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【離婚】審判離婚

2021-12-21

離婚する方法には、①協議離婚、②調停離婚、③審判離婚、④和解離婚、⑤認諾離婚、⑥判決離婚があります。ここでは審判離婚について説明します。

 

一 審判離婚とは

審判離婚とは、調停に代わる審判による離婚のことです。

 

家庭裁判所は、調停が成立しない場合に相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(調停に代わる審判)をすることができます(家事事件手続法284条)。

 

調停に代わる審判がなされた場合、当事者が2週間以内に家庭裁判所に対し異議申立てをしたときは、審判は効力を失いますが(家事事件手続法286条)、異議申立てがないときは、審判は確定判決と同一の効力を有します(家事事件手続法287条)。

 

また、家庭裁判所は、離婚のほか財産分与等の付随事項についても調停に代わる審判をすることができます。

 

二 審判離婚をする場合

離婚については、協議がまとまらない場合は調停手続をし、調停手続で調停が成立しない場合には訴訟で解決するのが原則であり、審判離婚はごくわずかです。

 

審判離婚をする場合としては、①当事者の意見の違いが僅かである場合、②当事者間で合意はできているけれども、当事者が出席できない場合、③渉外離婚で裁判離婚しかできない場合等があります。

 

 

【離婚】養育費・婚姻費用を算定する場合の自営業者の総収入

2021-09-20

養育費や婚姻費用は標準算定方式や標準算定表を用いて算定するのが通常です。

標準算定方式では、当事者(権利者及び義務者)の総収入から生活に充てられる部分(基礎収入)を求めた上で、基礎収入額を計算式に当てはめて算定します。

また,標準算定表は、標準的なケースについて、標準算定方式に基づいて算定される婚姻費用や養育費を表に整理したものであり、当事者の総収入を表に当てはめて金額を算定します。

そのため、養育費請求事件や婚姻費用分担事件では当事者の総収入を把握することが重要となりますが、当事者が自営業者の場合,総収入はどのように算定するのでしょうか。

 

一 自営業者の総収入

給与所得者の場合、総収入は、基本的に源泉徴収票の「支払金額」や課税証明書の「給与の収入金額」の金額を指し、基礎収入は、総収入額から公租公課(所得税、住民税、社会保険料)、職業費(被服費、交通費等)、特別経費(住居費、医療費等)を控除した金額です。

 

これに対し、自営業者の場合は、事業の種類によって経費率が大きく異なるため、売上金額を総収入とすることは困難です。

そのため、自営業者の総収入は。所得税の確定申告書の「課税される所得金額」(「所得金額」から「所得から差し引かれる金額」を控除した額)を指します。

また、「課税される所得金額」は経費や社会保険料が既に控除されているため、基礎収入は、総収入から所得税、住民税。特別経費を控除した金額となります。

 

給与所得者の場合と自営業者の場合とでは、総収入の捉え方が異なるため、基礎収入割合が異なります。また,標準算定表の縦軸と横軸には給与所得者の年収と自営業者の年収がそれぞれ記載されています。

 

二 「課税される所得金額」に加算する項目

上述のとおり、自営業者の総収入は,所得税の確定申告書の「課税される所得金額」ですが、確定申告書の所得金額は税法上の観点から控除がなされたものであり、現実には支出していないのに控除されているものがあります。

そのため、「課税される所得金額」をそのまま総収入額とするのではなく、所得金額から税法上控除されているが現実には支出していない項目の金額を加算する等の修正をします。

 

1 「所得金額」の修正

確定申告書の「所得金額」は「収入金額等」から経費等を控除したものですが、現実に支出がなく,税法上の観点から控除が認められるものがあります。

「青色申告特別控除額」については、現実に支出がないので加算します。

「専従者給与(控除)の合計額」については、現実に支出がない場合がありますので、現実に支出がない場合には加算します。

 

減価償却費については、経費にはあたるものの、現実の支出はありませんが,資産取得のための借入金を返済している場合もありますので、加算すべきかどうか問題となります。

 

2 「所得から差し引かれる金額」の項目の修正

確定申告書の「所得から差し引かれる金額」の項目には、①雑損控除、②医療費控除、③社会保険料控除、④小規模企業共済等掛金控除、⑤生命保険料控除、⑥地震保険料控除、⑦寄附金控除、⑧寡婦、寡婦控除、⑨勤労学生、障害者控除、⑩配偶者(特別)控除、⑪扶養控除、⑫基礎控除があります。

