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【民法(債権法)改正】代理

2021-02-15

改正民法が令和2年4月1日に施行されたことにより、代理の規定が改正されました。

 

一 代理行為の瑕疵

1 代理行為に瑕疵があった場合

改正前の民法101条1項では「意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定されていました(旧民法101条1項)。

この規定は、意思表示の瑕疵や善意・悪意や過失の有無は代理人について判断するのが原則であるという規定ですが、適用範囲が不明確でした。

 

改正により、代理人が相手方に意思表示をした場合と相手方が代理人に意思表示した場合が区別され、適用範囲が明確になりました。

改正後の民法101条1項では「代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定され、民法101条2項「相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」と規定されました。

 

2 特定の法律行為を委託した場合

改正前の旧民法101条2項では「特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失により知らなかった事情についても、同様とする。」と規定されておりましたが、本人の指図は不要であると解されていました。

 

改正により、「本人の指図に従って」の文言が削除され、改正後の民法101条3項では「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」と規定されました。

 

二 代理人の行為能力

改正前の旧民法102条では「代理人は、行為能力者であることを要しない。」と規定しておりました。

この規定は、代理人が制限行為能力者であっても、法律行為を取り消すことはできないということですが、文言上は、取消しができるのかどうか不明確でした。

また、旧民法102条では任意代理人の場合と法定代理人の場合とで区別していませんが、制限行為能力者が法定代理人になった場合にも取消しができないとすると、本人の保護が図れないおそれがありました。

 

そこで、改正後の民法102条では「制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りではない。」と規定されました。

 

また、この改正に伴い、民法13条1項(保佐人の同意を要する行為について同条10号「前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。」を追加)、民法120条1項(行為能力の制限によって取り消すことができる行為の取消権者に「他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む」こととされました。)が改正されました。

 

三 復代理

1 復代理人を選任した代理人の責任

改正前の旧民法105条1項では「代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。」と規定し、同条2項では「代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠っときは、この限りではない。」と規定されていましたが、任意代理人が復代理人を選任した場合に任意代理人の責任を軽減すべき理由がないことから、改正により、旧民法105条は削除されました。

改正後は、任意代理人が復代理人を選任した場合の代理人の責任は債務不履行の一般原則によることになります。

 

また、旧民法106条(法定代理人による復代理人の選任)は、改正後は民法105条になりました。旧民法105条が削除されたことにより,文言が一部変わりましたが,内容は同じです。

 

2 復代理人の権限等

改正前の旧民法107条2項は「復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定されていましたが、復代理人と代理人の権利義務が必ずしも同じでないことを明確にするため、改正後の民法106条2項では「復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。」と規定されました。

なお、旧民法107条1項は改正後は民法106条1項となりましたが、文言は同じです。

 

四 代理権の濫用

改正前は、代理人が代理権を濫用した場合について明文の規定がありませんでした。

改正前は、代理権が濫用された場合も代理権の範囲内の行為であることから本人に効果が帰属するのが原則ですが、民法93条但書を類推適用して、相手方が代理人の目的を知り又は知ることができた場合は代理行為の効果を否定することで、本人の保護を図っていました。

 

改正により、代理権の濫用についての規定が新設されました。改正後の民法107条では「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定されました。

 

五 自己契約及び双方代理等

1 自己契約及び双方代理の禁止

改正前の旧民法108条では「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定し、自己契約及び双方代理を禁止していましたが、違反した場合の効果についての規定がなく、判例上、無権代理と同様に扱われていました。

 

改正により、違反した場合の効果について規定されました。改正後の民法108条1項では「同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」と規定されました。

 

2 利益相反行為の禁止

改正前の民法では代理人と本人の利益相反についての規定はありませんでしたが、旧民法108条の規制が及ぶと解されていました。

 

改正により、利益相反行為禁止の規定が新設されました。改正後の民法108条2項では「前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。」と規定されました。

 

六 表見代理

1 代理権授与の表示による表見代理等

改正前の民法では、表示された代理権の範囲外の行為をした場合の規定がなく、判例上、旧民法109条(代理権授与の表示による表見代理)と旧民法110条(権限外の行為の表見代理)が重畳適用されていました。

 

改正により、表示された代理権の範囲外の行為をした場合について規定されました。改正後の民法109条2項では「第三者に対して他人に代理権を与えた旨の表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」と規定されました。

 

2 代理権消滅後の表見代理

改正前の民法112条では「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定されていましたが、改正により、「善意」の意味が明確化されました。

改正後の民法112条1項では「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と規定されました。

 

また、改正前の民法では、代理権消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合の表見代理の規定がなく、判例上、旧民法112条と旧民法110条が重畳適用されていました。

改正により、代理権消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合について規定されました。改正後の民法112条2項では「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」と規定されました。

 

七 無権代理人の責任

1  民法117条1項の改正

改正前の旧民法117条1項では「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。」と規定されていましたが、相手方が追認がなかったことを立証しなければならないのか、代理人が責任を免れるために追認があったことを立証しなければならないのか文言上明確ではありませんでした。

改正により、代理人が追認があったことの立証責任を負うことが明確になりました。改正後の民法117条1項では「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」と規定されました。

 

2 民法117条2項の改正

改正前の旧民法117条2項は「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。」と規定していました。

 

改正により、相手方に過失がある場合であっても、無権代理人が代理権がないことを知っていたときは、無権代理人は責任を負うことが規定されました。改正後の民法117条2項は、「前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りではない。 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。」と規定されました。

【民法(債権法)改正】意思能力・意思表示

2021-01-05

改正民法が令和2年4月1日に施行されました。改正により、意思能力の明文化や意思表示の規定の見直しがなされました。

 

一 意思能力の明文化

改正前から、意思能力がない人がした法律行為は無効であると解されていましたが、条文の規定がありませんでした。

改正により、意思能力について明文化され、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする。」と規定されました(民法3条の2)。

 

二 意思表示の規定の見直し

改正により、心裡留保、錯誤、詐欺の規定が見直されました。

また、意思表示の効力発生時期等の規定や意思表示の受領能力の規定も改正されました。

 

1 心裡留保

(1)意思表示が無効となる場合

改正前は、心裡留保の意思表示について「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。」と規定していましたが(旧民法93条但書)、真意を知っている必要まではないことから、改正により「相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。」と規定されました(民法93条1項但書)。

 

(2)第三者保護

改正前は、第三者保護規定がなく、民法94条2項を類推適用して第三者の保護を図っていました。

改正により「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定され(民法93条2項)、第三者の保護が図られることになりました。

 

2 錯誤

(1)効果

改正前は、錯誤による意思表示は無効と規定されていましたが(旧民法95条)、改正により、取消事由となりました(民法95条1項)。

無効であれば誰でも主張することができるのが原則であるにもかからわず,判例上、錯誤による意思表示の無効は原則として表意者のみ主張できると解されてきたことや、詐欺による取消しの主張には期間制限があるのに(民法126条)、無効の主張には期間制限がなく、バランスを欠くことから、改正により、錯誤についても無効事由ではなく、取消事由となりました。

 

(2)表示の錯誤と動機の錯誤

改正前は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」と規定されていましたが(旧民法95条本文)、条文上、どのような場合に意思表示の効力が否定されるのか明確ではなかったことから、改正により、要件が明確化されました。

 

改正により「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(表示の錯誤)と「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(動機の錯誤)に区別されました(民法95条1項1号、2号)。

 

表示の錯誤の場合は、①意思表示が錯誤に基づくものであり、②「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」は取り消すことができます(民法95条1項)。

 

動機の錯誤の場合は、①,②に加え、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」に限り取り消すことができます(民法95条1項、2項)。

 

(3)表意者に重過失がある場合

改正前は「表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することはできない。」と規定されていましたが(旧民法95条但書)、改正により、意思表示の効力を否定することができる場合が規定されました。

 

