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【相続・遺言】複数の相続人による遺産分割事件の依頼

2025-05-15

遺産分割事件では、相続人が複数のグループに分かれて争いになり、同じグループに属する相続人が同じ弁護士に依頼することがあります。複数の相続人が同じ弁護士に依頼する場合には、どのようなことを注意すべきでしょうか?

 

一 双方代理

遺産分割は共同相続人間で相続財産を分割することですから、基本的に各相続人は利害が対立する関係にあります。そのため、同じ弁護士が複数の相続人の代理人となることは、双方代理にあたります。

双方代理は、利益相反となり本人の利益が害されるおそれがあることから、民法108条により、原則として禁止されます。

 

もっとも、遺産分割事件では相続人が複数のグループに別れて争いになり、同じグループに属する複数の相続人が共同歩調をとるため同じ弁護士に依頼することを希望する場合があります。双方代理は原則として禁止されるものの、当事者双方の同意がある場合には双方代理をすることもできることから、依頼者の同意がある場合には、同じ弁護士が複数の相続人の代理人となることが可能です。

 

なお、共同相続人の中に未成年者とその親権者がいる場合に、親権者が弁護士に対し自分と未成年者の代理人となることを希望されることがありますが、未成年者と親権者は遺産分割について利益相反の関係にあり、親権者は未成年者の法定代理人として行動することができませんので、未成年者については特別代理人を選任して遺産分割を行うことになります。

また、共同相続人の中に認知症の高齢者とその子がいる場合に、子が弁護士に対し自分と親の代理人となることを希望されることがありますが、親に判断能力がない場合には親は委任契約を締結することはできませんので、成年後見人を選任して遺産分割を行うことになりますし、子が親の成年後見人となっている場合には特別代理人を選任して遺産分割を行うことになります。

 

二 利益相反の問題が生じる場合

複数の相続人が同意する場合には同じ弁護士を代理人とすることが可能であるとはいえ、相続人間の利害が対立する場合には利益相反の問題が生じることから、弁護士は代理人として職務を行うことができません。

そのため、当初から依頼を希望する相続人間の意見が食い違っていて、利害が対立していることが明らかな場合には、複数の相続人が依頼を希望したとしても、弁護士は受任することはできません。

また、当初は依頼を希望する相続人間の考えが一致しており、利害が対立していなかったとしても、受任後に依頼者間の意見が食い違ってきて、利害が対立する場合があります。そのような場合には、弁護士は代理人として職務を行うことができなくなり、辞任せざるを得なくなることがあります。

そのようなことから、複数の相続人が依頼を希望している場合であっても、弁護士としては、受任時に利益相反なるかどうかだけでなく、受任後に利益相反にあたる可能性があるかどうかも判断して、受任の可否を慎重に検討することになります。

例えば、複数の相続人が同じ財産の取得を希望している場合は利害が対立しているといえますし、別の財産の取得を希望している場合でも財産の評価をめぐって利害が対立するおそれがあります。また、特別受益や寄与分が問題となる場合も利害は対立するおそれがあります。

 

また、依頼を希望する相続人の側でも、他の相続人に配慮して、代理人弁護士に自分の意見を述べづらくなるというデメリットがありますので、同じ弁護士に依頼するかどうかは慎重に検討したほうがよいでしょう。

 

三 遺産分割調停の場合

遺産分割調停事件でも同じ弁護士が複数の相続人の代理人となることはできますが、調停を成立させる場合には双方代理であることが問題となります。

 

遺産分割調停を成立させる方法としては①調停成立直前に代理人弁護士が、相続人の一人を除いて辞任する方法(辞任した相続人については、本人の出席又は他の弁護士が代理人となることで調停を成立させます。)、②双方代理の申述書(相続人が双方代理を承諾する旨の書面)を裁判所に提出する方法があります。

【民事訴訟】債権者代位訴訟における訴訟上の和解

2025-02-07

債権者代位訴訟で訴訟上の和解をするにはどうすればよいでしょうか。

 

一 債権者代位訴訟

債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に代位して債務者の権利を行使することができます(民法423条)。

債権者代位訴訟は、債権者が、自己の債権を保全するため、債務者に代位して債務者の第三債務者に対する権利(被代位権利)を行使する訴訟です。

 

