【相続・遺言】特別受益の持戻し

2016-02-05

共同相続人が被相続人から遺贈や贈与を受けた場合,他の共同相続人との間で不公平にならないよう特別受益の持戻しが問題となります。

 

一 特別受益の持戻しとは

民法903条1項は「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続人財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しており,これを特別受益の持戻しといいます。

特別受益の持戻しは,被相続人から遺贈または贈与を受けた相続人とそうでない相続人間の公平を図るための制度です。

例えば,遺産総額が5000万円で,相続人が子2名の場合,特別受益がないときには,各人の具体的相続分は2500万円となりますが(計算式:5000万円×2分の1=2500万円),子の1名が被相続人から1000万円の生前贈与を受けていたときには,

生前贈与を受けた子の具体的相続分は,2000万円となり(計算式:(5000万円+1000万円)×2分の1-1000万円=2000万円),もう一人の子の具体的相続分は3000万円となります(計算式:(5000万円+1000万円)×2分の1=3000万円)。

 

また,遺贈または贈与の価額が,相続分の価額に等しいか,またはこれを超えるときは,受遺者または受贈者は,相続分を受け取ることはできませんが(民法903条2項),特別受益の持戻しは計算上,特別受益額を加算するものにすぎず,特別受益にあたる財産自体を遺産分割の対象とするわけではないので,超過分があっても,他の共同相続人が特別受益者に超過分の返還を求めることはできません。

 

例えば,遺産総額が5000万円で,相続人が子2名の場合で,子の1名が被相続人から7000万円の生前贈与を受けていたときには,贈与の価額(7000万円)が相続分の価額(計算式:(5000万円+7000万円)×2分の1=6000万円)を超えているため,生前贈与を受けていた子の具体的相続分は0円となり,もう一人の子の具体的相続分は5000万円となります。

二 特別受益者

特別受益の持戻しは共同相続人間の公平を図るための制度ですので,特別受益者は,共同相続人に限られるのが原則です。

共同相続人の配偶者や子に対する遺贈や贈与は,原則として特別受益にはあたりませんが,実質的には共同相続人に対する遺贈や贈与にあたり,その相続人の特別受益にあたるとみなされることもあります。

 

三 特別受益の種類

特別受益にあたるのは,①遺贈,②婚姻のための贈与,③養子縁組のための贈与,④生計の資本としての贈与です(民法903条1項)。相続させる旨の遺言についても,遺贈と同様,特別受益に含まれると解されております。

贈与については,すべての贈与が特別受益にあたるわけではありませんので,特別受益にあたるのかどうか問題となりますが,遺産の前渡しと同視される程度のものであることが必要です。

ある程度まとまった価額のものであることや,扶養義務に基づく給付ではないことが,特別受益にあたるかどうかの判断要素となります。

例えば,被相続人が相続人に対し毎月数万円の援助を続けていたという場合には,扶養義務に基づく援助であり,特別受益にはあたらないものと思われます。

四 特別受益の評価の基準時

実務では,相続開始時を基準に特別受益の額を評価して,具体的相続分を計算します。

 

五 特別受益の主張方法

特別受益の有無や金額は,具体的相続分算定の前提問題にすぎず,それ自体を確認しても紛争解決にはなりませんので,特別受益を確認する訴えはできないと解されております。

そのため,特別受益の有無や金額を争う場合には,遺産分割調停や審判の中で争うことになります。

 

六 持戻しの免除

1 持戻しの免除とは

民法903条3項は「被相続人が前二項の規定と異なった意思表示をしたときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。」と規定しており,被相続人が特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示をした場合には,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で効力を有し,特別受益があっても,持戻しはされません。

これは,被相続人の意思を尊重する趣旨です。

 

2 持戻し免除の意思表示の方式

持戻し免除の意思表示に特別な方式はありません。

持戻し免除の意思表示は,贈与と同時である必要はなく,遺言ですることもできます。

また,明示の意思表示のみならず,黙示の意思表示でもできます。

 

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