 

このうち、①雑損控除、⑧寡婦、寡婦控除、⑨勤労学生、障害者控除、⑩配偶者(特別控除)、⑪扶養控除、⑫基礎控除については、現実の支出がないので、加算します。

 

②医療費控除、⑤生命保険料控除、⑥地震保険料控除については、現実の支出はありますが、基礎収入額を算定する際、標準的な額が特別経費として考慮されているので、基本的に加算します。

 

④小規模企業共済等掛金控除、⑦寄附金控除については、現実の支出はありますが、養育費や婚姻費用に優先させるべきものとはいえないので、基本的に加算すべきであると考えられています。

 

そのため、「所得から差し引かれる金額」のうち③社会保険料控除以外の項目の金額は「課税される所得金額」に加算するのが基本となります。

 

三 まとめ

以上のとおり、自営業者の総収入額は、確定申告書の「課税される所得金額」に、「青色申告特別控除額」、「専従者給与(控除)の合計額」(現実に支出がない場合)、「所得から差し引かれる金額」のうち社会保険料控除以外のもの等を加算した金額になります。

 

なお、確定申告書の内容が正しいかどうか争いとなることがありますし、自営業者は売上が安定せず、所得の変動が大きいこと等から、確定申告書があっても、総収入額が争いとなることがよくあります。

 

【離婚】慰謝料請求と保全手続

2021-07-09

離婚事件で慰謝料請求をする場合に、相手方が財産を処分してしまうおそれがあるときは保全手続を利用することが考えられます。

 

一 慰謝料請求権を被保全権利とする保全処分

保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分があります。

仮差押えは金銭の支払を目的とする債権を保全するための保全処分であり(民事保全法20条1項)、金銭債権である慰謝料請求権を保全するためには、相手方の財産の仮差押えをすることが通常です。

 

仮差押えをすることにより、その後に債務者が財産を処分しても、債権者は債務名義を取得して強制執行することができます。

 

二 管轄裁判所

損害賠償(慰謝料)請求訴訟は、民事訴訟であり、保全事件の管轄裁判所は本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所です(民事保全法12条1項)。

 

もっとも、人事訴訟の請求原因となった事実によって生じた損害賠償に関する請求は人事訴訟と併合することができます(人事訴訟法17条)。

保全事件についても、人事訴訟に係る請求とその請求原因である事実によって生じた損害賠償請求を1つの訴えですることができる場合には、損害賠償請求の保全命令の申立ては、仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所にすることができます(人事訴訟法30条2項)。

 

三 被保全権利と保全の必要性

保全事件では、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。

 

1 被保全権利

慰謝料請求権があることを疎明する必要があります。

離婚事件で慰謝料請求する場合としては,離婚に伴う慰謝料請求の場合と相手方の不貞行為やDV等、離婚原因となる個々の行為についての慰謝料請求の場合があります。

 

2 保全の必要性

保全の必要性は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生じるおそれがあるときに認められます(民事保全法20条1項)。

 

保全の必要性は、仮差押の対象物の種類や債務者の受ける打撃の大きさも関係します。相手方の財産として自宅不動産と預貯金がある場合、通常は預貯金よりも自宅不動産を仮差押したほうが相手方の打撃が小さいと考えられますので、自宅不動産を仮差押の対象とすることが多いです。

 

四 担保金

保全処分により債務者が損害を被る可能性があるため、担保金を供託する必要があります。

 

担保金額は基本的に目的物の価格が基準となります。

不動産が目的物となる場合は、固定資産税評価額を基準とすることが多いです。不動産が対象となる場合には担保金額も高額になるため、保全の申立てをするにあたっては担保金を準備できるかどうかが問題となります。

 

【離婚】財産分与請求と保全手続

2021-07-05

離婚事件で財産分与請求をする場合に、相手方が財産を処分してしまうおそれがあるときは保全手続を利用することが考えられます。

 

一 財産分与請求権を被保全権利とする保全処分

保全処分には、①仮差押え、②係争物に関する保全処分、③仮の地位を定める仮処分があります。

財産分与請求権を被保全権利とする保全処分は、仮差押えの場合と係争物に関する保全処分である不動産の処分禁止の仮処分の場合があります。

 

