【交通事故】労災保険の利用
労働者として働いている人が勤務中や通勤中に交通事故被害にあった場合、労災保険を利用することができます。
一 労災保険
労働者が業務中又は通勤中の事故により、負傷したとき、病気になったとき、後遺障害が残ったとき、死亡したときには、労働者は労働者災害補償保険(労災保険)による給付を受けることができます。
交通事故等、事故が第三者の行為によって生じた場合(第三者行為災害)にも労災保険を利用することができます。労災保険の給付は被害者の損害を填補するものであり、損害賠償と労災保険の給付を二重に受けることはできませんので、被害者の第三者に対する損害賠償請求と労災保険の給付との間で調整が行われます。そのため、労災保険の給付がなされた場合には、保険者である政府が給付の価額の限度で第三者に対し求償権を取得しますし(労働者災害補償保険法12条の4第1項)、損害賠償を受けた場合には、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができます(同条2項)。
二 保険給付
業務災害(労働者の業務上の負傷、疾病、障害、死亡)の場合、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付を受けることができます(労働者災害補償保険法12条の8第1項)。
また、通勤災害(労働者の通勤による負傷、疾病、障害、死亡)の場合には、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付、傷病年金、介護給付を受けることができます(労働者災害補償保険法21条)。
療養補償給付・療養給付は、療養の給付(現物支給)又は療養の費用の支給です。
休業補償給付・休業給付は、傷病による療養のため労働できず賃金をもらえないときに受けられる給付です。休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%が支払われます。
障害補償給付・障害給付は、症状固定後に障害が残ったときに受けられる給付です。認定された障害等級によって、一時金として給付される場合(14級から8級)と年金として給付される場合(1級から7級)があります。
遺族補償給付・遺族給付は、労働者が死亡した場合に遺族が受けられる給付です。年金として給付される場合と一時金として給付される場合があります。
葬祭料・葬祭給付は、労働者が死亡した場合に葬祭を行う人が受けられる給付です。
療傷病補償年金・傷病年金は、療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、傷病による障害の程度が重い場合(傷病等級1級から3級に該当する場合)に受けられる給付です。
介護保障年金・介護年金は、労働者に常時又は随時介護を要する重度の障害があり、介護を受けている場合に受けられる給付です。
また、労災保険の社会復帰等促進事業として特別支給金制度があります。
休業補償給付・休業給付、障害補償給付・障害給付、遺族補償給付・遺族給付、傷病補償年金・傷病年金に上乗せして、特別支給金が給付されます。
四 労災保険を利用した場合の損害賠償請求への影響
1 損益相殺
事故が第三者の行為によって生じた場合(第三者行為災害)に保険給付がなされたときは、保険者である政府は給付の価額の限度で第三者に対し求償権を取得しますので、被害者が加害者に損害賠償請求するにあたって、損害額から給付額が控除されます。
労災保険の給付が年金の場合には、既に給付された分だけでなく、給付が確定した部分(訴訟の場合は、事実審の口頭弁論終結時の時点で給付が確定した部分)が控除されます。給付が確定していない将来分については控除されません。
控除は、給付と同一性のある損害項目に限られます。
療養補償給付・療養給付は治療費(入院雑費、通院交通費、文書料等からも控除するかどうか、控除の範囲については見解が分かれています。)から、休業補償給付・休業給付、障害補償給付・障害給付、遺族補償給付・遺族給付、傷病補償年金・傷病年金は休業損害や逸失利益から、葬祭料・葬祭給付は葬儀関係費用から、介護補償給付・介護給付は将来介護費用から、それぞれ控除されます。これらの給付が慰謝料から控除されることはありません。また、労災保険は人損についての給付ですので、物損からは控除されません。
特別支給金については、損害を填補するものではなく、政府は第三者に対し求償権を取得しません。そのため、特別支給金の給付を受けても損害額から控除されませんので、被害者には労災保険を利用するメリットがあります。
2 過失相殺
交通事故被害者に過失があった場合、過失相殺後の損害額から給付額を控除します。
その際、控除されるのは給付と同一性のある損害項目に限られ、同一性のない損害項目から控除されることはありません。そのため、被害者に過失がある場合には、労災保険を利用するメリットがあります。
3 後遺障害の等級認定
労災保険を利用した場合は障害等級の認定がなされますが、交通事故の場合は自賠責保険の後遺障害の等級認定に基づいて損害賠償請求するのが通常です。
そのため、交通事故被害者が労災保険の等級認定を受けた場合でも、加害者に損害賠償請求をする際は、別途、自賠責保険の等級認定を受けることになります。
その際、労災保険と自賠責保険の等級認定の結果が異なることがあります。労災保険で認定される等級のほうが自賠責保険で認定される等級よりも高くなる傾向があります。