【交通事故】自賠責保険における後遺障害等級認定

2017-11-20

交通事故の被害者に後遺障害がある場合には後遺症慰謝料や後遺症逸失利益が損害となります。そのため,被害者が損害賠償請求するにあたっては後遺障害の有無や程度が問題となりますが,基本的には自賠責保険の後遺障害等級認定により後遺障害の有無や程度が判断されています。

 

一 自賠責保険における後遺障害等級認定

後遺障害とは,これ以上治療しても症状の改善が望めない状態になったとき(症状固定時)に残存する障害のことです。
自賠責保険では,後遺障害の内容に応じて1級から14級の等級が認定され,その等級に応じて保険金の支払額が異なります。

 

二 損害額算定の基準

自賠責保険の認定は自賠責保険金の支払額を定めるものであり,加害者の被害者に対する損害賠償額を定めるものではありません。
もっとも,後遺症逸失利益算定のための労働能力喪失率や後遺症慰謝料の額は基本的に自賠責保険で認定された後遺障害等級によって決まりますので,自賠責保険の後遺障害等級認定は損害額算定の根拠になっています。

 

三  労災保険の等級認定基準との関係

自賠責保険の等級認定は,原則として,労災保険の障害の等級認定基準に準じて行われていますので,自賠責保険の認定基準と労災保険の認定基準はほとんど同じです。
もっとも,交通事故が労働災害にあたる場合には,労災保険と自賠責保険のそれぞれで等級認定を受けることがありますが,認定結果が異なることがあります。一般的には自賠責保険の認定のほうが労災保険の認定よりも厳しいといわれております。

 

四 後遺障害等級認定の手続

自賠責保険の後遺障害の等級認定は,損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所により行われますが,認定が難しい事案では地区本部・本部で審査されますし,認定困難事案等の特定事案では自賠責保険審査会で審査されます。
認定を受ける方法としては,①被害者の直接請求による場合(自賠法16条)と②事前認定による場合があります。

1 被害者請求

被害者は,請求書に後遺障害診断書等の必要書類を添えて,加害者の自賠責保険会社に保険金の支払を請求をすることができ,その際に後遺障害の等級認定を受けることができます。

 

2 事前認定

加害者の任意保険会社は,一括払い(任意保険会社が自賠責保険分も一括して支払い,支払い後に自賠責保険に請求すること)をする場合に予め自賠責保険からいくら支払われるのか知るため,調査事務所に関係書類を送付して損害調査を依頼し,確認することができます。
被害者が加害者の任意保険会社に後遺障害診断書を送ると,任意保険会社は後遺障害等級の事前認定を受け,被害者に結果を知らせてくれます。

 

五 後遺障害診断書

後遺障害の等級認定を受けるには,後遺障害診断書の提出が必要となります。
事故後,被害者が通院しなければ,医師は治療の経過や残存した症状を把握できませんので,後遺障害診断書を作成してくれないことがあります。後遺障害診断書を作成してもらうためにも,事故後,被害者はきちんと通院する必要があります。
また,診断書にはできる限り詳細に記入してもらったほうが良いでしょう。

 

六 認定に不服がある場合

1 異議申立て

非該当と認定されたり,思っていたよりも等級が低く認定されたりして,後遺障害等級認定に不服がある場合には,被害者は異議申立てをすることでき,それにより認定が変更されることがあります。
異議申立ては,被害者請求の場合には自賠責保険会社に行い,事前認定の場合には任意保険会社に行います。
異議申立てをしても認定された等級が下がることはありませんし,異議申立ては何度でも行うことができますので,不服がある場合には異議申立てを検討しましょう。

 

2 自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理の申請

後遺障害等級認定に不服がある場合には,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理の申請をすることもできます。
紛争処理機構の結論は調停という形でなされ,保険会社は調停を遵守するものとされています。
紛争処理機構への申請により不利益に変更されることはありませんし,被害者は調停に拘束されませんが,紛争処理機構の調停は自賠責保険における最終の判断となりますので,再度の申請はできません。被害者が紛争処理機構の調停に納得できない場合には訴訟で争うことになります。

 

3 民事訴訟

自賠責保険の後遺障害等級認定に納得できない場合には,被害者は損害賠償請求訴訟で自身が相当であると考える後遺障害を主張して争うことができます。
訴訟でも自賠責保険による後遺障害等級認定の結果に沿った認定がなされるのが通常ですが,裁判所は自賠責保険の認定に拘束されませんので,自賠責保険の等級認定とは異なる認定をすることもできます。
また,自賠責保険では後遺障害等級に応じた労働能力喪失が定められており,訴訟でも参考にされますが,裁判所は被害者の職業・年齢・性別,後遺障害の部位・程度,事故前後の稼働状況,収入の減収額等,具体的な事情を考慮して,自賠責保険とは異なる労働能力喪失率で後遺症逸失利益を算定することがあります。

 

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