【交通事故】素因減額

2014-10-17

例えば、事故自体は軽微であったのに、交通事故被害者の精神的な要因や事故前からの病気により、通常よりも傷害が重くなり、治療が長期化することがあります。

そのような場合に、加害者に損害の全部を賠償させるのは公平ではなく、加害者の損害賠償額を減額すべきではないかというのが、素因減額の問題です。

 

1 素因減額とは

素因減額とは、被害者の精神的性質(心因的要因)や疾患・既往症、身体的特徴(身体的要因)といった被害者の素因により、交通事故による損害が発生・拡大した場合に、公平の見地から、損害賠償額を減額することをいいます。

 

この点、損害賠償額が減額されるかどうかという以前に、交通事故と損害との間に因果関係があるかどうかが争いとなることもあります。

例えば、交通事故の被害者が亡くなったが、事故前から病気を抱えていた場合に、加害者側が、被害者は交通事故が原因で亡くなったのではなく、病気が原因で亡くなったのだと主張して、因果関係が争われることがあります(因果関係のない損害について、加害者は賠償義務を負いません。)。

 

これに対し、素因減額とは、交通事故と損害との間に因果関係があることを前提に、被害者の素因が損害の発生・拡大に影響している場合に、民法722条の過失相殺の規定を類推適用して、損害賠償額を減額することです。

先の例でいえば、交通事故により被害者が亡くなったが、被害者が病気を抱えていたことも影響している場合に、素因減額の問題となります。

 

素因減額が問題となる場合としては、心因的要因による場合と身体的要因による場合がありますので、それぞれの場合について簡単に説明します。

 

2 心因的要因による素因減額

例えば、被害者の性格等の心理的な要因により、通院が非常に長期間続いた場合に、加害者に損害の全部を賠償させることは公平を失します。

そのため、被害者に発生した損害が通常発生する程度、範囲を超えるものであり、損害の拡大に被害者の心因的要因が関与している場合には、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、減額されることがあります。

 

3 身体的要因による素因減額

(1)被害者に病気(疾患・既往症)がある場合

交通事故の被害者に疾患や既往症があり、損害の発生や拡大に影響している場合に、加害者に損害の全部を賠償させることは公平を失するといえます。

そのため、交通事故の被害者に疾患や既往症があり、その疾患や既往症が損害の発生又は拡大に寄与していることが明白な場合には、損害賠償額の算定にあたって考慮されることがあります。

 

(2)被害者が高齢の場合

高齢になるにつれ、体力が低下したり、身体が弱くなったりするため、高齢者が交通事故にあった場合に損害が発生・拡大することがあります。

しかし、年をとれば、体力が低下したり、身体が弱くなったりするのは通常のことであり、高齢であること自体から素因減額するのは相当ではありません。

また、高齢者には骨が弱くなる等、加齢的変性がありますが、年齢相応の加齢的変性の場合にまで素因減額するのは相当ではなく、交通事故の被害者に疾患といえるような状態であったと認められない限り、損害賠償額の算定において考慮されないと考えられます。

 

(3)被害者の身体的特徴

例えば、被害者に通常よりも首が長い、肥満である等の身体的特徴がある場合です。

被害者に通常と異なる身体的特徴があったとしても、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されている範囲の身体的特徴についてまで、素因減額するのは相当ではありません。

そのため、身体的特徴が、疾患に比肩すべきものであり、かつ、被害者が負傷しないように慎重な行動をとることが求められるような特段な事情がない限り、損害賠償額算定において考慮されることはないと考えられます。

 

4 まとめ

以上のように、被害者の心因的要因や身体的要因がある場合には、素因減額が問題となります。

素因減額されるかどうか、されるとして、どの程度減額されるかどうかについては、個別具体的に判断されることになりますので、素因減額が問題となる事案では、具体的な事情や裁判例を慎重に検討する必要があります。

そのため、素因減額が問題となる事案では、弁護士にご相談ください。

 

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.