高齢者が交通事故被害にあった場合の問題点

2017-06-15

交通事故の被害者が高齢者の場合,損害賠償請求をするにあたっては,以下のような点が問題となります。

 

一 因果関係・素因減額

1 交通事故と損害との因果関係

高齢者が交通事故被害にあった場合,治療が長期化することや,軽微な事故であっても亡くなったり,重い後遺障害が残存したりすることがありますが,高齢者は加齢により生理的機能が低下していたり,既往症を抱えていることが少なからずあるため,交通事故による損害といえるのか,それとも別の原因によるものなのか,交通事故と損害との間に因果関係があるか争いとなることがあります。

因果関係がなければ損害賠償請求をすることができませんので,被害者は因果関係があることを立証しなければなりません。

 

2 素因減額

交通事故と損害との間に因果関係があったとしても,被害者の体質的な要因や心因的な要因(素因)が損害の発生・拡大に影響しており,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失する場合には,民法722条の過失相殺の規定を類推適用して損害賠償額が減額されます。これを素因減額といいます。

高齢者が交通事故被害にあった場合には素因減額が問題となることが多いですが,高齢者というだけで素因減額されるわけではありません。年をとれば,生理的機能が低下することや,骨が脆くなる等年齢相応の加齢的変性が生じることは通常のことであり,通常の場合にまで素因減額することは相当ではないからです。

素因減額されるのは,高齢者に交通事故前から年相応とはいえない疾患があり,それが損害の発生・拡大に影響し,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するといえる場合です。

 

二 逸失利益

1 後遺症逸失利益の労働能力喪失期間

高齢者に就労の蓋然性があれば,後遺症逸失利益が損害となります。

後遺症逸失利益は「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

高齢者の場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間ですが,高齢者の場合は平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間として逸失利益を算定します。

 

2 死亡逸失利益の就労可能年数

高齢者に就労の蓋然性があれば,死亡逸失利益が損害となります。

死亡逸失利益は「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定します。

高齢者の場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎収入とするのが通常です。

就労可能年数は,原則は亡くなってから67歳までの年数ですが,高齢者の場合には平均余命の2分の1の年数を就労可能年数として逸失利益を算定します。

 

3 家事従事者の逸失利益

(1)家事従事者

家事従事者についても逸失利益が認められます。

家事従事者といえるには,単に家事をしているというだけではなく,他人(家族)のために家事労働をしていることが必要です。

そのため,一人暮らしの高齢者の場合,自分のために家事をしているただけですから,原則として逸失利益は認められません(ただし,家事ができなくなったことにより家政婦を雇った場合にはその費用が損害となることがあります。)。

また,例えば,同居の家族がいても,自分のことは自分でしていた場合には,他人のために家事をしているとはいえず,逸失利益が認められないことがあります。

(2)基礎収入

家事労働について逸失利益が認められる場合,賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入として算定するのが通常です。

もっとも,高齢者の場合には,通常の主婦と同程度の家事労働をしているとはいえないず,通常の家事従事者より基礎収入を低くして逸失利益を算定することがあります。

 

4 年金の逸失利益性

生きていれば年金がもらえたのに,交通事故で亡くなり年金がもらえなくなった場合,年金がもらえなくなったことによる逸失利益も損害となります。

年金の逸失利益は「年金額×(1-生活費控除率)×平均余命に対応するライプニッツ係数」の計算式で算定しますが,年金収入は生活費にあてることが多いと考えられるため,生活費控除率は通常より高くすることが多いです。

 

なお,全ての年金について逸失利益が認められているわけではありません。老齢年金,退職年金,障害年金(加給分は除きます。)については逸失利益が認められていますが,障害年金の加給分や遺族年金については逸失利益性が否定されています。

 

三 遺族年金の損益相殺

1 損益相殺

被害者が亡くなり,遺族が遺族年金を受給することになった場合,不法行為と同一の原因により利益を受けることになるので損益相殺され,遺族年金の受給額が損害額から控除されます。

 

2 控除される遺族年金

控除される遺族年金は,損害賠償額が確定した時点(判決の場合は,事実審の口頭弁論終結時)で支給が確定した分です。未だ受給が確定していない分については損害額から控除されません。

 

3 控除の対象となる損害

控除の対象となる損害は逸失利益(年金収入以外の逸失利益も含まれます。)だけであり,支給が確定した遺族年金の額が逸失利益の額を上回っても,他の損害(慰謝料等)から控除することはできないと解されております。

また,控除されるのは遺族年金を受給する相続人の損害額からです。遺族年金を受給しない相続人の損害額からは控除されません。

 

四 過失割合

1 過失割合の類型化

過失相割合については,判例タイムズの「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」や「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)等で類型化されております。

これらの基準では,事故の類型ごとに,「四輪車80,単車20」といったように過失の基本割合を定め,修正要素があれば基本割合に加算・減算して各当事者の過失割合を定めるという方式がとられています。

 

2 高齢者が歩行者や自転車の運転者である場合

高齢者(おおむね65歳以上)が歩行者や自転車運転者である場合には,高齢者を保護する必要性が高いことから,過失割合を減算する修正要素となっています。

 

3 高齢者が四輪車や単車の運転者である場合

高齢者が四輪車や単車の運転者である場合には,過失割合の修正要素とはされていません。四輪車や単車の運転には免許が必要であり,高齢者だからといって保護する必要性が高いとはいえないからです。

ただし,シルバーマークを付けていた場合,類型によっては修正要素として考慮されています。

 

 

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