【交通事故】死亡逸失利益

2020-09-23

交通事故により被害者が亡くなった場合には,死亡逸失利益が損害となります。

 

一 死亡逸失利益とは

死亡逸失利益とは,被害者が亡くならなければ,将来にわたって得られたであろう利益(収入)を得られなくなったことによる損害です。

 

二  死亡逸失利益の計算式

死亡逸失利益の額は,以下の計算式で算定します。

 

死亡逸失利益

=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

 

被害者が亡くなったことにより,将来にわたって得られたはずの利益(収入)を得られなくなった一方で,被害者は,生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので,死亡逸失利益を算定するにあたっては,生活費を控除します。

また,死亡逸失利益の賠償は一時金払いによることが通常であり,一時金払いの場合には,将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。中間利息の控除の方法にはライプニッツ式(複利計算)で計算することが通常です。

 

三 基礎収入

1 給与所得者の場合

原則として,事故前の現実の収入額を基礎収入とします。

ただし,将来,現実収入額以上の収入を得られる蓋然性があれば,その金額が基礎収入となります。

また,現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

若年労働者の場合は,事故時の収入が低いので,平均賃金を用いることが多いです。

 

2 事業所得者の場合

所得税の申告所得をもとに基礎収入を算定します。

申告額と現実の収入が異なる場合,実収入を立証できれば,その金額が基礎収入となります。

現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

 

家族が事業を手伝っている場合には,所得額のうち被害者本人の寄与割合を乗じた額が基礎収入となります。

 

3 会社役員の場合

報酬額全額が基礎収入となるわけではありません。会社役員の報酬には労務対価部分と利益配当部分があり,基礎収入となるのは労務対価部分です。

 

4 年少者,学生の場合

賃金センサスの産業計,企業規模計,学歴計,男女別全年齢平均賃金額を基礎収入としますが,女子年少者の場合は,全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とするのが一般です。

 

大学進学が見込まれる場合には,大卒の平均賃金を基礎収入とすることもありますが,就労開始が遅れるため,就労可能年数が短くなります。

 

5 失業者の場合

事故時点で就労していなかったとしても,将来も就労しないとはいえませんので,就労する蓋然性があれば,死亡逸失利益は認められます。

基礎収入は,失業前の収入を参考としますが,失業前の収入が平均賃金以下の場合であっても,平均賃金を得られる蓋然性があれば平均賃金を基礎収入とします。

 

6 家事従事者の場合

家事労働には,現金収入はありませんが,経済的価値がありますので,家事従事者にも死亡逸失利益が認められます。

基礎収入は,賃金センサスの女性労働者の平均賃金(産業計,企業規模計,学歴計,全年齢または年齢別)を用います。男性の家事従事者の場合も女性労働者の平均賃金を用います。

 

なお,兼業主婦の場合には,平均賃金と実際の収入額を比較し,高い金額を基礎収入とすることが通常です。

 

7 年金受給者

被害者が亡くなったことにより年金を受給することができなくなった場合,死亡逸失利益が認めらるかどうかは年金の種類によります。

 

退職年金,老齢年金,障害年金等,被害者が保険料を拠出しているものについては,被害者が亡くなって受給できなくなったことについて逸失利益が認められます。

 

これに対し,障害年金の加給分や遺族年金等,被害者が保険料を拠出しておらず,社会保障的性格のものや一身専属的なものについては,被害者が亡くなって受給できなくなったとしても,逸失利益は認められません。

 

なお,遺族年金の受給により,被害者に支給が停止された年金がある場合には,支給が停止された年金について逸失利益を認める裁判例があります。

 

また,被害者が亡くなった時点で未だ年金を受給していない場合であっても,受給資格があった場合や受給資格をみたす直前であった等,年金を受給できる蓋然性が高い場合には,逸失利益性が認められると考えられます。

 

四 生活費控除率

被害者が亡くなったことにより,将来にわたって得られたはずの収入を得られなくなった一方で,被害者は,生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので,死亡逸失利益を算定するにあたっては,損益相殺により,生活費を控除します。

 

生活費の控除率については,被害者の家族構成(被害者が一家の支柱かどうか,被扶養者の人数)や性別等により異なります。

 

また,年金収入が逸失利益となる場合については,年金収入は生活費に当てられる割合が高くなるのが通常であると考えられるので,稼働収入の逸失利益の場合と比較して生活費控除率を高くする傾向があります。

 

五 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

1 就労可能年数

(1)原則

就労可能年数は,原則として症状固定日から67歳までの期間です。

 

(2)高齢者の場合

67歳以上の高齢者の場合は,平均余命の2分の1の期間が就労可能年数となります。

また,67歳未満であっても,症状固定日から67歳までの期間が平均余命の2分の1の期間より短い場合には,平均余命の2分の1の期間が就労可能年数となります。

 

ただし,年金の死亡逸失利益の場合は,年金は亡くなるまでもらえることから,平均余命で計算します。

 

(3)18歳未満の場合

被害者が18歳未満の場合には就労できる年齢ではありませんので,就労可能年数の始期は18歳となります。

そのため,被害者が18歳未満の未就労者の場合には,以下の計算式で計算します。

また,基礎収入は,賃金センサスの学歴計,全年齢の平均賃金を用いるのが通常です。

 

  死亡逸失利益

=平均賃金×(1-生活費控除率)×(67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)

 

なお,被害者が大学進学の蓋然性がある場合には,基礎収入は賃金センサスの大学卒・全年齢の平均賃金を用いますが,就労可能年数の始期は大学卒業予定時となります。

 

2 中間利息の控除

(1)中間利息控除の利率

令和2年4月1日に施行された改正民法では,中間利息の控除についての規定が新設され(民法417条の2),将来において取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います(民法417条の2第1項)。

また,改正前の民事法定利率は年5%に固定されていましたが,改正により,法定利率は,当面は年3%とし,3年ごとに見直されることとなりました(民法404条)。

そのようなことから,中間利息控除をする際の利率は,令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,当面,中間利息を控除する際の利率は年3%となります。

改正民法施行日前(令和2年3月31日まで)に発生した交通事故の場合は年5%で中間利息を控除します。

 

(2)中間利息控除の方法

中間利息の控除の方法には,ライプニッツ式(複利計算)とホフマン式(単利計算)がありますが,ライプニッツ式を用いることが通常です。

 

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