Archive for the ‘民事事件’ Category

【民事訴訟】損害賠償請求事件(名誉毀損)

2014-12-05

誹謗中傷する文書をまかれたり,インターネットのブログで誹謗中傷する記事をかかれたりして名誉を毀損された場合,被害者としてはどのような対応ができるでしょうか。

名誉毀損行為は,刑事事件の問題(名誉毀損罪(刑法230条))となりますが,損害賠償請求等,民事上の問題にもなります。

弁護士に相談や依頼するケースは,主に名誉毀損した者に対する損害賠償請求等の民事上の問題です。

そこで,名誉毀損された場合の損害賠償請求について,簡単に説明します。

 

一 名誉毀損とは

1 名誉とは

「名誉」については,以下の3つの意義があるとされております。

①内部的名誉

自己や他人の評価から離れて,客観的に人の内部に備わっている価値そのもの

②外部的名誉

人に対し社会が与える評価

③名誉感情

人が自分の価値について有している意識や感情

 

これらのうち,民事事件における「名誉」は,外部的名誉であるといわれております。

(ただし,名誉感情を害する行為がなされた場合に,事案の内容によっては不法行為が成立する余地があります。)

 

2 名誉毀損

名誉毀損とは,外部的名誉を毀損することであり,「社会的な評価を低下させること」をいいます。

事実を摘示して社会的な評価を低下させた場合(事実摘示による名誉毀損)とある事実を前提として意見又は論評を表明することにより社会的な評価を低下させた場合(意見又は論評の表明による名誉毀損)があります。

 

3 名誉毀損の判断基準

ある表現がどのような意味内容を有するか,どのように受け取られるかは,読み手や読み方によって異なりますが,名誉毀損にあたるかどうかは,一般的な読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます。

そのため,ある表現がどのような意味内容を有しているか,一般的な読者の普通の注意や読み方を基準として解釈されますし,ある表現が人の社会的な評価を低下させるものかどうか,一般的な読者の普通の注意や読み方を基準として,判断されます。

 

4 損害

①慰謝料

社会的評価が低下したこと及びそれによる精神的苦痛

法人の場合は社会的評価が低下したことによる無形の損害

について慰謝料請求ができます。

②財産上の損害

財産上の損害がある場合(例えば,名誉毀損されたことにより取引先を失った場合)には,損害賠償請求が認められるか問題となります。

因果関係の立証ができるかどうかの問題があり,損害項目として主張するのではなく,慰謝料算定において考慮される事情となることもあります。

③弁護士費用

不法行為に基づく損害賠償訴訟では,弁護士費用が一定額認められます(概ね他の損害額の1割程度)。

 

5 名誉毀損の損害賠償請求権の要件事実

名誉毀損の損害賠償請求権は,不法行為に基づく損害賠償請求権です。

以下の①から⑤の事実がある場合に発生します。

 

① 社会的評価を低下させる事実の流布

② ①による社会的評価の低下

③ 故意または過失

④ 損害の発生及び損害額

⑤ ③と④との因果関係

 

二 名誉毀損の成立阻却事由

1 表現の自由との関係

憲法21条は表現の自由を保障しております。

そのため,人の社会的評価を低下させる表現であっても,一定の事由がある場合には,保護され,名誉毀損は成立しません。

 

2 事実の摘示による場合

(1)真実性の抗弁

事実の摘示により人の社会的評価を低下させた場合であっても,

①表現行為が,公共の利害に関する事実についてのものであったこと(事実の公共性)

②行為の目的が,もっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)

③摘示された事実の重要な部分が真実であること

を行為者が主張,立証した場合には,行為者は不法行為責任を負いません。

(2)相当性の抗弁

摘示事実の重要な部分が真実であることが立証できなかったとしても,

①表現行為が,公共の利害に関する事実についてのものであったこと(事実の公共性)

②行為の目的が,もっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)

③行為者が事実を真実と信ずるにつき相当の理由があったこと

を行為者が主張,立証した場合には,行為者は不法行為責任を負いません。

 

3 意見・論評の表明による場合(公正な論評の法理)