債権者代位訴訟では、債権者が原告となり、第三債務者が被告となります。

原告である債権者は法定訴訟担当にあたり、債務者には判決の効力(既判力)が及びます(民事訴訟法115条1項2号)。

平成29年民法改正(令和2年4月1日施行)前は、債権者が債権者代位権を行使したことにより、債務者は被代位権利に対する管理処分権を失い、当事者適格がなくなると解されていました。しかし、改正により、債権者が債権者代位権が行使した場合でも債務者は被代位権利について管理処分権を失わないことになりましたので(民法423条の5)、債務者は第三者に対し権利行使することができます。ただし、債権者代位訴訟開始後に債務者が被代位権利について別訴を提起することは、二重起訴が禁止されていること(民事訴訟法142条)から許されません。そのため、債務者が権利行使をするには、共同訴訟参加や独立当事者参加の形で債権者代位訴訟に参加することになります。

また、債務者の手続保障の観点から、債務者に訴訟に参加する機会を与える必要があるので、債権者は、訴訟提起したときは、遅滞なく、債務者に対し訴訟告知をしなければなりません(民法423条の6)。

 

二 債権者代位訴訟における訴訟上の和解

債権者代位訴訟では、債務者は訴訟に参加しなくても判決の効力が及びますが、債務者の参加なしで訴訟上の和解ができるかどうかは別問題です。

例えば、債権者が、債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する訴訟で、第三債務者との間で、減額や分割払い等の和解をして解決ができるかどうかという問題があります。

 

債権者は法定訴訟担当として訴訟を遂行しますが、自身の債権を保全するために債務者の権利を代位行使しているにすぎませんので、債権者が被代位権利の権利実現を目的とする行為や保存行為を超えて被代位権利の譲渡や放棄等の処分行為を内容とする訴訟上の和解をすることはできません。

そのため、債権者代位訴訟では原告(債権者)と被告(第三債務者)の二者だけで訴訟上の和解をすることはできず、債務者が和解手続に参加し、和解の内容に同意することが必要となります。

 

債務者の参加の方法としては、共同訴訟参加等の手続をする以外にも、利害関係人として和解手続に参加することも可能です。

【民事事件】委任契約の任意解除権

2025-01-27

委任契約の各当事者はいつでも契約を解除することができます(民法651条1項)。

 

一 委任契約の任意解除権

委任契約については、各当事者(委任者又は受任者)は、いつでも解除することができます(民法651条1項)。

委任契約は当事者間の信頼関係に基づくものであるため、相手方が信頼できない場合には自由な解除を認めるべきだからです。

 

二 損害賠償義務

委任契約は各当事者がいつでも解除することができる一方、解除された相手方に対し損害賠償義務を負います。

損害賠償義務を負うのは、①相手方に不利な時期に委任契約を解除した場合、又は、②委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることを目的とした場合を除く)をも目的とする委任契約を解除した場合です。ただし、やむを得ない事由があったときを除きます(民法651条2項)

 

三 任意解除権を行使した場合の効果

委任契約の解除は将来に向かってのみ効力を生じますので(民法652条の準用する民法620条)、未履行部分についてのみ解除の効果が生じます。委任契約の解除の効力は将来効であり、遡及効はありませんので、既履行分については影響ありません。

 

解除後、受任者は未履行分について履行する義務はなくなります。受任者は委任事務処理にあたり受け取った金銭その他の物や果実がある場合には、それらを委任者に引渡す義務を負いますが(民法646条)、既履行分について負担した費用や債務がある場合には委任者に費用の償還や債務の弁済を請求することができますし(民法650条)、報酬の特約がある場合には既履行分についての報酬を請求することができます(民法648条、民法648条の2)。

 

四 任意解除権の制限

民法651条1項では委任契約の当事者はいつでも契約を解除することができるとされていますが、委任契約が受任者の利益をも目的とする場合、委任者がいつでも解除できるとすると受任者の利益が害されることから、委任者の任意解除権の行使が制限されないかという問題があります。

 

平成29年民法改正(令和2年4月1日施行)前は、受任者の利益をも目的とする委任契約について、委任者の任意解除権の行使を制限する判例、やむを得ない事情がある場合や解除権を放棄したとは解されない事情があるときに解除を認める判例等があり、受任者の利益をも目的とする委任契約については委任者が任意解除権を行使できるかどうか問題となっていました。

 

改正後の民法651条2項では委任者が受任者の利益をも目的とする委任契約を解除した場合には受任者は損害賠償請求できると規定されたことから、改正後は受任者の利益をも目的とする委任契約について委任者は任意解除権の行使が制限されるのが原則であるとはいえなくなりました。

そのため、基本的に、受任者の利益を目的とする委任契約についても、委任者は任意解除権を行使することができます。もっとも、任意解除権の行使を制限することができなくなったわけではないので、任意解除権を放棄する特約がある場合には任意解除権の行使が制限されます。

【お知らせ】令和6年 年末年始の営業について

2024-12-28

今年も大変お世話になりました。当事務所の年末年始の営業についてお知らせいたします。

 

令和6年12月28日(土)から令和7年1月5日(日)まで休業いたします。

令和6年は、12月27日(金)午後6時まで営業いたします。

令和7年は、1月6日(月)午前10時より営業いたします。

 

よいお年をお迎えください。

【交通事故】相手方が対応しない場合どうするか?

