家事事件の手続の流れと分類
家事事件の手続には,調停,審判,訴訟がありますが,事件の種類によって,とられる手続に違いがあります。
どのような手続をとるのかによって,対応の仕方が違ってきますので,どの事件について,どのような手続がとられるのか意識して対応する必要があります。
一 家事事件の手続
1 家事審判手続
家事審判手続は,家庭裁判所が本案について終局的な判断をする裁判ですが,裁判所が後見的に関与する非訟手続です。
家事審判手続には,家事審判の申立てまたは職権により手続が開始する場合と,調停から審判に移行して手続が開始する場合があります。
なお,家事審判には合意に相当する審判(家事事件手続法277条)や調停に代わる審判(家事事件手続法284条)のように調停手続の中で行われるものもあります。
2 家事調停手続
調停は,当事者の合意を基礎とする自主的な紛争解決手続であり,家庭に関する事件で家庭裁判所で手続をするものを家事調停といいます。
家事調停手続には,家事調停の申立てによって開始する場合と,審判手続または訴訟手続から調停手続に付されて開始する場合があります。
3 訴訟手続
家事事件の訴訟手続には,人事訴訟手続と民事訴訟手続があります。
(1)人事訴訟手続
人事訴訟は,婚姻の取消しの訴え,離婚の訴え,認知の訴え等,身分関係の形成または存否の確認を目的とする訴えに係る訴訟であり(人事訴訟法2条),家庭裁判所が管轄裁判所となります(人事訴訟法4条)。
人事訴訟手続では,弁論主義が制限され(人事訴訟法19条),職権探知主義がとられたり(人事訴訟法20条),判決が第三者に対しても効力を有する(対世効。人事訴訟法24条1項)等,民事訴訟手続とは様々な違いがあります。
(2)民事訴訟手続
不貞行為の慰謝料請求訴訟や,遺留分減殺請求,遺産の範囲の確認,遺言無効確認等の遺産分割に関連する訴訟は,民事訴訟であり,地方裁判所または簡易裁判所が管轄裁判所となります。
ただし,離婚の慰謝料請求のように人事訴訟と関連する損害賠償請求については,人事訴訟と併合して家庭裁判所で審理を行うこともできます(人事訴訟法8条,17条)。
二 家事事件の分類
家事事件を手続により分類すると,
Ⅰ 審判のみで,調停はしない事件(家事事件手続法別表第一の事件)
Ⅱ 調停をする事件
ⅰ 調停が不成立となると審判に移行する事件(家事事件手続法別表第二の事件)
ⅱ 人事訴訟を提起することができる事件
①合意に相当する審判をすることができる事件(特殊調停事件)
②それ以外の事件(離婚,離縁事件。一般調停事件)
ⅲ 民事訴訟を提起することができる事件(一般調停事件)
ⅳ 調停のみの事件(その他の家庭に関する事件。一般調停事件)
があります。
1 審判のみで調停はしない事件
成年後見,保佐,補助,任意後見,特別養子縁組の成立・離縁,相続放棄の申述受理,遺言書の検認等,家事事件手続法別表第一に掲げる事項についての事件は,公益性が比較的高く,当事者の意思で処分することができない権利や利益に関する事項についての事件であるため,当事者の意思(調停)ではなく,裁判所の判断(審判)で解決すべきであることから,審判手続のみ行い,調停手続は行いません。
そのため,別表第一に掲げる事項についての事件は,家事審判の申立てをして,審判手続を開始させ,審判により解決します。
2 調停をする事件
(1)調停が不成立になった場合に審判に移行する事件(家事事件手続法別表第二の事件)
婚姻費用分担,子の監護に関する処分,財産分与,親権者の指定・変更,遺産分割等,家事事件手続法別表第二に掲げる事項についての事件は,公益性が比較的低く,当事者の意思で処分することができる権利や利益に関する事項についての事件であるため,当事者の意思(調停)で解決することができます。
調停と審判どちらの手続をするか当事者が選択することができますが,当事者が家事審判の申立てをした場合,裁判所は調停に付すことができ(家事事件手続法274条),調停に付したときは,調停事件が終了するまで,審判手続を中止することができますので(家事事件手続法275条2項),まず調停をし,調停で解決を図るのが通常です。
調停が不成立となった場合には,審判手続に移行し(家事事件手続法272条4項),裁判所の審判で解決されます。
(2)人事訴訟を提起することができる事件
①合意に相当する審判をする事件(特殊調停事件)
人事訴訟とは,婚姻の取消しの訴え,離婚の訴え,認知の訴え等,身分関係の形成または存否の確認を目的とする訴えに係る訴訟をいいます(人事訴訟法2条)。
このうち,離婚,離縁を除く,人事訴訟をすることができる事項についての事件(婚姻の無効・取消し,離婚の無効・取消し,養子縁組の無効・取消し,離縁の無効・取消し,認知,認知の無効・取消し,嫡出否認,親子関係不存在確認等)については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。
そのため,まず調停手続を行い(調停前置主義。家事事件手続法257条1項),当事者間に申立ての趣旨とおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,当事者は,人事訴訟を提起して解決を図ることができます。
②離婚事件,離縁事件
離婚や離縁(特別養子縁組の離縁は除きます。)は当事者の意思ですることができるため,調停で離婚や離縁をすることができます。
そのため,まず調停による解決を図ります(調停前置主義。家事事件手続法257条)。
調停による解決ができず,調停が不成立となった場合,離婚や離縁をしたい当事者は,人事訴訟を提起して解決を図ることができます。
(3)民事訴訟を提起することができる事件
不貞行為の慰謝料請求事件や遺留分減殺請求事件等,民事訴訟を提起することができる事件であっても,家庭に関する事件については,まず調停による解決を図ります(調停前置主義。家事事件手続法257条)。
調停が不成立になった場合には,当事者は,地方裁判所または簡易裁判所に民事訴訟を提起して解決を図ることができます。
(4)調停のみの事件
夫婦関係調整(円満)調停事件等,当事者が任意の行為に期待するしかない事項を目的とする事件は,調停手続のみ行います。
調停が不成立になっても,審判に移行しませんし,訴訟を提起することはできません。
三 まとめ
以上のように,家事事件には,①審判だけで調停はしないもの,②調停が不成立になったら審判に移行するもの,③調停が不成立になっても,審判には移行しないが,人事訴訟や民事訴訟で解決を図ることができるもの,④調停しかできないものがあります。
①については,裁判所が申立てを認めるかどうかが問題となりますし,②や③については,調停が不成立になった場合に審判や訴訟になることを念頭に置いて調停に臨む必要がありますし,④については,調停が不成立になったら何もできないことを念頭に置いて調停に臨む必要があります。