【交通事故】休業損害と逸失利益

2024-02-27

交通事故被害者が休業して収入を得られなかった場合は休業損害が損害となります。また、交通事故被害者が後遺症や亡くなったことで収入を得られなくなった場合は逸失利益が損害となります。

 

一 休業損害と逸失利益

 

休業損害とは、交通事故被害者が負傷により休業し、収入を得られなかった損害です。

逸失利益は、交通事故被害者が後遺症又は死亡により、将来得られたはずの収入を得られなくなった損害です。逸失利益の考え方には、差額説(事故前後の収入の差額を損害ととらえる考え方)と労働能力喪失説(労働能力が喪失したこと自体を損害ととらえる考え方)がありますが、判例では差額説の立場がとられています。

休業損害と逸失利益は、いずれも交通事故被害にあっていなければ得られたはずの収入を得られなかった損害(消極損害)ですが、休業損害は事故が発生してから治療終了時まで期間の収入を得られなかった損害であるのに対し、逸失利益は治療終了(症状固定)後又は死亡後に収入を得られなくなった損害です。

休業損害については、損害賠償請求をする時点では治療が終了しているのが通常であるため、現実の収入減少額を把握することが可能であるのに対し、逸失利益については、将来の収入がどうなるか不確実であり、将来の収入減少額を正確に把握することが困難であるという違いがあります。

そのため、休業損害額については、現実の収入減少額が損害額となるのに対し、逸失利益の場合には将来の収入減少額を推計で計算します。

また、現実に収入が減少していなければ休業損害は認められないのが原則であるのに対し、現在収入が減少していなくても将来収入が減少しないとはいえないので、将来の収入減少につながる事情があれば逸失利益は認められます。

 

二 損害額の算定方法

 

1 休業損害

休業損害の損害額は、交通事故が発生してから治療終了時までの間の収入の減少額です。

休業損害の金額は「1日あたりの基礎収入額×休業日数」の計算式で計算するのが原則ですが、職業によって計算方法が異なります。

(1)基礎収入額

基礎収入額については、事故前の収入を基に計算します。給与所得者は、休業損害証明書や源泉徴収票、事業所得者は確定申告書等が資料になります。

会社役員の役員報酬については、労務提供の対価としての部分と利益配当としての部分があり、原則として、労務対価部分について休業損害が認められます。

不動産賃貸業等の不労所得者は休業しても収入が得られるので休業損害は認められないのが原則ですが、不動産の管理等、労務の提供があった場合にはその範囲で損害と認められることがあります。

家事従事者については、家事労働は現実の収入は得られないものの、経済的な価値があることから、交通事故被害により家事労働できなかった場合には休業損害が認められます。家事従事者の基礎収入額は、賃金センサスの女性労働者の全年齢又は年齢別の平均賃金を基に計算します。

(2)休業日数

休業日数については、現実に休業した日数です。

給与所得者の場合には休業損害証明書に休業日数が記載されるため、把握が容易ですが、家事従事者の場合等のように休業日数を把握することが困難な場合があります。休業日数の把握が困難な場合には、休業期間の何割かを休業日数とすることがあります。

 

2 逸失利益

差額説の立場からすれば、逸失利益の損害額は収入の減少額ですが、逸失利益は将来にわたって発生するものであり、将来の収入の減少が現実にどの程度発生するか把握することは困難ですので、推計で計算することになります。

(1)後遺症逸失利益

後遺症逸失利益は、被害者の収入(基礎収入)が労働能力の低下の割合(労働能力喪失率)に応じて一定期間(労働能力喪失期間)減少するものと推定します。また、一時金払いの場合には現在価値に換算するため、中間利息を控除します。

そのため、後遺症逸失利益の金額は、「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で計算するのが原則です。

基礎収入額は、事故前の年収とするのが原則です。ただし、将来、事故前の収入額以上の収入を得られる蓋然性がある場合には、その金額が基礎収入額となります。また、家事従事者や若年者労働者の場合には賃金センサスの平均賃金額が基礎収入額となります。

労働能力喪失率は,自賠責保険の後遺障害等級の労働能力喪失率によるのが基本ですが、被害者の職業・年齢・性別、後遺症の部位・程度、事故前後の稼働状況、収入の減少等の事情から総合的に評価されます。

労働能力喪失期間は、症状固定時の年齢から67歳までの期間とするのが原則ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とします。また、若年者の場合は、18歳又は大学卒業予定時(大学卒業の蓋然性がある場合)の年齢から67歳までの期間が労働能力喪失期間となり、後遺症逸失利益を「平均賃金×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳又は大学卒業予定時の年齢までのライプニッツ係数)」の計算式で計算します。

また、むち打ち症の場合には症状が永続するかどうか分かりませんので、後遺障害等級12級の場合で5年から10年程度、14級の場合で5年程度に制限する例が多いです。

(2)死亡逸失利益

死亡逸失利益は、被害者が亡くなったことにより、将来得られたはずの利益(基礎収入)を一定期間(就労可能年数)、得られなくなった一方で、被害者は生きていれば発生していた生活費の負担を免れることになりますので、生活費を控除します。また、将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。

そのため、死亡逸失利益の金額は、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で計算するのが原則です。

基礎収入額についての考え方は、後遺症逸失利益の場合と基本的に同じですが、死亡逸失利益の場合には、年金収入(退職年金、老齢年金、障害年金等、被害者が保険料を拠出しているもの)の逸失利益が認められます。

生活費の控除率については、被害者の家族構成(被害者が一家の支柱かどうか、被扶養者の人数)や性別等により異なります。また、年金収入が逸失利益となる場合は稼働収入の逸失利益の場合と比較して生活費控除率を高くする傾向があります。

就労可能年数は、死亡時の年齢から67歳までの期間とするのが原則ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とします。また、若年者の場合は、18歳又は大学卒業予定時(大学卒業の蓋然性がある場合)の年齢から67歳までの期間が就労可能年数となりますので、死亡逸失利益の金額は「平均賃金×(1-生活費控除率)×(死亡時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳又は大学卒業予定時の年齢までのライプニッツ係数)の計算式で計算します。

 

三 収入が減少していない場合

 

1 休業損害

休業損害は収入を得ることができなかったことによる損害ですので、現実に収入が減少していない場合には休業損害が認められないのが原則です。

例えば、給与所得者が交通事故後も仕事を休まず、収入の減少がなかった場合には、痛みを堪えて働いていたとしても、基本的に休業損害は認められません。

ただし、事故後、有給休暇を利用した場合には収入の減少がなくても休業損害が認められます。

事故前、働いていなかった場合は収入の減少がないので、休業損害が認められないのが原則です。ただし、事故前に就職が決まっていたけれども、事故により働けなくなった場合等、就労する蓋然性があった場合には、休業損害が認められます。

 

2 逸失利益

差額説の立場からすれば、現実に収入の減少がなければ、逸失利益は認められないのが原則です。

もっとも、逸失利益は将来にわたって発生するものですから、請求した時点で収入が減少していなからといって、将来も収入が減少しないとはいえません。

そのため、収入が減少していなくても、後遺症により業務に支障が生じている場合、収入が減少しないことが、被害者が特別の努力や勤務先の特別な配慮による場合、昇給や昇格等で不利益な取扱を受けるおそれがある場合、転職や再就職で不利益な取扱を受けるおそれがある場合等、将来の収入減少につながる事情がある場合には後遺症逸失利益が認められます。

事故時は働いておらず、収入がない場合であっても、将来、就労する蓋然性がある場合には逸失利益が認められます。

 

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