2024-10-29

交通事故被害にあった場合、被害者は相手方(加害者)に対し損害賠償請求をすることができます。通常、相手方は自身が加入している自動車保険(任意保険)を使って対応することが多いですが、全く対応しようとしない相手方もいます。そのような場合、被害者はどうすればよいのでしょうか?

 

一 相手方への損害賠償請求

相手方が対応を拒んでおり、話合いができない場合には、被害者は、損害額が確定してから、相手方に損害賠償請求訴訟を提起することになります。

 

治療費については、相手方が対応しない以上、被害者がいったん自分で支払わなければなりませんが、交通事故被害にあった被害者にとって治療費の負担は大きいものです。その場合、治療費の金額を抑えるために、自由診療ではなく、健康保険をつかうことが考えられます。(交通事故で健康保険を使う場合には、第三者行為の届出をする必要があります。)また、自賠責保険に仮渡金の請求をし、治療費に充てることや、治療費を支払った後に自賠責保険に被害者請求をすることもできます。

さらに自分の保険(人身傷害保険等)や労災保険が使える場合には、それらを使って治療費を支払ってもらうことが考えられます。

 

自賠責保険、人身傷害保険、労災保険を使えば治療費以外の損害についても支払いを受けられますし、填補されない損害がある場合には、被害者は相手方に対し、損害賠償請求することができます。

 

物損については、車両を修理し、被害者が自ら修理費を支払った後、相手方に損害賠償請求することもありますが、被害者が修理費を負担することができない場合には車両を修理しないで、修理費相当額を相手方に請求することもあります。

 

二 任意保険会社への直接請求

被害者が相手方に対し損害賠償請求した場合、相手方が自動車保険(任意保険)に入っているときは、自動車保険を使って支払をすることが多いですが、相手方が対応しない場合には、相手方の任意保険会社に直接請求することが考えられます。

 

自動車保険の約款では、対人賠償や対物賠償について、被保険者と損害賠償請求権者との間で損害賠償請求責任について、判決が確定した場合や裁判上の和解又は調停が成立した場合等、一定の条件をみたす場合には、損害賠償請求権者が保険会社に損害賠償額の支払いについて直接請求をすることができる旨の条項があります。

そのため、相手方が被害者への損害賠償を拒否している場合でも、被害者が相手方に対する損害賠償請求訴訟を提起して判決が確定又は裁判上の和解が成立すれば、被害者は相手方の任意保険会社に対し損害賠償金を直接請求することができます。

 

なお、相手方の自動車保険の契約の有無や契約している保険会社がわからない場合には、相手方車両の車台番号、登録番号等の情報をもとに弁護士会照会で調べることが考えられます。

 

任意保険会社に対し損害賠償金を直接請求するには、相手方との間で判決が確定又は裁判上の和解が成立していればよいので、基本的には相手方に対し訴訟提起すれば足り、任意保険会社に対し訴訟提起する必要はありません。

もっとも、相手方に対する損害賠償請求訴訟の判決が確定等しても、必ずしも任意保険会社がその内容を認め、直接請求に応じるとは限りません。そのため、相手方との間で判決が確定等しても、任意保険会社が直接請求に応じないおそれがある場合には、相手方のみならず任意保険会社も被告として訴訟提起することが考えられます。

 

三 弁護士への依頼の検討

相手方が対応しない場合には、被害者が自分で解決することは困難ですし、無理に対応を求めるとトラブルとなることがありますので、弁護士に依頼することが考えられます。

被害者が弁護士費用保険(弁護士費用特約)を使える場合には、弁護士費用が保険契約の範囲で保険会社から支払われますので、弁護士への依頼を検討すべきでしょう。

【お知らせ】令和6年夏季休業のお知らせ

2024-08-07

当事務所は、令和6年8月9日(金)から令和6年8月15日(木)まで、夏季休業とさせていただきます。

8月16日(金)からは通常通り営業いたします。

【親子問題】嫡出否認の訴え・調停

2024-07-12

嫡出子について父子関係がないことを争う方法として嫡出否認の訴え・調停があります。

嫡出否認制度について令和4年に民法等が改正され、令和6年4月1日に施行されました。

 

