【相続・遺言】不動産の遺贈と所有権移転登記

2019-07-24

不動産が遺贈された場合に,受遺者名義に所有権移転登記手続をするには,どうすればよいでしょうか。

 

一 遺贈による所有権の移転

遺贈には,包括遺贈(遺産の全部または一定割合を対象とする遺贈)と特定遺贈(特定の財産を対象とする遺贈)があり,いずれも,被相続人が死亡し,遺言の効力が発生したときに,遺言の対象となる財産の所有権が受遺者に移転します。

 

二 登記が被相続人名義の場合

1 共同申請

(1)遺言執行者がいない場合

遺言執行者がいない場合には,受遺者を登記権利者,相続人全員を登記義務者として,所有権移転登記手続の共同申請をします。
相続人全員の申請が必要となりますので,一部の相続人の申請では登記できません。

 

(2)遺言執行者がいる場合

遺言執行者がいる場合には,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができませんので(民法1013条),相続人を登記義務者として所有権移転登記手続をすることができません。
そのため,所有権移転登記手続は,受遺者を登記権利者,遺言執行者を登記義務者とする受遺者と遺言執行者の共同申請で行います。
遺言執行者がいるのに,受遺者と相続人が所有権移転登記手続をした場合には,登記は無効となります。

 

2 所有権移転登記手続訴訟

遺言執行者または相続人全員が所有権移転登記手続の共同申請に応じない場合,受遺者は,遺言執行者または相続人全員を被告として,所有権移転登記手続訴訟を提起しなければなりません。
遺言執行者がいる場合には,遺言執行者が被告となります。遺言執行者がいる場合,相続人は被告適格を有しませんので,相続人を被告とした訴えは却下されます。
遺言執行者がいない場合には,相続人全員を被告として訴え提起します。

請求の趣旨は「被告(ら)は,原告に対し,別紙物件目録記載の不動産につき,○○年○○月○○日遺贈を原因とする所有権移転登記手続をせよ」となります。日付は被相続人が亡くなった日です。
請求認容判決が確定すれば,受遺者は,単独で所有権移転登記手続をすることができます。

 

三 遺贈の登記の前に相続人名義の登記がなされた場合

遺言の効力発生時に不動産の所有権は受遺者に移転しています。
また,相続人は被相続人の包括承継人であり,民法177条の「第三者」にはあたりませんので,相続人と受遺者は対抗関係にはなりません。
そのため,遺贈の登記をする前に相続人名義の登記がなされた場合には,相続登記の抹消登記手続をしてから,遺贈を原因とする所有権移転登記手続をすることができます。

遺言執行者がいる場合には,抹消登記手続については,遺言執行者は,遺言の執行に必要な行為として,登記名義人に対し抹消登記手続を求めることができます。また,受遺者は,遺言執行者がいる場合であっても,所有権に基づく妨害排除請求として,抹消登記手続を求めることができます。
また,所有権移転登記手続については,遺言執行者がいる場合には,受遺者と遺言執行者の共同申請で行います。

 

四 遺贈の登記の前に第三者名義の登記がなされた場合

1 遺言執行者がいない場合

受遺者に登記がなされる前に相続人が第三者に不動産を譲渡して,第三者名義の登記がなされた場合,民法177条により受遺者と第三者は対抗関係にありますので,登記のない受遺者は遺贈による不動産の取得を第三者に対抗することができません。

 

2 遺言執行者がいる場合

(1)相続法の改正前

遺言執行者がいる場合には,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(改正前の民法1013条),相続人に処分権はありませんので,相続人が第三者に不動産を譲渡しても無効となります。
そのため,受遺者は,登記がなくても,遺贈による不動産の取得を第三者に対抗することができます。その場合に,受遺者名義の登記をするには,遺言執行者または受遺者が登記名義人と抹消登記手続をしてから,受遺者と遺言執行者の共同申請で遺贈を原因とする所有権移転登記手続をすることができます。

 

(2)相続法の改正後

相続法の改正により,民法1013条は改正されました(2019年7月1日より施行)。
改正後の民法1013条では,相続人は,遺言の対象となった相続財産について,処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(改正後の民法1013条1項),違反した行為は無効となりますが(改正後の民法1013条2項本文),善意の第三者には対抗できませんし(民法1013条2項但書),相続人の債権者(相続債権者を含みます。)が相続財産についてその権利を行使することは妨げられません(民法1013条3項)。
そのため,第三者が善意の場合や相続人の債権者(相続債権者を含みます。)の場合には,登記のない受遺者は遺贈による不動産の取得を第三者に対抗することができません。

 

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