1 仮差押え

仮差押えは金銭の支払を目的とする債権を保全するための保全処分です(民事保全法20条1項)。

財産分与請求権は金銭の支払によるのが原則であるため、財産分与請求権を被保全権利とする保全処分としては、仮差押えによることが多いです。

 

仮差押えをすることにより、その後に債務者が財産を処分しても、債権者は債務名義を取得して強制執行することができます。

 

2 不動産の処分禁止の仮処分

財産分与で不動産の現物分与を求める場合に、相手方に不動産を処分され、第三者に登記を移されてしまうのを防ぐために、不動産処分禁止の仮処分の申立てをすることもあります。

 

仮処分命令の発令により、処分禁止の登記がなされた場合(民事保全法53条1項)には、その後に債務者が不動産を処分して、第三者に登記を移したとしても、債権者が本案訴訟で不動産の現物分与が認められて登記をするときは、処分禁止の登記に抵触する処分行為は債権者に対抗できず、債権者は単独で第三者の登記を抹消請求することができます(民事保全法58条)。

 

二 管轄裁判所

人事訴訟を本案とする保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄します(人事訴訟法30条1項)。

 

そのため、財産分与請求権を被保全権利とする保全命令の申立ての場合には、①本案での管轄裁判所(離婚訴訟の管轄裁判所)又は、②仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄裁判所となります。

 

三 被保全権利と保全の必要性

保全事件では、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。

 

1 仮差押えの場合

(1)被保全権利

仮差押命令は、金銭の支払いを目的とする債権を被保全権利とするものですから(民事保全法20条1項)、金銭給付の方法による財産分与請求権が被保全権利となります。

 

財産分与請求をするには離婚が成立しなければならないため、①婚姻関係が破綻していること,②財産分与請求権を疎明する必要があります。

 

(2)保全の必要性

保全の必要性は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められます(民事保全法20条1項)。

 

また、保全の必要性は、仮差押の対象物の種類や債務者の受ける打撃の大きさも関係します。そのため、相手方の財産として自宅不動産と預貯金がある場合、通常は預貯金よりも自宅不動産を仮差押したほうが相手方の打撃が小さいと考えられますので、自宅不動産を仮差押の対象とすることが多いです。

 

2 処分禁止の仮処分の場合

(1)被保全権利

現物分与の方法による財産分与請求権が被保全権利となります。

 

①婚姻関係が破綻していること,②財産分与請求権を疎明する必要がありますが、財産分与請求権は金銭給付が原則であるため、処分禁止の仮処分命令の申立てをする場合には対象財産について現物分与される蓋然性があることを疎明する必要があります。

 

(2)保全の必要性

保全の必要性は、係争物の現状の変更により債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難があるときに認められます(民事保全法23条1項)。

 

四 担保金

保全処分により債務者が損害を被る可能性があるため、担保金を供託する必要があります。

 

担保金額は基本的に目的物の価格が基準となります。不動産が目的物となる場合は、固定資産税評価額を基準とすることが多いです。

 

財産分与の場合には通常の民事保全の場合よりも、担保金額が低くなる傾向にありますが、不動産が対象となる場合には担保金額も高額になるため、保全の申立てをするにあたっては担保金を準備できるかどうかが問題となります。

 

五 離婚成立後に財産分与請求する場合

離婚成立後は離婚訴訟の提起はできないので、人事訴訟を本案とする保全処分の申立てはできません。

もっとも、離婚成立後2年以内であれば財産分与調停・審判の申立てをすることができますので、審判前の保全処分の申立てをして、仮差押や処分禁止の仮処分をすることができます(家事事件手続法157条1項4号)。

 

なお、人事訴訟を本案とする保全処分の申立ては訴訟提起前でもできますが、審判前の保全処分の申立てをする場合には、家庭裁判所(または高等裁判所)に調停や審判が係属していることが必要となります(家事事件手続法105条)。

 

申立てをするときには、申立ての趣旨及び保全処分を求める事由を明らかにし(家事事件手続法106条1項)、保全処分を求める事由を疎明しなければなりません(家事事件手続法106条2項)。