一  嫡出否認の訴え

1 嫡出否認の訴えとは

嫡出子とは婚姻関係にある夫婦から生まれた子のことです。

民法には嫡出推定規定(民法772条)がありますが、嫡出推定される場合でも嫡出否認の訴えにより父子関係を争うことができます。

 

改正前の民法では、夫が子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認をすることができましたが(旧民法774条、777条)、行使できる人の範囲が狭く、行使期間も短かったことから、令和4年の民法改正(令和6年4月1日施行)により嫡出否認ができる人の範囲が拡大され、父、子、母、前夫は嫡出否認ができるようになりましたし(民法774条)、行使期間も原則として3年に延びました(民法777条)。

 

なお、改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則です。ただし、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母親は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。

 

2 父の嫡出否認権

父は嫡出否認をすることができます(民法774条1項)。

 

父の否認権は子又は親権を行う母に対して行使します(民法775条1項1号)。親権を行う母に対して行使しようとする場合に親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任します(民法775条2項)。

 

父が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、子の出生を知ったときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条1号)。

 

父が子の出生前に死亡した場合や出訴期間内に訴えを提起しないで死亡した場合には、子のために相続権を害される者その他父の3親等内の血族は父の死亡の日から1年以内に限り訴えを提起することができます(人事訴訟法41条1項)。また、父が訴え提起後に死亡したときは、子のために相続権を害される者その他夫の3親等内の血族は父の死亡の日から6か月以内に訴訟手続を受け継ぐことができます(人事訴訟法41条2項)。

 

3 子の嫡出否認権

子は嫡出否認をすることができます(民法774条1項)。

 

子の否認権は父に対して行使します(民法775条1項2号)

 

子が嫡出否認の訴えを提起する場合は、出生の時から3年以内に提起しなければなりません(民法777条2号)。

 

子が出生から3年以内に自ら嫡出否認の訴えを提起することは現実的に困難ですから、子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができます(民法774条2項)。これらの人が子の否認権の出訴期間の満了前6か月以内の間にいないときは、子はこれらの人により否認権行使ができるようになった時から6か月を経過するまでの間は嫡出否認の訴えを提起することができます(民法778条の2第1項)。

 

また、子は、要件(①父と継続して同居した期間(同居した期間が2回以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回ること、②否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害する場合でないこと)を満たす場合には、21歳に達するまで嫡出否認の訴えを提起することができます(民法778条の2第2項)。この規定は、子が自らの判断で嫡出否認権を行使することができるようにするための規定ですから、親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人が子のために嫡出否認権を行使する場合には適用されません(民法778条の2第3項)。

 

4 母の嫡出否認権

母には固有の嫡出否認権があります(民法774条3項本文)。ただし、否認権行使が子の利益を害することが明らかな場合は否認権を行使することができません(民法774条3項但書)。

 

母の否認権は父に対して行使します(民法775条1項3号)。

 

母が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、母が子の出生のときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条3号)。

 

5 前夫の嫡出否認権

女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは出生の直近の婚姻における夫の子と推定されますが(民法772条3項)、嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(同条4項)。

 

民法772条3項により子の父が定められる場合、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた父以外の者(前夫)は、子の嫡出を否認することができます(民法774条4項本文)。ただし、否認権の行使が子の利益を害することが明らかな場合は否認権を行使することはできません(民法774条4項但書)。

また、前夫が嫡出否認権を行使したことにより新たに子の父となった場合には、子が自らの嫡出であることを否認することはできません(民法774条5項)。

 

前夫の否認権は父及び子又は親権を行う母に対して行使します(民法775条1項4号)。親権を行う母に対して行使しようとする場合に、親権を行う母がいないときは、家庭裁判所は特別代理人を選任します(民法775条2項)。

 

前夫が子の嫡出否認の訴えを提起する場合は、前夫が子の出生を知ったときから3年以内に提起しなければなりません(民法777条4号)。

ただし、子が成年に達した後は提起することができません(民法778条の2第4項)。

 

6 後婚の夫の子と推定される子について嫡出否認された場合

女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻の夫の子と推定されますが(民法772条3項)、嫡出否認されたときは、その前の婚姻の夫の子と推定されます(民法772条4項)。

