【離婚】DV防止法の保護命令

2017-05-01

DV(ドメスティック・バイオレンス)の事案では,配偶者から危害を受けないよう身の安全を守ることが重要です。

配偶者から危害を受けるおそれがある場合には, 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)による保護命令の申立てをすることが考えられます。

 

一 DV防止法の保護命令とは

DV防止法の保護命令とは,配偶者から身体に対する暴力や生命・身体に対する脅迫を受けた被害者が,配偶者からの身体に対する暴力により,生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに,生命・身体に危害が加えられることを防止するために,裁判所が配偶者に対し接近禁止や退去等を命じる命令です(DV防止法10条)。

保護命令に違反した場合,違反者には刑事罰が科されます(DV防止法29条)。

 

「配偶者」は,法律婚の配偶者のみならず,事実婚の配偶者も含みます(DV防止法1条3項)。また,同居中の交際相手(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいない場合は除きます。)から暴力等を受けている場合にも,保護命令の申立てができます(DV防止法28条の2)。

 

二 保護命令の種類

保護命令には,①接近禁止命令,②退去命令,③子への接近禁止命令,④親族等への接近禁止命令,⑤電話等禁止命令があります(DV防止法10条)。

③から⑤の命令は,①の命令の実効性を確保するために出されますので,①の命令と同時か既に出されている場合にのみ発令されます。

 

1 接近禁止命令

(1)接近禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から6か月間,被害者の住居(加害者と共に生活の本拠としている住居は除きます。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい,又は被害者の住居,勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないとする命令です(DV防止法10条1項1号)。

(2)要件

①配偶者から身体に対する暴力または生命・身体に対する脅迫を受けた被害者にあたること(DV防止法10条1項)

②配偶者からの身体に対する暴力により,生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと(DV防止法10条1項)

③配偶者暴力相談支援センターか警察に相談等を求めたこと(DV防止法12条1項5号)

または,被害者が,配偶者から暴力を受けた状況等の供述書面を作成し,公証人の認証を受けたこと(DV防止法12条2項)

 

2 退去命令

(1)退去命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から2か月間,被害者と同居している住居(被害者と共に生活の本拠としている住居)から退去すること,当該住居の付近を徘徊してはならないことを命じる命令です(DV防止法10条1項1号)。

被害者が引越しの準備をするためにもうけられたものです。

 

(2)要件

被害者への接近禁止命令の要件と同じですが,加害者を自宅から退去させるものであり,加害者への影響が大きいので,厳しく判断されます。

 

3 子への接近禁止命令

(1)子への接近禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から6か月間,子の住居(加害者と共に生活の本拠としている住居は除きます。),就学する学校その他の場所において子の身辺につきまとい,または子の住居,就学する学校その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないとする命令です(DV防止法10条3項)。

「子」は,被害者と同居中の未成年の子を指します(DV防止法10条3項)。別居中の子や成年の子への接近禁止命令が必要な場合には,親族等への接近禁止命令の申立てをします。

また,子が15歳以上の場合は,子の同意が必要となります。

子への接近禁止命令は,被害者が子に関して加害者と会わざるを得なくなる状態を防ぐためになされるものであり,子の保護を目的とするものではありません。

 

(2)要件

①被害者への接近禁止命令の要件をみたすこと

②被害者が未成年の子と同居していること

③被害者が,子に関して配偶者と会わざるを得なくなる状態を防ぐ必要があること

④子が15歳以上であるときは,その子の書面による同意があること(DV防止法10条3項但書,保護命令手続規則1条2項,3項)

 

4 親族等への接近禁止命令

(1)親族等への接近禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から6か月間,親族等の住居(加害者と共に生活の本拠としている住居は除きます。)その他の場所において親族等の身辺につきまとい,または親族等の住居,勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないとする命令です(DV防止法10条4項)。

「親族等」とは,親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者をいいます。被害者と同居している子や加害者と同居している者は除きます(DV防止法10条4項)。

また,申立てには,親族等(被害者の15歳未満の子は除きます。)の同意が必要となります(DV防止法10条5項)