意見・論評による意見表明により人の社会的評価を低下させた場合であっても

①表現行為が,公共の利害に関する事実についてのものであったこと(事実の公共性)

②行為の目的が,もっぱら公益を図るものであったこと(目的の公益性)

③意見・論評の前提事実の重要な部分が真実であること

(又は,意見・論評の前提事実につき,行為者が真実を信ずるにつき相当の理由があったこと)

④表現内容が人身攻撃におよぶ等意見・論評としての域を逸脱したものでないこと

を行為者が主張,立証した場合には,行為者は不法行為責任を負いません。

三 インターネット上の投稿による名誉毀損の場合

インターネット上の掲示板等で名誉を毀損する投稿がなされた場合,被害を受けた人は,投稿者に対し損害賠償請求をすることができます。

その場合,誰が投稿をしたのか分かっていれば,その人に対し損害賠償請求すればよいのですが,匿名で投稿がなされた場合には,投稿をした人が誰か特定する必要があります。

そのような場合,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(いわゆる「プロバイダ責任制限法」)の発信者情報開示請求を行うことが考えられます。

発信者情報開示請求により,投稿者を特定することができれば,その者に対し損害賠償請求をすることができます。

 

【民事訴訟】消滅時効には気をつけて

2014-11-11

債権回収や損害賠償請求において,債権の成立時から時間が経っている場合には,消滅時効が問題となることがよくあります。

消滅時効とは,一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度であり,債権者からすれば債権が行使できなくなりますし,債務者からすれば債務を免れますので,消滅時効が成立するかどうかは当事者にとって,非常に重要な問題となります。

そこで,消滅時効について簡単にご説明します。

※令和2年4月1日に施行された改正民法により,消滅時効制度の内容が変わりました。このページは改正前の制度について説明しておりますのでご注意ください。

1 消滅時効とは

時効には,取得時効と消滅時効がありますが,このうち消滅時効とは,一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度です。

 

時効制度は,①長期間にわたる事実状態を尊重し,法的安定性を図ること,②時の経過により,証拠が散逸し,立証が困難となることの救済,③権利の上に眠る者は保護に値しないことが根拠であるとされております。

 

2 消滅時効の対象となる権利

①債権,②債権・所有権以外の財産権です。

 

3 消滅時効の要件

消滅時効は,①時効期間の経過と,②時効の援用が要件となります。

(1)時効期間の経過

時効期間については,権利を行使することができるときから起算(民法166条1項)します。

例えば,期限がある場合には,期限が到来した時から進行を開始しますし,停止条件が付いている場合には条件が成就したときから進行を開始します。

また,消滅時効期間は,初日は不算入として計算します(民法140条)。

時効期間については,原則として,債権は10年債権・所有権以外の財産権は20年ですが(民法167条),これより短い時効期間も規定されています(民法169条から174条)。

また,不法行為の時効期間は3年(民法724条),商事債権の時効期間は5年(商法522条)と規定されている等,民法その他の法令に,時効期間に関する特別の規定がありますので注意が必要です。

(2)時効の援用

消滅時効の効果は,時効期間の経過によって発生するのではなく,当事者が時効を援用することによって生じます(民法145条)。

当事者の時効の援用が要件とされているのは,時効による利益を受けるかどうかを当事者の意思に委ねる趣旨です。

時効を援用できる「当事者」は,権利の消滅により直接利益を受けるものに限られております。

債務者のほか,保証人や物上保証人等も援用ができます。

 

4 消滅時効の効果

時効の効力は,起算日にさかのぼります(民法144条)。

つまり,債務の元本が時効により消滅した場合には,さかのぼって債務が存在しなかったことになるので,利息や遅延損害金の支払義務もなかったことになります。

 

5 時効の中断

権利が消滅しないようにするため,時効の中断の制度があります。

(1)時効の中断事由

消滅時効の中断事由として,①請求(民法147条1号,民法149条から153条),②差押,仮差押え又は仮処分(民法147条2号,民法154条,民法155条),③承認(民法147条3号,民法156条),④その他(民法290条等)があります。

①請求には,裁判上の請求(訴訟(民法149条),支払督促(民法150条),和解・調停の申立て(民法151条),破産手続参加,民事再生手続参加等(民法152条))と,催告(民法153条)があります。

