交通事故損害賠償請求と損益相殺

2017-06-23

交通事故の被害者は,加害者や加害者側の任意保険会社から損害賠償金の支払を受けるだけでなく,自賠責保険金や労災保険の給付等損害賠償金の弁済以外の利益を受けることがあります。そのような場合,損益相殺が問題となります。

 

一 損益相殺とは

不法行為の被害者が損害を被ったのと同一の原因により利益を得た場合に,被害者が加害者に損害賠償請求をするにあたって,その利益の額を賠償額から控除することを損益相殺といいます。

条文上,損益相殺の規定はありませんが,公平の見地から認められています。

 交通事故の場合にも,被害者またはその相続人が,交通事故と同一の原因により利益を得た場合には,利益を受けた額が損害額から控除されることになります。

 

二 損益相殺の対象となる給付

1 どのような給付に損益相殺されるのか

被害者または被害者の相続人が,交通事故により利益を得たとしても,すべての場合に損益相殺されるわけではありません。

損益相殺されるのは損失と利益の同質性がある場合であり,損害の填補にあたるかどうかで判断されます。損害の填補の趣旨であると解されるものについては,損益相殺されますが,損害の填補の趣旨であると解されないものについては損益相殺されません。

 

2 損益相殺される給付

・自賠責保険金

・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金

・健康保険

・労災保険(特別支給金を除く)

・遺族年金

・障害年金

・介護保険

・所得補償保険金

・人身傷害保険金

 

3 損益相殺されない給付

・自損事故保険金

・搭乗者傷害保険金

・生命保険金

・傷害保険金

・労災保険上の特別支給金

・香典・見舞金

 

4 将来の給付について

年金のように給付が将来にわたって続くものについては,いつまで給付されるか不確実であるため,給付が確定した分についてのみ損害額から控除されます。

 

三 控除の対象となる損害

1 損害項目

損益相殺される場合には損害額から利益の額を控除しますが,単純に損害額の合計額か控除するというわけではありません。

給付の目的や性質から,控除される損害項目が限定されることがあります。

 

2 自賠責保険

自賠責保険の給付は人身損害についての給付ですから,人身損害から控除されます。

物的損害からは控除されません。

 

3 労災保険

(1)人的損害からの控除

労災保険の給付は人身損害についての給付ですから,人身損害から控除されます。物的損害からは控除されません。

(2)給付と損害項目

労災保険の療養補償給付(療養給付)については治療関係費から,休業補償給付(休業給付)・傷病補償年金(傷病年金)・障害補償給付(障害給付)・遺族補償給付(遺族給付)については休業損害と逸失利益から,葬祭料(葬祭給付)については葬儀費用から,介護補償給付(介護給付)については介護費用から,それぞれ控除されます。労災保険には慰謝料に相当する給付はないので,慰謝料から控除はされません。

 

4 遺族年金

遺族年金は,亡くなった人の収入によって生計を維持していた遺族の生活を保障するためのものですから,逸失利益から控除されます。

控除される逸失利益は,給料収入等年金以外の収入についての逸失利益も含まれます。

 

2 誰の損害から控除されるのか

給付を受けた人の損害額から控除されます。

例えば,被害者の相続人の一部が遺族年金の給付を受けた場合,その人の損害額から控除されます。給付を受けていない相続人の損害額からは控除されません。

 

四 過失相殺がある場合

1 相殺前控除と相殺後控除

被害者に過失があり過失相殺される場合には,過失相殺と損益相殺の先後関係が問題となります。この点については,以下の2つの考え方があります。

 

①損害額から控除した後に過失相殺

損害額=(損害額-控除額)×(1-過失相殺率)

 

②損害額から過失相殺した後に控除

損害額=損害額×(1-過失相殺率)-控除額

 

2 自賠責保険・政府の自動車損害賠償事業てん補金

加害者が損害賠償金の一部を先に支払っていた場合には過失相殺後の額から既払金を控除して損害賠償額を計算しますので,損害の填補の趣旨であると解される損益相殺の場合も,過失相殺後の額から控除すると考えるのが通常であり,自賠責保険・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金については,損害額から過失相殺した後に控除するものと解されております。

3 健康保険

健康保険からの給付については,社会保障的な性質を重視して,控除後に過失相殺にするものと解されております。

 

4 労災保険

過失相殺後に控除する最高裁判所の判例がありますが,健康保険と同様に解して,控除後に過失相殺する裁判例もあります。

また,労災保険については控除される損害項目が限定されますので,過失相殺がある場合には,給付と損害項目との対応関係に注意しましょう。

 

5 年金

健康保険同様,控除後に過失相殺する裁判例もありますが,損害の填補の側面があることから過失相殺後に控除する裁判例もあります。

 

 

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