また、審判前の保全処分の場合も担保の提供が必要となります。

【離婚】養育費・婚姻費用の算定方式・算定表の改定

2020-01-09

養育費や婚姻費用の算定は,実務上,標準算定方式(簡易算定方式ともいいます。)や標準算定表(簡易算定表ともいいます。)を用いて行われていますが,算定方式や算定表が改定され,令和元年12月23日に改定内容が公表されました。
今後,養育費の額や婚姻費用分担額を算定するにあたっては,改定後の算定方式や算定表を用いることになります。

一 養育費・婚姻費用の算定方式・算定表

1 養育費

(1)養育費の算定方式

養育費は,①権利者と義務者の基礎収入(収入のうち生活にあてられる分)を算定し,②義務者が子と同居していると仮定して,義務者の基礎収入を義務者の生活費と子の生活費に按分し,③子の生活費を義務者と権利者の基礎収入で按分するという方法で算定します。
計算式は,以下のようになります。

養育費 (月額)
=義務者の基礎収入×子の生活費指数/義務者と子の生活費指数×義務者の基礎収入/(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)÷12

(2)養育費の算定表

算定表は,標準的なケースについて,算定方式に基づいて算定される養育費を1万円または2万円の幅で表に整理したものであり,権利者が養育している子の人数や年齢に応じて,①子1人(0~14歳),②子1人(15~19歳),③子2人(第1子及び第2子0~14歳),④子2人(第1子15~19歳,第2子0~14歳),⑤子2人(第1子及び第2子15~19歳),⑥子3人(第1子,第2子及び第3子0~14歳),⑦子3人(第1子15~19歳,第2子及び第3子0~14歳),⑧子3人(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳),⑨子3人(第1子,第2子及び第3子15~19歳)の9種類の表があります。
表の縦軸の義務者の年収が表示されているところから横に延ばした線と,横軸の権利者の年収が表示されているところから縦にのばした線の交わるところの数値が養育費の金額(月額)となります。

2 婚姻費用

(1)婚姻費用の算定方式

婚姻費用分担額は,①権利者と義務者の基礎収入を算定し,②権利者と義務者の基礎収入の合計額を権利者世帯と義務者世帯に按分し,③権利者世帯の按分額から権利者の基礎収入額を控除して算定します。
計算式は以下のとおりです。

婚姻費用分担額(月額)
={(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者世帯の生活費指数/(義務者世帯の生活費指数+権利者世帯の生活費指数)-権利者の基礎収入}÷12

(2)婚姻費用の算定表

算定表は,標準的なケースについて,算定方式に基づいて算定される婚姻費用を1万円または2万円の幅で表に整理したものです。
算定表には,権利者が養育している子の人数や年齢に応じて,①夫婦のみ(子がいない場合),②子1人(0~14歳),③子1人(15~19歳),④子2人(第1子及び第2子0~14歳),⑤子2人(第1子15~19歳,第2子0~14歳),⑥子2人(第1子及び第2子15~19歳),⑦子3人(第1子,第2子及び第3子0~14歳),⑧子3人(第1子15~19歳,第2子及び第3子0~14歳),⑨子3人(第1子及び第2子15~19歳,第3子0~14歳),⑩子3人(第1子,第2子及び第3子15~19歳)の10種類があります。
表の縦軸の義務者の年収が表示されているところから横に延ばした線と,横軸の権利者の年収が表示されているところから縦にのばした線の交わるところの数値が婚姻費用分担額(月額)となります。

二 改定の内容

これまでの算定方式や算定表の基本的な枠組みや考え方自体は改定後も変わりません。
改定では,基礎となっている統計資料や制度等の更新により,基礎収入と生活費指数が見直されました。
また,基礎収入と生活費指数の見直しにより養育費等の額が変わりましたので,算定表の内容も変わりました。

1 基礎収入の見直し

基礎収入とは収入のうち生活にあてられる部分のことです。
基礎収入は,給与所得者の場合は,総収入額から公租公課,職業費(被服費,交通費等),特別経費(住居費等)を控除した金額であり,自営業者の場合は,所得金額から公租公課,特別経費を控除した金額ですが,簡易迅速性,予測可能性,公平性の観点から,収入額に標準的な割合(基礎収入割合)乗じて算定します。
改定前は,給与所得者の基礎収入割合は概ね総収入の34%から42%の範囲,自営業者の基礎収入割合は概ね総所得の47%から52%の範囲であるとされていました(いずれも高額所得者ほど低くなります。)。
改定では,算定方式の基となっている統計資料や制度等を最新のものに更新することや,職業費の一部の費目の計上額について見直しが行われました。
これにより,改定後は,給与所得者の基礎収入割合は概ね総収入の38%から54%の範囲,自営業者の基礎収入割合は,概ね総所得の48%から61%の範囲となりました(いずれも高額所得者ほど低くなります。)。

