【相続・遺言】遺産分割の確認・検討事項

2017-11-03

遺産分割は,相続が開始し,共同相続人の遺産共有に属する相続財産(遺産)がある場合に,その遺産共有状態を解消するために行われます。当事者全員で合意ができれば,遺産分割の内容を自由に決めることができますが,話し合いをまとめる上でも,遺産分割の基本的な流れを理解しておいたほうがよいでしょう。

遺産分割をするにあたっては,まず前提問題として
①遺言があるか(遺言の有無等)
②誰が遺産分割の当事者となるのか(相続人の範囲)
③遺産分割の対象となる財産としてどのような財産があるのか(遺産の範囲)
を確認します。
その上で
④遺産の評価を行い
⑤各共同相続人の具体的な取得分額を計算し
⑥その具体的な取得分額に基づいて遺産をどのように分けるか(遺産分割の方法)
を決めます。

 

一 遺言の有無等

1 遺言の有無・内容・効力

全遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合等,遺言で全遺産の処分について定められている場合には,原則として遺産分割は不要となります。また,遺言で遺産の一部の処分について定めている場合には,原則として,その遺産については遺産分割の対象とはなりません。
そのため,遺産分割を行う必要があるかどうか,まずは遺言の有無や内容を確認する必要があります。
また,遺言があっても有効性が争いとなることがあります。

 

2 遺言と異なる内容の遺産分割

当事者の合意があれば,遺言と異なる内容の遺産分割をすることもできます。

 

二 相続人の範囲の確定

遺産分割は当事者全員で行わないと無効になりますので,当事者である共同相続人の範囲を確定する必要があります。

 

1 相続人

相続人は,①被相続人の配偶者(民法890条)と②以下の順位の親族です。
第1順位 子又はその代襲相続人(孫)・再代襲相続人(曾孫)(民法887条)
第2順位 直系尊属(親等の異なる者の間では近い者)(民法889条1項1号)
第3順位 兄弟姉妹又はその代襲相続人(甥姪)(民法889条1項2号,2項)

 

2  相続人以外で遺産分割の当事者となる場合

相続人以外に
①割合的包括包受遺者
②相続分の譲受人
は遺産分割の当事者となります。

 

3 遺産分割の当事者とならない場合

①相続放棄をした人
②相続人の欠格事由がある人
③推定相続人の廃除がなされた人
④相続分の全部を譲渡した人
⑤相続分の全部を放棄した人
は,遺産分割の当事者とはなりません。
ただし,②,③の場合には,代襲相続人が遺産分割の当事者となります。
④,⑤の場合には,不動産に相続登記がなされているときは,遺産分割後に登記するにあたって,譲渡人や放棄者も登記義務者となりますので,その限りで遺産分割の当事者となります。また,相続債務については,債権者が害されないよう債権者との関係では譲渡人や放棄者も債務を負うものと解されております。

 

三 相続財産(遺産)の範囲の確定

遺産分割を行うに当たっては,遺産分割の対象となる財産の範囲を確定する必要があります。被相続人の財産と思われるものであっても,相続財産となるものとならないものがありますし,相続財産となっても遺産分割の対象となるものとならないものがありますので,財産の種類によって整理することが必要となります。

 

1 相続財産

相続開始時に被相続人の財産に属する一切の権利義務は,被相続人の一身に専属するものを除き,相続財産(遺産)となります(民法896条)。
相続財産には,遺産共有となる財産と当然分割される財産があります。

(1)遺産共有となる財産

不動産,預貯金,現金,動産等,共同相続人の共有となる財産については,遺産共有状態を解消するため,遺産分割が必要となります。

 

(2)当然分割される財産

金銭債権等の過分債権や債務は,相続開始時に当然に分割されるため,遺産分割は不要です。
当事者全員が合意をすれば遺産分割の対象とすることは可能ですが,相続債務については,当事者で誰が負担するか決めても当事者間で効力があるだけであり,債権者には効力がありません。

2 相続財産とはならないもの

①生活保護受給権等,被相続人の一身に専属するもの
②生命保険金や死亡退職金等,受取人の固有の権利となるもの
③葬儀費用,遺産管理費用,遺産収益等,相続開始後に発生するもの
は相続財産とはなりません。

 

四 遺産の評価

1 遺産の評価

遺産分割を行うにあたって各当事者の具体的相続分を計算することになりますが,そのためには遺産を金銭で評価する必要があります。

 

2 評価の方法

遺産の評価は
①当事者の合意
②鑑定
のいずれかの方法で行います。
裁判所で鑑定を行う場合には,原則として鑑定費用を予納します。

 

3 評価の基準時

不動産等の財産は評価する時点によって評価額が異なりますので,いつの時点で評価するのか問題となります。

①相続開始時を基準時とする場合
特別受益や寄与分が問題となり,具体的相続分を算定するときには,相続開始時を基準に遺産を評価します。

②遺産分割時を基準とする場合
現実に分割する段階では,遺産分割時を基準に遺産を評価します。

なお,遺産の評価を2時点で行うことは煩雑であり,鑑定費用も余計にかかりますので,当事者の合意があれば,一時点で評価することもできます。

 

