【民事訴訟】簡易裁判所の民事訴訟手続

2018-04-11

訴額が140万円以下の民事訴訟の第一審は,簡易裁判所に管轄があります(裁判所法33条1項1号)。
簡易裁判所の民事訴訟は,比較的少額な事案を対象としておりますので,簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとされております(民事訴訟法270条)。
そのため,簡易裁判所における民事訴訟の手続は,地方裁判所における手続とは異なる点があります。

 

一 訴訟代理人

1 認定司法書士の訴訟代理権

訴訟委任に基づく訴訟代理人は,地方裁判所の民事訴訟では,弁護士に限られますが(民事訴訟法54条1項本文),簡易裁判所の民事訴訟では,訴額が140万円を超えないものについては,認定司法書士にも訴訟代理権が認められています(司法書士法3条1項6号,2項から7項)。
弁論の併合,反訴等により訴額が140万円を超える場合や,地方裁判所に移送された場合には,認定司法書士の訴訟代理権は消滅します。

 

2 許可代理

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易裁判所の許可があれば,訴訟代理人となることができます(民事訴訟法54条1項但書)。この許可はいつでも取り消すことができます(民事訴訟法54条2項)。
許可される者としては,同居の親族や会社の従業員等紛争の内容に詳しい人が考えられます。

 

二 訴え提起の簡略化

1 口頭による訴え提起

訴え提起は訴状を提出してすることが原則ですが(民事訴訟法133条1項),簡易裁判所の民事訴訟では,口頭で訴え提起をすることができます(民事訴訟法271条)。

 

2 訴え提起において明らかにすべき事項

訴状には請求の趣旨と請求の原因を記載するのが原則ですが(民事訴訟法133条2項2号),簡易裁判所の民事訴訟の訴え提起においては,請求の原因に代えて,紛争の要点を明らかにすれば足ります(民事訴訟法272条)。
請求の原因は訴訟物を特定するためのものであり,適切に記載するには法律の知識が必要となりますが,簡易裁判所では本人訴訟も多く,法的な知識がない人が訴えを提起することを容易にするものです。

 

三 移送

1 管轄違いの移送

裁判所は,管轄違いの場合には,管轄裁判所に移送しますが(民事訴訟法16条1項),簡易裁判所の管轄に属する場合には,専属管轄に属する場合は除き,地方裁判所は相当と認めるときは,申立てまたは職権で,自ら審理・裁判をすることができます(同条2項)。

 

2 簡易裁判所の裁量移送

簡易裁判所は,管轄がある場合であっても,相当と認めるときは,申立てまたは職権で地方裁判所に移送することができます(民事訴訟法18条)。裁量移送の決定をするにあたっては,当事者の意見が聴取されます(民事訴訟規則8条)。
事案が複雑等の理由で簡易裁判所の簡易・迅速な手続になじまない件については,地方裁判所で審理したほうがよいからです。

 

3 不動産訴訟の必要的移送

簡易裁判所は,不動産訴訟につき管轄があっても,被告の申立てがある場合には,被告が申立て前に本案について弁論した場合を除き,地方裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法19条2項)。
訴額が140万円以下の不動産訴訟については,簡易裁判所と地方裁判所の双方に管轄がありますが(裁判所法24条1項1号,33条1項1号),不動産訴訟には複雑な件が多いことから,被告が地方裁判所での審理を受けたい場合には移送が認められています。

 

4 反訴提起があった場合の移送

被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合に相手方の申立てがあるときは,簡易裁判所は,決定で本訴及び反訴を地方裁判所に移送します(民事訴訟法274条1項)。この決定に不服申立てはできません(同条2項)。

 

四 口頭弁論の簡略化

1 準備書面等の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,口頭弁論は書面で準備することを要しませんので(民事訴訟法276条1項),準備書面等の提出は不要です。
もっとも,相手方が準備しなければ陳述することができないと認めるべき事項については,書面で準備するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければならず(民事訴訟法276条2項),相手方が口頭弁論に在廷していない場合には,準備書面(相手方に送達されたものか,相手方が受領した旨を記載した書面が提出されたものに限ります。)に記載するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければ,主張することができません(民事訴訟法276条3項)。

 

2 続行期日における陳述擬制

簡易裁判所の民事訴訟では,第1回口頭弁論期日のみならず,続行期日(第2回以降の期日)でも陳述擬制が認められます(民事訴訟法277条)。

 

五 尋問の簡略化

1 尋問調書作成の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人,当事者,鑑定人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人等の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この場合の録音テープ等は訴訟記録の一部とはなりませんので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。当事者としては,録音テープ等を複製してもらい,その反訳書面を書証として提出することになります。

 

2 書面尋問

簡易裁判所の民事訴訟では,書面尋問ができる範囲や要件が緩和されており,裁判所が相当と認めれば,証人のみならず当事者本人や鑑定人についても書面尋問をすることができますし,当事者の異議がないことは要件とはされていません(民事訴訟法278条)。

 

六 司法委員の関与

簡易裁判所の民事訴訟では,裁判所は,必要があると認めるときは,司法委員に和解の補助をさせることや,司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができます(民事訴訟法279条1項)。
また,裁判官は,必要があると認めるときは,司法委員が証人等に対し直接に問いを発することを許すことができます(民事訴訟規則172条)。

 

七 和解に代わる決定

金銭支払請求訴訟で被告が原告の請求を争わないときは,簡易裁判所は,被告の資力その他の事情を考慮して相当と認めるときは,原告の意見を聴いて,5年を超えない範囲内で支払時期の定めや分割払い等を定める決定をすることができます(民事訴訟法275条の2第1項,2項)。
当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議申立てをすれば,決定は効力を失いますが,申立てがなければ,決定は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事訴訟法275条の2第3項から5項)。

 

八 判決書の記載の簡略化

簡易裁判所の民事訴訟では,判決書に事実・理由を記載するには,請求の趣旨・原因の要旨,原因の有無,請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれば足りるとされており(民事訴訟法280条),判決書の記載が簡略化されています。

 

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