催告とは,例えば,内容証明郵便で弁済しろと請求することをいいますが,催告をしても,6か月以内に,裁判上の請求や,差押え,仮差押え,仮処分をしなければ時効中断の効力は生じないので(民法153条),注意してください。

③承認は,債務者が債務の存在を認めることです。

債務者が債務の存在を認めたり,一部の返済をしたりすることが承認に当たります。, 債権者としては,後で債務者から時効を主張されたときに備えて,債務者が承認した証拠をのこしておくことが考えられます。

(2)時効中断の効果

時効中断の効果は,当事者(中断行為をした人とその相手方)とその承継人(時効の対象となる権利を譲り受けた人や相続人)との間においてのみ効力を有します。

また,時効が中断すると,中断事由が終了したときから,新たに進行を始めます(民法157条1項)。裁判上の請求によって時効が中断した場合には,裁判が確定したときから,新たに進行を始めます(民法157条2項)。なお,確定判決(裁判上の和解等確定判決と同一の効力を有するものも含む。)によって確定した権利については,短期消滅時効にかかるものであっても,時効期間は10年となります(民法174条の2第1項)。

 

6 時効の停止

未成年者や被後見人に法定代理人がいない場合等,時効の中断をすることが困難な事由があるときに,一定期間,時効の進行が停止します(民法158条から161条)。

時効の中断とは異なり,時効期間が振り出しに戻るわけではありません。時効が停止されている一定期間だけ,時効期間が延びることになります。

 

7 時効利益の放棄

時効完成前には,時効の利益を放棄することはできませんが(民法146条),時効完成後に放棄することは可能です。

また,時効完成後に債務者が債務を承認すると,時効完成を知らなかったとしても,信義則上,その債務について時効を援用することができなくなってしまいます。

なお,債務者が時効利益を放棄したとしても,その効果は保証人や物上保証人には及ばないと解されています。

また,放棄後に,新たな時効の進行が始まると解されています。

 

8 除斥期間

消滅時効に類似する制度として,除斥期間があります。

除斥期間とは,権利の行使期間であり,一定期間内に権利行使をしないと権利が消滅してしまいますが,①中断がない,②援用は不要,③権利の発生時から起算する,④権利消滅の効果は遡及しない点で消滅時効と異なります。

例えば,不法行為による損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから,3年で消滅時効にかかりますが,不法行為の時から20年を経過すると除斥期間により権利が消滅します(民法724条)。

訴状の書き方

2014-09-11

民事訴訟を提起するには、原則として訴状を提出しなければなりません(民事訴訟法133条1項)。

民事訴訟では、裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることはできませんし(民事訴訟法246条 処分権主義)、事実の主張や証拠の収集は当事者の責任に委ねられておりますので(弁論主義)、原告が訴状においてどのような請求をするか、どのような主張をするのかということは、訴訟において非常に重要です。

訴状の書き方については、民事訴訟法や民事訴訟規則に規定されておりますので、簡単に説明します。

 

一 訴状の記載事項

民事訴訟法や民事訴訟規則は、訴状の記載事項について以下のように規定しています。

 

1 必要的記載事項

①当事者及び法定代理人

②請求の趣旨及び原因

を記載しなければなりません(民事訴訟法133条2項)。

 

請求の趣旨とは、原告が訴訟において求める請求の内容及び判決の形式です。

例えば、貸金返還請求事件の請求の趣旨は「被告は、原告に対し、金○○○○円を支払え」ですし、土地明渡請求事件の請求の趣旨は「被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地を明け渡せ」(訴状に物件目録を添付します。)です。

 

請求の原因とは、請求を特定するのに必要な事実のことです。

法律効果が発生するには、その要件となる事実(「要件事実」といいます。)の存在が必要であり、訴状において、原告は、請求権の発生を基礎づける要件事実を、請求の原因として主張しなければなりません。

