【離婚】専業主婦の離婚事件
専業主婦の方が離婚する場合,どのようなことが問題となるでしょうか。
一 離婚後の生活が成り立つかどうか
専業主婦の方は,婚姻期間中は自分に収入がなくても,夫の収入で生活することができますが,離婚後は自分の収入や財産で生活を維持しなければならなくなります。
そのため,専業主婦の方が離婚する場合には,離婚後の仕事,住居,生活費等,離婚後の生活がどうなるかを考え,予め離婚後の生活が成り立つ算段をつけておく必要があります。離婚後の生活のことを考えないで,離婚や離婚条件を決めてしまうと,離婚後に生活が成り立たず,後悔することになりかねません。
離婚後の生活が成り立つかどうかは,離婚後の自身の努力や家族の協力のほか,離婚するにあたって夫にどのような請求ができるかにかかっています。
二 婚姻費用分担請求
離婚が成立するまでの間,夫婦が別居している場合,専業主婦である妻には収入がありませんので,別居中の生活費を確保するため,妻から夫に対し婚姻費用分担請求をすることが考えられます。
婚姻費用分担額については,夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常ですので,夫の収入が分かれば,大よその金額の算定ができます。
三 養育費
専業主婦である母親が,離婚後,未成年の子の親権者となり,子を監護することになった場合には,父親に対し,子の監護に要する費用(養育費)の支払を請求することができます(民法766条)。
養育費の額については,夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常です。
離婚後,母親が子を監護することになった場合,子を困窮させないようにするため,養育費の請求をしましょう。
四 慰謝料
夫の不貞行為やDV等,夫の有責行為により離婚する場合には,妻から夫に対し慰謝料請求をすることが考えられます。
慰謝料額について明確な基準があるわけではありませんが,有責行為の種類・態様,当事者双方の有責性の程度,婚姻期間,未成年の子の有無,双方の年齢,資力,社会的地位等様々な事情から判断されます。
夫が不貞行為やDV等の有責行為の存在を否定する場合には,不貞行為やDV等の証拠が必要となります。
五 財産分与
離婚の時から2年以内であれば,離婚した夫婦の一方は,他方に対し,財産分与請求をすることができます。
財産分与には,①清算的財産分与(夫婦が婚姻中に築いた財産の清算),②扶養的財産分与(離婚後の扶養を考慮した財産分与),③慰謝料的財産分与(慰謝料的な要素を考慮した財産分与)があります。このうち財産分与の中心となるのは①清算的財産分与であり,②,③は補充的に考慮されるにとどまります。
1 清算的財産分与
清算的財産分与は,夫婦が協力して形成した財産を夫婦で分けることです。
財産形成に寄与した割合で分けることになりますので,専業主婦の場合,寄与割合が夫よりも低いのではないかと争いとなることがありますが,特段の事情(夫婦の一方が特別な才能,専門知識や努力により多額な収入を得て,財産が形成された場合等)がない限り,夫婦は財産の形成に等しく貢献しているものとみて,2分の1ずつの割合で分けるのが原則です(2分の1ルール)。
そのため,専業主婦だからというだけで,清算財産分与の割合が2分の1より低くなるということは通常ありません。
清算的財産分与の請求をするにあたっては,夫にどのような財産があるか把握しておく必要があります。
2 扶養的財産分与
財産分与は清算的財産分与が中心ですが,清算的財産分与や慰謝料だけでは夫婦の一方が離婚後の生活に困窮することになる場合には,補充的に扶養的財産分与が認められることがあります。
高齢の専業主婦で年金額が少額の場合,専業主婦で働き始めるまで時間がかかる場合,未成熟子を監護して働くことができない場合等,離婚後の妻の生活について扶養の必要性がある場合には,補充的に扶養的財産分与が認められることがあります。
六 年金分割
夫婦の一方または双方が婚姻期間中に厚生年金や共済年金に加入している場合,原則として離婚から2年以内であれば,年金分割請求をすることができます。
年金分割には,3号分割と合意分割があります。
3号分割は,第3号被保険者である期間(平成20年4月1日以降の期間)についての年金分割です。3号分割の年金分割請求をすれば,自動的に2分の1の割合で按分されるので,按分割合を決める必要はありません。
合意分割は,3号分割以外の場合であり,当事者が合意または裁判で按分割合を定める年金分割です。当事者が按分割合について合意ができなければ裁判所が按分割合を定めますが,その場合,特段の事情がない限り,2分の1となることがほとんどです。
専業主婦の場合,夫が2号被保険者(会社員や公務員)のときは,3号被保険者にあたりますので,3号分割をすることができます(3号分割ができるのは,平成20年4月31日以降の3号被保険者期間であり,それ以前の期間にについては合意分割ができます。)。
また,夫が1号被保険者(自営業者)の場合,専業主婦の妻も1号被保険者になりますので,年金分割はできません。
年金分割をするには,年金分割のための情報提供通知書を入手する必要があります。