その場合に、新たに子の父と定められた者、子、母、前夫が嫡出否認をするときは、嫡出否認の裁判が確定したことを知った時から1年以内に訴えを提起しなければなりません(民法778条)。

 

二 嫡出否認の調停

1 調停前置主義

人事訴訟事件については調停前置主義が採用されていますので(家事事件手続法257条1項)、嫡出否認をするには訴訟提起をする前に調停を申し立てなければなりません。

 

2 合意に相当する審判

嫡出否認は、公益性が強く、当事者の意思だけで解決することはできませんが、当事者に争いがない場合には簡易な手続で処理することが望ましいことから、まず調停手続を行い、当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し、原因事実について争いがない場合には、家庭裁判所は事実の調査をした上で合意が正当と認めるときには合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。

 

調停不成立の場合や合意に相当する審判による解決ができなかった場合には、嫡出否認の訴えにより解決を図ることになります。

【親子問題】嫡出子

2024-05-17

嫡出子について、令和4年の民法改正により嫡出推定、嫡出否認の規定が改正され、令和6年4月1日に施行されました。

 

一 嫡出子とは

嫡出子とは、婚姻関係にある夫婦から生まれた子のことです。

嫡出子については、嫡出推定規定により嫡出推定される場合に父子関係が認められます。

嫡出推定される場合に父子関係を争う方法として嫡出否認制度があります。

 

二 嫡出推定規定

改正前の民法では、妻が婚姻中に懐胎した子が夫の子と推定されていました(旧民法772条1項)。また、婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されていました(旧民法772条2項)。

そのため、女性が離婚してから300日以内に元夫以外の人との間の子を出産した場合、嫡出推定の規定により、戸籍上は元夫の子として扱われることになってしまうので、女性が子の出生の届出をすることができず、子が無戸籍になってしまうことがありました。

そこで、令和4年民法改正(令和6年4月1日施行)では、離婚等の日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母親が再婚したときは、再婚後の夫の子と推定されることになりました。

改正後の民法では、以下のように嫡出推定されます。

①妻が婚姻中に懐胎した子のほか、妻が婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子も夫の子と推定されます(民法772条1項)。

②婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定され、婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されます(民法772条2項)。

③女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻における夫の子と推定されます(民法772条3項)。その夫について嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(民法772条4項)。

 

三 嫡出否認制度

嫡出推定される場合、嫡出否認の訴えにより、父子関係を争うことができます。

改正前の民法では、夫は子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えをすることができましたが(旧民法774条、777条)、母や子が嫡出否認できない、行使期間が短いという問題がありました。

そこで、令和4年の民法改正(令和6年4月1日施行)により、嫡出否認の訴えができる人の範囲が拡大され、父のほか、子、母、前夫が嫡出否認権を行使することができることになりました(民法774条)。

また、行使期間については原則として3年に延ばされ、夫又は前夫は子の出生を知ったときから3年、子又は母は子の出生時から3年になりました(民法777条)。また、子については、一定の要件のもと、21歳に達するまで行使することができるようになりました(民法778条の2第2項)。

改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則ですが、無戸籍者の救済を図るため、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。

 

四 婚姻成立の日から200日以内に子が出生した場合

改正前の民法では、婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は、嫡出子の推定は受けませんでした。その場合でも、夫婦が嫡出子として届け出たときには、戸籍上は嫡出子として取り扱われましたが(推定されない嫡出子)、戸籍上、嫡出子と扱われても、嫡出推定されませんので、利害関係を有する者は、親子関係不存在確認の訴えにより、父子関係を争うことができました。

改正後は、妻が婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子は、夫の子と推定されますので(民法772条1項後段)、婚姻成立の日から200日以内に生まれた子も嫡出推定されます。そのため、父子関係を争う場合には、嫡出否認の訴えで争うことになります。

 

五 嫡出推定が重複する場合

嫡出推定が重複する場合に、父を定めることを求める訴えにより、子の父を定めることができます。

改正前の民法では、再婚禁止期間の規定(旧民法733条1項)に違反して再婚した女性が子を出産したことにより、嫡出推定が重複する場合は、父を定めることを求める訴えにより、父子関係を定めることができるとされていました(旧民法773条)。

改正により、女性の再婚禁止期間の規定が廃止されたため、再婚禁止期間の違反により嫡出推定が重複する事態は生じなくなりました。もっとも、改正後も重婚禁止の規定(民法732条)に違反して婚姻した女性が子を出産したことにより、嫡出推定が重複する場合がありますので、その場合には、父子関係を確定するため、父を定めることを求める訴えをすることができます(民法773条)。