例えば、貸金返還請求事件の請求の原因として記載すべき要件事実は、

ⅰ 金銭の返還の合意

ⅱ 原告が被告に金銭を交付したこと

ⅲ 返済時期の合意

ⅳ 返還時期が到来したこと

です(なお、利息や遅延損害金を請求する場合には、別に利息や遅延損害金発生の要件事実を主張します。)。

裁判所は当事者の主張しない要件事実を認定することはできませんので(弁論主義)、要件事実の主張がないと、法律効果が発生せず、請求が認められなくなってしまいます。

要件事実の主張し忘れがないよう、ご注意ください。

 

2 実質的記載事項

訴状には、②の請求の趣旨及び原因(請求の特定するのに必要な事実)を記載するほか、

③請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、

④立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠

を記載しなければなりません(民事訴訟規則53条1項)。

その際、できる限り、請求を理由づける事実についての主張と当該事実に関連する事実についての主張とを区別して記載しなければなりません(民事訴訟規則53条2項)。

 

3 その他の記載事項

⑤当事者の氏名又は名称・住所、代理人の氏名・住所(民事訴訟規則2条1項1号)

⑥事件の表示(民事訴訟規則2条1項2号)

⑦附属書類の表示(民事訴訟規則2条1項3号)

⑧年月日(民事訴訟規則2条1項4号)

⑨裁判所の表示(民事訴訟規則2条1項5号)

⑩当事者又は代理人の記名押印(民事訴訟規則2条1項)

⑪原告又は代理人の郵便番号、電話番号、ファックス番号(民事訴訟規則53条4項)

⑫送達場所、送達受取人(民事訴訟法104条1項、民事訴訟規則41条)

 

二 訴状の提出方法

訴えを提起するにあたっては、

Ⅰ 訴状(裁判所用の正本1通と被告用の副本を被告の人数分 民事訴訟規則58条1項)

Ⅱ 登記事項証明書等、訴状の添付書類(民事訴訟規則55条1項)

Ⅲ 書証の写し(裁判所分と被告の人数分 民事訴訟規則55条2項)

Ⅳ 訴訟委任状(代理人がいる場合  民事訴訟規則23条1項)

Ⅴ 収入印紙(訴額によって決められています。)

Ⅵ 郵便切手(裁判所によって異なります)

を、裁判所の事件受付に持参又は郵送します。

 

三 訴状の記載例

 

訴   状

○○年○月○○日  ←⑧

○○地方裁判所 御中                       ←⑨

原告訴訟代理人弁護士   ○○ ○○ ○印 ←⑩

 

〒○○○-○○○○  ○○県○○市○○ ○丁目○○番○○号        ←①⑤

原  告   ○○ ○○

 

〒○○○-○○○○  ○○県○○市○○ ○丁目○○番○○号         ←⑤⑪

○○法律事務所(送達場所)                       ←⑫

上記原告訴訟代理人弁護士  ○○ ○○

電 話  ○○○-○○○-○○○○         ←⑪

FAX  ○○○-○○○-○○○○

 

〒○○○-○○○○  ○○県○○市○○ ○丁目○○番○○号         ←①⑤

       被  告   ○○ ○○

 

○○請求事件                                                      ←⑥

訴訟物の価額       ○,○○○,○○○円

貼用印紙額          ○○,○○○円             ←Ⅴ

 

第1 請求の趣旨                                                    ←②

1 被告は、原告に対し、金○○○万円及びこれに対する平成○年○月○日より支払い済みまで年○分の割合による金員を支払え

2 訴訟費用は被告の負担とする

との判決及び仮執行宣言を求める。

 

第2 請求の原因                                                       ←②③

 

第3 関連事実                          ←④

 

証 拠 方 法                           ←④

1 甲第1号証   ○○○○

2 甲第2号証   ○○○○

附 属 書 類                   ←⑦

1 訴状副本                      1通            ←Ⅰ

2 甲号証写し                    各2通            ←Ⅲ

3 訴訟委任状                     1通            ←Ⅳ

どこの裁判所に訴えればいいのか~管轄

2014-09-04

裁判所には、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所がありますし、地域によって、東京地方裁判所、さいたま地方裁判所、横浜地方裁判所等様々あります。

