【民事訴訟】当事者尋問(本人尋問)

2018-12-19

民事訴訟の証拠調手続として,①書証,②人証(証人尋問,当事者尋問),③鑑定,④検証があります。
ここでは,当事者尋問(本人尋問ともいいます。)について説明します。

 

一 当事者尋問とは

当事者尋問は,証人尋問同様,当事者が経験した事実について当事者本人を尋問し,その供述を証拠とするものです。
裁判所は,申立て又は職権で,当事者本人を尋問することができます(民事訴訟法207条1項)。
また,当事者の親権者,成年後見人,法人の代表者等,訴訟において当事者を代表する法定代理人についても当事者尋問の規定が準用されます(民事訴訟法211条,民事訴訟規則128条)。

 

二 当事者尋問の基本的な流れ

当事者尋問は,当事者双方の主張が出揃い,争点及び証拠の整理が終了した後に,①当事者尋問の申出(証拠申出書,尋問事項書,陳述書の提出),②人証の採否の決定,③同行または呼出による当事者の出頭,④人定質問(人違いでないことの確認),⑤宣誓,⑥尋問(主尋問,反対尋問,補充尋問)という流れで行うのが通常です。
なお,証人尋問と当事者尋問を行うときは,まず証人尋問を行い,次いで当事者尋問を行うのが原則ですが,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,先に当事者尋問を行うこともできます(民事訴訟法207条2項)。

 

三 証人尋問との違い

当事者尋問の手続については,証人尋問の規定が多く準用されていますが(民事訴訟法210条,民事訴訟規則127条),証人尋問とは,①職権での尋問も認められること(民事訴訟法207条1項前段),②宣誓が任意であること(民事訴訟法207条1項後段),③不出頭等の効果(民事訴訟法208条),④宣誓した当事者が虚偽陳述をした場合の制裁内容(民事訴訟法209条),⑤勾引の規定(民事訴訟規則111条)の適用がないこと(民事訴訟規則127条),⑥隔離尋問の規定(民事訴訟規則120条)の適用がないこと(民事訴訟規則127条),⑦書面尋問の規定(民事訴訟法205条,民事訴訟規則124条)の適用がないこと(民事訴訟法210条,民事訴訟規則127条。ただし,簡易裁判所では当事者本人についても書面尋問ができます(民事訴訟法278条)。)が違います。

 

四 集中証拠調べ

証人尋問及び当事者尋問は,できる限り,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければなりません(民事訴訟法182条,民事訴訟規則101条)。
また,証人及び当事者本人の尋問の申出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。

 

五 尋問の申出

1 証拠申出書の提出

当事者尋問するにあたって,当事者は当事者尋問の申出をします。
当事者尋問の申出は証拠申出書を提出して行います。
証拠申出書には,①人証の表示(民事訴訟規則106条),②尋問予定時間(民事訴訟規則106条),③同行か呼出しか,④証明すべき事実(民事訴訟法180条1項,民事訴訟規則99条1項)を記載します。
また,当事者尋問の申出をするときは同時に尋問事項書2通を提出しなければなりません(民事訴訟規則107条)。1通は裁判所用,他の1通は呼出状添付用です。尋問事項書は証拠申出書に添付します。

 

2 陳述書の提出

尋問の申出をする際,当事者本人の陳述書を作成して提出することが通常です。
陳述書は,主尋問で聞く予定のことについて記載します。
陳述書は主尋問を代替,補完するものであり,尋問時間を短縮することができますし,主尋問で相手方当事者がどのようなことを述べるのか予想できますので,反対尋問の準備にも役立ちます。

 

3 人証の採否

当事者尋問の申出に対し,裁判所は当事者本人を採用するか決定します。
当事者本人を採用する場合には,尋問時間や順序等も決めます。
また,呼出が必要な場合には,呼出状が送られます。

 

六 宣誓

当事者に宣誓させるかどうかは裁判所の裁量に委ねられていますが(民事訴訟法207条1項後段),宣誓させるのが通常です。
宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは,裁判所の決定で過料に処せられることがあります(民事訴訟法209条)。なお,虚偽の陳述をした当事者が訴訟係属中に虚偽であることを認めたときは,裁判所は事情により過料の決定を取り消すことができます(民事訴訟法209条3項)。

 

七 尋問の順序

当事者尋問は,①主尋問(尋問の申出をした当事者の尋問),②反対尋問(他の当事者の尋問),③再主尋問(尋問の申出をした当事者の再度の尋問),④補充尋問(裁判長の尋問)の順序でするのが原則です(民事訴訟法210条,202条1項,民事訴訟規則127条,113条1項)。また,当事者は,裁判長の許可を得て,更に尋問することができます(民事訴訟規則127条,113条2項)。
ただし,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて順序を変更することができます(民事訴訟法210条,202条2項)。
また,裁判長は,必要があると認めるときは,いつでも自ら尋問したり(介入尋問),当事者に尋問を許すことができますし(民事訴訟規則127条,113条3項),陪席裁判官は,裁判長に告げて尋問することができます(民事訴訟規則127条,113条4項)。