 

六 推定の及ばない子

形式的には子が嫡出推定される期間に出生した場合であっても、妻が懐胎可能な時期の夫の海外赴任、服役、事実上の離婚等、夫によって懐胎することがあり得ないときは、嫡出の推定が及ばないとされています。

推定が及ばない子について、父子関係を確定するには、夫との間では親子関係不存在確認の訴えをし、血縁上の父との間では認知の手続をとることになります。

令和4年の民法改正では推定の及ばない子についての規定は設けられませんでしたが、改正後も改正前と同様、推定が及ばない事情がある場合には、嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えや認知によって父子関係を確定するものと考えられます。

 

七 準正嫡出子

婚姻関係にない夫婦から生まれた子は非嫡出子となりますが、認知された後に父母が婚姻した場合(婚姻準正)や父母の婚姻後に認知された場合(認知準正)、その子は嫡出子の身分を取得します(民法789条)。

 

 

【親子問題】親子法制の改正(令和4年民法等の改正)

2024-04-23

令和4年に嫡出推定、嫡出否認制度、女性の再婚禁止期間、認知、懲戒権等、親子法制について民法等の規定が改正されました。懲戒権の規定の改正については令和4年12月16日に施行され、嫡出推定、嫡出否認制度、女性の再婚禁止期間、認知の規定の改正については令和6年4月1日に施行されました。

 

一 嫡出推定についての改正

改正前の民法772条では、①妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する(同条1項)、②婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定するとされていました(同条2項)。

改正前の民法では、離婚等の日から300日以内に元夫以外の人との間の子を出産した場合、嫡出推定の規定から、戸籍上、その子は元夫の子として扱われることになってしまうため、母親が子の出生の届出をすることができず、子が無戸籍になってしまうことがありました。そこで、改正により、離婚等の日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母親が再婚したときは再婚後の夫の子と推定されることになりました。

改正後の民法772条では

①妻が婚姻中に懐胎した子、妻が婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子は、夫の子と推定されます(同条1項)。

②婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定され(同条2項前段)、婚姻成立の日から200日経過後又は婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されます(同条2項後段)。

③女性が子を懐胎したときから出生するまでの間に複数回婚姻をしたときは、出生の直近の婚姻における夫の子と推定され(同条3項)、その夫について嫡出否認されたときは、その前の婚姻における夫の子と推定されます(同条4項)。

 

二 嫡出否認制度についての改正

改正前の民法では、夫は子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認をすることができました(旧民法774条、777条)。

改正前の民法では、嫡出否認は夫だけが行うことができ、母や子が嫡出否認できないという問題がありましたし、嫡出否認権を行使できる期間が短いという問題がありました。

そのため、改正により、嫡出否認ができる人の範囲が拡大され、父のほか、子、母、前夫が嫡出否認をすることができることになりました(民法774条)。

また、嫡出否認権の行使期間は原則として3年に延ばされ、夫又は前夫は子の出生を知ったときから3年、子又は母は子の出生時から3年になりました(民法777条)。子については、一定の要件のもと、21歳に達するまで行使することができるようになりました(民法778条の2第2項)。

さらに、嫡出否認された場合に、子は父であった者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わないとする規定(民法778条の3)、相続開始後に嫡出否認権が行使され新たに子と推定された者が遺産分割請求をしようとする場合、既に遺産分割等の処分がなされていたときは、価額のみによる支払請求権を有するとする規定(民法778条の4)が新設されました。

なお、改正法は施行後に生まれた子について適用され、施行前に生まれた子については改正前の法が適用されるのが原則です。ただし、無戸籍者の救済を図るため、施行日である令和6年4月1日より前に生まれた子については、その子や母親は令和6年4月1日から1年間に限り嫡出否認の訴えを提起することができます。

 

三 女性の再婚禁止期間の廃止

改正前の民法733条では原則として女性は前婚の解消又は取消しから100日を経過しなければ再婚することができませんでした。女性に再婚禁止期間が設けられていたのは、改正前の民法では離婚後100日以内に再婚できるとすると、前婚の解消から300日以内、後婚から200日経過後に子が出生した場合、前婚の夫と後婚の夫の嫡出推定が重複し、誰が父か定まらなくなってしまうからです。

しかし、改正により離婚後100日以内の再婚を認めても嫡出推定が重複することはありませんので、女性に再婚禁止期間を設ける必要がなくなりました。

そこで、改正により女性の再婚禁止期間は廃止されました。

 