例えば、当事務所付近でみても、板橋区、練馬区を管轄する裁判所は、東京地方裁判所・東京家庭裁判所・東京簡易裁判所ですが、和光市、朝霞市、新座市、志木市を管轄する裁判所は、さいたま地方裁判所・さいたま家庭裁判所・さいたま簡易裁判所となり、富士見市、ふじみ野市、川越市を管轄する裁判所は、さいたま地方裁判所川越支部・さいたま家庭裁判所川越支部・川越簡易裁判所となります。

このように、様々な裁判所があるため、民事訴訟をしようとお考えの方にとって、どこの裁判所に訴えればいいのか、分かりづらいと思います。

また、相手方が遠方に住んでいる場合、遠方の裁判所に訴えなければならないとすると、裁判所に行くのに費用と時間がかかりますので、訴訟をする場合、ご自身の近くの裁判所で裁判をしたいと考えるでしょう。

しかし、訴訟の提起は、どの裁判所にでもできるわけではなく、管轄のある裁判所にしなければなりません。

そこで、民事訴訟を提起する場合の管轄について簡単に説明します。

 

 一 事物管轄

民事訴訟を提起する場合、訴訟の目的の価額(「訴額」ともいいます。訴えで主張する利益によって算定されます。)によって、簡易裁判所から地方裁判所のいずれかになります。

第一審裁判所が簡易裁判所になるか地方裁判所になるかの分担のことを事物管轄といいます。

訴額が140万円以下の場合  簡易裁判所
それ以外の場合  地方裁判所

なお、不動産に関する訴訟については、訴額が140万円以下であっても地方裁判所に提起することができます。

 

二 土地管轄

1 普通裁判籍

訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属します(民事訴訟法4条1項)。

被告が個人の場合、普通裁判籍は①住所、②日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所、③日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所地です(民事訴訟法4条2項)。

被告が法人の場合、普通裁判籍は①主たる事務所又は営業所の所在地、②それらがない場合には主たる業務担当者の住所です(民事訴訟法4条4項)。

2 特別裁判籍

被告の普通裁判籍以外の地を管轄する裁判所に提起することができる場合があります(民事訴訟法5条から7条)。

例えば、

①財産上の訴えは、義務履行地(民事訴訟法5条1号)

②不法行為に関する訴えは、不法行為があった地(民事訴訟法5条9号)

③不動産に関する訴えは、不動産の所在地(民事訴訟法5条12号)

を管轄する裁判所に訴えを提起することができます。

また、一つの訴えで数個の請求をする場合には、一つの請求について管轄権を有する裁判所に訴えを提起することができます。ただし、原告または被告が複数の訴えについては、訴訟の目的である権利又は義務が共通の場合、同一の事実上及び法律上の原因に基づく時に限ります(民事訴訟法7条)。これを関連裁判籍といいます。

 

三 合意管轄

当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができます(民事訴訟法11条1項)。

ただし、合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関するものであり、かつ書面でしなければなりません(民事訴訟法11条2項)。

合意管轄については、①特定の裁判所に専属的に管轄権を生じさせる場合と②法で定める管轄のほかに特定の裁判所に管轄権を付加する場合があります。

 

四 応訴管轄

原告が管轄違いの裁判所に訴えを提起した場合に、被告が異議を唱えることなく応訴(本案について弁論または弁論準備手続において申述)した場合には、裁判所は管轄権を有します(民事訴訟法12条)。

 

五 移送

管轄違いがある場合には、原則として管轄裁判所に移送されます(民事訴訟法16条)。

また、管轄のある裁判所に訴訟提起された場合であっても、遅滞を避けるため等一定の場合には移送されることがあります(民事訴訟法17条から19条)。

 

六 まとめ

以上のように、原則として、被告の住所地(被告が法人の場合には主たる事業所または営業所)を管轄する簡易裁判所(訴額140万円以下の場合)または地方裁判所に民事訴訟を提起することになりますが、場合により、それ以外の裁判所に訴訟提起することができます。

例えば、財産上の訴えについては、義務履行地も管轄が認められるところ、持参債務(債権者の住所地で弁済しなければならない債務)の場合には、債権者である原告の住所地を管轄する裁判所に訴訟提起することができます。

そのため、相手方が遠方に住んでいる場合であっても、近くの裁判所に訴訟提起することができる場合がありますので、どこの裁判所に訴訟提起できるかよく検討することをお勧めします。