親族等への接近禁止命令は,被害者が親族等に関して加害者と会わざるを得なくなる状態を防ぐためになされるものであり,親族等の保護を目的とするものではありません。

 

(2)要件

①被害者への接近禁止命令の要件をみたすこと

②被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者(被害者と同居している子や加害者と同居している者は除きます。)であること

③被害者が親族等に関して加害者と会わざるを得なくなる状態を防ぐ必要があること

④親族等(被害者の15歳未満の子は除きます。)の書面による同意があること(DV防止法10条5項,保護命令手続規則1条2項,3項)

 

5 電話等禁止命令

(1)電話等禁止命令とは

加害者に対し,命令の効力が生じた日から起算して6か月間,以下の各行為をしてはならないとする命令です(DV防止法10条2項)。

①面会を要求すること

②行動を監視していると思わせるような事項を告げ,又はその知りうる状態に置くこと

③著しく粗野又は乱暴な言動をすること

④電話をかけて何も告げないこと,又は緊急やむを得ない場合を除き,連続して,電話,ファックス送信,電信メールの送信をすること

⑤緊急やむを得ない場合を除き,午後10時から午前6時までの間に,電話,ファックス送信,電子メールの送信をすること

⑥汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し,又は知りうる状態に置くこと

⑦名誉を害する事項を告げ,又は知り得る状態に置くこと

⑧性的羞恥心を害する事項を告げ,若しくは知りうる状態に置くこと,又は性的羞恥心を害する文書,図画その他の物を送付し,若しくは知り得る状態に置くこと

 

(2)要件

被害者への接近禁止命令の要件と同じです。

 

四 保護命令申立ての手続

1 申立権者(申立てができる人)

(1)配偶者から身体への暴力等を受けている被害者

配偶者(事実婚の配偶者も含みます。)から身体への暴力や生命・身体に対する脅迫を受けている人は,今後も身体に暴力を受け,生命・身体に暴力を受けるおそれが大きいときには,保護命令の申立てをすることができます。

(2)同居中の交際相手から暴力等を受けている被害者

生活の本拠を共にする交際相手(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものは除きます。)から身体への暴力や生命・身体に対する脅迫を受けている人は,今後も身体に暴力を受け,生命・身体に暴力を受けるおそれが大きいときには,保護命令の申立てをすることができます(DV防止法28条の2)。

(3)離婚・婚姻の取消・関係解消した場合

離婚・婚姻の取消・関係解消前から,身体への暴力や生命・身体に対する脅迫を受けており,離婚・婚姻の取消・関係解消後も,引き続き身体に対する暴力を受け,生命・身体に暴力を受けるおそれが大きいときには,保護命令の申立てをすることができます(DV防止法10条1項,28条の2)。

これに対し,婚姻中や交際中は暴力や脅迫はなく,離婚・婚姻の取消・関係解消後に暴力・脅迫を受けるようになった場合は,保護命令の申立てはできません。そのような場合には,ストーカー規制法での対応を検討することになります。

 

2 管轄裁判所

①相手方の住所(日本国内に住所がないときや住所が知れないときは居所)の所在地

②申立人の住所または居所の所在地

③配偶者からの身体に対する暴力または生命等に対する脅迫が行われた地

のいずれかを管轄する地方裁判所に申立てをします(DV防止法11条)

 

3  申立ての方法

保護命令の申立ては,裁判所に必要事項を記載した書面(申立書)を提出して行います(DV防止法12条)。申立てにあたっては,手数料(収入印紙)や郵券の納付も必要となります。

(1)申立書の記載事項

申立書には,以下の事項を記載します(DV防止法12条1項,配偶者暴力等に関する保護命令手続規則1条1項)。

①配偶者からの身体に対する暴力または生命などに対する脅迫を受けた状況(DV防止法12条1項1号)

②配偶者からの更なる身体に対する暴力または配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後の配偶者から受ける身体に対する暴力により,生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立時における事情(DV防止法12条1項2号)

③子への接近禁止命令を申し立てる場合は,被害者が同居する子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため発令の必要があると認めるに足りる申立時における事情(DV防止法12条1項3号)

