【相続・遺言】遺言無効

2018-01-18

遺産分割の前提問題として,遺言の有効性が争いとなることがあります。
どのような場合に遺言は無効となるのか,また,どのような方法で遺言の有効性を争うのか説明します。

 

一 遺言の無効原因

1 方式違反

遺言者の最終意思であるかどうかを明確にする必要があるため,遺言は民法に定める方式に従わなければすることができません(民法960条)。民法に定める方式に従わないで作成された方式違反のある遺言は無効となります。
例えば,自筆証書遺言の場合,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければなりませんので(民法968条1項),日付の記載がなかったり,押印がなかったりすると無効となります。自筆証書遺言は専門家の関与がなく作成されることが多いため,方式違反で無効にならないよう注意しましょう。

 

2 遺言能力の欠如

遺言者は,遺言をする時に能力を有していなければならず(民法963条),遺言能力を欠いた者がした遺言は無効となります。

 

(1)年齢

遺言をするには15歳に達していることが必要であり(民法961条),15歳未満の者がした遺言は無効となります(民法961条)。

 

(2)意思能力

遺言能力については行為能力の規定は適用されませんが(民法962条),遺言をするには意思能力が必要であり,意思無能力者のした遺言は無効となります。
成年被後見人も意思能力がなければ遺言はできませんが,事理弁識能力を回復したときは,一定の方式により遺言をすることができます(民法973条)。

 

3 公序良俗違反

公序良俗に違反する法律行為は無効となりますので(民法90条),公序良俗に違反する遺言は無効となります。
例えば,不倫相手に遺贈する旨の遺言は公序良俗に違反するか問題となります。

 

4 意思表示に瑕疵がある場合(錯誤,詐欺,強迫)

遺言の意思表示についても錯誤無効の規定(民法95条)や,詐欺または強迫の取消しの規定(民法96条)が適用されます。
そのため,遺言の要素に錯誤がある場合には遺言者に重過失がない限り遺言は無効となりますし,詐欺または強迫による遺言は取消しにより無効となります。

 

5 相続欠格事由がある場合

相続欠格事由がある者は,相続人となることができませんし(民法891条),受遺者となることもできません(民法965条)。
そのため,相続欠格事由がある者に相続または遺贈させる旨の遺言は無効となります。

 

6 被後見人による後見人またはその近親者に対する遺言

後見人が被後見人の直系血族,配偶者,兄弟姉妹以外の場合に,被後見人が,後見の計算終了前に,後見人またはその配偶者や直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは,遺言は無効となります(民法966条)。

 

7 証人,立会人の欠格事由がある場合

遺言の証人や立会人には欠格事由があります(民法974条)。
遺言の作成に証人や立会人が要求されている場合,欠格事由のある証人等の立会いにより作成された遺言は方式違反により無効となります。

 

8 共同遺言

遺言は2人以上の者が同一の証書ですることはできません(民法975条)。
2人以上の者が同一の証書でした遺言は無効となります。

9 遺言者の死亡以前に相続人や受遺者が死亡した場合

遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,遺贈の効力は生じません(民法994条1項)。
相続させる旨の遺言の場合も同様であり,遺言者の死亡以前に相続人が死亡したときは原則として代襲相続することはないと解されています。

また,停止条件付きの遺贈について受遺者が条件成就前に死亡したときも,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,遺贈の効力は生じません(民法994条2項)。

 

10 遺言の撤回

①遺言者が遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回した場合(民法1022条),②前の遺言と後の遺言が抵触し,前の遺言を撤回したとみなされる場合(民法1034条),③遺言者が遺言者または遺贈の目的物を破棄して遺言を撤回したとみなされる場合(民法1024条)には,撤回された遺言は効力がなくなります。
撤回行為が,撤回され,取消され,または効力を生じなくなるに至ったときであっても,詐欺または強迫による場合を除き,撤回された遺言の効力が回復することはありません(民法1025条)。

 

二 遺言の有効性を争う方法

1 遺言無効確認訴訟

遺言の有効性の争いは,実体法上の権利関係に係る争いであり,家庭裁判所の審判事項ではなく,訴訟事項です。
そのため,遺言の有効性を争うには地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起することになります。
遺言無効確認訴訟は,原則として固有必要的共同訴訟ではなく,共同相続人全員が当事者となる必要はありません。
また,遺言者の生存中は遺言の効力が生じていませんので,確認の利益はなく,訴え提起は不適法となります。

訴訟により,遺言が無効であることが確定した場合には,遺言が無効であることを前提に遺産分割をすることになります。
遺言が有効であることが確定した場合には,遺言が有効であることを前提に対応することになります。遺産分割が必要な場合には遺産分割をすることになりますし,遺留分が侵害されている場合には遺留分減殺請求をすることになります。なお,遺留分減殺請求には期間制限があるため(民法1042条),遺言の有効性を争っているうちに期間が過ぎてしまわないよう,予備的にでも遺留分減殺請求をしておいたほうがよいでしょう。

 

2 遺言無効確認調停

遺言の無効確認をする手続としては,家庭裁判所に遺言無効確認の調停申立てをすることができます。
この調停は一般調停事件であり(家事事件手続法244条),調停前置主義(家事事件手続法257条)が適用されます。そのため,まずは調停の申立てをしなければならず,調停の申立てをせずに訴えを提起すると調停に付されることになりますが,調停に付することが相当でないと認められるときはこの限りではありませんので(家事事件手続法257条2項),合意が成立する見込みがない場合には最初から訴訟提起することが考えられます。

 

3 遺産分割手続の中での解決

遺産分割の手続において遺言の有効性が争いとなることがあります。
共同相続人間で遺言の有効性について合意できれば,それを前提に遺産分割の手続をすることができます。
また,遺産分割審判では,裁判所は遺言の有効性について審理・判断した上で遺産分割を行うことができますが,遺言の有効性についての争いは訴訟事項であり,家庭裁判所の審判には既判力がありませんので,訴訟で異なる判断がなされた場合には審判の効力が失われてしまいます。
そのため,遺産分割の手続において遺産の有効性が争いとなった場合,共同相続人間で合意ができなければ,遺言無効確認訴訟を提起し,訴訟が解決してから遺産分割の手続を進めるのが通常です。

 

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