改正後も、錯誤が表意者の重大な過失のよる場合は意思表示を取り消すことができないのが原則ですが、①相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときや、②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、例外的に意思表示を取り消すことができます(民法95条3項)。

 

(4)第三者保護規定

改正前は第三者保護規定がありませんでしたが、改正により第三者保護規定がおかれ、錯誤による意思表示の取消しは、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と規定されました(民法95条4項)。

 

3 詐欺

(1)第三者の詐欺

改正前は、相手方に対する意思表示が第三者の詐欺による場合、「相手方がその事実を知っていたときに限り」、意思表示を取り消すことができると規定されていました(旧民法96条2項)。

 

改正により、相手方が、その事実を知ることができた場合にも意思表示を取り消すことができるようになり「相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り」、意思表示を取り消すことができると規定されました(民法96条2項)。

 

(2)第三者保護規定

改正前は、詐欺による意思表示の取消しは、「善意の第三者に対抗することができない。」

と規定されており(旧民法96条3項),第三者は無過失であることが必要か問題となっていました。

 

改正により、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と規定され(民法96条3項)、第三者は善意・無過失であることが必要となりました。

 

4 意思表示の効力発生時期等

(1)意思表示の到達主義

旧民法97条は隔地者間の意思表示について到達主義(意思表示は到達時に効力が発生するという考え)を採用していましたが、隔地者間の意思表示に限る必要はないことから、改正により、意思表示一般について到達主義を採用することが規定されました(民法97条1項)。

 

(2)通知の到達を妨げられた場合

改正前は、相手方が意思表示の通知を受領しなかった場合、意思表示の通知が到達したといえるかどうか、明文の規定はなく、問題になっていました。

 

改正により、「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」という規定が新設されました(民法97条2項)。

 

(3)発信後の意思能力の喪失、行為能力の制限

改正前は、「隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」と規定されていました(旧民法97条2項)。

改正により、①隔地者間の意思表示に限らず、意思表示一般の規定にするとともに、②意思無能力や制限行為能力の場合に広げ、「意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」と改められました(民法97条3項)。

 

5 意思表示の受領能力

改正前は、意思表示の受領時に相手方が未成年者や成年被後見人であった場合は意思表示を相手方に対抗できないが、法定代理人が知った後はその限りではないと規定されていました(旧民法98条の2)。

 

改正により、意思能力の規定が設けられたことにともない、相手方が「その意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき」も意思表示を相手方に対抗することができない場合として追加されました(民法98条の2本文)。また、意思表示を対抗できる例外も追加され、「意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方」が意思表示を知った後も意思表示を対抗することができることとされました(民法98条の2但書)。

【民法(債権法)改正】法定利率の改正

2020-12-22

改正民法が令和2年(2020年)4月1日に施行されたことにより、法定利率が変更されました。

 

一 法定利率の引下げと変動制

1 法定利率の引下げ

改正前の民法では、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。」と規定されており、民事法定利率は年5%に固定されていました(旧民法404条)。

しかし、年5%の利率は市中金利を大きく上回ることから、改正により、法定利率を当面は年3%に引き下げ、3年ごとに見直すことになりました(民法404条)。

 

また、改正前の商法では、商事法定利率は年6%とされていましたが(旧商法514)、民法改正により法定利率が引き下げられたことにともない、商事法定利率の規定は廃止されました。

 

2 法定利率の変動

改正後の法定利率は、当初は年3%ですが(民法404条2項)、3年を一期として,一期ごとに変動するものとされました(民法404条3項)。

 

各期の法定利率は、直近変動期(法定利率の変動があった期のうち直近のもの)の基準割合と当期の基準割合との差に相当する割合(1%未満の端数は切捨てます。)を直近変動期の法定利率に加算・減算した割合となります(民法404条4項)。

 

基準割合は、過去5年(各期の初日の属する年の6年前の1月から前々年の12月まで)の各月の短期貸付け(銀行が新たに行った貸付期間1年未満の貸付け)の平均利率の合計を60で割って計算した割合(0.1%未満の端数は切り捨てます。)です(民法404条5項)。

 

適用される法定利率は、利息が生じた最初の時点の法定利率になります(民法404条1項)。そのため、一旦適用される法定利率が決まれば、その後に法定利率が変動しても、適用される法定利率は変動しません。

 

3 改正法はいつから適用されるのか

改正後の民法404法が適用されるのは、施行日後に利息が生じた場合です。

改正法施行日前に利息が生じた場合は改正前の法定利率となります(附則15条1項)。

 

二 遅延損害金

改正後の金銭債務不履行の損害賠償額の利率は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率(約定利率が法定利率を超えるときは約定利率)になります(民法419条)。

 

なお、改正後の法定利率が適用されるのは、施行日後に遅滞となった場合です。改正法の施行日前に遅滞となっている場合は、改正前の法定利率となります(附則17条3項)。

 

三 中間利息の控除

民法改正により、中間利息の控除についての規定が新設されました(民法417条の2)。

民法417条の2は、不法行為による損害賠償請求にも準用されます(民法722条1項)。

 

民法417条の2では、①将来、取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いる(民法417条の2第1項)、②将来、負担すべき費用についての損害賠償額を定める場合に費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いると規定されています(民法417条の2第2項)。

 

中間利息の控除は損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用いますので、例えば、交通事故の損害賠償請求事件で、死亡逸失利益、後遺症逸失利益、将来介護費用の額を算定する際は、交通事故時の法定利率で中間利息の控除を行います。

 

なお、民法417条の2の規定(722条1項で準用される場合を含みます。)が適用されるのは、改正法の施行日後に生じた損害賠償請求権についてです(附則17条2項)。

改正法の施行日前に生じた損害賠償請求権には適用されません(附則17条2項)。

 

【民法(債権法)改正】消滅時効制度の改正

2020-12-01

民法の債権法が改正され,令和2年4月1日に施行されました。改正により,消滅時効制度の内容が変わりました。

 

一 債権の消滅時効期間と起算点

1 原則的な債権の消滅時効期間と起算点

改正前の民法では,原則的な債権の消滅時効期間は,権利を行使することができるときから10年とされていましたが(旧民法166条1項,167条1項),改正後は,①権利を行使することができることを知った時から5年,②権利を行使することができる時から10年となり,いずれか早い方の期間の経過により時効が完成することになりました(民法166条1項)。

 

改正前は,原則的な債権の消滅時効期間のほか,職業別の短期消滅時効(旧民法170条から174条),商事消滅時効(旧商法522条)等,債権の種類によって時効期間が異なり,複雑になっていましたが,改正により,職業別の短期消滅時効や商事消滅時効が廃止され,原則的な債権の時効期間が統一されました。

また,消滅時効の起算点については,客観的起算点(権利を行使することができる時)のほか,主観的起算点(権利を行使することができることを知った時)を追加し,主観的起算点の時効期間を5年と短くしました。

 

なお,改正法が適用されるのは施行日後に生じた債権についてです。施行日前に生じた債権については旧法が適用されます(附則10条4項)。

 

2 職業別の短期消滅時効の廃止

改正前の民法では,飲食料,宿泊料は1年,弁護士の報酬は2年,医師の診療報酬は3年等,職業別の短期消滅時効がありましたが(旧民法170条から174条),改正により,廃止されました。

改正後は,原則的な債権の消滅時効期間の規定(民法166条1項)が適用されます。

 

3 定期金債権等の消滅時効

改正前の民法では,定期金債権は,①第1回の弁済期から20年間行使しないとき,②最後の弁済期から10年間行使しないときは時効により消滅すると規定されていましたが(旧民法168条1項),改正後は,①債権者が定期金の債権から生じる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することを知ったときから10年間行使しないとき,②前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないときは,時効により消滅することになりました(民法168条1項)。

 

