【労働問題】懲戒解雇
解雇には普通解雇と懲戒解雇があります。
懲戒解雇について,説明します。
一 懲戒解雇とは
懲戒解雇は,懲戒処分として行われる解雇です。
懲戒処分とは,使用者が,業務命令や服務規律に違反した労働者に対し,制裁として行う不利益措置であり,懲戒解雇は,最も重い懲戒処分です。
なお,懲戒処分としての解雇には,懲戒解雇以外に諭旨解雇もあります。
諭旨解雇とは,労働者に退職願を提出させた上で解雇することであり(労働者に退職願を提出させ退職扱いとする場合には,諭旨退職といいます。),退職金の支払の点等で,懲戒解雇よりも軽い処分です。
二 普通解雇と懲戒解雇の違い
普通解雇と懲戒解雇は,いずれも使用者が労働契約を解約することではありますが,懲戒解雇は,懲戒処分である点,以下のような違いがあります。
①退職金規程に,懲戒解雇の場合には,退職金の全部または一部を支給しないと規定されていることがあります。
②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には解雇予告や解雇予告手当は必要ありません(労働基準法20条)。「労働者の責に帰すべき事由」と懲戒解雇事由は必ずしも一致するわけではありませんが,懲戒解雇する場合には,通常,解雇予告や解雇予告手当もなく即時に解雇されます。
③懲戒解雇の場合,使用者は,離職票の離職理由の「重責解雇(労働者の責めに期すべき重大な理由による解雇)」の欄にチェックを入れるのが通常であり,重責解雇の場合には雇用保険の給付制限があります(雇用保険法33条)。
三 どのような場合に懲戒解雇をすることができるのか
1 就業規則上の定めがあること
使用者が懲戒処分をするには懲戒事由や懲戒処分の種類や程度を就業規則に定めておかなければなりません。
そのため,使用者が懲戒解雇をするには,就業規則に,懲戒解雇事由や懲戒解雇の定めがあることが必要となります。
就業規則に懲戒解雇事由や懲戒解雇の定めがない場合には,使用者は労働者を懲戒解雇することはできません。
2 懲戒権の濫用規制,解雇権の濫用規制
懲戒解雇は,懲戒処分として行われる解雇ですので,懲戒権の規制と解雇の規制の双方の適用を受けます。
労働契約法15条は「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及びその態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると求められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効とする。」と規定しており,懲戒権の濫用を規制しておりますので,懲戒解雇は同条の規制を受けます。
また,労働契約法16条は「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定しており,解雇権の濫用を規制しておりますので,懲戒解雇は同条の規制も受けます。
懲戒解雇は,普通解雇よりも労働者の不利益が大きいので,普通解雇の場合よりも,厳しく規制されます。
四 懲戒解雇事由に該当する場合に,普通解雇をすること
懲戒解雇は,普通解雇よりも労働者の不利益が大きいので,普通解雇の場合よりも,厳しく規制されるため,普通解雇としては有効でも,懲戒解雇としては無効とされることがあります。
そのようなことから,使用者は,懲戒解雇事由がある場合であっても,懲戒解雇ではなく,普通解雇することがあります。
懲戒解雇と普通解雇のどちらを選択するかは使用者が判断することですので,懲戒解雇事由がある場合であっても,懲戒解雇せずに,普通解雇することは,通常できます。
また,使用者が労働者を普通解雇する場合には,普通解雇として有効かどうかが問題となります。
五 懲戒解雇から普通解雇への転換
使用者が懲戒解雇をした後に,労働者が懲戒解雇の有効性を争い,懲戒解雇としては無効でも,普通解雇としては有効であるといえる場合には,懲戒解雇を普通解雇に転換して,普通解雇として有効であると認めてよいかという問題がありますが,懲戒解雇と普通解雇は別のものであり,労働者の地位を著しく不安定にするので,そのようなことはできないと解されております。
ただし,使用者は,労働者を懲戒解雇をした場合であっても,予備的に普通解雇をすることもできると解されておりますので,使用者が予備的に労働者を普通解雇したといえる場合には,懲戒解雇としては無効であっても,普通解雇として有効であると認められることがあります。