2 生活費指数の見直し

これまで子の生活費指数について,0歳から14歳までと15歳から19歳までの2つに区分しており,生活費指数を親を100,0歳から14歳までの子を55,15歳から19歳までの子を90としていました。

改定後も子の生活費指数を0歳から14歳までと15歳以上(終期を何歳までとするかは個別の事案によります。)の子の2つに区分しますが,統計資料の更新により,各区分の生活費指数が見直され,改定後の生活費指数は,親100,0歳から14歳までの子62,15歳以上の子85となりました。

三 具体例

例えば,離婚に際して,妻(給与所得者,年収100万円)が子2人(13歳と16歳)の親権者となり,夫(給与所得者,年収800万円)に養育費の支払を請求する場合,改定前の算定方式によると,養育費は月額約12万4000円ですが,改定後の算定方式によると月額約13万7000円となります。

改定前
妻の基礎収入 42万円(=100万円×基礎収入割合42%)
夫の基礎収入 288万円(=800万円×基礎収入割合36%)

288万円×(90+55)/(100+90+55)×288万円/(288万円+42万円)÷12≒12万3962円

改定後
妻の基礎収入 50万円(=100万円×基礎収入割合50%)
夫の基礎収入 320万円(=800万円×基礎収入割合40%)

320万円×(85+62)/(100+85+62)×320万円/(320万円+50万円)÷12≒13万7257円

四 養育費・婚姻費用の増減額請求への影響

養育費や婚姻費用を定めた後に事情の変更があれば,当事者は養育費等の増額請求や減額請求をすることができます。
改定された算定方式や算定表によると養育費等の額が増える場合,養育費等の増額請求ができないか問題となりますが,算定方式や算定表が改定されたこと自体は,事情の変更にはあたらないと解されていますので,算定方式等の改定を理由に養育費等の増額請求をすることはできないのが原則です。

もっとも,事情の変更があり,養育費等の増減額請求がなされた場合,変更後の養育費等を算定するにあたって,改定後の算定方式や算定表が用いられることになるものと考えられます。

【離婚】専業主婦の離婚事件

2019-12-11

専業主婦の方が離婚する場合,どのようなことが問題となるでしょうか。

 

一 離婚後の生活が成り立つかどうか

専業主婦の方は,婚姻期間中は自分に収入がなくても,夫の収入で生活することができますが,離婚後は自分の収入や財産で生活を維持しなければならなくなります。
そのため,専業主婦の方が離婚する場合には,離婚後の仕事,住居,生活費等,離婚後の生活がどうなるかを考え,予め離婚後の生活が成り立つ算段をつけておく必要があります。離婚後の生活のことを考えないで,離婚や離婚条件を決めてしまうと,離婚後に生活が成り立たず,後悔することになりかねません。

離婚後の生活が成り立つかどうかは,離婚後の自身の努力や家族の協力のほか,離婚するにあたって夫にどのような請求ができるかにかかっています。

 

二 婚姻費用分担請求

離婚が成立するまでの間,夫婦が別居している場合,専業主婦である妻には収入がありませんので,別居中の生活費を確保するため,妻から夫に対し婚姻費用分担請求をすることが考えられます。
婚姻費用分担額については,夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常ですので,夫の収入が分かれば,大よその金額の算定ができます。

 

三 養育費

専業主婦である母親が,離婚後,未成年の子の親権者となり,子を監護することになった場合には,父親に対し,子の監護に要する費用(養育費)の支払を請求することができます(民法766条)。
養育費の額については,夫婦双方の収入を基に,簡易算定表や簡易算定方式により算定するのが通常です。
離婚後,母親が子を監護することになった場合,子を困窮させないようにするため,養育費の請求をしましょう。

 

四 慰謝料

夫の不貞行為やDV等,夫の有責行為により離婚する場合には,妻から夫に対し慰謝料請求をすることが考えられます。
慰謝料額について明確な基準があるわけではありませんが,有責行為の種類・態様,当事者双方の有責性の程度,婚姻期間,未成年の子の有無,双方の年齢,資力,社会的地位等様々な事情から判断されます。