五 各共同相続人の具体的な取得分の計算

各共同相続人は相続分に応じて遺産に持分を有しますが,特別受益や寄与分がある場合には修正されます。

 

1 相続分

(1)法定相続分

法定相続分とは,民法で定める相続分です(民法900条)。
①配偶者と子が相続人の場合
配偶者の相続分は2分の1,子の相続分は2分の1となります(民法900条1号)。
子が数人いる時は,各自の相続分は均等になります(民法900条4号)。
②配偶者と直系尊属が相続人となる場合
配偶者の相続分は3分の2,直系尊属の相続分は3分の1となります(民法900条2号)。相続人となる直系尊属が数人いるときは,各自の相続分は均等になります(民法900条4号)。
③配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合
配偶者の相続分は4分の3,兄弟姉妹の相続分は4分の1となります(民法900条3号)。
兄弟姉妹が数人いるときは,各自の相続分は均等になりますが,半血(被相続人と親の一方が共通)の者の相続分は全血(被相続人と両親が共通)の者の半分になります(民法900条4号)。
④代襲相続人
代襲相続人の相続分は被代襲者が受けるべきであった相続分と同じになります。代襲相続人が複数いる場合には,民法900条4号の規定に従い相続分を有します(民法901条)。

 

(2)指定相続分

指定相続分とは,遺言で指定する相続分です(民法902条)。
被相続人は,遺言で共同相続人の相続分を定めることができますし,遺言で相続分の指定を第三者に委託することができます(民法902条1項)。
共同相続人の一部の相続分を指定した場合には,他の共同相続人の相続分は法定相続分の規定により定めます(民法902条2項)。

 

2 特別受益や寄与分がない場合の具体的取得分の計算

遺産分割時の遺産総額を基に,各当事者の法定相続分または指定相続分に応じて,具体的取得分額を計算します。

例えば,遺産分割時の遺産総額が1000万円で,相続人が子2名の場合,法定相続分は2分の1ずつになりますので,各人の具体的取得分額は500万円となります(計算式:1000万円×2分の1=500万円)。

 

3 特別受益や寄与分がある場合の具体的取得分の計算

(1)特別受益

共同相続人の中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた人がいるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,法定相続分または指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額が,その人の具体的相続分となります(民法903条1項)。

 

(2)寄与分

共同相続人の中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした人がいるときには,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額からその人の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,法定相続分または指定相続分に寄与分を加えた額が,その人の具体的相続分となります(民法904条の2)。

 

(3)特別受益や寄与分がある場合の具体的取得分額の計算

特別受益や寄与分がある場合には,遺産の評価が2時点で行われることになるため,具体的取得分額の計算も以下のように,2段階で行います。
①相続開始時の遺産総額に特別受益や寄与分による修正を加えて,各当事者の具体的相続分額を計算して,各当事者が具体的に相続する割合(具体的相続分率)を計算し
②遺産分割時の遺産総額に具体的相続分率を乗じて,各当事者の具体的取得分額を計算します。

例えば,①相続開始時評価の遺産総額が1000万円で相続人が子2名の場合で,相続開始時の評価で長男に300万円の特別受益があり,次男に100万円の寄与分があるときには,長男の具体的相続分は300万円(計算式:(1000万円+300万円-100万円)×2分の1-300万円=300万円)となり,次男の具体的相続分は700万円(計算式:(1000万円+300万円-100万円)×2分の1+100万円=700万円)となりますので,具体的相続分率は長男が0.3,次男が0.7となります。
そして,②遺産分割時評価の遺産総額が900万円の場合には,長男の具体的取得額は270万円(計算式:900万円×0.3=270万円)となり,次男の具体的取得額は630万円(計算式:900万円×0.7=630万円)となります。

 

六 遺産分割方法

1 遺産分割の方法

各当事者の具体的取得分額が確定したら,これを基に具体的な遺産の分割方法を決めます。
遺産分割方法には,以下の方法があります。
①現物分割(遺産である個々の財産を相続人が取得する分割方法)
②代償分割(遺産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う等の債務を負担する方法)
③換価分割(遺産を競売や任意売却して,売却代金を分割する方法)
④共有分割(共同相続人が遺産を共有または準共有する方法)

 

2 遺産分割協議,遺産分割調停の場合

当事者が合意できれば,いずれの分割方法でもかまいません。
また,当事者の合意ができれば,各当事者の具体的取得分とは異なる内容の遺産分割をすることもできます。
当事者の合意により分割方法を決める場合には,柔軟な解決が可能になります。

 

3 審判の場合

合意ができず,審判となる場合には,家庭裁判所が,「遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」(民法906条)どのように遺産を分割するか決めますが,①現物分割が原則であり,②現物分割ができない場合等「特別の事情」がある場合に代償分割の方法がとられます(家事事件手続法195条)。③現物分割も代償分割もできない場合には,換価分割の方法をとり,④他の分割方法がとれない場合や,共有を望む相続人がおり,共有にしても特段不当ではない場合には共有分割の方法がとられます。

 

 

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