また,改正前の民法の定期給付債権の短期消滅時効の規定(旧民法169条「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,5年間行使しないときは,消滅する。」)は廃止されました。改正後は,原則的な債権の消滅時効の規定(民法166条1項)が適用されます。

 

4 不法行為の損害賠償請求権の消滅時効

改正前の民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効により消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも,同様とする。」と規定しており,「不法行為の時から20年を経過したとき」については除斥期間と解釈されていましたが,改正により,「不法行為の時から20年間行使しないとき」は,除斥期間ではなく,消滅時効期間となりました(民法724条)。

 

除斥期間の場合は,不法行為の時から20年を経過すると損害賠償請求することができなくなりますが,消滅時効期間となったことで,時効の更新や完成猶予の事由があれば,不法行為の時から20年を経過した場合であっても損害賠償請求をすることができるようになります。

 

なお,旧民法724条後段の規定は,施行時に既に期間が経過している場合に適用されますので(附則35条1項),施行時に20年が経過していない場合には改正法が適用されます。

 

5 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

改正により,人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間が長期化されました。

債務不履行による損害賠償請求権の場合は,①権利を行使することができることを知った時から5年,②権利を行使することができる時から20年です(民法166条,167条)。

不法行為による損害賠償請求の場合は,①損害及び加害者を知った時から5年,②不法行為の時から20年です(民法724条,724条の2)。

なお,民法724条の2の規定は,施行の際に既に時効が完成していた場合には適用されませんが(附則35条2項),施行時に未だ消滅時効が完成していない場合には適用されます。

 

二 時効の援用権者

消滅時効の効果が生じるには,時効期間が経過するだけでなく,時効の援用が必要となります。

改正前の民法では,「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」(旧民法145条)と規定されており,「当事者」の範囲が明確ではありませんでした。

改正法では,「時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」(改正後の民法145条)と規定され,「当事者」の範囲が明らかになりました。

 

三 時効の更新,時効の完成猶予

改正前の「時効の中断」の規定(旧民法147条から157条)と「時効の停止」の規定(旧民法158条から161条)が見直され,改正後は「時効の更新」と「時効の完成猶予」の規定になりました。

なお,施行日前に時効の中断・停止事由が生じた場合は旧法が適用されます(附則10条2項)。

 

1 時効の中断事由の見直し

改正前の時効の中断には,時効が完成しないという効果と時効期間がリセットされるという効果がありましたので,改正により,時効の完成猶予と時効の更新に整理されました。

改正後の規定は以下のとおりです。

なお,施行日前に時効の中断事由が生じた場合には旧法が適用され(附則10条2項),施行日後に事由が生じた場合には改正法が適用されます。

 

(1)裁判上の請求等による時効の完成猶予,時効の更新

①裁判上の請求,②支払督促,③裁判上の和解,民事調停,家事調停,④破産手続参加,再生手続参加,更生手続参加の場合には,その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

 

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合は,時効はその事由が終了したときから新たに進行します(民法147条2項)。

 

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は,時効は更新されませんが,終了時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

 

(2)強制執行等による時効の完成猶予,時効の更新

①強制執行,②担保権の実行,③形式競売,④財産開示手続の場合には,その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予され(民法148条1項),その事由が終了した場合には,終了時から時効が新たに進行します(民法148条2項)。

ただし,申立の取下げや法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合には,時効は更新されませんが,終了時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法148条1項,2項)。

 

(3)仮差押え等による時効の完成猶予

①仮差押え,②仮処分の場合には,その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法149条)。

 

改正前は仮差押え等にも時効の中断の効力が認められていましたが(旧民法147条2号),改正後は,仮差押え等に時効の完成猶予の効果はあるものの,時効の更新の効果はありません。仮差押え等の後に本案訴訟が提起された場合には,裁判上の請求に当たり,裁判上の請求による時効の更新があります。

 

(4)催告による時効の完成猶予

催告があったときは,その時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。

催告による時効の完成の猶予期間中に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力はありません(民法150条2項)。

 

(5)承認による時効の更新

時効は,権利の承認があったときは,その時から進行を始めます(民法152条1項)。

承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しません(民法152条2項)。

承認については,改正前の時効の中断と内容が同じです。

 

2 時効の停止事由の見直し

改正前の民法では,時効の停止事由として,①未成年者,成年被後見人,②夫婦間の権利,③相続財産,④天災等が規定されており(旧民法158条から161条),これらの事由は,改正後は時効の完成猶予事由となりました(民法158条から161条)。

また,①から③の期間は変わりませんが,④天災等については,改正前は期間が2週間だったのに対し,改正後は期間が3か月になりました(民法161条)。

 

なお,施行日前に時効の停止事由が生じた場合は旧法が適用され(附則10条2項),施行日後に事由が生じた場合には改正法が適用されます。

 

3 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

民法改正により,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度(民法151条)が新設されました。

 

権利についての協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録を含みます。)でされたときは,①合意があった時から1年を経過した時,②協議を行う期間(1年に満たないものに限ります。)を定めたときは,その期間を経過した時,③当事者の一方が他方に対し協議続行を拒絶する旨の書面(電磁的記録を含みます。)による通知をした時から6か月を経過した時のいずれか早い時期まで,時効の完成が猶予されます(民法151条1項,4項,5項)。

猶予期間中に再度の合意をすることで,さらに時効の完成を猶予させることができますが,通算で5年を超えることはできません(民法151条2項)。

 

また,催告による時効の完成猶予と協議を行う旨の合意による時効の完成猶予は併用することができません(民法151条3項)。

 

なお,民法151条の規定は施行日前の合意については適用されません(附則10条3項)。

 

【民事事件】分割払の合意と期限の利益喪失条項

2020-02-20

金銭債務について分割払の合意をする場合,履行の確保を図るため,分割払の条項とあわせて期限の利益喪失条項を入れるのが基本です。

一 分割払の合意

金銭債務の支払について,債権者と債務者が示談交渉・調停・訴訟上の和解等の話合いをする際,債務者が,資金繰りの関係から,一括で支払うことができないので,分割払にしてほしいと要求してくることがあります。
債権者からすれば,支払金額の総額を一括で早期に支払ってもらいたいでしょうが,債務者が支払可能な条件で合意したほうが債権回収実現の可能性が高まることから,債権者としても分割払に応じる意味があります。

分割払の合意をする場合には,支払金額の総額,支払期間,各回の支払金額等を定めます。
例えば,以下のような条項を定めます。1 被告は,原告に対し,本件○○金(「本件和解金」,「本件解決金」等)として金○○○万円の支払義務があることを認める。
2 被告は,原告に対し,前項の金員を次のとおり分割して,○○の口座(銀行名・支店名,種類,口座名義,口座番号を記載します。)に振り込む方法で支払う。
(1)令和○年○月末日限り金○○万円
(2)令和○年○月から令和○年○月まで毎月末日限り金○○万円ずつ

 

二 期限の利益喪失条項

分割払の合意をする場合には,あわせて期限の利益喪失条項を入れるのが基本です。

分割払の合意により,債務者は期限の利益を有し,各分割金の支払期限が到来するまで支払をしなくてよいことになります。
そのため,債務者が分割金の支払を怠った場合であっても,債権者が請求できるのは支払期限が到来した分割金だけであり,未だ支払期限が到来していない分割金については請求できないのが原則です。
支払期間が短い場合には余り問題ないかもしれませんが,支払期間が数年にわたるような長い場合には債権者の不利益が大きいといえます。

債務者が分割金の支払を遅滞した場合に債権者が未履行分全額の支払を請求できるようにするには,債務者の期限の利益を失わせる必要がありますが,期限の利益が喪失する場合として民法に規定されているのは,①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき,②債務者が担保を滅失,損傷,減少させたとき,③債務者が担保を供する義務を負う場合に担保を供しないときであり(民法137条),債務者が分割金の支払を怠った場合は含まれていません。
そのため,債務者が分割金の支払を怠った場合に債権者が残金全額を請求することができるようにするためには,合意内容に期限の利益喪失条項を入れておくことが必要となります。
例えば,「被告が分割金の支払を○回以上怠り,かつ,その額が○○万円に達したときは,当然に期限の利益を喪失し,被告は,原告に対し,残金を直ちに支払う。」というような条項を定めます。

