【相続・遺言】相続させる旨の遺言
被相続人は,遺言により,自らの意思で遺産を誰に相続させるかを決めることができます。
この点,民法では,相続分の指定(民法902条),遺産分割方法の指定(民法908条),遺贈(民法964条)について規定していますが,実務では,「○○に△△を相続させる」という内容の遺言(いわゆる「相続させる旨の遺言」)を作成することが多いです。
相続させる旨の遺言については,遺贈と遺産分割方法の指定のどちらにあたるのでしょうか。
一 相続させる旨の遺言とは
例えば,「○○に一切の財産を相続させる。」,「○○に土地を相続させる。」といったように,特定の相続人に遺産を相続させる旨記載された遺言のことを,相続させる旨の遺言といいます。
相続させる旨の遺言については,遺贈であるのか(遺言者が遺言により財産を他人に無償で与えること),遺産分割方法の指定であるのか解釈に争いがありましたが,現在では,特段の事情がない限り,分割方法の指定であると解されております。
また,相続させる旨の遺言が遺産分割方法の指定であるとした場合,遺産分割が必要かどうか問題となりますが,相続させる旨の遺言により,受益者は,特段の事情がない限り,遺言者の死亡時に,遺言により指定された財産を相続により承継するため,遺産分割は必要ないと解されております。
二 遺贈との違い
相続させる旨の遺言がなされた場合,遺贈とは以下のような違いがあります。
1 受益者
遺贈の場合,相続人以外でも,受益者(受遺者)となれます。
これに対し,相続させる旨の遺言の場合,受益者は相続人でなければなりません。
2 放棄
相続させる旨の遺言の場合は,相続放棄をしなければなりません。相続放棄の場合は期間制限があります。また,相続放棄をすると相続人の地位がなくなるため,遺言で指定された財産のみを放棄することはできません。
これに対し,遺贈の場合,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条),相続放棄の規定が適用されますが,特定遺贈の場合,受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。
3 登記手続
遺贈の場合,受贈者と登記義務者である相続人または遺言執行者の共同申請となります。
これに対し,相続させる旨の遺言の場合は,受益相続人が単独で申請することができます。
4 農地の場合
遺贈の場合,所有権の移転には農地法3条の知事の許可が必要となります。
これに対し,相続させる旨の遺言の場合は,許可は必要ありません。
三 受益者が遺言者より先に亡くなった場合
遺贈の場合,遺言者が亡くなる以前に受遺者が死亡したときは,効力が生じません(民法944条1項)。
これに対し,被相続人の子が相続開始以前に亡くなった場合には,その子が代襲して相続人となることから(民法887条2項),相続させる旨の遺言において,遺言者が亡くなる以前に受益相続人が亡くなったときには,受益相続人の代襲相続人が相続するかどうかが問題となりますが,遺言者が,受益相続人の代襲者に相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り,効力が生じないものと解されております。
そのため,遺言者が,受益相続人が先に亡くなった場合には,その代襲相続人に相続させたいときには,「遺言者より前または遺言者と同時に○○が死亡していた場合には,○○の子(代襲相続人)に□□を相続させる。」旨の予備的遺言を残しておくことが考えられます。