【相続・遺言】特定遺贈

2015-10-03

一 特定遺贈とは

遺贈とは,遺言によって,遺産の全部または一部を,他者に無償で与えることをいいます。

そして,例えば,「○○に○○の土地を遺贈する。」,「○○に○○の預金を遺贈する。」というように,特定の財産を遺贈することを,特定遺贈といいます。

特定遺贈には,特定物を遺贈の目的とする特定物遺贈と不特定物を遺贈の目的とする不特定物遺贈があります。

 

二 特定遺贈の効果

遺言者が死亡し,遺言の効力が発生したときに(民法985条1項),遺贈の効力が発生し,遺贈された財産について権利が受遺者に移転します(物権的効力)。

受遺者が遺贈により所有権を取得したことを第三者に対抗するためには対抗要件を具備する必要があり,不動産の遺贈の場合には,相続人または遺言執行者(遺贈義務者)が,受遺者と共同で申請して登記をします。

 

三 遺贈の放棄,承認

特定遺贈の受遺者は,遺贈を受けることも(承認),受けないことも(放棄)できます。

1 遺贈の放棄

受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。遺贈の放棄は,遺言者の死亡時にさかのぼって効力を生じます(民法986条2項)。

放棄によって遺贈が効力を生じないときは,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,受遺者が受け取るべきであったものは,相続人に帰属します(民法995条)。

2 遺贈の承認または放棄の催告

遺贈義務者その他の利害関係人は,受遺者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に遺贈を承認するか,放棄するか催告することができます。この場合に,受遺者が期間内に遺贈義務者に対し意思表示をしないときは,遺贈を承認したものとみなされます(民法987条)。

3 受遺者の相続人による遺贈の承認または放棄

受遺者が遺贈の承認または放棄をしないで死亡したときは,遺言者が遺言で別段の意思表示をした場合を除き,受遺者の相続人は自己の相続権の範囲内で,遺贈の承認または放棄をすることができます(民法988条)。

4 遺贈の承認,放棄の撤回,取消し

遺贈の承認及び放棄は,撤回することはできませんが(民法989条1項),意思表示に瑕疵があった場合等一定の場合には,取消しができます(民法989条2項,919条2項,3項)。

 

四 担保の請求

受遺者は,遺贈が弁済期に至らない間や,停止条件付遺贈について条件の成否が未定である間は,遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができます(民法991条)。

 

五 果実の取得

受遺者は,遺言者が遺言に別段の意思表示をした場合を除き,遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得します(民法992条)。

 

六 費用の償還請求

遺贈義務者は,遺言者の死亡後に遺贈の目的物について支出した費用の償還を請求することができます(民法993条1項,民法299条)。

果実を収取するために支出した通常の必要費は,果実の価格を超えない限度で,償還請求をすることができます(民法993条2項)。

 

七 相続財産に属しない権利の遺贈

遺贈の目的である権利が遺言者の死亡時に相続財産に属しなかったときは,遺贈は効力が生じません(民法996条本文)。

ただし,権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず,遺贈の目的とするものと認められる場合には,遺贈義務者は,権利を取得して受遺者に移転する義務を負いますが(民法997条1項),権利を取得できないとき,または,取得に過分の費用を要するときは,遺言者が遺言に別段の意思表示がある場合を除き,遺贈義務者は価額弁償しなければなりません(民法997条2項)。

 

八 不特定物の遺贈義務者の担保責任

不特定物が遺贈の目的である場合に,受遺者が第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,売り主と同じく担保責任を負います(民法998条1項)。

また,物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は瑕疵のない物をもってこれに代えなければなりません(民法998条2項)。

 

九 物上代位

1 遺贈の目的物の滅失,変造,占有の喪失

遺言者が遺贈の目的物の滅失,変造,占有の喪失により第三者に対し償金を請求する権利を有するときは,その権利を遺贈の目的としたものと推定します(民法999条1項)。

2 遺贈の目的物の符合,混和

遺贈の目的物が他の物と符合または混和した場合に,遺言者が合成物または混和物の単独所有者,共有者となったときは,全部の所有権または持ち分を遺贈の目的としたものと推定します(民法999条2項)。

3 債権を遺贈の目的とした場合

債権を遺贈の目的とした場合,遺言者が弁済を受け,受け取った物が相続財産中にあるときは,その物を遺贈の目的としたものと推定します(民法1001条1項)。

金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合,相続財産中に債権額に相当する金銭がないときであっても,その金額を遺贈の目的としたものと推定します(民法1001条2項)。

 

十 第三者の権利の目的である財産の遺贈

遺贈の目的である物または権利が,遺言者の死亡時に第三者の権利の目的であるときは,遺言者が遺言に反対の意思表示をした場合を除き,受遺者は,遺贈義務者に対し,その権利を消滅させるよう請求することはできません(民法1000条)。

 

 

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