四 認知についての改正

1 胎児認知についての改正

父は母の承諾を得て胎児を認知することができます(民法783条1項)。

改正法では、女性が婚姻前に懐胎した子が婚姻後に生まれた場合には夫の子と推定されることから(民法772条1項後段)、夫以外の人が胎児認知した場合、どちらの子と扱われるのか問題となります。

そのため、改正法では、胎児認知した子が出生した場合、民法772条の嫡出推定により父が定められるときは、胎児認知の効力は生じないこととされました(民法783条2項)。

 

2 認知無効についての改正

改正前の民法では、子、その他の利害関係人は認知無効の訴えをすることができましたし、認知無効の訴えの出訴期間に制限がありませんでしたので、嫡出否認の場合と不均衡がありました。

そこで、改正により、認知が事実に反する場合について認知無効の訴えを提起できる者は子、認知をした者(父)、母に限定されました(民法786条1項)。出訴期間は、原則として、認知をした者は認知をした時から、子又は母は認知を知った時から7年間とされました(民法786条1項)。子については、一定の要件のもと、21歳に達するまで訴えを提起することができます(民法786条2項)。

また、認知が無効となった場合、子は認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わないとする規定(民法786条4項)が新設されました。

 

五 懲戒権についての改正

改正前の民法822条は懲戒権について規定していましたが、懲戒権の規定は児童虐待の正当化につながりかねませんでした。

そこで、改正により、懲戒権の規定を廃止し、監護教育権が具体化、明確化されました。

【交通事故】休業損害と逸失利益

2024-02-27

交通事故被害者が休業して収入を得られなかった場合は休業損害が損害となります。また、交通事故被害者が後遺症や亡くなったことで収入を得られなくなった場合は逸失利益が損害となります。

 

一 休業損害と逸失利益

 

休業損害とは、交通事故被害者が負傷により休業し、収入を得られなかった損害です。

逸失利益は、交通事故被害者が後遺症又は死亡により、将来得られたはずの収入を得られなくなった損害です。逸失利益の考え方には、差額説(事故前後の収入の差額を損害ととらえる考え方)と労働能力喪失説(労働能力が喪失したこと自体を損害ととらえる考え方)がありますが、判例では差額説の立場がとられています。

休業損害と逸失利益は、いずれも交通事故被害にあっていなければ得られたはずの収入を得られなかった損害(消極損害)ですが、休業損害は事故が発生してから治療終了時まで期間の収入を得られなかった損害であるのに対し、逸失利益は治療終了(症状固定)後又は死亡後に収入を得られなくなった損害です。

休業損害については、損害賠償請求をする時点では治療が終了しているのが通常であるため、現実の収入減少額を把握することが可能であるのに対し、逸失利益については、将来の収入がどうなるか不確実であり、将来の収入減少額を正確に把握することが困難であるという違いがあります。

そのため、休業損害額については、現実の収入減少額が損害額となるのに対し、逸失利益の場合には将来の収入減少額を推計で計算します。

また、現実に収入が減少していなければ休業損害は認められないのが原則であるのに対し、現在収入が減少していなくても将来収入が減少しないとはいえないので、将来の収入減少につながる事情があれば逸失利益は認められます。

 

二 損害額の算定方法

 

1 休業損害

休業損害の損害額は、交通事故が発生してから治療終了時までの間の収入の減少額です。

休業損害の金額は「1日あたりの基礎収入額×休業日数」の計算式で計算するのが原則ですが、職業によって計算方法が異なります。

(1)基礎収入額

基礎収入額については、事故前の収入を基に計算します。給与所得者は、休業損害証明書や源泉徴収票、事業所得者は確定申告書等が資料になります。

会社役員の役員報酬については、労務提供の対価としての部分と利益配当としての部分があり、原則として、労務対価部分について休業損害が認められます。

不動産賃貸業等の不労所得者は休業しても収入が得られるので休業損害は認められないのが原則ですが、不動産の管理等、労務の提供があった場合にはその範囲で損害と認められることがあります。

家事従事者については、家事労働は現実の収入は得られないものの、経済的な価値があることから、交通事故被害により家事労働できなかった場合には休業損害が認められます。家事従事者の基礎収入額は、賃金センサスの女性労働者の全年齢又は年齢別の平均賃金を基に計算します。

(2)休業日数

休業日数については、現実に休業した日数です。

給与所得者の場合には休業損害証明書に休業日数が記載されるため、把握が容易ですが、家事従事者の場合等のように休業日数を把握することが困難な場合があります。休業日数の把握が困難な場合には、休業期間の何割かを休業日数とすることがあります。

