【相続・遺言】複数の相続人による遺産分割事件の依頼
遺産分割事件では、相続人が複数のグループに分かれて争いになり、同じグループに属する相続人が同じ弁護士に依頼することがあります。複数の相続人が同じ弁護士に依頼する場合には、どのようなことを注意すべきでしょうか?
一 双方代理
遺産分割は共同相続人間で相続財産を分割することですから、基本的に各相続人は利害が対立する関係にあります。そのため、同じ弁護士が複数の相続人の代理人となることは、双方代理にあたります。
双方代理は、利益相反となり本人の利益が害されるおそれがあることから、民法108条により、原則として禁止されます。
もっとも、遺産分割事件では相続人が複数のグループに別れて争いになり、同じグループに属する複数の相続人が共同歩調をとるため同じ弁護士に依頼することを希望する場合があります。双方代理は原則として禁止されるものの、当事者双方の同意がある場合には双方代理をすることもできることから、依頼者の同意がある場合には、同じ弁護士が複数の相続人の代理人となることが可能です。
なお、共同相続人の中に未成年者とその親権者がいる場合に、親権者が弁護士に対し自分と未成年者の代理人となることを希望されることがありますが、未成年者と親権者は遺産分割について利益相反の関係にあり、親権者は未成年者の法定代理人として行動することができませんので、未成年者については特別代理人を選任して遺産分割を行うことになります。
また、共同相続人の中に認知症の高齢者とその子がいる場合に、子が弁護士に対し自分と親の代理人となることを希望されることがありますが、親に判断能力がない場合には親は委任契約を締結することはできませんので、成年後見人を選任して遺産分割を行うことになりますし、子が親の成年後見人となっている場合には特別代理人を選任して遺産分割を行うことになります。
二 利益相反の問題が生じる場合
複数の相続人が同意する場合には同じ弁護士を代理人とすることが可能であるとはいえ、相続人間の利害が対立する場合には利益相反の問題が生じることから、弁護士は代理人として職務を行うことができません。
そのため、当初から依頼を希望する相続人間の意見が食い違っていて、利害が対立していることが明らかな場合には、複数の相続人が依頼を希望したとしても、弁護士は受任することはできません。
また、当初は依頼を希望する相続人間の考えが一致しており、利害が対立していなかったとしても、受任後に依頼者間の意見が食い違ってきて、利害が対立する場合があります。そのような場合には、弁護士は代理人として職務を行うことができなくなり、辞任せざるを得なくなることがあります。
そのようなことから、複数の相続人が依頼を希望している場合であっても、弁護士としては、受任時に利益相反なるかどうかだけでなく、受任後に利益相反にあたる可能性があるかどうかも判断して、受任の可否を慎重に検討することになります。
例えば、複数の相続人が同じ財産の取得を希望している場合は利害が対立しているといえますし、別の財産の取得を希望している場合でも財産の評価をめぐって利害が対立するおそれがあります。また、特別受益や寄与分が問題となる場合も利害は対立するおそれがあります。
また、依頼を希望する相続人の側でも、他の相続人に配慮して、代理人弁護士に自分の意見を述べづらくなるというデメリットがありますので、同じ弁護士に依頼するかどうかは慎重に検討したほうがよいでしょう。
三 遺産分割調停の場合
遺産分割調停事件でも同じ弁護士が複数の相続人の代理人となることはできますが、調停を成立させる場合には双方代理であることが問題となります。
遺産分割調停を成立させる方法としては①調停成立直前に代理人弁護士が、相続人の一人を除いて辞任する方法(辞任した相続人については、本人の出席又は他の弁護士が代理人となることで調停を成立させます。)、②双方代理の申述書(相続人が双方代理を承諾する旨の書面)を裁判所に提出する方法があります。