また、訴えられた側としても、遠方の裁判所から呼び出しを受けた場合には、移送申立をすることで近くの裁判所に移送が認められる可能性があります。

どうしても遠方の裁判所で裁判しなければならない場合には、自ら裁判所に行く以外に、弁護士に依頼することが考えられます。弁護士に依頼した場合には、本人尋問等必要な場合を除き、当事者は裁判所に行かなくてすみます。

弁護士に依頼する場合、ご自身の近くの弁護士に依頼すると、通常、交通費等の実費のほか、日当がかかりますので、裁判所の近くの弁護士に依頼することを検討されてもいいでしょう。

遠方の弁護士に依頼する場合には、最低でも一度は、その弁護士に会いに行くことにはなりますが、依頼した後は、電話、FAX、手紙、メール等で打ち合わせができます。

民事訴訟の手続の流れ

2014-08-29

民事訴訟を起こそうとお考えの方や、民事訴訟を起こされた方は、民事訴訟がどのような手続で進むのか気になると思います。

民事訴訟の一般的な手続の流れを、簡単に説明します。

 

一 訴訟の提起

訴訟の提起は、訴える者(「原告」といいます。)が、裁判所に訴状を提出して行います(民事訴訟法133条1項。ただし、簡易裁判所には、口頭で訴えを提起することもできます(民事訴訟法271条)。)。

また、訴状の提出の際には、①訴状の副本(被告に送達するため、被告の人数分)、②書証の写し(裁判所分と被告の人数分)、③収入印紙、④郵便切手等もあわせて提出します。

また、訴訟の提起は、どこの裁判所にでもできるわけではなく、管轄のある裁判所にしなければなりません。

 

二 訴状の送達

裁判所書記官は、訴えられた者(「被告」といいます。)に訴状の副本を送達します(民事訴訟法138条1項、98条2項)。

送達不能の場合には、訴状は却下されてしまいますが(民事訴訟法138条2項)、被告が訴状の受け取りを拒む場合には、付郵便送達の方法(民事訴訟法107条)がありますし、被告の所在不明の場合には、公示送達の方法(民事訴訟法110条から113条)があります。

また、書証の写しや、第1回の口頭弁論期日の呼出状も被告に送達されます。

 

三 答弁書の提出

被告は、訴状に反論しなければ、訴状の内容を認めたことになってしまいます。

そこで、被告は、訴状に記載された請求の趣旨に対する答弁や訴状に記載された事実の認否、抗弁事実等を書面(「答弁書」といいます。)に記載して、書証の写しとともに裁判所に提出します。

また、被告側は、答弁書の副本等を原告側に直送します。

 

四 第1回口頭弁論期日

口頭弁論とは、公開の法廷で、裁判所が直接当事者双方の口頭による弁論を聴く手続のことです。

第1回口頭弁論期日では、訴状の陳述、答弁書の陳述が行われます。

第1回期日に、当事者の一方が欠席した場合、その者が提出した訴状又は答弁書は陳述されたものとして扱われます(「擬制陳述」といいます。民事訴訟法158条)。

また、被告が、事前に答弁書を提出せず、第1回期日に欠席した場合には、公示送達の場合による呼び出しの場合を除いて、被告は原告の主張事実を自白したものとみなされ(「擬制自白」といいます。民事訴訟法159条3項、1項)、裁判所は弁論を終結して欠席判決をすることができます(民事訴訟法254条1項1号)。

欠席判決の場合、原告の請求がそのまま認容されるのが通常です。

 

五 第1回口頭弁論期日後の手続

第1回口頭弁論期日で終結する場合を除き、口頭弁論期日が続行されますが、弁論準備手続(法廷以外の準備室などを利用して、争点整理のために行われる手続です。民事訴訟法168条以下)が行われる場合もあります。

各当事者は、各期日に向けて、それぞれ自らの主張や相手方の主張に対する反論を記載した書面(「準備書面」といいます。)や証拠を提出します。

これらの期日を経て、当事者の主張がほぼ出尽くし、争点が整理された後、証人や当事者本人の尋問が行われます。

また、これらの期日に、裁判所から和解を提案される(「和解勧試」といいます。民事訴訟法89条)等して、和解の話し合いが行われることもあります。

 

