【交通事故】物損 修理費
交通事故により車両が損壊し,被害者が車両を修理した場合,被害者は修理費について損害賠償請求することが考えられますが,どのようなことが問題となるでしょうか。
一 どのような場合に修理費が損害と認められるのか
①技術的にも経済的にも修理ができる場合(全損ではない場合)には,②必要かつ相当な範囲で,修理費が損害と認められます。
1 全損ではないこと
技術的に修理ができない場合(物理的全損)や,技術的には修理できても,修理費用が車両の時価等を上回る場合(経済的全損)には全損と判断されます。
全損の場合には車両の時価額や買替費用が損害となり,修理費は損害とはなりません。
2 必要かつ相当な範囲であること
修理ができる場合であっても,必要かつ相当な範囲の修理費が損害と認められます。
修理費の全額が損害と認められるとは限りませんので注意しましょう。
例えば,塗装の範囲(全塗装が必要なのか,部分塗装で足りるのか)が問題となり,全塗装しても部分塗装の限度で損害と認められることがあります。
また,部品交換の必要性(部品交換が必要なのか,板金修理で足りるのか)が問題となり,部品を交換しても板金修理の限度で損害と認められることがあります。
二 未修理の場合でも請求できるか
車両の修理がなされていない場合であっても,現実に損傷を受けている以上,損害は既に発生しているといえます。
修理が必要な場合には,修理費相当額分,車両の価値が下落しているので,修理費相当額が損害に当たると考えられます。
三 所有権留保やリースの場合でも請求できるか
所有権留保されている車両やリースされている車両の場合には,車両の使用者(所有権留保付売買契約の買主,リース契約のユーザー)は所有者ではありませんが,修理費の損害賠償請求はできると考えられています。
使用者が修理をし,修理費を負担した場合には,損害賠償による代位の規定である民法422条の類推適用により,使用者は損害賠償請求権を代位取得し,損害賠償請求権を代位行使できると考えることができます。
また,未だ修理していない場合であっても,所有権留保の場合には実質的な所有権は買主にある,買主は担保価値を維持する義務がある等の理由で,リース契約の場合には使用者が修理義務を負っている等の理由で,民法709条により,使用者は修理費相当額の損害賠償請求ができると考えることができます。
四 修理費を損害賠償請求するにあたっての注意点
1 修理費の全額が損害と判断されるとは限りません
全損にあたる場合には車両の時価額等が損害となりますし,必要かつ相当な範囲を超える修理費は損害とは認められませんので,実際に車両の修理をしても,修理費の全額が損害と認められるとは限りません。
修理するのであれば,加害者側との間で修理の範囲,方法,金額を確認してから,修理したほうがよいでしょう。
2 車両の損傷状況を証拠に残しておく必要があります
加害者側が,交通事故の発生の有無,事故態様,車両の損傷箇所,修理の必要性・範囲等について争ってきている場合には,車両の損傷状況を確認する必要性がありますが,修理してしまうと車両の損傷状況が分からなくなってしまいます。
修理してから損害賠償請求する場合には,少なくとも修理前に車両の損傷個所の写真を撮影する等して損傷状況が分かるよう証拠に残しておくべきです。
3 代車を使用する場合
事故後,修理するまでの間に代車を使用した場合には,修理に必要な相当期間の代車使用料が損害と認められます。
相手方との交渉期間についても合理的な範囲であれば相当期間に含められますが,交渉が長引いた場合には,代車使用料の全額が損害と認められるとは限りませんので,早めに修理したほうがよいでしょう。