 

2 逸失利益

差額説の立場からすれば、逸失利益の損害額は収入の減少額ですが、逸失利益は将来にわたって発生するものであり、将来の収入の減少が現実にどの程度発生するか把握することは困難ですので、推計で計算することになります。

(1)後遺症逸失利益

後遺症逸失利益は、被害者の収入(基礎収入)が労働能力の低下の割合(労働能力喪失率)に応じて一定期間(労働能力喪失期間)減少するものと推定します。また、一時金払いの場合には現在価値に換算するため、中間利息を控除します。

そのため、後遺症逸失利益の金額は、「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で計算するのが原則です。

基礎収入額は、事故前の年収とするのが原則です。ただし、将来、事故前の収入額以上の収入を得られる蓋然性がある場合には、その金額が基礎収入額となります。また、家事従事者や若年者労働者の場合には賃金センサスの平均賃金額が基礎収入額となります。

労働能力喪失率は,自賠責保険の後遺障害等級の労働能力喪失率によるのが基本ですが、被害者の職業・年齢・性別、後遺症の部位・程度、事故前後の稼働状況、収入の減少等の事情から総合的に評価されます。

労働能力喪失期間は、症状固定時の年齢から67歳までの期間とするのが原則ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とします。また、若年者の場合は、18歳又は大学卒業予定時(大学卒業の蓋然性がある場合)の年齢から67歳までの期間が労働能力喪失期間となり、後遺症逸失利益を「平均賃金×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳又は大学卒業予定時の年齢までのライプニッツ係数)」の計算式で計算します。

また、むち打ち症の場合には症状が永続するかどうか分かりませんので、後遺障害等級12級の場合で5年から10年程度、14級の場合で5年程度に制限する例が多いです。

(2)死亡逸失利益

死亡逸失利益は、被害者が亡くなったことにより、将来得られたはずの利益(基礎収入)を一定期間(就労可能年数)、得られなくなった一方で、被害者は生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので、生活費を控除します。また、将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。

そのため、死亡逸失利益の金額は、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で計算するのが原則です。

基礎収入額についての考え方は、後遺症逸失利益の場合と基本的に同じですが、死亡逸失利益の場合には、年金収入(退職年金、老齢年金、障害年金等、被害者が保険料を拠出しているもの)の逸失利益が認められます。

生活費の控除率については、被害者の家族構成(被害者が一家の支柱かどうか、被扶養者の人数)や性別等により異なります。また、年金収入が逸失利益となる場合は稼働収入の逸失利益の場合と比較して生活費控除率を高くする傾向があります。

就労可能年数は、死亡時の年齢から67歳までの期間とするのが原則ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とします。また、若年者の場合は、18歳又は大学卒業予定時(大学卒業の蓋然性がある場合)の年齢から67歳までの期間が就労可能年数となりますので、死亡逸失利益の金額は「平均賃金×(1-生活費控除率)×(死亡時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳又は大学卒業予定時の年齢までのライプニッツ係数)の計算式で計算します。

 

三 収入が減少していない場合

 

1 休業損害

休業損害は収入を得ることができなかったことによる損害ですので、現実に収入が減少していない場合には休業損害が認められないのが原則です。

例えば、給与所得者が交通事故後も仕事を休まず、収入の減少がなかった場合には、痛みを堪えて働いていたとしても、基本的に休業損害は認められません。

ただし、事故後、有給休暇を利用した場合には収入の減少がなくても休業損害が認められます。

事故前、働いていなかった場合は収入の減少がないので、休業損害が認められないのが原則です。ただし、事故前に就職が決まっていたけれども、事故により働けなくなった場合等、就労する蓋然性があった場合には、休業損害が認められます。

 

2 逸失利益

差額説の立場からすれば、現実に収入の減少がなければ、逸失利益は認められないのが原則です。

もっとも、逸失利益は将来にわたって発生するものですから、請求した時点で収入が減少していなからといって、将来も収入が減少しないとはいえません。

そのため、収入が減少していなくても、後遺症により業務に支障が生じている場合、収入が減少しないことが、被害者が特別の努力や勤務先の特別な配慮による場合、昇給や昇格等で不利益な取扱を受けるおそれがある場合、転職や再就職で不利益な取扱を受けるおそれがある場合等、将来の収入減少につながる事情がある場合には後遺症逸失利益が認められます。

事故時は働いておらず、収入がない場合であっても、将来、就労する蓋然性がある場合には逸失利益が認められます。

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