【相続・遺言】相続法改正 遺言執行者の権限等の改正

2019-07-13

相続法の改正により,遺言執行者の権限等について改正されました。
改正法については2019年7月1日より施行されています。

 

一 遺言執行者とは

遺言の効力発生後に遺言の内容を実現する行為のことを遺言の執行といい,遺言の執行を行う人のことを遺言執行者といいます。
遺言執行者がいる場合としては,遺言で指定される場合(民法1006条)と家庭裁判所により選任される場合があります(民法1010条)。遺言執行者は相続人でもなることができますが,未成年者及び破産者は,遺言執行者となることができません(民法1009条)。

改正前は,民法1012条1項の「遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」との規定や民法1015条の「遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。」と規定はありましたが,遺言執行者の権限や法的地位について条文上明確ではなく,判例等により解釈されてきました。
そこで,相続法の改正により,条文上,遺言執行者の権限等が明確化されました。

 

二 遺言執行者の法的地位

改正前の民法1015条では,「遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。」と規定されていましたが,遺言執行者は相続人の利益のためだけに行動するわけではなく,遺言の内容を実現するため行動しますので,遺言執行者と相続人との間でトラブルになることがあります。
そこで,遺言執行者を相続人の代理人とみなすとの規定を改めて,改正後の民法1015条では「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と規定されています。
また,その一方で,民法1012条1項を「遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と改正し,遺言の内容を実現することが遺言執行者の職務であることを明確にしました。

 

三 遺言執行者の通知義務

改正前は,遺言執行者が通知義務を負うとの規定はありませんでしたが,相続人は遺言の内容や遺言執行者がいるかどうかについて重大な利害関係を有しますので,改正により,遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならなくなりました(民法1007条2項)。

なお,改正後の民法1007条2項は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者になった場合にも適用されます(附則8条1項)。

四 遺贈の履行

改正前は,遺贈の場合の遺言執行者の権限について規定がありませんでしたが,判例等で,遺言執行者がいる場合には遺言執行者のみが遺贈を履行する義務を負うと解されてきました。
改正により,「遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる。」と規定され(改正後の民法1012条2項。改正前の民法1012条2項は改正後は民法1012条3項となります。),遺言執行者がいる場合には遺言執行者のみが遺贈義務者になることが明文化されました。
例えば,不動産が遺贈された場合,遺言執行者がいるときは,遺言執行者が登記義務者となり,受遺者と遺言執行者の共同申請で所有権移転登記手続をします。

なお,改正後の民法1012条は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者になった場合にも適用されます(附則8条1項)。

 

五 遺言執行の妨害行為の禁止

改正前の民法1013条は「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為することができない。」と規定しておりましたが,違反した場合の効果について規定はありませんでした。判例では,違反行為は絶対的無効であると解されていましたが,取引の安全が害されるおそれがありましたので,改正により,違反行為は絶対的無効ではなく,相対的無効であると規定されました。
改正後の民法1013条では,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(改正後の民法1013条1項),違反した行為は無効となりますが(改正後の民法1013条2項本文),善意の第三者には対抗できませんし(民法1013条2項但書),相続人の債権者(相続債権者を含みます。)が相続財産について権利を行使することは妨げられません(民法1013条3項)。

 

六  特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)がされた場合

1 対抗要件

改正前は,判例上,相続させる旨の遺言による権利の承継については,対抗要件の具備がなくても第三者に対抗できるとされていましたし,権利を承継した相続人の単独申請で登記ができるので,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務もないとされていました。
しかし,改正により,相続させる旨の遺言(改正後は「特定財産承継遺言」といいます。)による権利の承継についても,取引の安全の観点から,法定相続分を超える権利の承継を第三者に対抗するには対抗要件の具備が必要となりました(民法899条の2)。
そのため,特定財産承継遺言による権利の承継がされた場合に対抗要件を備えるために必要な行為をすることについても,遺言者が別段の意思表示をした場合を除いて,遺言執行者の権限に含まれることになりました(改正後の民法1014条2項,4項)。

 

2 預貯金債権の場合

改正前は,相続させる遺言の対象財産が預貯金債権の場合,遺言執行者が預貯金の払戻しや解約ができるかどうか規定はありませんでしたので,金融機関とトラブルになるおそれがありました。
改正により,遺言者が別段の意思表示をした場合を除き,遺言執行者は,対抗要件を備えるために必要な行為のほか,預貯金の払戻請求ができますし,預貯金債権全部が特定財産承継遺言の目的であるときには解約の申入れができることになりました(改正後の民法1014条3項,4項)。

なお,改正後の民法1014条2項から4項は,施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の執行には適用がなく,旧法が適用されます(附則8条2項)。

 

七 遺言執行者の復任権

改正前は,遺言執行者は,原則として,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができないとされていましたが(改正前の民法1016条1項),遺言執行者は相続人がなることもでき,遺言執行者に十分な法律知識がない場合もありますので,専門家等の第三者に任務を行わせる必要性があります。
改正後は,遺言執行者は,遺言執行者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるようになりました(改正後の民法1016条1項)。また,第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対し選任・監督についての責任のみを負います(改正後の民法1016条2項)。

なお,改正後の民法1016条は,施行日前の遺言に係る遺言執行者の復任権については適用がなく,旧法が適用されます(附則8条3項)。

 

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