【民事事件】民事調停
民事に関する紛争を解決する手続として民事調停があります。
一 民事調停とは
民事調停は,民事に関する紛争について,話合いにより解決を図る裁判所の手続です。
民事調停には①話合いによる解決であるため柔軟な解決を図ることが期待できる,②専門的な問題についても,弁護士,建築士等の専門家の調停委員により対応できる,③非公開で行われる,④訴訟手続よりも手続が簡易であり,手数料が安く,終了までの期間が短いといった特徴があります。
二 民事調停の対象
民事調停は,売買代金・貸金・請負代金等の金銭トラブル,交通事故・名誉毀損等の損害賠償請求,借地借家等の不動産トラブル,未払賃金の請求等の労働問題,騒音,日照権の問題等の近隣トラブル等,民事紛争全般が対象となります。
三 民事調停の種類
民事調停は紛争の内容により,①一般調停(②から⑧以外の民事紛争),②宅地建物調停(宅地・建物の賃貸その他の利用関係の紛争),③農事調停(農地等の貸借その他の利用関係の紛争),④商事調停(商事の紛争),⑤鉱害調停(鉱業法に定める鉱害の賠償の紛争),⑥交通調停(自動車の運行によって人の生命・身体が害された場合の損害賠償の紛争),⑦公害等調停(公害・日照,通風等の生活上の利益の侵害により生ずる被害にかかる紛争),⑧特定調停(債務整理)に分かれております。
このうち,特定調停は,民事調停の特例として,特定債務等の調整のための特定調停に関する法律で規定されており,他の民事調停事件とは手続等に様々な違いがありますが,このページでは特定調停の説明は省略します。
四 調停委員会
裁判所は調停委員会で調停を行います(民事調停法5条1項本文)。裁判所が相当と認めるときは,裁判官だけで調停を行うことができますが(民事調停法5条1項但書),当事者の申立てがあるときは,調停委員会で調停を行わなければなりません(民事調停法5条2項)。
調停委員会は,調停主任1人と2人以上の民事調停委員で組織されます(民事調停法6条)。調停主任は,裁判官(民事調停法7条1項)または民事調停官(民事調停法23条の2)がなります。民事調停官は職務経験が5年以上ある弁護士から最高裁判所が任命します(民事調停法23条の2第1項)。
五 調停の関与者
調停の当事者は,申立人(調停を申し立てた人)と相手方(調停を申し立てられた人)です。
調停には,当事者のほか,当事者の法定代理人や当事者が選任した代理人が出席できます。
当事者が選任できる代理人は,①弁護士,②認定司法書士(調停事項の価額が140万円を超えない事件に限ります。),③調停委員会が許可した者です(民事調停規則8条2項)。
また,調停の結果に利害関係を有する者(利害関係人)も,調停委員会の許可を受けて,調停手続に参加することができますし(民事調停法11条1項),調停委員会は相当と認めるときは利害関係人を調停手続に参加させることができます(民事調停法11条2項)。
六 民事調停の手続
1 申立て
(1)管轄裁判所
相手方の住所,居所,事務所,営業所を管轄する簡易裁判所が管轄裁判所となりますが(民事調停法3条1項),合意管轄もできますし(民事調停法3条1項),事件の種類により管轄について特別規定があります。また,移送や自庁処理の規定もあります(民事調停法4条)。
なお,簡易裁判所の民事訴訟は訴額の上限は140万円までですが,民事調停では訴額の制限はありませんので,140万円を超える民事調停事件についても簡易裁判所に管轄が認められます。
(2)申立書
民事調停の申立ては申立書を裁判所に提出してしなければなりません(民事調停法4条の2第1項)。
申立書には①当事者または法定代理人の氏名・名称・住所,②代理人の氏名・住所,③当事者または代理人の郵便番号,電話番号,FAX番号,④事件の表示,⑤附属書類の表示,⑥年月日,⑦裁判所の表示,⑧申立ての趣旨,⑨紛争の要点を表示します(民事調停法4条の2第2項,民事調停規則24条,非訟事件手続規則1条1項)。
裁判所の窓口やウェブサイトに申立書の書式がありますので,その書式を利用することが簡単です。
また,申立書には,①申立書の副本,②添付書類(戸籍謄本や登記事項証明書,委任状等),③証拠書類の写しを添付します。また,申立ての際には,裁判所に手数料や郵券を納めます。
2 調停前の措置等
(1)調停前の措置
調停委員会は,調停のために特に必要があると認めるときは,当事者の申立てにより,調停前の措置として,相手方その他の事件の関係人に対して,現状の変更または物の処分の禁止その他調停の内容である事項の実現を不能または著しく困難にする行為の排除を命じることができます(民事調停法12条1項)。
調停前の措置に執行力はありませんが(民事調停法12条2項),当事者または参加人が正当な事由なく措置に従わないときは10万円以下の過料が科されることがあります(民事調停法35条)。
(2)民事執行手続の停止
調停事件の係属する裁判所は,紛争の実情により事件を調停によって解決することが相当な場合,調停の成立を不能または著しく困難にするおそれがあるときは,申立てにより,担保を立てさせて,調停が終了するまで調停の目的となった権利に関する民事執行手続の停止を命ずることができます(民事調停規則5条1項本文)。
ただし,裁判・調書その他裁判所で作成する書面の記載に基づく民事執行手続は,停止の対象とはなりません(民事調停規則5条1項但書)。停止の対象となるのは,公正証書に基づく強制執行や担保権の実行としての競売等です。
また,調停の係属する裁判所は,民事執行手続の停止を命じた場合であっても,必要があるときは,申立てにより,担保を立てさせ又は立てさせないで,続行を命じることができます(民事調停規則5条2項)。
3 調停期日の実施
(1)呼出・出頭
調停委員会は,調停の期日を定めて,当事者等の事件の関係人を呼び出します(民事調停法12条の3)。
呼出を受けた当事者は,やむを得ない事情があるときは代理人を出頭させることもできますが,原則として自ら出頭しなければなりません(民事調停規則8条1項)。