夫が不貞行為やDV等の有責行為の存在を否定する場合には,不貞行為やDV等の証拠が必要となります。

 

五 財産分与

離婚の時から2年以内であれば,離婚した夫婦の一方は,他方に対し,財産分与請求をすることができます。
財産分与には,①清算的財産分与(夫婦が婚姻中に築いた財産の清算),②扶養的財産分与(離婚後の扶養を考慮した財産分与),③慰謝料的財産分与(慰謝料的な要素を考慮した財産分与)があります。このうち財産分与の中心となるのは①清算的財産分与であり,②,③は補充的に考慮されるにとどまります。

 

1 清算的財産分与

清算的財産分与は,夫婦が協力して形成した財産を夫婦で分けることです。
財産形成に寄与した割合で分けることになりますので,専業主婦の場合,寄与割合が夫よりも低いのではないかと争いとなることがありますが,特段の事情(夫婦の一方が特別な才能,専門知識や努力により多額な収入を得て,財産が形成された場合等)がない限り,夫婦は財産の形成に等しく貢献しているものとみて,2分の1ずつの割合で分けるのが原則です(2分の1ルール)。
そのため,専業主婦だからというだけで,清算財産分与の割合が2分の1より低くなるということは通常ありません。

清算的財産分与の請求をするにあたっては,夫にどのような財産があるか把握しておく必要があります。

 

2 扶養的財産分与

財産分与は清算的財産分与が中心ですが,清算的財産分与や慰謝料だけでは夫婦の一方が離婚後の生活に困窮することになる場合には,補充的に扶養的財産分与が認められることがあります。
高齢の専業主婦で年金額が少額の場合,専業主婦で働き始めるまで時間がかかる場合,未成熟子を監護して働くことができない場合等,離婚後の妻の生活について扶養の必要性がある場合には,補充的に扶養的財産分与が認められることがあります。

 

六 年金分割

夫婦の一方または双方が婚姻期間中に厚生年金や共済年金に加入している場合,原則として離婚から2年以内であれば,年金分割請求をすることができます。

年金分割には,3号分割と合意分割があります。
3号分割は,第3号被保険者である期間(平成20年4月1日以降の期間)についての年金分割です。3号分割の年金分割請求をすれば,自動的に2分の1の割合で按分されるので,按分割合を決める必要はありません。

合意分割は,3号分割以外の場合であり,当事者が合意または裁判で按分割合を定める年金分割です。当事者が按分割合について合意ができなければ裁判所が按分割合を定めますが,その場合,特段の事情がない限り,2分の1となることがほとんどです。

専業主婦の場合,夫が2号被保険者(会社員や公務員)のときは,3号被保険者にあたりますので,3号分割をすることができます(3号分割ができるのは,平成20年4月31日以降の3号被保険者期間であり,それ以前の期間にについては合意分割ができます。)。
また,夫が1号被保険者(自営業者)の場合,専業主婦の妻も1号被保険者になりますので,年金分割はできません。

年金分割をするには,年金分割のための情報提供通知書を入手する必要があります。

【離婚】親権者の変更

2019-07-02

未成年の子の父母が離婚する場合,父母の一方が未成年の子の親権者に指定されますが,離婚後,子の利益のため必要があると認められる場合には親権者の変更をすることができます。

 

一 親権者の変更とは

未成年の子の父母が離婚するときは,父母の一方を未成年の子の親権者に指定しなければなりません。
しかし,離婚後,子の利益のため必要があると認められるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができます(民法819条6項)。

親権者の変更は,単独親権者の親から他の親に親権者を変更するものです。
そのため,親権者となった親が再婚し,その再婚相手が子と養子縁組した場合には実親と養親の共同親権となるので,非親権者の実親が親権者の変更を求めることはできません。

 

二  手続

1 親権者変更の調停または審判

親権者の変更は,子への影響が大きいことから,当事者の協議だけで行うことはできません。
家庭裁判所の親権者変更の調停または審判によらなければなりません(家事事件手続法39条,別表2第8項,244条)。
親権者変更の審判をするには,当事者の陳述を聴くほか,15歳以上の子の意見を聴取しなければなりません(家事事件手続法169条2項)。

