条の2)。

 

(3)特別受益や寄与分がある場合の具体的取得分額の計算

特別受益や寄与分がある場合には,遺産の評価が2時点で行われることになるため,具体的取得分額の計算も以下のように,2段階で行います。
①相続開始時の遺産総額に特別受益や寄与分による修正を加えて,各当事者の具体的相続分額を計算して,各当事者が具体的に相続する割合(具体的相続分率)を計算し
②遺産分割時の遺産総額に具体的相続分率を乗じて,各当事者の具体的取得分額を計算します。

例えば,①相続開始時評価の遺産総額が1000万円で相続人が子2名の場合で,相続開始時の評価で長男に300万円の特別受益があり,次男に100万円の寄与分があるときには,長男の具体的相続分は300万円(計算式:(1000万円+300万円-100万円)×2分の1-300万円=300万円)となり,次男の具体的相続分は700万円(計算式:(1000万円+300万円-100万円)×2分の1+100万円=700万円)となりますので,具体的相続分率は長男が0.3,次男が0.7となります。
そして,②遺産分割時評価の遺産総額が900万円の場合には,長男の具体的取得額は270万円(計算式:900万円×0.3=270万円)となり,次男の具体的取得額は630万円(計算式:900万円×0.7=630万円)となります。

 

六 遺産分割方法

1 遺産分割の方法

各当事者の具体的取得分額が確定したら,これを基に具体的な遺産の分割方法を決めます。
遺産分割方法には,以下の方法があります。
①現物分割(遺産である個々の財産を相続人が取得する分割方法)
②代償分割(遺産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う等の債務を負担する方法)
③換価分割(遺産を競売や任意売却して,売却代金を分割する方法)
④共有分割(共同相続人が遺産を共有または準共有する方法)

 

2 遺産分割協議,遺産分割調停の場合

当事者が合意できれば,いずれの分割方法でもかまいません。
また,当事者の合意ができれば,各当事者の具体的取得分とは異なる内容の遺産分割をすることもできます。
当事者の合意により分割方法を決める場合には,柔軟な解決が可能になります。

 

3 審判の場合

合意ができず,審判となる場合には,家庭裁判所が,「遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」(民法906条)どのように遺産を分割するか決めますが,①現物分割が原則であり,②現物分割ができない場合等「特別の事情」がある場合に代償分割の方法がとられます(家事事件手続法195条)。③現物分割も代償分割もできない場合には,換価分割の方法をとり,④他の分割方法がとれない場合や,共有を望む相続人がおり,共有にしても特段不当ではない場合には共有分割の方法がとられます。

 

【民事事件】請負代金請求事件

2017-10-31

建築工事やリフォーム工事等の請負契約で,請負人が注文者に報酬(請負代金)の支払を請求する場合には,どのようなことが問題となるのでしょうか。

 

一 請負契約とは

請負契約は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる契約です(民法632条)。
請負人は工事を完成させる義務を負うのに対し,注文者は報酬(請負代金)を支払う義務を負います。

 

二 請負代金請求するための要件

請負代金の支払は後払いが原則であり(民法633条),請負代金請求をするには,基本的に①請負契約の成立,②仕事の完成が要件となります。
なお,仕事の完成前に支払う請負代金の全部または一部を支払う旨の特約がある場合には,①請負契約の成立,②特約の成立,③特約の内容となる事実の存在が要件となります。

 

1 請負契約の成立

請負契約の成立を主張するにあたっては,①契約の当事者,②契約締結日,③仕事の内容,④請負代金額を特定することになります。
なお,請負代金額を定めていない場合であっても,相当な報酬額を支払う合意があれば請負契約は成立しているものと解されます。商法512条は「その営業の範囲において他人のために行為をしたときは,相当な報酬を請求することができる。」と規定しておりますので,請負人が商人である場合には同条を根拠に報酬を請求することができます。

 

2 仕事の完成

注文者が請負人の仕事に納得していない場合には,仕事が完成したのか,未完成なのか争いとなることがあります。
建築請負工事の場合には,請負工事が予定されていた最後の工程まで終了していれば,仕事は完成したと判断されます。最終工程まで終えていない場合には未完成になりますが,最終工程まで一応終えている場合には完成となり,補修の必要があれば瑕疵修補請求や損害賠償請求の問題になります。

 