六 訴訟の終了

1 判決

当事者が主張を尽くすなどして裁判をするのに熟したら、審理は終結され、裁判所により判決が言い渡されます(「終局判決」といいます。民事訴訟法243条1項)。

第一審の判決が出ても、判決の内容に不服がある場合には、判決書等の送達を受けた日から2週間以内に判決の取消し・変更を求めて控訴ができますし(民事訴訟法285条)、控訴審の判決の内容に不服がある場合には、判決書等の送達を受けた日から2週間以内に上告または上告受理の申立ができます(民事訴訟法313条、318条5項、285条)。

そして、上訴による取消可能性がなくなることで、判決が確定し、訴訟は終了します。

2 訴訟上の和解

訴訟上の和解が成立した場合には、訴訟が終了します。

和解調書の記載は、確定判決と同様の効力があります(民事訴訟法267条)。

3 その他

訴えの取下げ、請求の放棄・認諾等により、訴訟が終了する場合があります。

取扱業務案内 建物明渡請求事件

2014-05-31

建物明渡請求事件について、法律相談から解決までの流れを大まかに説明させていただきます。

 

事例

アパートの一室の賃借人が家賃を長期間滞納したので、大家さんは、賃借人に出て行ってもらいたいけれども、どうしたらよいか分からないため、法律事務所に相談に来ました。

 

一 法律相談に来られた場合

1 法律相談の際には、基本的に以下の点を確認させていただきます。

①当該建物の権利関係、賃貸借契約の有無

建物の明渡しを求める場合、賃貸借契約の終了に基づいて明渡しを求めるか、所有権に基づいて明渡しを求めることになりますので、建物の所有者が誰か、賃貸人が誰かを確認します。

②賃貸借契約の契約内容

建物の明渡しを求めるには、契約違反を理由に賃貸借契約を解除することが必要です。その判断をするためには、契約内容の確認が不可欠です。

③賃料の滞納期間、滞納額等の建物の明渡しを求める事情

契約書では、1か月でも滞納した場合には退去してもらう旨記載されていることが多いと思われますが、法的には、賃借人の生活を守る観点から、1か月程度の賃料滞納で契約を解除し強制的に出ていかせることは難しいです。

あくまでも目安としてですが、裁判で出て行ってもらう場合には、3か月以上の滞納が必要です。6か月以上の滞納があれば、解除ができる場合が多いと思われます。

賃料の滞納以外にも契約違反等の事情があれば、多少、賃料滞納期間が短くても賃借人に出て行ってもらうことができる場合がありますし、逆に、滞納期間が長くても大家さんが賃料の支払を猶予してあげた等の事情がある場合には、賃借人に出て行ってもらうことができなくなる場合がありますので、ご注意下さい。

④賃借人の経済状況、占有状況

賃借人に滞納賃料の支払いができる能力があるのかどうかを確認し、滞納賃料の回収方法を検討するため、賃借人の経済状況の確認が必要です。

また、賃借人が当該建物に住んでいるとは限らず、別の人が住んでいる場合があります。その場合には賃借人以外の人を相手方にしなければならなくなる等、今後の手続に影響を与えることになりますので、占有状況の確認は不可欠です。

⑤賃借人との交渉の経緯等

大家さんが賃借人と交渉した際に、賃借人がどのような態度をとったか、どのような主張をしていたか確認することで、賃借人の性格や状況、今後の賃借人の反応等が予想できます。

 

2 法律相談の際には、以上のようなことを確認させていただき、建物の明渡しを求めることができるかどうか、どのような手続を進めたらいいのか検討させていただきます。

賃料の滞納期間が短い等、具体的な事情によっては、建物の明渡しの実現は難しいのでもう少し様子を見るか、賃料の支払を求めるだけにとどめたほうがよいとアドバイスする場合もあります。

次に、建物の明渡しを求める場合に手続の流れを説明します。

 

二 内容証明郵便(賃料支払の催告と契約解除の意思表示)