 

2  戸籍の届出

親権者変更の調停が成立した場合や審判が確定した場合には,親権者となった親は,調停成立日または審判確定日から10日以内に,調停調書または審判書と確定証明書を添付して,親権者変更の届け出をしなければなりません(戸籍法79条,63条1項)。
また,子を変更後の親権者の戸籍に入籍させるには,家庭裁判所に子の氏の変更の許可の申立てをし,許可をとってから,入籍届をすることになります。

 

三 親権者変更の判断基準

親権者の変更が認められるには,子の利益のため必要があると認められることが必要となります。
具体的な基準としては,離婚時の親権者指定の場合の判断基準が参考となりますが,既に親権者が指定されていますので,単純に父母のどちらが親権者としてふさわしいかということではなく,親権者を変更する必要性があるかどうかも問題となります。

親権者の変更が認められる場合としては,①親権者が子の虐待や育児放棄をしている場合,②親権者が病気で育児ができない場合,③親権者が行方不明の場合,④親権者が死亡した場合,⑤非親権者の親が子を監護しており,子も非親権者の親との生活を望んでいる場合等が考えられます。

 

四 親権者が死亡した場合

親権者が死亡した場合,非親権者である親が親権者となるわけではなく,後見が開始します(民法838条1号)。
もっとも,未成年後見人の選任の前後に関わりなく,親権者の変更が認められれば,非親権者であった親が親権者となることができます。

未成年後見人と親権者の変更のどちらが優先するという規定はありませんので,どちらによるかは,監護の実績や子の意思を考慮して,どちらが子の利益になるかで判断されます。

【離婚】養育費の変更(増額請求・減額請求)

2019-06-21

養育費の額を決めた後に,失業や病気で収入がなくなった場合等,事情の変更があった場合には,養育費の増額や減額を請求することができます。

 

一 養育費の増額請求・減額請求

民法880条は「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」と規定しており,この規定により,養育費の額を決めた後に事情の変更がある場合には,養育費の増額または減額の請求をすることができます。
養育費の増額,減額のほか,養育費の終期を変更することもあります。また,養育費不請求の合意をした後に,事情の変更があれば,養育費の請求が認められることもあります。

 

二 事情の変更

養育費の増額請求や減額請求が認められるには,養育費を決めた当時予測することができなかった重大な事情の変更があり,従前の養育費が不相当となったことが必要となります。
例えば,増額請求する場合としては,①権利者の失業,病気,怪我により収入が減少した場合,②子が進学して学費が増える場合,③子が病気になって医療費がかかる場合等があります。
また,減額請求する場合としては,①義務者が失業,病気,怪我により収入が減少した場合,②義務者が再婚して扶養家族が増えた場合,③子が権利者の再婚相手の養子となった場合等があります。
事情の変更の有無が争いとなることに備えて,養育費の取決めをする際には,「収入の状況の変更,子の進学,病気などの事情があったときは,養育費の額について別途協議する」などの取決めをしておくことも考えられます。

 

三 変更の始期

養育費の増額や減額の請求した場合,養育費がいつから変更されるのかについては,増額や減額を請求したとき(調停や審判の申立てをしたときは,申立てをしたとき)からだと考えられています。

 

四 変更後の養育費の額

変更後の養育費の額は,増額請求や減額請求をしたときの権利者,義務者双方の収入をもとに簡易算定表や簡易算定方式により算定するだけではなく,養育費の合意をした当時の事情や合意後の事情も考慮されます。

 

五 手続

当事者間の合意により養育費の額を変更することができますが,協議による合意ができないときには,家庭裁判所に養育費の増額請求または減額請求の調停または審判の申立てをすることができます。

【離婚】不倫相手に対する離婚慰謝料請求

2019-03-28

不貞行為が原因で離婚した場合,不貞行為をされた夫婦の一方は,不貞行為をした夫婦の他方とその相手方に対し,慰謝料請求することが考えられます。
不貞行為が原因で離婚した場合の慰謝料については,①不貞行為による精神的苦痛に対する慰謝料を請求する考え方(不貞慰謝料)と,②離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料を請求する考え方(離婚慰謝料)があります。
①と②では,消滅時効の起算点や遅延損害金の起算日に違いがあり,①では不貞行為をした時が起算点・起算日となるのに対し,②では離婚をした時が起算点・起算日となるという違いがあります。そのため,例えば,不貞行為を知ってから3年経過した後に慰謝料請求する場合には,不法行為の消滅時効の期間(民法724条)が経過しているため,不貞慰謝料ではなく,離婚慰謝料を請求するということが考えられます。