なお,当事者が自分に対する尋問を行う場合,その当事者に訴訟代理人がいるときは,その訴訟代理人が尋問を行いますが,本人訴訟のときは,裁判長が尋問を行います。

 

八 尋問の方法

1 一問一答式の原則

質問は,できる限り,個別的かつ具体的にしなければなりません(民事訴訟規則127条,115条1項)。

 

2 尋問事項

①主尋問は,立証すべき事項及びこれに関する事項について,②反対尋問は,主尋問に現れた事項及びこれに関する事項,証言の信用性に関する事項について,③再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(民事訴訟規則127条,114条1項)。
これらの事項以外の質問については,相当でないと認められるときは,申立て又は職権により制限されることがあります(民事訴訟規則127条,114条2項)。

 

3 禁止される質問

当事者は,①当事者を侮辱し,又は困惑させる質問,②誘導質問,③既にした質問と重複する質問,④争点に関係のない質問,⑤意見の陳述を求める質問,⑥当事者が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問をすることはできません。ただし,②から⑥については正当な理由がある場合は質問することができます(民事訴訟規則127条,115条2項)。
違反する場合には,申立て又は職権により質問が制限されることがあります(民事訴訟規則127条,115条3項)。

 

4 書類に基づく陳述の禁止,文書等の利用

当事者は,裁判長の許可を受けた場合を除き,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法210条,203条)。

当事者は,裁判長の許可を得て,文書等を利用して当事者本人に質問することができます(民事訴訟規則127条,116条1項)。文書等が証拠調べをしていないものであるときは,相手方の異議がないときを除き,質問前に相手方に閲覧する機会を与えなければなりません(民事訴訟規則127条,116条2項)。裁判長は調書への添付その他必要があると認めるときは,当事者に対し,文書等の写しの提出を求めることができます(民事訴訟規則127条,116条3項)。

 

5 対質

裁判長は,必要があると認めるときは,当事者本人と他の当事者本人又は証人との対質を命ずることができます(民事訴訟規則126条)。
対質を命じたときは,その旨調書に記載されます(民事訴訟規則127条,118条2項)。
また,対質を行うときは,裁判長がまず尋問することができます(民事訴訟規則127条,118条3項)。

 

6 文字の筆記等

裁判長は,必要があると認めるときは,当事者に文字の筆記その他の必要な行為をさせることができます(民事訴訟規則127条,119条)。

 

7 尋問を受ける当事者への配慮

尋問を受ける当事者への配慮の観点から,①付添い(民事訴訟法210条,203条の2,民事訴訟規則127条,122条の2),②遮蔽措置(民事訴訟法210条,203条の3,民事訴訟規則127条,122条の3),③テレビ会議システムの利用(民事訴訟法210条,204条,民事訴訟規則127条,123条),④傍聴人の退廷(民事訴訟規則127条,121条)がなされることがあります。

 

九  異議

当事者は,①民事訴訟規則113条(尋問の順序)2項,3項の裁判長の許可,②民事訴訟規則114条(質問の制限)2項の裁判長の制限,③民事訴訟規則115条(質問の制限)3項の裁判長の制限,④民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)1項の裁判長の許可について,異議を述べることができます(民事訴訟規則127条,117条1項,民事訴訟法210条,202条3項)。
異議に対して,裁判所は決定で直ちに裁判しなければなりません(民事訴訟規則127条,117条2項)。

 

十 不出頭等の効果

当事者本人を尋問する場合に,その当事者が,正当な理由がなく,出頭しない場合,宣誓を拒んだ場合,陳述を拒んだ場合には,裁判所は,尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができます(民事訴訟法208条)。

 

十一 尋問の結果について

1 口頭弁論調書への記載

当事者の陳述は口頭弁論調書に記載されます(民事訴訟規則67条1項3号)。
ただし,裁判長の許可があったときは,当事者本人の陳述を録音テープ等に記録し,調書の記載に代えることができますが,裁判長が許可をする際に当事者は意見を述べることができます(民事訴訟規則68条1項)。当事者の申し出があるときは当事者本人の陳述を記載した書面を作成しなければなりません。訴訟が上訴審に係属中の場合に,上訴裁判所が必要があると認めたときも同様です(民事訴訟規則68条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部となります。

 

2 簡易裁判所の場合

簡易裁判所の事件では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て当事者本人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に当事者本人の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部とならないので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。そのため,当事者は,録音テープ等を複製してもらい,自分で反訳書面を作成して,反訳書面を書証として提出することになります。

 

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