④親族等への接近禁止命令を申し立てる場合は,被害者が親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため発令の必要があると認めるに足りる申立時における事情(DV防止法12条1項4号)

⑤配偶者暴力相談支援センターの職員や警察職員に対し,相談,援助,保護を求めた事実の有無,相談等をした機関名,日時,場所,内容,とられた措置(DV防止法12条1項5号)

⑥その他(当事者や代理人の氏名・住所,申立ての趣旨・理由,「子」の氏名・生年月日,「親族等」の氏名・被害者との関係等 保護命令手続規則1条1項)

 

(2)添付書類

申立書には,①警察等に相談等をした事実がないときは,申立人の供述を記載し,公証人の認証を受けた宣誓供述書(DV防止法12条2項),②子への接近禁止命令の申立てをする場合で,子が15歳以上のときは,その同意書(保護命令手続規則1条2項,3項),③親族等への接近禁止命令の申立てをする場合は,親族等の同意書(保護命令手続規則1条2項,3項),④書証(診断書や陳述書等)の写し,⑤その他(戸籍謄本,住民票等)の書類を添付します。

 

(3)申立人の住所

申立書には申立人の住所を記載しますが,DV事案では,被害者がどこにいるのか配偶者に知られないように配慮しなければなりません。

そのため,被害者が,住居から避難した場合には,避難先の住所ではなく,元いた住居の住所を記載する等,居場所を知られないようにしましょう。

また,申立書や提出書類は,当事者が閲覧・謄写ができますので(DV防止法19条),申立人の居場所やその手掛かりとなるような情報の記載がないか十分注意しましょう。

 

4  裁判所から警察等への書面提出の請求

申立てを受理した後,裁判所は,申立書に記載された支援センターや警察署に相談・保護を求めた状況やどのような措置を執ったのか書面で回答を求めます(DV防止法14条2項)。

 

5 審尋

裁判所は,申立人の面接を行い,次いで,相手方の意見聴取のための審尋期日を開き,相手方の言い分を聞いてから,保護命令を発令するか決めます。

 

6 決定

裁判所は,審理の結果,保護命令発令の要件を満たしていると判断した場合には,申立を認容する決定(保護命令)をします。

保護命令は,相手方に対する決定書を送達するか,期日に言い渡すことにより,効力が生じます(DV防止法15条2項)。

決定に不服がある者は即時抗告をすることができます(DV防止法16条)。

また,決定がでても,保護命令が取り消されることもあります(DV防止法17条)。

 

7 再度の申立て

保護命令の効力には期間制限がありますので,保護命令の発令後,再度の申立てをすることができます。

再度の申立てをする場合には,再度の申立ての時点で保護命令の要件をみたす必要があります。

また,退去命令の再度の申立ての場合には,転居しようとする被害者が責めに帰すことができない事由により2か月以内に転居を完了できないときその他退去命令を再度発令する必要があると認められなければなりませんし(DV防止法18条1項本文),配偶者の生活に特に著しい支障が生じると認められるときは命令が発せられないことがあります(DV防止法18条1項但書)。

 

五 保護命令の効果

1  警察や支援センターへの通知

保護命令が発令された場合,裁判所書記官は,申立人の住所や居所を管轄する警察に通知します(DV防止法15条3項)。また,申立人が支援センターに相談していたことが申立書に記載されていた場合には,支援センターにも通知されます(DV防止法15条4項)。

 

2 刑事罰

保護命令に違反した場合には,1年以下の懲役まはた100万円以下の罰金に処されます(DV防止法29条2項)。

保護命令には民事上の執行力はないので,強制執行はできませんが(DV防止法15条5項),違反した場合には刑罰が科されるにより,保護命令の実行性が担保されることになります。

 

三 まとめ

配偶者から暴力等を受けている被害者の方が,配偶者から危害を加えられるおそれがある場合には,DV防止法の保護命令の申立てを検討しましょう。

保護命令の申立てが必要となるような事案では,本人だけで対応することは難しい場合が多いでしょうから,弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

 

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