【交通事故】人身傷害保険(人身傷害補償特約)と過失相殺

2015-04-23

一 事例

私は,交通事故にあったことから人身傷害保険をつかい,600万円を受領しましたが,人身傷害保険をつかった後でも,未填補の損害があれば加害者に損害賠償請求できると聞きました。

そこで,私は加害者に損害賠償請求しようか検討していますが,今回の交通事故では私にも落ち度がありました。

仮に,裁判をした場合,損害額が1000万円と認定されたとしても,私の過失が5割となった場合には,過失相殺後の損害賠償請求権の額は500万円となってしまいます。

その場合,私は,既に人身傷害保険により600万円の支払を受けているので,加害者に損害賠償請求をすることはできないのでしょうか。

二 人身傷害保険(人身傷害補償特約)とは

人身傷害保険とは,交通事故の被害者が,傷害を被った場合,後遺障害が残った場合,または死亡した場合に,保険会社から,保険契約に定める基準に基づいて算定した損害額相当の保険金の支払を受けることができる保険です(自動車保険の特約の一つとして「人身傷害補償特約」ともいいます。)。

損害の填補にあたりますので,保険金を支払った保険会社は,被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得します。

保険金額は保険契約に定める基準(人傷基準)により算定するため,訴訟基準(裁判基準)により算定する損害額とは異なります。人傷基準で算定した金額は訴訟基準で算定した損害額より低くなり,被害者には未填補の損害額があることが通常です。

そのため,保険金の支払を受けた被害者は,未填補の損害額について加害者に損害賠償請求をすることができますので,人身傷害保険金の支払を受けた被害者の方は,さらに加害者に対し損害賠償請求をすることができないか,忘れずに検討しましょう。

 

三 過失相殺がある場合

では,被害者に過失があり,過失相殺される場合,人身傷害保険金の支払を受けた被害者は,どの範囲で加害者に損害賠償請求することができるのでしょうか。

この点については,絶対説,比例説,人傷基準差額説,訴訟基準差額説(裁判基準差額説)といった複数の説がありましたが,判例上,訴訟基準差額説がとられております。

訴訟基準差額説では,保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が,訴訟基準で算定した損害額を上回る場合に限り,その上回る部分の範囲で保険会社は代位取得します。

その結果,被害者は,過失相殺後の損害賠償請求権の額から,保険会社が代位取得した金額を控除した金額について,加害者に対し損害賠償請求をすることができます。

 

事例の場合,保険金額600万円と過失相殺後の損害賠償請求権の額500万円との合計額は1100万円であり,訴訟基準で算定した損害額1000万円を上回る100万円について保険会社は代位取得します。そして,被害者は,過失相殺後の損害賠償請求権の額500万円から保険会社が代位取得した100万円を控除した額である400万円について,被害者に対し損害賠償請求をすることができます。

 

四 まとめ

事例の場合,被害者は,5割の過失があったとしても,被害者に対し,400万円の損害賠償請求をすることができます。

その結果,被害者は,保険金600万円と被害者からの損害賠償金400万円の合計1000万円の支払を受けることができたことになり,訴訟基準での過失相殺前の損害額1000万円と同額の支払を受けることができ,損害全額の填補が受けられたことになります。

したがって,人身傷害保険を利用することで,過失相殺による損害の填補額の減額を回避することができますので(被害者の過失が大きい場合には,過失相殺される金額が保険金額を上回るため,被害者は損害全額の填補が受けられるわけではありませんが,保険金が支払われた分,減額される金額は低くなります。),被害者に過失がある場合には,人身傷害保険を利用すべきです

 

 

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