【親子問題】嫡出否認の訴え・調停

2018-06-14

嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子)について,DNA鑑定等で父子関係がないことが明らかになった場合,父子関係がないことを争うにはどうすればよいでしょうか。
嫡出子には,①推定される嫡出子,②推定されない嫡出子,③推定の及ばない子,④準正嫡出子がありますが,推定される嫡出子について父子関係がないことを争う方法としては,嫡出否認の訴えや調停があります。

 

一 嫡出否認の訴え

1 嫡出否認の訴えとは

妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定されます(民法772条1項)。また,婚姻成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定されます(民法772条2項)。
嫡出が推定される場合には,夫は,子の出生を知ったときから1年以内に嫡出否認の訴えを提起することで,父子関係を否定することができます(民法774条,775条,777条)。
父子関係を争う方法としては,親子関係不存在確認の訴えもありますが,嫡出の推定を受ける場合には,子の身分関係の法的安定性を保持する必要性があるため,嫡出否認の訴えによらなければならず,親子関係不存在確認の訴えをすることはできないと解されています。

なお,民法772条2項の期間内に子が生まれた場合であっても,妻が子を懐胎した時期に,既に夫婦が事実上の離婚をし,夫婦の実態が失われていた等の事情により,嫡出子の推定が及ばない場合には,嫡出否認の訴えではなく,親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を否定することができます。

 

2 当事者

(1)原告

①夫
嫡出の否認は,夫からの訴えによって行います(民法774条,775条)。
子や母,あるいは生物学上の父であるが法律上の父でない者が,嫡出否認の訴えを提起することはできません。

②夫が成年後見人の場合
夫が成年被後見人の場合には成年後見人(妻が成年後見人のときは後見監督人)が訴えを提起することができます(人事訴訟法14条)。

③夫が死亡した場合
夫が子の出生前に死亡した場合や出訴期間内に訴えを提起しないで死亡した場合には,子のために相続権を害される者その他夫の3親等内の血族は,夫の死亡の日から1年以内に訴えを提起することができます(人事訴訟法41条1項)。
訴え提起後に夫が死亡したときは,子のために相続権を害される者その他夫の3親等内の血族は夫の死亡の日から6か月以内に訴訟手続を受け継ぐことができます(人事訴訟法41条2項)。

 

(2)被告

嫡出否認の訴えは,夫から子または親権を行う母に対して行いますが,親権を行う母がいない場合には特別代理人が選任されます(民法775条)。

 

3 出訴期間

身分関係の法的安定性を保持するため,嫡出否認の訴えは夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければなりません(民法777条)。
夫が成年被後見人の場合は,後見開始の審判の取消しがあった後,夫が子の出生を知った時から起算されます(民法778条)。

 

4 認容判決確定の効果

認容判決が確定すると,子の出生時にさかのぼって嫡出子の地位が失われます。
判決確定の日から1か月以内の戸籍の訂正を申請しなければならず(戸籍法116条1項),申請すると父の欄の記載が消除されます。

 

二 嫡出否認の調停

1 調停前置主義

人事訴訟事件については調停前置主義が採用されているため(家事事件手続法257条1項),嫡出否認の訴えを提起する前に,夫は,子または親権を行う母を相手方とする嫡出否認の調停を申し立てなければなりません。

 

2 合意に相当する審判

嫡出否認については,公益性が強く,当事者の意思だけで解決することはできませんが,当事者に争いがない場合には,簡易な手続で処理することが望ましいといえます。
そのため,まず調停手続を行い,当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,原因事実について争いがない場合には,家庭裁判所は,事実の調査をした上,合意が正当と認めるときに,合意に相当する審判をします(家事事件手続法277条1項)。
調停不成立の場合や,合意に相当する審判による解決ができなかった場合には,夫は嫡出否認の訴えを提起して,解決を図ることができます。

 

三 まとめ

民法772条2項の期間内に子が出生した場合には,嫡出の推定を受けるため,嫡出否認の訴え提起や調停申立てによって父子関係がないことを争わなければなりませんが,訴え提起や調停申立ては,基本的に夫しかできませんし,夫が子の出生を知ったときから1年以内にしなければなりませんので,争うことができる場合は限られています。
民法772条2項の期間内に子が出生した場合であっても,嫡出の推定を受けないときは,親子関係不存在確認の訴えや調停によって争うことができますので,子や妻が父子関係がないことを争いたい場合や夫が出訴期間経過後に父子関係を争いたい場合には,親子関係不存在確認の訴えや調停を検討することになります。

 

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