しかし,不貞行為をした第三者に対し離婚慰謝料を請求することについて,平成31年2月19日に最高裁判所の判決がでました。
この判決では,夫婦の一方は他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料請求はできないとされました。離婚は本来,夫婦間で決めるべき事柄であることから,不貞行為により婚姻関係が破綻して離婚に至ったとしても,直ちに,第三者が離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うものではなく,責任を負うのは,単に不貞行為をしただけではなく,離婚させることを意図して,婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして離婚をやむをえなくしたと評価すべき特段の事情がある場合に限られるとのことです。

この判決は,第三者に対する離婚慰謝料の請求は原則としてできないというものであって,第三者に対する不貞慰謝料の請求を否定するものではありません。そのため,今後,第三者に対しては離婚慰謝料ではなく,不貞慰謝料の請求をすることが基本になるでしょうが,消滅時効の期間の点で第三者に慰謝料請求ができなくなるケースもでてきます。

なお,不貞行為をした夫婦の一方と第三者の責任は共同不法行為責任であり,不真正連帯債務であると考えられていますが,夫婦の一方に離婚慰謝料を請求し,第三者に不貞慰謝料を請求した場合,共同不法行為責任・不真正連帯債務や求償についてどのように考えるのか問題となるものと思われます。
また,第三者に対し不貞慰謝料の請求はできるけれども,離婚慰謝料の請求はできないとした場合,慰謝料額にどのような影響を与えるのかも問題となるものと思われます。

【離婚】扶養的財産分与

2019-02-25

離婚をした夫婦の一方は相手方に対して財産分与請求をすることができます。
財産分与には,①清算的要素(夫婦が婚姻中に協力して形成した財産の清算),②扶養的要素(離婚後の扶養),③慰謝料的要素(精神的損害の賠償)がありますが,扶養的財産分与はどのような場合に認められるのでしょうか。

一  扶養的財産分与

財産分与の可否,分与の額・方法については,「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」定められますので(民法768条3項),夫婦が婚姻中に協力して形成した財産の額だけでなく,婚姻期間の長さ,当事者双方の年齢,健康状態,職業,収入,稼働能力,特有財産を含めた財産の状況,有責性等様々な事情が考慮されます。
財産分与は清算的財産分与が中心ですが,清算的財産分与や慰謝料だけでは夫婦の一方が離婚後の生活に困窮することになる場合には,補充的に扶養的財産分与が認められることがあります。

 

二 扶養的財産分与が認められる場合

扶養的財産分与が認められるには,①請求者に扶養の必要性があること,②義務者に扶養能力があることが必要となります。

 

1 扶養の必要性

扶養の必要性があるかどうかは,請求者が受けた清算的財産分与や慰謝料,請求者の収入,稼働能力,特有財産を含む財産の状況,親族からの援助の状況,社会保障等を考慮して,経済的自立が困難かどうかで判断されます。

扶養の必要性が問題となる場合としては,①高齢の専業主婦の場合(年金分割制度の適用がない場合や分割後の年金額が少額の場合等),②病気の場合,③未成熟子を監護して働くことができない場合,④専業主婦で働き始めるまで時間がかかる場合等があります。

 

2 義務者の扶養能力

扶養的財産分与が認められるには義務者に扶養する能力がなければいけません。
義務者の扶養能力の有無は,義務者の収入や財産から判断されます。
義務者の財産については特有財産も含めて判断されます。

 

三 扶養的財産分与の方法

扶養的財産分与は,金銭の支払いで行われることが通常です。
金額については,生計を維持できる程度の金額です。その金額は,婚姻費用より低くなることが通常です。
期間については,経済的に自立することができるまでの期間です。専業主婦が就職できるまでの期間,子を保育園に預けることができるまでの期間,病気が治るまでの期間等,事案によって異なります。
支払については,一括払いの場合と定期金払いの場合があります。

また,金銭の支払以外の方法として,夫婦の一方が所有する住居に使用貸借権等の利用権を設定して,離婚後の相手方の居住が認めること等もあります。

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