相続放棄(相続したくない場合の手続)

2014-07-21

一 相続放棄とは

亡くなったご家族に多額の借金があった場合、どうなるでしょうか。

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するため(民法896条本文)、相続人は被相続人の積極財産のみならず、被相続人の負債も承継します。

そのため、被相続人の積極財産よりも、負債の方が多い場合には、相続人は困ったことになります。

そのような場合、相続人は、相続放棄をすることで、被相続人の負債の承継を免れることができます。

なお、被相続人に多額の負債があるけれども、相続財産を取得したいという場合には、限定承認をすることも考えられます。

限定承認とは、相続人が、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることです(民法922条)。

これに対し、無限に被相続人の権利義務を承継することを「単純承認」といいます(民法920条)。また、一定の事由がある場合には単純承認したものをみなされます。この場合を「法定単純承認」といいます(民法921条)。

 

二 相続放棄の手続

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条)。

具体的には、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述書を提出することになります(家事事件手続法201条1項、5項)。家庭裁判所は相続放棄の要件を満たしていると判断すれば、相続放棄の申述受理の審判をし、要件を満たしていなければ、申述を却下します。

 

三 相続放棄の効果

相続放棄をした者は、その相続に関して、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

そのため、相続放棄をした者は、被相続人の負債を承継することはありませんが、積極財産を承継することもできません。

相続放棄により初めから相続人とならなかったものとみなされることから、他の相続人が相続することになります。

同順位の相続人がいない場合には後順位の者が相続人になります(例えば、子供の全員が相続放棄した場合には、次順位の被相続人の父母などの直系尊属が相続人となります。)。

なお、相続の放棄をした者は、放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理をしなければなりません(民法940条1項)。

また、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されないと相続放棄したとはいえませんが、受理されたとしても、相続放棄が有効ということが確定されるわけではありません。相続放棄の申述受理後に相続放棄の有効性を巡って争われることがあります。

 

四 相続放棄ができなくなる場合

1 相続放棄をすることができる期間(熟慮期間)

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかをしなければなりません(民法915条1項本文)。この期間を「熟慮期間」といいます。

撤回は認められないため(民法919条1項)、単純承認又は限定承認を選択すると、原則として熟慮期間内であっても相続放棄はできなくなります。ただし、詐欺、強迫による取消等、相続の承認や放棄の取消ができる場合があります(民法919条2項、3項、4項)。

また、限定承認も放棄もしないで熟慮期間が経過すると単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。

そのため、熟慮期間を経過すると、相続放棄はできなくなってしまいます。

ただし、熟慮期間については、家庭裁判所に請求することで伸長することができます(民法915条1項但書)。

2 相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合(民法921条1号)

相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合(保存行為や民法602条の短期賃貸借の場合を除きます。)には、単純承認をしたものとみなされます。

3 相続放棄後に相続財産の隠匿等をした場合(民法921条3号)

相続人が相続の放棄をした場合であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私に費消し、又は悪意でこれを相続財産の目録に記載しなかったときは、単純承認したものとみなされます(ただし、相続放棄により相続人となった者が相続の承認をした後はこの限りではありません。)。

 

五 相続放棄をお考えの方へ

亡くなったご家族に多額の借金があった場合には、相続放棄をすることが考えられますが、相続放棄ができる期間には制限がありますので、相続放棄をお考えの方はお早めに手続をとることをお勧めいたします。

相続放棄をお考えのかたはご相談ください。

 

 

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