三 追加工事や変更工事をした場合

工事の途中で当初の予定を変更し,追加工事や変更工事が行われることがありますが,その場合,追加の請負代金を請求することができるかどうか争いとなることがあります。

当初の契約の内容が曖昧な場合には,当初の契約内容に含まれるのか,追加・変更工事には当たるのか争いになります。
また,追加・変更工事に当たる場合であっても,追加・変更工事を行うことについて合意がなければ,請負人が追加・変更工事の代金を請求することは難しいでしょう。
これに対し,追加・変更工事を行うことについて合意がある場合には,追加・変更工事の代金についても合意していれば,その代金の支払を請求することができるでしょうし,代金について合意がないときであっても,相当額の支払を請求することができるでしょう。

 

四 途中で終了してしまった場合

請負代金を請求するにあたっては,仕事が完成していることが要件となりますが,仕事が未完成であっても,請負代金を請求することができる場合があります。

①工事が可分であり,完成した部分の給付について注文者に利益がある場合には,完成部分の報酬を請求することができます。

②注文者の責に帰すべき事由により履行不能となった場合には,民法536条2項(危険負担の債権者主義)により,請負人は請負代金の全額を請求することができます。
もっとも,請負人は自己の債務を免れたことによって得た利益を注文者に償還しなければなりませんので(民法536条2項但書),請負人が請負代金全額の請求をしてきたときには,注文者は償還請求権をもって請負代金請求権と対当額で相殺する旨の意思表示(相殺の抗弁)をすることができます。

 

五 補修が問題となる場合

仕事の目的物に瑕疵がある場合には,瑕疵が重要でなく,修補に過分の費用を要するときを除き,注文者は請負人に対し,瑕疵の修補を請求することができます(民法634条1項)。
また,注文者は,瑕疵の修補に代えて,またはその補修とともに損害賠償請求をすることができます(民法634条2項)。
そのため,仕事の目的物に瑕疵があり補修が必要となる場合には,注文者は,瑕疵修補請求権との同時履行を主張することや,損害賠償請求権との同時履行や相殺を主張して,請負代金の支払を拒むことができます。

【交通事故】弁護士費用保険(弁護士費用特約)

2017-10-20

交通事故被害にあい,加害者に損害賠償請求する場合,弁護士費用保険(弁護士費用特約)がつかえれば,弁護士との法律相談料や依頼した場合の弁護士費用を保険会社が負担してくれます。

 

一 弁護士費用保険(弁護士費用特約)とは

弁護士費用保険(弁護士費用特約)とは,被保険者が交通事故等偶然の事故により被害を被ることによって,保険金請求者が損害賠償請求をした場合に弁護士費用を負担したことによって生じた損害について,一定の限度で保険金を支払われる契約です。

自動車保険の特約として,交通事故被害者が加害者に損害賠償請求する場合に弁護士との法律相談料や弁護士に依頼した場合の弁護士費用を保険会社が負担する場合が多いですが,自動車保険の特約以外の弁護士保険もありますし,交通事故被害の場合以外にも弁護士費用を負担してくれる契約もあります。
契約の内容は保険会社や保険商品によって異なりますので,詳しくは約款をご確認ください。

日弁連と協定を締結している保険会社の場合,日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)や各地の弁護士会のLACを通じて,弁護士を紹介してくれます。

 

二 弁護士費用保険(弁護士費用特約)を利用することによるメリット

1 弁護士費用の負担がなくなり,弁護士に相談や依頼がしやすくなる

弁護士への法律相談料や弁護士に依頼した場合の弁護士費用が保険会社から支払われるので,弁護士費用に躊躇して弁護士に相談や依頼ができない人にとっては,弁護士に相談や依頼がしやすくなるといえます。

 

2 保険料への影響

対人賠償保険や対物賠償保険等の主契約を利用した場合には,ノンフリート等級が下がり保険料が上がりますが,弁護士保険を利用してもノンフリート等級が下がらず,保険料に影響しません。

 

3 軽微な物損事故についても弁護士に依頼することができる

修理費が10万円から20万円くらいの軽微な物損事故で,依頼者が自ら弁護士費用を負担しなければならないとすると,費用倒れに終わるおそれがありますので,弁護士に依頼することは難しいでしょう。
しかし,弁護士費用保険を利用した場合には弁護士費用が保険会社から支払われるため,軽微な物損事故についても弁護士に依頼することができます。

 