期限の利益喪失条項については,①債務者が分割金の支払を怠ったときは,当然に期限の利益を失うと定める場合と,②債務者が分割金の支払を怠ったときは,債権者は期限の利益を喪失させる旨の意思表示をすることができ,その意思表示があったときに期限の利益が喪失すると定める場合があります。
①の場合と②の場合では,残金の請求をすることができる時点が異なりますので,消滅時効の起算点が異なります。

【民事事件】民事調停

2019-10-29

民事に関する紛争を解決する手続として民事調停があります。

 

一  民事調停とは

民事調停は,民事に関する紛争について,話合いにより解決を図る裁判所の手続です。

民事調停には①話合いによる解決であるため柔軟な解決を図ることが期待できる,②専門的な問題についても,弁護士,建築士等の専門家の調停委員により対応できる,③非公開で行われる,④訴訟手続よりも手続が簡易であり,手数料が安く,終了までの期間が短いといった特徴があります。

 

二 民事調停の対象

民事調停は,売買代金・貸金・請負代金等の金銭トラブル,交通事故・名誉毀損等の損害賠償請求,借地借家等の不動産トラブル,未払賃金の請求等の労働問題,騒音,日照権の問題等の近隣トラブル等,民事紛争全般が対象となります。

 

三 民事調停の種類

民事調停は紛争の内容により,①一般調停(②から⑧以外の民事紛争),②宅地建物調停(宅地・建物の賃貸その他の利用関係の紛争),③農事調停(農地等の貸借その他の利用関係の紛争),④商事調停(商事の紛争),⑤鉱害調停(鉱業法に定める鉱害の賠償の紛争),⑥交通調停(自動車の運行によって人の生命・身体が害された場合の損害賠償の紛争),⑦公害等調停(公害・日照,通風等の生活上の利益の侵害により生ずる被害にかかる紛争),⑧特定調停(債務整理)に分かれております。

このうち,特定調停は,民事調停の特例として,特定債務等の調整のための特定調停に関する法律で規定されており,他の民事調停事件とは手続等に様々な違いがありますが,このページでは特定調停の説明は省略します。

 

四 調停委員会

裁判所は調停委員会で調停を行います(民事調停法5条1項本文)。裁判所が相当と認めるときは,裁判官だけで調停を行うことができますが(民事調停法5条1項但書),当事者の申立てがあるときは,調停委員会で調停を行わなければなりません(民事調停法5条2項)。

調停委員会は,調停主任1人と2人以上の民事調停委員で組織されます(民事調停法6条)。調停主任は,裁判官(民事調停法7条1項)または民事調停官(民事調停法23条の2)がなります。民事調停官は職務経験が5年以上ある弁護士から最高裁判所が任命します(民事調停法23条の2第1項)。

 

五 調停の関与者

調停の当事者は,申立人(調停を申し立てた人)と相手方(調停を申し立てられた人)です。
調停には,当事者のほか,当事者の法定代理人や当事者が選任した代理人が出席できます。
当事者が選任できる代理人は,①弁護士,②認定司法書士(調停事項の価額が140万円を超えない事件に限ります。),③調停委員会が許可した者です(民事調停規則8条2項)。
また,調停の結果に利害関係を有する者(利害関係人)も,調停委員会の許可を受けて,調停手続に参加することができますし(民事調停法11条1項),調停委員会は相当と認めるときは利害関係人を調停手続に参加させることができます(民事調停法11条2項)。

 

六 民事調停の手続

1 申立て

(1)管轄裁判所

相手方の住所,居所,事務所,営業所を管轄する簡易裁判所が管轄裁判所となりますが(民事調停法3条1項),合意管轄もできますし(民事調停法3条1項),事件の種類により管轄について特別規定があります。また,移送や自庁処理の規定もあります(民事調停法4条)。

なお,簡易裁判所の民事訴訟は訴額の上限は140万円までですが,民事調停では訴額の制限はありませんので,140万円を超える民事調停事件についても簡易裁判所に管轄が認められます。

 

(2)申立書

民事調停の申立ては申立書を裁判所に提出してしなければなりません(民事調停法4条の2第1項)。
申立書には①当事者または法定代理人の氏名・名称・住所,②代理人の氏名・住所,③当事者または代理人の郵便番号,電話番号,FAX番号,④事件の表示,⑤附属書類の表示,⑥年月日,⑦裁判所の表示,⑧申立ての趣旨,⑨紛争の要点を表示します(民事調停法4条の2第2項,民事調停規則24条,非訟事件手続規則1条1項)。
裁判所の窓口やウェブサイトに申立書の書式がありますので,その書式を利用することが簡単です。

また,申立書には,①申立書の副本,②添付書類(戸籍謄本や登記事項証明書,委任状等),③証拠書類の写しを添付します。また,申立ての際には,裁判所に手数料や郵券を納めます。

 

2 調停前の措置等

(1)調停前の措置

調停委員会は,調停のために特に必要があると認めるときは,当事者の申立てにより,調停前の措置として,相手方その他の事件の関係人に対して,現状の変更または物の処分の禁止その他調停の内容である事項の実現を不能または著しく困難にする行為の排除を命じることができます(民事調停法12条1項)。
調停前の措置に執行力はありませんが(民事調停法12条2項),当事者または参加人が正当な事由なく措置に従わないときは10万円以下の過料が科されることがあります(民事調停法35条)。

 

(2)民事執行手続の停止

調停事件の係属する裁判所は,紛争の実情により事件を調停によって解決することが相当な場合,調停の成立を不能または著しく困難にするおそれがあるときは,申立てにより,担保を立てさせて,調停が終了するまで調停の目的となった権利に関する民事執行手続の停止を命ずることができます(民事調停規則5条1項本文)。
ただし,裁判・調書その他裁判所で作成する書面の記載に基づく民事執行手続は,停止の対象とはなりません(民事調停規則5条1項但書)。停止の対象となるのは,公正証書に基づく強制執行や担保権の実行としての競売等です。

また,調停の係属する裁判所は,民事執行手続の停止を命じた場合であっても,必要があるときは,申立てにより,担保を立てさせ又は立てさせないで,続行を命じることができます(民事調停規則5条2項)。

 

3 調停期日の実施

(1)呼出・出頭

調停委員会は,調停の期日を定めて,当事者等の事件の関係人を呼び出します(民事調停法12条の3)。
呼出を受けた当事者は,やむを得ない事情があるときは代理人を出頭させることもできますが,原則として自ら出頭しなければなりません(民事調停規則8条1項)。
呼出しを受けた事件関係人が,正当な事由なく,期日に出頭しないときは5万円以下の過料が科されることがあります(民事調停法34条)。

 

(2)調停の進行

調停期日では,調停委員会が当事者等から事情を聴きながら,話合いによる解決の途を探っていきます。
調停手続は非公開で行われますので(民事調停法22条,非訟事件手続法30条),当事者等のプライバシー保護が図られています。

調停を進めるにあたって必要な資料は当事者が提出するのが基本ですが, 調停委員会等は事実の調査や証拠調べを行うことができますし(民事調停法12条の7,民事調停規則13条から17条),調停委員会は調停委員会を組織していない調停委員から専門的知識経験に基づく意見を聴取することもできます(民事調停規則18条)。

調停委員会は,当事者等からの事情聴取や事実の調査,証拠調べ等をした上で,調停案を提示し,当事者間の合意の成立を図ります。

 

4 終了

(1)成立

当事者に合意が成立したときは,その合意が調書に記載されることで,調停が成立します(民事調停法16条)。
調書の記載は,裁判上の和解と同一の効力を有しますので(民事調停法16条),確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。

