労働者の業務外の負傷・病気(私傷病)と解雇

2017-06-29

労働者が業務外で負傷や病気をして働けなくなった場合,使用者はその労働者を解雇することができるでしょうか?

 

一 私傷病により労務を提供できなくなったことによる解雇

労働者が業務と無関係な負傷や病気により労務を提供することができなくなった場合には,業務上災害による療養中の解雇制限(労働基準法19条1項)の適用はありませんので,使用者は労働者を解雇することができます。

もっとも,解雇権濫用規制(労働契約法16条)がありますので,早期回復の見込みがあるのに解雇した場合や,休職制度があるにもかかわらず,休職させず解雇した場合には,解雇権の濫用にあたり解雇が無効となるおそれがあります。

回復の見込みがなく,就労が不可能であることが明らかである場合には,休職させずに解雇しても解雇権の濫用とはならないでしょうが,後述の傷病休職制度がある場合には,いきなり解雇するのではなく,まずは休職させたほうが,トラブルを避ける意味で無難といえます。

また,傷病休職制度がない場合であっても,同程度の期間は労働者の回復を待ったほうが無難といえます。

 

二 傷病休職

1 休職とは

休職とは,労働者に労務への従事が不能または不適当な事由がある場合に,使用者がその労働者に対し,労働契約関係は維持しつつも労務への従事を免除または禁止することをいいます。

休職制度は,法令の規定に基づくものではありませんが,就業規則や労働協約に基づいて企業がもうけているものです。

 

休職の種類には,傷病休職(業務外の傷病による欠勤の場合),事故欠勤休職(傷病以外の自己都合による欠勤の場合),起訴休職(刑事事件で起訴された場合)等があります。

 

2 傷病休職とは

業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合,使用者は労働者に休職を命じることができます。

労働者が休職期間中に傷病が治癒し就労可能となれば休職は終了し復職しますが,治癒せずに休職期間満了となれば自然退職または解雇となります。

 

この制度を傷病休職といい,解雇の猶予を目的としています。

 

3 傷病期間中の賃金

傷病休職中は,労務の提供がなされていませんし,使用者の責めに帰すべき事由もないので,特段の定めがない限り賃金は支払われません。

ただし,健康保険に加入していれば傷病手当金の支給はあります。

 

4 休職期間

休職期間の長さは就業規則等の定めによりますが,勤続年数,傷病の性質,企業の規模等によって異なるのが通常です。

 

5 自然退職と解雇

休職期間が満了しても治癒しない場合には,自然退職または解雇となります。

 解雇の場合には解雇予告等の解雇規制がありますが,自然退職の場合には当然に労働契約が終了しますので解雇規制の適用はありません。

そのため,使用者の立場からすれば,自然退職にしたほうがトラブルになりにくいといえるでしょう。

 

6 治癒したといえるかどうか

休職期間が満了するまでに治癒しないと自然退職または解雇となりますので,傷病休職では「治癒」したかどうかが大きな問題となります。

治癒したといえるには,原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していなければなりませんが,職種や職務の内容によっては,軽易な労務しかできない場合であっても,配置転換で対応できるときや,徐々に従前の職務を通常程度に行えるようになるときには,治癒したものと認められることがあります。

 

  また,治癒したかどうかは医師の診断によりますので,労働者は医師の診断を受けて,治癒を証明する診断書を提出します。使用者が医師を指定してきた場合,就業規則等の定めや合理的な理由があれば,労働者は指定医の診断を受けなければなりません。労働者が医師の診断を受けることに協力しない場合には,労働者に不利に判断されることがあります。

 

7 復職後に再び欠勤した場合

休職していた労働者が,復職後しばらくして再び体調を崩し,欠勤することがあります。

  就業規則等に,復職後一定期間内に同一または類似の事由で欠勤したり,労務提供ができなくなったりした場合には,復職を取消して休職させ,復職前の休職期間と通算する旨規定されていれば,使用者は,その規定に基づいて対応することになります。

そのような規定がない場合や一定期間経過後に欠勤した場合には,使用者は,改めて休職の手続をとるか,普通解雇を検討することになります。

 

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