【離婚】慰謝料請求と保全手続
離婚事件で慰謝料請求をする場合に、相手方が財産を処分してしまうおそれがあるときは保全手続を利用することが考えられます。
一 慰謝料請求権を被保全権利とする保全処分
保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分があります。
仮差押えは金銭の支払を目的とする債権を保全するための保全処分であり(民事保全法20条1項)、金銭債権である慰謝料請求権を保全するためには、相手方の財産の仮差押えをすることが通常です。
仮差押えをすることにより、その後に債務者が財産を処分しても、債権者は債務名義を取得して強制執行することができます。
二 管轄裁判所
損害賠償(慰謝料)請求訴訟は、民事訴訟であり、保全事件の管轄裁判所は本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所です(民事保全法12条1項)。
もっとも、人事訴訟の請求原因となった事実によって生じた損害賠償に関する請求は人事訴訟と併合することができます(人事訴訟法17条)。
保全事件についても、人事訴訟に係る請求とその請求原因である事実によって生じた損害賠償請求を1つの訴えですることができる場合には、損害賠償請求の保全命令の申立ては、仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所にすることができます(人事訴訟法30条2項)。
三 被保全権利と保全の必要性
保全事件では、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。
1 被保全権利
慰謝料請求権があることを疎明する必要があります。
離婚事件で慰謝料請求する場合としては,離婚に伴う慰謝料請求の場合と相手方の不貞行為やDV等、離婚原因となる個々の行為についての慰謝料請求の場合があります。
2 保全の必要性
保全の必要性は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生じるおそれがあるときに認められます(民事保全法20条1項)。
保全の必要性は、仮差押の対象物の種類や債務者の受ける打撃の大きさも関係します。相手方の財産として自宅不動産と預貯金がある場合、通常は預貯金よりも自宅不動産を仮差押したほうが相手方の打撃が小さいと考えられますので、自宅不動産を仮差押の対象とすることが多いです。
四 担保金
保全処分により債務者が損害を被る可能性があるため、担保金を供託する必要があります。
担保金額は基本的に目的物の価格が基準となります。
不動産が目的物となる場合は、固定資産税評価額を基準とすることが多いです。不動産が対象となる場合には担保金額も高額になるため、保全の申立てをするにあたっては担保金を準備できるかどうかが問題となります。