 

(2)調停に代わる決定

裁判所は,調停が成立する見込みがない場合に相当であると認めるときは,民事調停委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で,当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件の解決のために必要な決定をすることができます(民事調停法17条)。この決定では,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命じることができます(民事調停法17条)。
当事者または利害関係人は,この決定に対し,当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ(民事調停法18条1項),適法な異議の申立てがあった場合には決定は効力を失いますが(民事調停法18条4項),申立てがないときは決定は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法18条5項)。

 

(3)不成立

調停委員会は,当事者間に合意が成立する見込みがない場合または成立した合意が相当でないと認める場合で,調停に代わる決定をしないときは,調停を不成立にして,調停を終了させることができます(民事調停法14条)。

 

(4)調停をしない旨の措置

調停委員会は,事件が性質上調停をするのに適切でないと認めるとき,または当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは,調停をしないものとして,事件を終了させることができます(民事調停法13条)。

 

(5)調停の申立ての取下げ

調停の申立ては調停事件が終了するまで,その全部または一部を取り下げることができます(民事調停法19条の2本文)。ただし,調停に代わる決定がされた後は相手方の同意を得なければ,取下げられません(民事調停法19条の2但書)。

 

(6)調停条項の裁定

宅地建物調停事件のうち地代借賃増減請求事件,商事調停事件,鉱害調停事件については,調停委員会は,当事者間に合意が成立する見込みがない場合または成立した合意が相当でないと認める場合に,当事者間に調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意(調停申立て後になされたものに限ります。)があるときは,申立てにより,事件の解決のために適当な調停条項を定めることができます(民事調停法24条の3第1項,31条,33条)。
この調停条項を調書に記載したときは,調停が成立したものとみなし,その記載は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法24条の3第2項)。この裁定については,不服申立てができません。

この裁定については慎重に行う必要があることから,調停委員会は調停条項を定めようとするときは,当事者双方を審尋しなければなりません(民事調停規則27条,34条,35条)。

 

七 民事訴訟との関係

1 付調停

受訴裁判所は,適当であると認めるときは,事件を調停に付した上,管轄裁判所または自ら処理することができます(民事調停法20条1項本文)。ただし,争点・証拠の整理が完了した後は当事者の合意が必要です(民事調停法20条1項但書)。

調停に付された場合,調停が成立したときや調停に代わる決定が確定したときは,訴えの取下げがあったものとみなされます(民事調停法20条2項)。

また,調停に付された場合,裁判所は調停事件が終了するまでは訴訟手続を停止することができます(民事調停法20条の3第1項本文)。ただし,争点・証拠の整理が完了した後は当事者の合意が必要です(民事調停法20条の3第1項但書)

例えば,建築紛争では,建築に対する専門的な知識経験が必要となることから,訴訟提起後,調停に付されることがあります。

 

2 賃料増減額請求事件

地代借賃増減請求事件については,調停前置主義がとられており,訴え提起する前に調停の申立てをしなければなりません(民事調停法24条の2第1項)。
調停の申立てをする前に訴えを提起した場合には,受訴裁判所は,調停に付すことが適当でないと認めるとき以外は調停に付します(民事調停法24条の2第2項)。

 

3 調停不成立等の場合の訴えの提起

調停が不成立になった場合や調停に代わる決定が異議申立てにより効力を失った場合,申立人がその旨の通知を受けたときから,2週間以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは,調停の申立ての時に訴え提起があったものとみなされます(民事調停法19条)。
その場合,訴え提起時に納める手数料のうち,調停申立ての際に納めた手数料額に相当する額は納めたものとみなされます(民事訴訟費用法5条)。

【民事訴訟】当事者尋問(本人尋問)

2018-12-19

民事訴訟の証拠調手続として,①書証,②人証(証人尋問,当事者尋問),③鑑定,④検証があります。
ここでは,当事者尋問(本人尋問ともいいます。)について説明します。

 

一 当事者尋問とは

当事者尋問は,証人尋問同様,当事者が経験した事実について当事者本人を尋問し,その供述を証拠とするものです。
裁判所は,申立て又は職権で,当事者本人を尋問することができます(民事訴訟法207条1項)。
また,当事者の親権者,成年後見人,法人の代表者等,訴訟において当事者を代表する法定代理人についても当事者尋問の規定が準用されます(民事訴訟法211条,民事訴訟規則128条)。

 

二 当事者尋問の基本的な流れ

当事者尋問は,当事者双方の主張が出揃い,争点及び証拠の整理が終了した後に,①当事者尋問の申出(証拠申出書,尋問事項書,陳述書の提出),②人証の採否の決定,③同行または呼出による当事者の出頭,④人定質問(人違いでないことの確認),⑤宣誓,⑥尋問(主尋問,反対尋問,補充尋問)という流れで行うのが通常です。
なお,証人尋問と当事者尋問を行うときは,まず証人尋問を行い,次いで当事者尋問を行うのが原則ですが,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,先に当事者尋問を行うこともできます(民事訴訟法207条2項)。

 

三 証人尋問との違い

当事者尋問の手続については,証人尋問の規定が多く準用されていますが(民事訴訟法210条,民事訴訟規則127条),証人尋問とは,①職権での尋問も認められること(民事訴訟法207条1項前段),②宣誓が任意であること(民事訴訟法207条1項後段),③不出頭等の効果(民事訴訟法208条),④宣誓した当事者が虚偽陳述をした場合の制裁内容(民事訴訟法209条),⑤勾引の規定(民事訴訟規則111条)の適用がないこと(民事訴訟規則127条),⑥隔離尋問の規定(民事訴訟規則120条)の適用がないこと(民事訴訟規則127条),⑦書面尋問の規定(民事訴訟法205条,民事訴訟規則124条)の適用がないこと(民事訴訟法210条,民事訴訟規則127条。ただし,簡易裁判所では当事者本人についても書面尋問ができます(民事訴訟法278条)。)が違います。

 

四 集中証拠調べ

証人尋問及び当事者尋問は,できる限り,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければなりません(民事訴訟法182条,民事訴訟規則101条)。
また,証人及び当事者本人の尋問の申出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。

 

五 尋問の申出

1 証拠申出書の提出

当事者尋問するにあたって,当事者は当事者尋問の申出をします。
当事者尋問の申出は証拠申出書を提出して行います。
証拠申出書には,①人証の表示(民事訴訟規則106条),②尋問予定時間(民事訴訟規則106条),③同行か呼出しか,④証明すべき事実(民事訴訟法180条1項,民事訴訟規則99条1項)を記載します。
また,当事者尋問の申出をするときは同時に尋問事項書2通を提出しなければなりません(民事訴訟規則107条)。1通は裁判所用,他の1通は呼出状添付用です。尋問事項書は証拠申出書に添付します。

 

2 陳述書の提出

尋問の申出をする際,当事者本人の陳述書を作成して提出することが通常です。
陳述書は,主尋問で聞く予定のことについて記載します。
陳述書は主尋問を代替,補完するものであり,尋問時間を短縮することができますし,主尋問で相手方当事者がどのようなことを述べるのか予想できますので,反対尋問の準備にも役立ちます。

 

3 人証の採否

当事者尋問の申出に対し,裁判所は当事者本人を採用するか決定します。
当事者本人を採用する場合には,尋問時間や順序等も決めます。
また,呼出が必要な場合には,呼出状が送られます。

 

六 宣誓

当事者に宣誓させるかどうかは裁判所の裁量に委ねられていますが(民事訴訟法207条1項後段),宣誓させるのが通常です。
宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは,裁判所の決定で過料に処せられることがあります(民事訴訟法209条)。なお,虚偽の陳述をした当事者が訴訟係属中に虚偽であることを認めたときは,裁判所は事情により過料の決定を取り消すことができます(民事訴訟法209条3項)。