1 事案にもよりますが、通常は、賃借人に対し滞納賃料の支払いを要求し(「催告」といいます。)、一定期間内に支払わない場合には賃貸借契約を解除するので、建物を明け渡せという趣旨の通知書を内容証明郵便で送ります。通知書を普通の郵便ではなく、内容証明郵便で送るのは、後で賃借人に対し契約解除の通知をしたかどうか争われないようにするためです。

2 内容証明郵便を送った後に賃借人から返答があった場合、賃借人との間で滞納賃料の支払いや建物の明渡し等の交渉をします。

3 内容証明郵便を送ったにもかかわらず、賃借人から返答がなかった場合や、あっても交渉がまとまらず、滞納賃料の支払がなかった場合には、いよいよ法的手続を取ることになります。

 

三 占有移転禁止の仮処分の申立

1 賃借人が明渡しを妨害してくるような悪質な場合や、誰が住んでいるのかよく分からない場合には、裁判所に占有移転禁止の仮処分の申立をすることが考えられます。

占有移転禁止の仮処分とは、賃借人等の不動産の占有者(債務者)が別の人に占有を移すことを禁止する手続きです。この仮処分をかけた場合、債務者が後で別の人に占有を移したとしても判決の効力をその人に及ぼすことができるようになります。

この仮処分をしておかないと、賃借人を被告とする訴訟を起こして勝訴判決を得ても、訴訟中に賃借人以外の人が建物に住んでいた場合には、改めて占有者を被告とする訴訟を起こさなければ建物の明渡しを実現することができなくなる場合があるからです。

2 なお、占有移転禁止の仮処分をかける場合には、申立をした債権者は、通常、債務者が損害を被った場合の担保として、保証金を供託させられることになります。

 

四 訴訟

1 次に、裁判所に、賃借人を被告として建物の明渡しや滞納賃料の支払を求める訴訟を起こします。連帯保証人がいる場合には、連帯保証人も被告とします。

多額の滞納があり、特に賃借人らに言い分がない場合には、比較的早く、大家さんの請求を認める判決を出してもらえます。

2 この判決が確定した後、賃借人が建物の明渡しや滞納賃料の支払をしなければ、強制執行の手続により、強制的に明渡し等を実現することができます。

もっとも、強制執行手続には、かなりの費用がかかりますし、賃借人に資力がない場合には、強制執行をしても滞納賃料を回収することができない場合もあります。

そこで、訴訟の場合でも、賃借人らと話し合いの余地があるのであれば、判決ではなく、和解で解決することが考えられます。

3 和解の場合、建物の明渡しを一定期間猶予したり、滞納賃料の支払方法(一括払ではなく分割払にする等)や支払金額等について賃借人らに一定の譲歩をすることになりますが、賃借人らも納得の上で和解をするため、賃借人が和解の内容通りに建物を明渡したり、賃料を支払ってくる場合が多いので、強制執行をする場合よりもトータルで費用が少なくても済む可能性があります。

 

五 賃借人の所在が不明の場合

賃借人が賃貸物件の中に荷物を残したまま所在が分からなくなり、全く連絡が取れなくなる場合があります。

大家さんが内容証明郵便で賃貸借契約を解除しようとしても、賃借人に解除の通知を受け取らせることができません。また、大家さんが賃借人に無断で、賃貸物件の中の荷物を捨てると、後で賃借人から損害賠償請求されるおそれがあります。

そのような場合、大家さんとしては、建物明渡請求訴訟を提起して、公示送達の方法をとり、勝訴判決を得てから強制執行をすることになります。公示送達とは、被告の所在が不明などの理由により送達書類を交付できない場合に、申立てにより裁判所書記官が送達書類を保管し、送達を受けるべき者にいつでもこれを交付する旨、裁判所の掲示場に掲示して行う送達方法です。

なお、連帯保証人がいる場合、連帯保証人に明渡しをさせることができるのではないかとも考えられますが、連帯保証人は滞納賃料等の金銭の支払義務は負いますが、明渡義務を負わせることまでは難しいと考えられますので、大家さんとしては、上記手続をとった上で、連帯保証人に金銭の支払を請求することになると思われます。

Newer Entries »
Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.