三 弁護士費用保険(弁護士費用特約)を利用する場合の注意点

1 依頼者と弁護士との間の委任契約であること

弁護士費用保険は,依頼者が弁護士に依頼した場合の弁護士費用を保険会社が負担する保険であり,弁護士に依頼するにあたっては依頼者と弁護士が委任契約を締結しなければなりません。
依頼者は,契約の当事者ですので,当事者意識をもって,弁護士と協力して,紛争の解決に向けて努力する必要があります。

また,弁護士の報酬基準と保険会社の支払基準が異なる場合には,保険会社が弁護士費用の全額を負担してくれず,依頼者の自己負担が発生する場合があるので注意しましょう。
なお,日弁連LACを利用している場合には保険金支払基準(LAC基準)があり,その基準で契約しているときには,通常,保険会社もその基準での弁護士費用の負担を認めますので,問題となることは余りないでしょう。

 

2 支払限度額

例えば,法律相談費用の限度額が1事故あたり10万円,弁護士費用の限度額が1事故当たり300万円といったように,保険会社の支払に限度額がある場合,支払限度額を超える法律相談料や弁護士費用が発生すると,超過額は相談者や依頼者の自己負担となります。

 

3  加害者から反訴された場合

交通事故事件で加害者が被害者にも過失があると主張しているケースでは,被害者が損害賠償訴訟を提起すると,加害者が損害賠償を求めて反訴提起してくることがあります。
反訴を提起された場合,反訴についての弁護士費用が発生することになりますが,弁護士費用保険は,被害者が加害者に対し損害賠償請求する場合の弁護士費用をまかなう保険ですので,反訴の弁護士費用は弁護士保険では支払われません。
そのため,反訴提起された場合,依頼者がご自身で反訴の弁護士費用を負担しなければなりませんが,主契約(対人賠償保険,対物賠償保険)をつかうことで,反訴の弁護士費用も保険会社が負担してくることがありますので,保険会社に相談してください。
なお,弁護士保険をつかってもノンフリート等級が下がらない場合であっても,主契約をつかうとノンフリート等級が下がり,保険料が上がることがありますので,注意してください。

 

四 まとめ

弁護士費用保険がある場合には,法律相談料や弁護士費用を保険会社が負担してくれますし,弁護士費用保険を利用しても保険料は上がりませんので,加害者に損害賠償請求したいときには積極的に利用したほうがよいでしょう。
もっとも,まったく費用負担がなくなるとは限りませんし,特に双方に過失があるケースでは,加害者から損害賠償請求の反訴を提起されるおそれがありますが,反訴の弁護士費用は弁護士費用保険では支払われませんので注意しましょう。

 

【離婚】不貞行為の証拠

2017-10-13

離婚事件において,不貞行為があったかどうかは,離婚原因や慰謝料請求に影響しますので,不貞行為の有無は大きな争点となります。
不貞行為の事実について当事者間に争いがある場合,不貞行為の証拠があるかどうかが重要になりますが,どのようなものが証拠となるのでしょうか。また証拠を収集するにあたって,どのようなことに注意すべきでしょうか。

 

一 不貞行為の証拠

1 写真・動画・録音

配偶者とその不貞相手が旅行中に撮影した写真,自宅やホテルに宿泊している写真,性交渉や性交類似行為をしている写真は,不貞行為を裏付ける証拠になります。
また,写真以外に動画を撮影していたり,録音していた場合には,動画や録音データも証拠となります。

 

2 興信所・探偵社の調査報告書

興信所や探偵社の調査報告書により不貞行為の存在を立証することができる可能性があります。
もっとも,調査が功を奏するかわかりませんし,調査期間が長くなると多額の調査費用がかかりますので,利用するかどうかは慎重に検討すべきでしょう。

 

3 メール

配偶者と不貞相手が,携帯電話やパソコンでメールのやりとりをしていることがあります。メールの内容が不貞関係の存在をうかがわせるものであれば,重要な証拠となります。

 

4 不貞相手からの手紙

不貞相手から配偶者に宛てた手紙は,内容によっては,不貞行為の存在を推認させる証拠となります。

 

5 レシート・領収証

ホテルや避妊具等のレシートや領収証は,不貞行為の存在を推認させる証拠となります。

 

6 ICカードやETCの履歴

配偶者が電車等の公共交通機関を利用して相手方の自宅等に行っている場合には,ICカードの履歴が証拠となります。
また,自動車で行っている場合には,ETCの履歴が証拠となります。

 

7 手帳・日記

配偶者の手帳に不貞相手の連絡先や密会の日時や場所について記載があったり,日記に不貞相手と会ったことや不貞相手への気持ちが書いてあれば,不貞関係を推認させる証拠となります。

