取扱業務案内 遺留分減殺請求
一 遺留分とは
民法は、法定相続制度を定める一方、被相続人の意思を尊重して、被相続人が誰に財産を帰属させるか決めることができるようにするため遺言制度を設けております。
被相続人は遺言により、法定相続分と異なる相続分を指定したり、法定相続人以外の者に遺贈したりすることができるため、法定相続人が相続財産を取得することができない場合や取得できてもごく僅かの財産しか取得できない場合があり、遺言の内容によっては遺族の生活が守られなくなるおそれがあります。
そのため、民法は遺留分制度を設けており、兄弟姉妹以外の相続人には、遺言によっても侵害されない権利(「遺留分」といいます。)があり、遺言の内容が遺留分を侵害する場合、遺留分を侵害された相続人は遺留分減殺請求をすることができます。
相続法の改正(2019年7月1日施行)により、遺留分制度の内容が大きくかわりました。本ページのは改正前の制度についての説明ですので、ご注意ください。
二 遺留分減殺請求権
1 遺留分権利者
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分を有します(民法1028条)。
なお、子の代襲相続人、再代襲相続人も遺留分を有します(民法1044条は民法887条2項、3項を準用しています。)。
2 遺留分侵害額の計算方法
(1)遺留分割合
遺留分の割合は
①直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1
②その他の場合には、被相続人の財産の2分の1
となります(民法1028条)。
また、遺留分権利者が複数人いる場合、各遺留分権利者の遺留分は、上記の遺留分を相続分の原則にしたがって配分し計算します(民法1044条で民法900条が準用されています。)。
例えば、被相続人が夫で、法定相続人が妻、長男、長女で、遺言で長男が全財産を相続することになった場合、妻の遺留分割合は4分の1(法定相続分2分の1の2分の1)、長女の遺留分割合は8分の1(法定相続分4分の1の2分の1)となります。
(2)遺留分額
民法1029条1項は「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。」と規定しています。
そのため、各相続人の遺留分額の算定方法は以下の計算式のとおりです。
遺留分額=(積極財産額+贈与額-債務額)×遺留分割合
なお、民法1030条は、贈与は①相続開始前の1年間にしたもの、②贈与が1年前の日より前であっても、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものを遺留分額算定の基礎財産に算入するとしております。
また、民法1044条は特別受益についての民法903条を準用しており、特別受益がある場合、特段の事情がない限り、上記①②にかかわりなく、遺留分算定の基礎財産に算入されると解されております。
財産の評価については、相続財産開始時を基準時として評価します。
(3)遺留分侵害額
遺留分侵害額は、遺留分権利者の遺留分額から遺留分権利者が相続によって得た財産を控除し、その者が負担する相続債務額を加算して算定します。
また、遺留分権利者に特別受益がある場合、特段の事情がない限り特別受益の額を控除します。
そのため、遺留分侵害額の算定方法は以下の計算式のとおりです。
遺留分侵害額=遺留分額-相続によって得た財産+相続債務分担額-特別受益の額
3 遺留分減殺請求の対象と順序
(1)遺留分減殺請求の対象
遺贈や贈与により遺留分が侵害された場合には、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈や贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。
また、相続分の指定や分割方法の指定により遺留分が侵害された場合にも遺留分減殺請求ができると解されております。
(2)遺留分減殺請求の順序
「贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。」(民法1033条)
「遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」(民法1034条)
「贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。」(民法1035条)
死因贈与については、遺贈と同順位とみる見解と最も新しい贈与とみる見解があります。
相続分の指定や分割方法の指定については、遺贈と同順位で減殺の対象になるものと解されています。
減殺請求の対象となる目的物が複数ある場合、対象となる物件を選択することができるかどうかという問題がありますが、否定的に解されております。そのため、全物件につき一律に減殺請求することになります。
三 遺留分減殺請求の行使方法
1 遺留分減殺請求の意思表示
遺留分減殺請求は、遺留分権利者が遺留分を侵害する者に対する意思表示により効果が生じます。
2 遺留分減殺請求権を行使することができる期間
民法1042条は「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始のときから10年を経過したときも、同様とする。」と規定しております。
このように遺留分減殺請求権には行使することができる期間に制限があることから、いつ遺留分減殺請求をしたのか争いにならないようにするため、遺留分減殺請求の意思表示は内容証明郵便で行うことが一般的です。
四 遺留分減殺請求の効果と価額弁償
遺留分減殺請求は意思表示によりただちに効果を生じ、遺留分減殺請求により遺留分を侵害する行為は遺留分を侵害する限度で効力を失い、目的物は減殺請求者に帰属します(形成権・物権的効果説)。
そのため、遺留分減殺請求がなされた場合、現物返還が原則ですし、共有関係になった場合には共有物分割手続をすることになります。
もっとも、遺留分減殺請求権を行使された者は、遺留分権利者に対し、価額による弁償をすることで、返還を免れることができます(民法1041条)。
価額弁償額は、現実に弁償がなされるときの目的物の価額です。訴訟の場合は口頭弁論終結時の価額となります。
五 遺留分減殺請求の手続
遺留分減殺請求の手続としては
①内容証明郵便で遺留分減殺請求の意思表示をする
②遺留分権利者と遺留分侵害者との間で交渉する
③交渉がまとまらなければ家庭裁判所で調停する
④調停がまとまらなければ地方裁判所で訴訟をする
という流れが一般的です。
六 遺留分減殺請求でお悩みの方へ
遺留分は遺言によっても侵害されない権利ですから、遺言により財産を取得することができなかった遺族の方は遺留分減殺請求を検討すべきです。
他方、遺言により財産を取得しても、遺留分減殺請求により財産の処分や利用に支障が生じることから、遺留分減殺請求をされた方はこれを放置しておくべきではありません。
遺留分減殺請求でお悩みの方はご相談ください。