婚姻費用
夫婦関係を見直すため、あるいは、離婚をする前提として、夫婦が別居することがあります。
同居中は、夫婦の一方に収入がなくても、他方の収入で生活することができますが、別居した場合には、収入のない方は、どうやって生活するのか問題となります。
そのような場合、収入のない方は、収入のある方に対し、婚姻費用分担請求をすることが考えられます。
これから、婚姻費用について簡単に説明します。
※算定方式・算定表は改訂されました(令和元年12月23日公表)。基本的な考え方は変わっておりませんが,このページの計算例などは改訂前のものですのでご注意ください。
算定方式・算定表の改訂についてはこちら→https://nagaselaw.com/【離婚】養育費・婚姻費用の算定方式・算定表の/
一 婚姻費用分担義務について
民法760条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しており、同条を根拠に、夫婦の一方は他方に対し婚姻費用分担義務を負います。
扶養の程度に関しては、生活保持義務(自分と同程度の生活を保持する義務)と生活扶助義務(自分の生活を犠牲にしない限度で、最低限の生活を扶助する義務)がありますが、婚姻費用分担義務は、原則として生活保持義務であるとされております。
二 婚姻費用分担義務はいつから(始期)いつまで(終期)生じるのか
1 始期
婚姻費用分担義務が生じるかについては、
①必要時からとする見解(別居時から)
②請求時からとする見解(調停や審判申立て時から)
があります。
実務上、②請求時からとすることが多いとされています。
もっとも、事情によっては、別居時からの婚姻費用分担義務を負うとされることもあります。
2 終期
実務上、別居の解消または離婚に至るまでとするのが一般的です。
三 婚姻費用分担額の算定方法
婚姻費用分担額は、簡易算定方式及び簡易算定表を用いて算定するのが一般的です。
1 簡易算定方式
(1)権利者と義務者の基礎収入を算定します。
①給与所得者の場合
総収入額から公租公課、職業費(被服費、交通費等)、特別経費(住居費等)を控除した金額であり、概ね総収入の34%から42%の範囲(高額所得者ほど低い)とされております。
基礎収入=総収入-公租公課-職業費-特別経費
②自営業者の場合
所得金額から公租公課、特別経費を控除した金額であり、概ね総所得の47%から52%の範囲(高額所得者ほど低い。)とされております。
基礎収入=総所得-公租公課-特別経費
(2)権利者と義務者の基礎収入の合計額をそれぞれの世帯に按分します。
子がいる場合には、子の生活費も含めて計算します。
その際、親の生活費の割合(生活費指数)を100とすると、0歳から14歳の子の割合は55、15歳から19歳の子の割合は90として計算します。
権利者世帯の按分額
=(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者世帯の生活費指数÷(義務者世帯の生活費指数+権利者世帯の生活費指数)
例えば、夫婦間に10歳の子が一人いて、妻が子を連れて別居し、妻が夫に婚姻費用を請求した場合
権利者(妻)世帯の按分額
=(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)
×(100+55)÷(100+100+55)
(3)権利者世帯の按分額から権利者の基礎収入額を控除した金額が婚姻費用分担額となります。
婚姻費用分担額=権利者世帯の按分額-権利者の基礎収入
2 簡易算定表(養育費・婚姻費用算定表)
簡易算定方式に基づいて算定される婚姻費用を1万円または2万円の幅で表に整理したものです。
表には、①夫婦のみ、②子1人(0~14歳)、③子1人(15~19歳)、④子2人(第1子、第2子0~14歳)、⑤子2人(第1子15~19歳、第2子0~14歳)、⑥子2人(第1子、第2子15~19歳)、⑦子3人(第1子、第2子、第3子0~14歳)、⑧子3人(第1子15~19歳、第2子、第3子0~14歳)、⑨子3人(第1子、第2子15~19歳、第3子0~14歳)、⑩子3人(第1子、第2子、第3子15~19歳)があります。
縦軸を義務者の年収(給与所得者の場合と自営業者の場合があります。)、横軸を権利者の年収(給与所得者の場合と自営業者の場合があります。)とし、縦軸から横に延ばした線と横軸から縦にのばした線の交わるところの数値が婚姻費用分担額となります。
年収については、給与所得者の場合は源泉徴収票の「支払金額」であり、自営業者の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」(ただし,諸々修正されます。)です。
例えば、例えば、夫婦間に10歳の子が一人いて、妻が子を連れて別居し、妻(年収50万円の給与所得者)が夫(年収400万円の給与所得者)に婚姻費用を請求した場合、簡易算定表によると、婚姻費用分担額は月額6万円から8万円の範囲となります。
四 手続
1 婚姻費用分担額を決める方法
(1)当事者間の合意
当事者間の合意で婚姻費用を決めることができます。
執行受諾文言のある公正証書にした場合には、債務名義として強制執行をすることができます。
(2)婚姻費用分担調停
婚姻費用を請求する場合には、相手方の住所地または合意で定める家庭裁判所(家事事件手続法245条1項)に婚姻費用分担調停の申立てをすることができます。
(3)審判
審判の申立は、夫または妻の住所地の家庭裁判所に申し立てることができます(家事事件手続法150条3号)。
調停を申し立てずに、最初から審判を申し立てることもできますが、付調停とされることがあります(家事事件手続法274条1項)。
調停が不成立となる場合には、審判に移行し(家事事件手続法272条4項)、裁判所が婚姻費用分担額を決めます。
2 履行を確保する方法
(1)履行勧告
義務者が義務を履行しない場合、権利者は履行勧告を申し立てることができます(家事事件手続法289条)。
(2)履行命令
義務者が義務の履行を怠った場合、権利者の申立てにより義務者に対し、相当の期限を定めて義務の履行を命じる審判をすることができます。義務者が正当な理由なく履行命令に従わない場合には10万円以下の過料に処されます(家事事件手続法290条)。
(3)強制執行
調停調書は確定判決と同一の効力がありますし、確定した審判も執行力のある債務名義となりますので、強制執行することができます。
婚姻費用の一部が不履行の場合、期限が到来していない分についても給与その他の継続的給付にかかる債権に強制執行をすることができます(民事執行法151条の2)。
また、婚姻費用の場合、給与債権の差押禁止範囲が4分の3ではなく、2分の1とされております(民事執行法152条3項)。