 

8 覚書・謝罪文

不貞行為の発覚後,配偶者の一方が他方に対し,不貞行為を認めた覚書や謝罪文を渡すことがあります。配偶者が不貞行為を認めているので重要な証拠となります。
紛失したり,破棄されたりしないよう厳重に保管しておくべきですし,写真に撮ったり,コピーをとったりしておいたほうがよいでしょう。

 

9 不貞行為を認める内容のメールや録音データ等

夫婦間の話合いにおいて,配偶者が不貞行為を認める内容のメールを送っていたり,不貞行為を認める発言が録音されていれば,メールや録音データが不貞行為の証拠となります。

 

10 その他

配偶者が別居し,不貞相手と同棲している場合には,同棲していることの証拠も不貞行為の証拠となりますし,不貞相手との間に子ができた場合にはその証拠も不貞行為の証拠となります。
また,証人尋問や本人尋問により,不貞行為を立証することができるかもしれませんので,客観的な証拠がないからといって諦める必要はありません。

 

二 違法収集証拠として証拠能力が争いになる場合

不貞行為の証拠は,メールや手紙等,個人のプライバシーに関するものが多く,当事者の一方が他方に無断で見てよいのかという問題があり,違法収集証拠として証拠能力(証拠調べの対象となる資格)の有無が争いになることがあります。
相手方の同意なく収集されたからといって直ちに証拠能力が否定されるわけではありませんが,収集行為の違法性が強い場合には違法収集証拠として証拠能力が否定される可能性がありますので,注意しましょう。

 

三 まとめ

不貞行為は,通常,密室で行われますので,相手が不貞行為の存在を認めない場合には,立証は容易ではありません。
そのため,証拠を収集しておく必要がありますが,どのような証拠が有力な証拠となるかは,証拠の種類(写真,メール,手紙など)で決まるわけではなく,内容がどのようなものかによります。
また,一つひとつの証拠だけでは不貞行為の事実を立証するのに不十分だったとしても,複数の証拠をつなぎ合わせると不貞行為の事実を立証できることもありますので,決定的な証拠がないからといって諦める必要はありません。
ただし,不貞行為の証拠はプライバシーに関わるものが多いので,証拠の収集や扱いには細心の注意を払いましょう。

【交通事故】物損 全損(車両の時価・買替差額,買替費用)

2017-10-10

交通事故にあり車両が「全損」と判断された場合,被害者はどのような損害項目について損害賠償請求することができるのでしょうか。

 

一 「全損」と判断される場合

1 物理的全損

技術的に修理ができない場合には,全損と判断されます。

 

2 経済的全損

技術的に修理ができる場合であっても,修理費用が車両の時価等を上回る場合には,経済的に全損と判断されます。

修理費>車両の時価・買替差額+買替費用

 

3 車体の本質的構成部分に重大な損傷が生じ,買替が社会通念上相当な場合

物理的,経済的に修理不能である場合のほか,フレーム等車体の本質的構成部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められ,買替をすることが社会通念上相当であると認められる場合にも,全損と判断されます。

 

二 車両の時価相当額・買替差額

交通事故により全損となった場合,被害車両の時価相当額が損害となります。
また,被害車両に経済的価値がある場合には,事故時の車両の時価相当額と売却代金の差額(買替差額)が損害となります。

車両の時価は,同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の車両を中古車市場で取得するのに要する価格のことをいいます。
車両の時価は,レッドブックやイエローブック等の資料により算定するのが通常ですが,市場価格の算定が困難である場合等特段の事情がある場合には減価償却の手法を用いて算定することがあります。

また,車両が改造・改装されている場合,改造・改装が車両の価値を増加されるものであれば,改造費用や改装費用も車両の時価相当額の算定において考慮されます。

 

三 買替費用

被害車両と同種・同程度の車両を取得するのに要する費用は損害と認められます。
新車に買い替えた場合には被害車両と同種・同程度の車両を取得するのに要する費用の限度で損害と認められます。

1 買替費用に含まれるもの

①登録,車庫証明,廃車の法定費用
②登録,車庫証明,納車,廃車のディーラー報酬
③車体価格の消費税相当額
④自動車取得税
⑤被害車両の自動車重量税の未経過部分(還付された分は除く)
⑥リサイクル料金

 

2 買替費用に含まれないもの

①自動車税(還付が受けられるため)
②自賠責保険料(還付が受けられるため)
③新車購入の際の自動車重量税

 

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