【親子問題】親子関係不存在確認の訴え・調停

2018-06-20

嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子)について,DNA鑑定等で父子関係がないことが明らかになった場合,父子関係がないことを争うにはどうすればよいでしょうか。
推定される嫡出子の場合には嫡出否認の訴えや調停がありますが,推定されない嫡出子や推定の及ばない子の場合には親子関係不存在確認の訴えや調停があります。

一 親子関係不存在確認の訴え

1 親子関係不存在確認の訴えとは

親子関係不存在確認の訴えとは,法律上の親子関係が存在しないことについて争いがある場合に,その確認を求める訴えのことです。

法律上の実親子関係の存否を争う方法として,①推定を受ける嫡出子について父子関係が存在しないことを争う場合は,嫡出否認の訴え,②嫡出推定が重複する場合は,父を定めることを目的とする訴え,③非嫡出子について父子関係が存在することを争う場合は,認知の訴え,④非嫡出子について父子関係が存在しないことを争う場合は,認知無効の訴えや認知取消しの訴えがありますが,⑤それ以外の場合については,実親子関係の存否の確認の訴え(親子関係存在確認の訴え,親子関係不存在確認の訴え)があります。

 

2 親子関係不存在確認の訴えができる場合

(1)推定されない嫡出子

婚姻成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定され,夫の子と推定されます(民法772条)。
嫡出が推定される場合には,子の身分関係の法的安定性を保持する必要性があるため,実親子関係が存在しないことを争うには嫡出否認の訴えによらなければならず,親子関係不存在確認の訴えをすることはできないと解されています。
これに対し,婚姻成立の日から200日以内,婚姻の解消・取消しの日から300日経過後に出生した子については,嫡出推定されませんので,父子関係を争うため,親子関係不存在確認の訴えを提起することができます。

なお,婚姻の解消・取消し後300日以内に子が出生した場合であっても,医師が作成した「懐胎時期に関する証明書」で,推定される懐胎時期の最も早い日が婚姻の解消・取消しの日より後の日であれば,婚姻の解消・取消し後に懐胎したものと認められ,民法772条の推定が及ばなくなります。その場合,懐胎時期に関する証明書を添付して母の非嫡出子または後婚の夫の嫡出子とする届出ができます。

 

(2)推定の及ばない子

民法772条2項の期間内に子が出生した場合であっても,妻が子を懐胎した時期に既に夫婦が事実上の離婚をした等の事情があり,妻が夫の子を懐胎し得ないことが外観上明白なときは,推定が及びませんので,嫡出否認の訴えではなく,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を争うことができます。

 

(3)他人夫婦の嫡出子として届け出た場合

他人夫婦の嫡出子として届け出た場合,子と戸籍上の父母との親子関係が存在しないことを争うため,親子関係不存在確認の訴えを提起することができます。

 

3 当事者

嫡出否認の訴えは基本的に夫しかできませんが(民法774条),親子関係不存在確認の訴えは,夫だけでなく,子や妻,その他の第三者も提起できます。

 

4 出訴期間

嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければなりませんが(民法777条),親子関係不存在確認の訴えには出訴期間の制限がありません。
ただし,子が生まれてから長期間経過後に訴え提起された場合には権利の濫用と判断される可能性があります。

 

5 認容判決が確定した場合の効果

親子関係不存在確認の訴えの認容判決が確定した場合には,親子関係が存在しないことが確定します。
戸籍の訂正が必要な場合には,判決確定の日から1か月以内に戸籍の訂正の申請をします(戸籍法116条1項)。

 

6 生物学上の父子関係はないが,嫡出の推定を受ける場合

民法772条の期間内に子が出生した場合であっても,DNA鑑定等により生物学上の父子関係がないことが判明したときには嫡出推定が及ばないものとして,親子関係不存在確認の訴えができないかという問題があります。

この点について,最高裁判所平成26年7月17日判決があります。この判決では,
①夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えにより争うことはできない
②民法772条,774条から778条の規定は,法律上の父子関係と生物学上の父子関係の不一致が生じることを容認している
③民法772条2項の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦関係が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たり,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係の存否を争うことができるが,本件ではそのような事情がないので,親子関係不存在確認の訴えは不適法であると判断されました。

また,これとは別に同日出された判決でも,「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が夫の下で監護されておらず,妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情」がある場合について,同様の判断がなされました。

そのため,民法772条の期間内に子が出生した場合,DNA鑑定等により生物学上の父子関係が存在しなかったとしても,それだけでは嫡出の推定が及ばなくなるわけではありませんので,父子関係が存在しないことを争うには,嫡出否認の訴えによらなければならず,親子関係不存在確認の訴えを提起することはできません。

 

二 親子関係不存在確認調停

1 調停前置主義

人事訴訟事件については調停前置主義が採用されているため(家事事件手続法257条1項),親子関係不存在確認の訴えを提起する前に調停を申し立てなければなりません。

 

2 合意に相当する審判

親子関係不存在確認調停事件については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。
そのため,まず調停手続を行い,当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,親子関係不存在確認の訴えを提起して,解決を図ることができます。

 

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