 

七 尋問の順序

当事者尋問は,①主尋問(尋問の申出をした当事者の尋問),②反対尋問(他の当事者の尋問),③再主尋問(尋問の申出をした当事者の再度の尋問),④補充尋問(裁判長の尋問)の順序でするのが原則です(民事訴訟法210条,202条1項,民事訴訟規則127条,113条1項)。また,当事者は,裁判長の許可を得て,更に尋問することができます(民事訴訟規則127条,113条2項)。
ただし,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて順序を変更することができます(民事訴訟法210条,202条2項)。
また,裁判長は,必要があると認めるときは,いつでも自ら尋問したり(介入尋問),当事者に尋問を許すことができますし(民事訴訟規則127条,113条3項),陪席裁判官は,裁判長に告げて尋問することができます(民事訴訟規則127条,113条4項)。

なお,当事者が自分に対する尋問を行う場合,その当事者に訴訟代理人がいるときは,その訴訟代理人が尋問を行いますが,本人訴訟のときは,裁判長が尋問を行います。

 

八 尋問の方法

1 一問一答式の原則

質問は,できる限り,個別的かつ具体的にしなければなりません(民事訴訟規則127条,115条1項)。

 

2 尋問事項

①主尋問は,立証すべき事項及びこれに関する事項について,②反対尋問は,主尋問に現れた事項及びこれに関する事項,証言の信用性に関する事項について,③再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(民事訴訟規則127条,114条1項)。
これらの事項以外の質問については,相当でないと認められるときは,申立て又は職権により制限されることがあります(民事訴訟規則127条,114条2項)。

 

3 禁止される質問

当事者は,①当事者を侮辱し,又は困惑させる質問,②誘導質問,③既にした質問と重複する質問,④争点に関係のない質問,⑤意見の陳述を求める質問,⑥当事者が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問をすることはできません。ただし,②から⑥については正当な理由がある場合は質問することができます(民事訴訟規則127条,115条2項)。
違反する場合には,申立て又は職権により質問が制限されることがあります(民事訴訟規則127条,115条3項)。

 

4 書類に基づく陳述の禁止,文書等の利用

当事者は,裁判長の許可を受けた場合を除き,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法210条,203条)。

当事者は,裁判長の許可を得て,文書等を利用して当事者本人に質問することができます(民事訴訟規則127条,116条1項)。文書等が証拠調べをしていないものであるときは,相手方の異議がないときを除き,質問前に相手方に閲覧する機会を与えなければなりません(民事訴訟規則127条,116条2項)。裁判長は調書への添付その他必要があると認めるときは,当事者に対し,文書等の写しの提出を求めることができます(民事訴訟規則127条,116条3項)。

 

5 対質

裁判長は,必要があると認めるときは,当事者本人と他の当事者本人又は証人との対質を命ずることができます(民事訴訟規則126条)。
対質を命じたときは,その旨調書に記載されます(民事訴訟規則127条,118条2項)。
また,対質を行うときは,裁判長がまず尋問することができます(民事訴訟規則127条,118条3項)。

 

6 文字の筆記等

裁判長は,必要があると認めるときは,当事者に文字の筆記その他の必要な行為をさせることができます(民事訴訟規則127条,119条)。

 

7 尋問を受ける当事者への配慮

尋問を受ける当事者への配慮の観点から,①付添い(民事訴訟法210条,203条の2,民事訴訟規則127条,122条の2),②遮蔽措置(民事訴訟法210条,203条の3,民事訴訟規則127条,122条の3),③テレビ会議システムの利用(民事訴訟法210条,204条,民事訴訟規則127条,123条),④傍聴人の退廷(民事訴訟規則127条,121条)がなされることがあります。

 

九  異議

当事者は,①民事訴訟規則113条(尋問の順序)2項,3項の裁判長の許可,②民事訴訟規則114条(質問の制限)2項の裁判長の制限,③民事訴訟規則115条(質問の制限)3項の裁判長の制限,④民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)1項の裁判長の許可について,異議を述べることができます(民事訴訟規則127条,117条1項,民事訴訟法210条,202条3項)。
異議に対して,裁判所は決定で直ちに裁判しなければなりません(民事訴訟規則127条,117条2項)。

 

十 不出頭等の効果

当事者本人を尋問する場合に,その当事者が,正当な理由がなく,出頭しない場合,宣誓を拒んだ場合,陳述を拒んだ場合には,裁判所は,尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができます(民事訴訟法208条)。

 

十一 尋問の結果について

1 口頭弁論調書への記載

当事者の陳述は口頭弁論調書に記載されます(民事訴訟規則67条1項3号)。
ただし,裁判長の許可があったときは,当事者本人の陳述を録音テープ等に記録し,調書の記載に代えることができますが,裁判長が許可をする際に当事者は意見を述べることができます(民事訴訟規則68条1項)。当事者の申し出があるときは当事者本人の陳述を記載した書面を作成しなければなりません。訴訟が上訴審に係属中の場合に,上訴裁判所が必要があると認めたときも同様です(民事訴訟規則68条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部となります。

 

2 簡易裁判所の場合

簡易裁判所の事件では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て当事者本人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に当事者本人の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部とならないので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。そのため,当事者は,録音テープ等を複製してもらい,自分で反訳書面を作成して,反訳書面を書証として提出することになります。

【民事訴訟】証人尋問

2018-12-07

民事訴訟の証拠調手続として,①書証,②人証(証人尋問,当事者尋問),③鑑定,④検証があります。
ここでは,証人尋問について説明します。

 

一 証人尋問の基本的な流れ

証人尋問は,当事者双方の主張が出揃い,争点及び証拠の整理が終了した後に,①証人尋問の申出(証拠申出書,尋問事項書,陳述書の提出),②証人の採否の決定,③同行または呼出による証人の出頭,④証人への人定質問(人違いでないことの確認),⑤証人の宣誓,⑥証人への尋問(主尋問,反対尋問,補充尋問)という流れで行うのが通常です。

 

二  証人とは

証人とは,自ら経験・認識した過去の事実を訴訟で供述する第三者のことです。
当事者やその法定代理人以外の第三者は証人となります。
裁判所は,特別の定めがある場合を除き,何人でも証人として尋問することができます(民事訴訟法190条)。

 

三 証人の義務

証人は,原則として,出頭義務,証言義務,宣誓義務を負います。

 

1 出頭義務

尋問の申し出をした当事者は,証人を期日に出頭させるよう努めなければなりません(民事訴訟規則109条)。
また,証人は,期日に出頭することができない事由が生じたときは,直ちに,その事由を明らかにして届け出なければなりません(不出頭の届出。民事訴訟規則110条)。
証人が正当な理由なく出頭しないときは,①訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすること(民事訴訟法192条),②罰金・拘留に処せられること(民事訴訟法193条),③裁判所に勾引を命じられること(民事訴訟法194条)があります。

 

2 証言義務

証人は,原則として証言の義務を負います。
証人が正当な理由なく証言を拒む場合には,訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすることや罰金・拘留に処せられることがあります(民事訴訟法200条,192条,193条)。
ただし,証人は,刑事訴追を受けるおそれがある場合や守秘義務を負う場合等,一定の事由がある場合には,証言拒絶権が認められ,証言を拒絶することができます(民事訴訟法196条,197条)。

 

3 宣誓義務

証人は,特別の定めがある場合を除き,宣誓する義務を負います(民事訴訟法201条1項)。宣誓した上で,虚偽の証言をした場合には,偽証罪となることがあります(刑法169条,170条)。
証人が正当な理由なく,宣誓を拒んだ場合には,訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすることや罰金・拘留に処せられることがあります(民事訴訟法201条5項,192条,193条)。

 

四 集中証拠調べ

証人尋問及び当事者尋問は,できる限り,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければなりません(民事訴訟法182条,民事訴訟規則101条)。
また,証人及び当事者本人の尋問の申出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。