呼出しを受けた事件関係人が,正当な事由なく,期日に出頭しないときは5万円以下の過料が科されることがあります(民事調停法34条)。
(2)調停の進行
調停期日では,調停委員会が当事者等から事情を聴きながら,話合いによる解決の途を探っていきます。
調停手続は非公開で行われますので(民事調停法22条,非訟事件手続法30条),当事者等のプライバシー保護が図られています。
調停を進めるにあたって必要な資料は当事者が提出するのが基本ですが, 調停委員会等は事実の調査や証拠調べを行うことができますし(民事調停法12条の7,民事調停規則13条から17条),調停委員会は調停委員会を組織していない調停委員から専門的知識経験に基づく意見を聴取することもできます(民事調停規則18条)。
調停委員会は,当事者等からの事情聴取や事実の調査,証拠調べ等をした上で,調停案を提示し,当事者間の合意の成立を図ります。
4 終了
(1)成立
当事者に合意が成立したときは,その合意が調書に記載されることで,調停が成立します(民事調停法16条)。
調書の記載は,裁判上の和解と同一の効力を有しますので(民事調停法16条),確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
(2)調停に代わる決定
裁判所は,調停が成立する見込みがない場合に相当であると認めるときは,民事調停委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で,当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件の解決のために必要な決定をすることができます(民事調停法17条)。この決定では,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命じることができます(民事調停法17条)。
当事者または利害関係人は,この決定に対し,当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ(民事調停法18条1項),適法な異議の申立てがあった場合には決定は効力を失いますが(民事調停法18条4項),申立てがないときは決定は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法18条5項)。
(3)不成立
調停委員会は,当事者間に合意が成立する見込みがない場合または成立した合意が相当でないと認める場合で,調停に代わる決定をしないときは,調停を不成立にして,調停を終了させることができます(民事調停法14条)。
(4)調停をしない旨の措置
調停委員会は,事件が性質上調停をするのに適切でないと認めるとき,または当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは,調停をしないものとして,事件を終了させることができます(民事調停法13条)。
(5)調停の申立ての取下げ
調停の申立ては調停事件が終了するまで,その全部または一部を取り下げることができます(民事調停法19条の2本文)。ただし,調停に代わる決定がされた後は相手方の同意を得なければ,取下げられません(民事調停法19条の2但書)。
(6)調停条項の裁定
宅地建物調停事件のうち地代借賃増減請求事件,商事調停事件,鉱害調停事件については,調停委員会は,当事者間に合意が成立する見込みがない場合または成立した合意が相当でないと認める場合に,当事者間に調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意(調停申立て後になされたものに限ります。)があるときは,申立てにより,事件の解決のために適当な調停条項を定めることができます(民事調停法24条の3第1項,31条,33条)。
この調停条項を調書に記載したときは,調停が成立したものとみなし,その記載は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法24条の3第2項)。この裁定については,不服申立てができません。
この裁定については慎重に行う必要があることから,調停委員会は調停条項を定めようとするときは,当事者双方を審尋しなければなりません(民事調停規則27条,34条,35条)。
七 民事訴訟との関係
1 付調停
受訴裁判所は,適当であると認めるときは,事件を調停に付した上,管轄裁判所または自ら処理することができます(民事調停法20条1項本文)。ただし,争点・証拠の整理が完了した後は当事者の合意が必要です(民事調停法20条1項但書)。
調停に付された場合,調停が成立したときや調停に代わる決定が確定したときは,訴えの取下げがあったものとみなされます(民事調停法20条2項)。
また,調停に付された場合,裁判所は調停事件が終了するまでは訴訟手続を停止することができます(民事調停法20条の3第1項本文)。ただし,争点・証拠の整理が完了した後は当事者の合意が必要です(民事調停法20条の3第1項但書)
例えば,建築紛争では,建築に対する専門的な知識経験が必要となることから,訴訟提起後,調停に付されることがあります。
2 賃料増減額請求事件
地代借賃増減請求事件については,調停前置主義がとられており,訴え提起する前に調停の申立てをしなければなりません(民事調停法24条の2第1項)。
調停の申立てをする前に訴えを提起した場合には,受訴裁判所は,調停に付すことが適当でないと認めるとき以外は調停に付します(民事調停法24条の2第2項)。
3 調停不成立等の場合の訴えの提起
調停が不成立になった場合や調停に代わる決定が異議申立てにより効力を失った場合,申立人がその旨の通知を受けたときから,2週間以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは,調停の申立ての時に訴え提起があったものとみなされます(民事調停法19条)。
その場合,訴え提起時に納める手数料のうち,調停申立ての際に納めた手数料額に相当する額は納めたものとみなされます(民事訴訟費用法5条)。