【債権回収】少額訴訟
一 少額訴訟とは
60万円以下の金銭の支払を求める請求についての特別な訴訟手続です。
少額の金銭請求について,簡易かつ迅速に解決することを目的とする手続であり,原則として1回の審理で終了します。また,反訴の禁止,証拠調べの制限,控訴の禁止等の特徴があります。
事実関係に余り争いのない事案では利用しやすい手続であるといえますが,複雑な事案,争点が多い事案等,事案によっては通常訴訟にしたほうが良いことがありますので,事案に応じて,少額訴訟にするか,通常訴訟にするか検討すべきでしょう。
また,訴えられた者(被告)は,通常の訴訟手続によることを求めることができます。
二 少額訴訟が利用できる場合(少額訴訟の要件)
1 訴額の制限
訴額(訴訟の目的の価額)が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えに限られます(民事訴訟法368条1項本文)。
2 回数の制限
同一裁判所に対する利用回数は年間10回までです(民事訴訟法368条1項但書,民事訴訟規則223条)。
回数について虚偽の届出をしたときは,裁判所の決定で10万円以下の過料に処されます(民事訴訟法381条1項)。
三 訴えの提起
簡易裁判所に訴えを提起します。
簡易裁判所では,訴えは口頭で提起することができますが(民事訴訟法271条),訴状を提出して行うのが一般的です。
本人で訴訟をする場合には,裁判所が用意している書式を利用するのが良いでしょう。
また,訴え提起の際,少額訴訟による審理,裁判を求める旨の申述をしなければなりませんし(民事訴訟法368条2項),その申述の際には訴えを提起する簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理,裁判を求めた回数を届け出なければなりません(民事訴訟法368条3項)。
そのため,訴状には,少額訴訟による審理,裁判を求めること,訴えを提起した簡易裁判所においてその年に少額訴訟による審理,裁判を求めた回数を記載します。
四 手続の特徴
1 反訴の禁止
少額訴訟においては,反訴を提起することはできません(民事訴訟法369条)。
2 一期日審理の原則
特別の事情がある場合を除き,1回の期日で審理が終結します(民事訴訟法370条1項)。
口頭弁論が続行される場合を除き,当事者は,期日前または期日に,すべての攻撃防御方法を提出しなければなりません(民事訴訟法370条2項)。
3 証拠調べの制限
証拠調べは,即時に取り調べ得ることができる証拠に限定されます(民事訴訟法371条)。
4 証人等の尋問
証人には特別の定めがある場合を除き宣誓をさせなければなりませんが(民事訴訟法201条1項),少額訴訟では,証人の尋問は,宣誓をさせないですることができます(民事訴訟法372条1項)。
証人及び当事者本人の尋問を行うときは,まず証人の尋問をするのが原則ですが(民事訴訟法207条2項),少額訴訟では,証人や当事者の尋問は,裁判官が相当と認める順序でします(民事訴訟法372条2項)。
少額訴訟では,裁判所は,相当と認めるときは,最高裁判所規則の定めるところにより,裁判所,当事者双方,証人とが音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって証人を尋問することができます(民事訴訟法372条3項,民事訴訟規則226条)。
5 判決
判決の言渡しは,相当でないと認める場合を除き,口頭弁論終結後,直ちになされます(民事訴訟法374条1項)。
判決の言い渡しは,判決書の原本に基づかないですること(調書判決)ができます(民事訴訟法374条2項)。
判決において,必要があると認めるときは,判決言渡し日から3年を超えない範囲で支払の猶予や分割払いとすることができます(民事訴訟法375条)。
また,請求を認諾する判決には仮執行宣言が付されます(民事訴訟法376条)
なお,少額訴訟においても,和解はできますので,判決ではなく,和解で解決することもできます。
6 不服申立て
判決に対し控訴はできません(民事訴訟法377条)。
判決送達を受けた日から2週間以内に,判決をした裁判所に対する異議を申し立てることができます(民事訴訟法378条)。
適法な異議があった場合には,口頭弁論終結前の程度に復し,通常の訴訟手続により審理,裁判がなされますが(民事訴訟法379条),判決に対しては控訴はできず(民事訴訟法380条1項),特別上告ができるだけです(民事訴訟法380条2項で327条を準用)。
五 通常訴訟への移行
以下の場合には,通常訴訟に移行します。
1 被告が通常訴訟への移行を申述したとき
被告は,最初の口頭弁論期日で弁論するか,その期日が終了するまでは,訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができ(民事訴訟法373条1項),その申述があったときには通常の手続に移行します(民事訴訟法373条2項)。
2 裁判所の職権で移行する場合
以下の①から④の場合には,裁判所は職権で通常訴訟に移行させます。
①民事訴訟法368条1項の規定(少額訴訟の要件)に違反して少額訴訟による審理,裁判を求めたとき
②民事訴訟法368条3項の回数の届出を相当期間を定めて命じたが,その届出がなかったとき
③公示送達によらなければ被告に対する最初の口頭弁論期日の呼出しができないとき
④少額訴訟により審理,裁判をするのが相当でないと認めるとき