五 尋問の申出

1 証拠申出書の提出

証人尋問するにあたって,当事者は証人尋問の申出をします。
証人尋問の申出は証拠申出書を提出して行います。
証拠申出書には,①人証の表示(民事訴訟規則106条),②尋問予定時間(民事訴訟規則106条),③同行か呼出しか,④証明すべき事実(民事訴訟法180条1項,民事訴訟規則99条1項)を記載します。
また,証人尋問の申出をするときは同時に尋問事項書2通を提出しなければなりません(民事訴訟規則107条)。尋問事項書は証拠申出書に添付します。

 

2 陳述書の提出

尋問の申出をする際,証人の陳述書を作成して提出することが通常です。
陳述書は,主尋問で聞く予定のことについて記載します。
陳述書は主尋問を代替,補完するものであり,尋問時間を短縮することができますし,主尋問で証人がどのようなことを述べるのか予想できますので,反対尋問の準備にも役立ちます。

 

3 証人の採否

証人尋問の申出に対し,裁判所は証人を採用するか決定します。
証人を採用する場合には,尋問時間や順序等も決めます。
また,呼出が必要な証人については,呼出状が送られます。

 

六 尋問の順序

証人尋問は,①主尋問(尋問の申出をした当事者の尋問),②反対尋問(他の当事者の尋問),③再主尋問(尋問の申出をした当事者の再度の尋問),④補充尋問(裁判長の尋問)の順序でするのが原則です(民事訴訟法202条1項,民事訴訟規則113条1項)。 また,当事者は,裁判長の許可を得て,更に尋問することができます(民事訴訟規則113条2項)。
ただし,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて順序を変更することができます(民事訴訟法202条2項)。
また,裁判長は,必要があると認めるときは,いつでも自ら証人を尋問したり(介入尋問),当事者に尋問を許すことができますし(民事訴訟規則113条3項),陪席裁判官は,裁判長に告げて,証人尋問することができます(民事訴訟規則113条4項)。

 

七 尋問の方法

1 一問一答式の原則

質問は,できる限り,個別的かつ具体的にしなければなりません(民事訴訟規則115条1項)。

 

2 尋問事項

①主尋問は,立証すべき事項及びこれに関する事項について,②反対尋問は,主尋問事項に現れた事項及びこれに関する事項,証言の信用性に関する事項について,③再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(民事訴訟規則114条1項)。
これらの事項以外の質問については,相当でないと認められるときは,申立て又は職権により制限されることがあります(民事訴訟規則114条2項)。

 

3 禁止される質問

当事者は,①証人を侮辱し,又は困惑させる質問,②誘導質問,③既にした質問と重複する質問,④争点に関係のない質問,⑤意見の陳述を求める質問,⑥証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問をすることはできません。ただし,②から⑥については正当な理由がある場合は質問することができます(民事訴訟規則115条2項)。
違反する場合には,申立て又は職権により質問が制限されることがあります(民事訴訟規則115条3項)。

 

4 書類に基づく陳述の禁止,文書等の利用

証人は,裁判長の許可を受けた場合を除き,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法203条)。

当事者は,裁判長の許可を得て,文書等を利用して証人に質問することができます(民事訴訟規則116条1項)。文書等が証拠調べをしていないものであるときは,相手方の異議がないときを除き,質問前に相手方に閲覧する機会を与えなければなりません(民事訴訟規則116条2項)。裁判長は調書への添付その他必要があると認めるときは,当事者に対し,文書等の写しの提出を求めることができます(民事訴訟規則116条3項)。

5 対質

対質とは,複数の証人を在廷させて同時に取り調べることです。
裁判長は,必要があると認めるときは,対質を命ずることができます(民事訴訟規則118条1項)。対質を命じたときは,その旨調書に記載されます(民事訴訟規則118条2項)。対質を行うときは,裁判長がまず証人を尋問することができます(民事訴訟規則118条3項)。

 

6 文字の筆記等

裁判長は,必要があると認めるときは,証人に文字の筆記その他の必要な行為をさせることができます(民事訴訟規則119条)。

 

7 後に尋問すべき証人の扱い

証人尋問は,後に尋問する証人を在廷させないので行うのが原則です(隔離尋問の原則)。
後で尋問する証人を在廷させると,先に尋問した証人の証言内容の影響を受ける可能性があるからです。
もっとも,裁判長は,必要があると認めるときは,後に尋問すべき証人の在廷を許すことができます(民事訴訟規則120条)。

 

8 証人への配慮

証人への配慮の観点から,①付添い(民事訴訟法203条の2,民事訴訟規則122条の2),②遮蔽措置(民事訴訟法203条の3,民事訴訟規則122条の3),③テレビ会議システムの利用(民事訴訟法204条,民事訴訟規則123条),④傍聴人の退廷(民事訴訟規則121条)がなされることがあります。

 

八  異議

当事者は,①民事訴訟規則113条(尋問の順序)2項,3項の裁判長の許可,②民事訴訟規則114条(質問の制限)2項の裁判長の制限,③115条(質問の制限)3項の裁判長の制限,④民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)1項の裁判長の許可について,異議を述べることができます(民事訴訟規則117条1項,民事訴訟法202条3項)。
異議に対して,裁判所は決定で直ちに裁判しなければなりません(民事訴訟規則117条2項)。

 

九 尋問の結果について

1 口頭弁論調書への記載

証人の陳述は口頭弁論調書に記載されます(民事訴訟規則67条1項3号)。
ただし,裁判長の許可があったときは,証人の陳述を録音テープ等に記録し,調書の記載に代えることができますが,裁判長が許可をする際に当事者は意見を述べることができますし(民事訴訟規則68条1項),当事者の申し出があるときは証人の陳述を記載した書面を作成しなければなりません(民事訴訟規則68条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部となります。

2 簡易裁判所の場合

簡易裁判所の事件では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部とならないので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。そのため,当事者は,録音テープ等を複製してもらい,自分で反訳書面を作成して,反訳書面を書証として提出することになります。

【民事訴訟】簡易裁判所の民事訴訟手続

2018-04-11

訴額が140万円以下の民事訴訟の第一審は,簡易裁判所に管轄があります(裁判所法33条1項1号)。
簡易裁判所の民事訴訟は,比較的少額な事案を対象としておりますので,簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとされております(民事訴訟法270条)。
そのため,簡易裁判所における民事訴訟の手続は,地方裁判所における手続とは異なる点があります。

 

一 訴訟代理人

1 認定司法書士の訴訟代理権

訴訟委任に基づく訴訟代理人は,地方裁判所の民事訴訟では,弁護士に限られますが(民事訴訟法54条1項本文),簡易裁判所の民事訴訟では,訴額が140万円を超えないものについては,認定司法書士にも訴訟代理権が認められています(司法書士法3条1項6号,2項から7項)。
弁論の併合,反訴等により訴額が140万円を超える場合や,地方裁判所に移送された場合には,認定司法書士の訴訟代理権は消滅します。

 

2 許可代理

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易裁判所の許可があれば,訴訟代理人となることができます(民事訴訟法54条1項但書)。この許可はいつでも取り消すことができます(民事訴訟法54条2項)。
許可される者としては,同居の親族や会社の従業員等紛争の内容に詳しい人が考えられます。

 

二 訴え提起の簡略化

1 口頭による訴え提起

訴え提起は訴状を提出してすることが原則ですが(民事訴訟法133条1項),簡易裁判所の民事訴訟では,口頭で訴え提起をすることができます(民事訴訟法271条)。

 

2 訴え提起において明らかにすべき事項

訴状には請求の趣旨と請求の原因を記載するのが原則ですが(民事訴訟法133条2項2号),簡易裁判所の民事訴訟の訴え提起においては,請求の原因に代えて,紛争の要点を明らかにすれば足ります(民事訴訟法272条)。
請求の原因は訴訟物を特定するためのものであり,適切に記載するには法律の知識が必要となりますが,簡易裁判所では本人訴訟も多く,法的な知識がない人が訴えを提起することを容易にするものです。

 

三 移送

1 管轄違いの移送

裁判所は,管轄違いの場合には,管轄裁判所に移送しますが(民事訴訟法16条1項),簡易裁判所の管轄に属する場合には,専属管轄に属する場合は除き,地方裁判所は相当と認めるときは,申立てまたは職権で,自ら審理・裁判をすることができます(同条2項)。

 

2 簡易裁判所の裁量移送

簡易裁判所は,管轄がある場合であっても,相当と認めるときは,申立てまたは職権で地方裁判所に移送することができます(民事訴訟法18条)。裁量移送の決定をするにあたっては,当事者の意見が聴取されます(民事訴訟規則8条)。
事案が複雑等の理由で簡易裁判所の簡易・迅速な手続になじまない件については,地方裁判所で審理したほうがよいからです。

 

3 不動産訴訟の必要的移送

簡易裁判所は,不動産訴訟につき管轄があっても,被告の申立てがある場合には,被告が申立て前に本案について弁論した場合を除き,地方裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法19条2項)。
訴額が140万円以下の不動産訴訟については,簡易裁判所と地方裁判所の双方に管轄がありますが(裁判所法24条1項1号,33条1項1号),不動産訴訟には複雑な件が多いことから,被告が地方裁判所での審理を受けたい場合には移送が認められています。

 

4 反訴提起があった場合の移送

被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合に相手方の申立てがあるときは,簡易裁判所は,決定で本訴及び反訴を地方裁判所に移送します(民事訴訟法274条1項)。この決定に不服申立てはできません(同条2項)。

 

四 口頭弁論の簡略化

1 準備書面等の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,口頭弁論は書面で準備することを要しませんので(民事訴訟法276条1項),準備書面等の提出は不要です。
もっとも,相手方が準備しなければ陳述することができないと認めるべき事項については,書面で準備するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければならず(民事訴訟法276条2項),相手方が口頭弁論に在廷していない場合には,準備書面(相手方に送達されたものか,相手方が受領した旨を記載した書面が提出されたものに限ります。)に記載するか,口頭弁論前に直接相手方に通知しなければ,主張することができません(民事訴訟法276条3項)。

 

2 続行期日における陳述擬制

簡易裁判所の民事訴訟では,第1回口頭弁論期日のみならず,続行期日(第2回以降の期日)でも陳述擬制が認められます(民事訴訟法277条)。

 

五 尋問の簡略化

1 尋問調書作成の省略

簡易裁判所の民事訴訟では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人,当事者,鑑定人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人等の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この場合の録音テープ等は訴訟記録の一部とはなりませんので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。当事者としては,録音テープ等を複製してもらい,その反訳書面を書証として提出することになります。

 

2 書面尋問

簡易裁判所の民事訴訟では,書面尋問ができる範囲や要件が緩和されており,裁判所が相当と認めれば,証人のみならず当事者本人や鑑定人についても書面尋問をすることができますし,当事者の異議がないことは要件とはされていません(民事訴訟法278条)。

 

六 司法委員の関与

簡易裁判所の民事訴訟では,裁判所は,必要があると認めるときは,司法委員に和解の補助をさせることや,司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができます(民事訴訟法279条1項)。
また,裁判官は,必要があると認めるときは,司法委員が証人等に対し直接に問いを発することを許すことができます(民事訴訟規則172条)。

 

七 和解に代わる決定

金銭支払請求訴訟で被告が原告の請求を争わないときは,簡易裁判所は,被告の資力その他の事情を考慮して相当と認めるときは,原告の意見を聴いて,5年を超えない範囲内で支払時期の定めや分割払い等を定める決定をすることができます(民事訴訟法275条の2第1項,2項)。
当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内に異議申立てをすれば,決定は効力を失いますが,申立てがなければ,決定は裁判上の和解と同一の効力を有します(民事訴訟法275条の2第3項から5項)。

 

八 判決書の記載の簡略化

簡易裁判所の民事訴訟では,判決書に事実・理由を記載するには,請求の趣旨・原因の要旨,原因の有無,請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれば足りるとされており(民事訴訟法280条),判決書の記載が簡略化されています。

【損害賠償】共同不法行為責任と求償

2018-01-26

加害者が複数いる場合,被害者は共同不法行為責任を追及し,原則として各加害者に損害の全額について賠償請求をすることができます。
また,加害者の一人が損害賠償をした場合には,他の加害者に求償請求をすることができます。

 

一 共同不法行為責任

数人が共同の不法行為によって,他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負います(民法719条1項前段)。
共同行為者のうち誰が損害を加えたのか知ることができないときであっても,同様とされています(民法719条1項後段)。
また,行為者を教唆した者や幇助した者も共同行為者とみなされます(民法719条2項)。

民法719条は,被害者救済の観点から,共同不法行為者に連帯責任を負わせた規定です。共同不法行為者の損害賠償債務は不真正連帯債務であり,弁済やそれと同視できる事由(代物弁済,相殺,供託)を除いては,債務者の一人に生じた事由は他の債務者に影響を及ぼさないと解されています。
被害者が共同不法行為者の一人の債務を免除した場合も,不真正連帯債務であることから,他の共同不法行為者には影響を与えないのが原則ですが,被害者が他の共同不法行為者との関係でも残債務を免除する意思を有していたときには,他の債務者との関係でも免除の効力が生ずると解されています。

 

二 共同不法行為者間の求償

1 求償

条文に規定はされていませんが,公平の観点から,共同不法行為者の一人が被害者の損害の全部または一部を賠償した場合には,他の共同不法行為者に求償することができると解されています。

 

2 求償できる金額

求償できる金額については,各共同不法行為者の過失割合に応じて各人の負担部分が決まり,賠償した行為者は,自分の負担部分を超えて支払った分について,他の行為者に求償することができると解されています。
例えば,損害額が1000万円で,共同不法行為者AとBの過失割合が4:6の場合,Aの負担部分は400万円,Bの負担部分は600万円となりますので,Aが400万円を超えて支払った場合には,その超える分をBに求償することができますが,Aが被害者に支払った金額が400万円以下のときは,Aは自分の負担部分を超える支払はしていないので,Bに求償することができません。

 

3 免除の場合

被害者が共同不法行為者の一人の債務を免除したとしても,共同不法行為者の損害賠償債務は不真正連帯債務であることから,他の共同不法行為者の債務には影響を与えません。
そのため,被害者は他の共同不法行為者に損害全額の賠償請求をすることができますので,賠償した共同不法行為者は,損害額のうち自分の負担割合にあたる分を超えて支払った場合には,その超えた金額を求償することができます。
例えば,損害額が1000万円で,共同不法行為者AとBの過失割合が4:6の場合に,Aが被害者が600万円を支払い,残債務を免除されたときは,Aに対する免除の効力はBには及びませんので,AはBに対し,Aの負担部分400万円(=1000万円×0.4)を超える200万円の求償をすることができます。

これに対し,被害者が,共同不法行為者の一人が債務を免除した場合に,他の共同不法行為者の債務を免除する意思を有していたときには,他の共同不法行為者にも免除の効力が及びます。
そのため,賠償した共同不法行為者は,免除されていない金額のうち自分の負担割合に当たる分を超えて支払った場合には,その超えた金額を求償することができます。
例えば,損害額が1000万円で,共同不法行為者AとBの過失割合が4:6の場合に,Aが被害者に600万円を支払い,被害者がAだけでなくBも含めて残債務を免除する意思を有していたときには,Aが支払った600万円のうちAの負担部分は240万円(=600万円×0.4)となりますから,AはBに対し,360万円(=600万円-240万円)を求償することができます。

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