【民法(債権法)改正】消滅時効制度の改正

2020-12-01

民法の債権法が改正され,令和2年4月1日に施行されました。改正により,消滅時効制度の内容が変わりました。

 

一 債権の消滅時効期間と起算点

1 原則的な債権の消滅時効期間と起算点

改正前の民法では,原則的な債権の消滅時効期間は,権利を行使することができるときから10年とされていましたが(旧民法166条1項,167条1項),改正後は,①権利を行使することができることを知った時から5年,②権利を行使することができる時から10年となり,いずれか早い方の期間の経過により時効が完成することになりました(民法166条1項)。

 

改正前は,原則的な債権の消滅時効期間のほか,職業別の短期消滅時効(旧民法170条から174条),商事消滅時効(旧商法522条)等,債権の種類によって時効期間が異なり,複雑になっていましたが,改正により,職業別の短期消滅時効や商事消滅時効が廃止され,原則的な債権の時効期間が統一されました。

また,消滅時効の起算点については,客観的起算点(権利を行使することができる時)のほか,主観的起算点(権利を行使することができることを知った時)を追加し,主観的起算点の時効期間を5年と短くしました。

 

なお,改正法が適用されるのは施行日後に生じた債権についてです。施行日前に生じた債権については旧法が適用されます(附則10条4項)。

 

2 職業別の短期消滅時効の廃止

改正前の民法では,飲食料,宿泊料は1年,弁護士の報酬は2年,医師の診療報酬は3年等,職業別の短期消滅時効がありましたが(旧民法170条から174条),改正により,廃止されました。

改正後は,原則的な債権の消滅時効期間の規定(民法166条1項)が適用されます。

 

3 定期金債権等の消滅時効

改正前の民法では,定期金債権は,①第1回の弁済期から20年間行使しないとき,②最後の弁済期から10年間行使しないときは時効により消滅すると規定されていましたが(旧民法168条1項),改正後は,①債権者が定期金の債権から生じる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することを知ったときから10年間行使しないとき,②前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないときは,時効により消滅することになりました(民法168条1項)。

 

また,改正前の民法の定期給付債権の短期消滅時効の規定(旧民法169条「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,5年間行使しないときは,消滅する。」)は廃止されました。改正後は,原則的な債権の消滅時効の規定(民法166条1項)が適用されます。

 

4 不法行為の損害賠償請求権の消滅時効

改正前の民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効により消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも,同様とする。」と規定しており,「不法行為の時から20年を経過したとき」については除斥期間と解釈されていましたが,改正により,「不法行為の時から20年間行使しないとき」は,除斥期間ではなく,消滅時効期間となりました(民法724条)。

 

除斥期間の場合は,不法行為の時から20年を経過すると損害賠償請求することができなくなりますが,消滅時効期間となったことで,時効の更新や完成猶予の事由があれば,不法行為の時から20年を経過した場合であっても損害賠償請求をすることができるようになります。

 

なお,旧民法724条後段の規定は,施行時に既に期間が経過している場合に適用されますので(附則35条1項),施行時に20年が経過していない場合には改正法が適用されます。

 

5 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

改正により,人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間が長期化されました。

債務不履行による損害賠償請求権の場合は,①権利を行使することができることを知った時から5年,②権利を行使することができる時から20年です(民法166条,167条)。

不法行為による損害賠償請求の場合は,①損害及び加害者を知った時から5年,②不法行為の時から20年です(民法724条,724条の2)。

なお,民法724条の2の規定は,施行の際に既に時効が完成していた場合には適用されませんが(附則35条2項),施行時に未だ消滅時効が完成していない場合には適用されます。

 

二 時効の援用権者

消滅時効の効果が生じるには,時効期間が経過するだけでなく,時効の援用が必要となります。

改正前の民法では,「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」(旧民法145条)と規定されており,「当事者」の範囲が明確ではありませんでした。

改正法では,「時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」(改正後の民法145条)と規定され,「当事者」の範囲が明らかになりました。

 

三 時効の更新,時効の完成猶予

改正前の「時効の中断」の規定(旧民法147条から157条)と「時効の停止」の規定(旧民法158条から161条)が見直され,改正後は「時効の更新」と「時効の完成猶予」の規定になりました。

なお,施行日前に時効の中断・停止事由が生じた場合は旧法が適用されます(附則10条2項)。

 

1 時効の中断事由の見直し

改正前の時効の中断には,時効が完成しないという効果と時効期間がリセットされるという効果がありましたので,改正により,時効の完成猶予と時効の更新に整理されました。

改正後の規定は以下のとおりです。

なお,施行日前に時効の中断事由が生じた場合には旧法が適用され(附則10条2項),施行日後に事由が生じた場合には改正法が適用されます。

 

(1)裁判上の請求等による時効の完成猶予,時効の更新

①裁判上の請求,②支払督促,③裁判上の和解,民事調停,家事調停,④破産手続参加,再生手続参加,更生手続参加の場合には,その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

 

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合は,時効はその事由が終了したときから新たに進行します(民法147条2項)。

 

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は,時効は更新されませんが,終了時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

 

(2)強制執行等による時効の完成猶予,時効の更新

①強制執行,②担保権の実行,③形式競売,④財産開示手続の場合には,その事由が終了するまでの間は時効の完成が猶予され(民法148条1項),その事由が終了した場合には,終了時から時効が新たに進行します(民法148条2項)。

ただし,申立の取下げや法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合には,時効は更新されませんが,終了時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法148条1項,2項)。

 

(3)仮差押え等による時効の完成猶予

①仮差押え,②仮処分の場合には,その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法149条)。

 

改正前は仮差押え等にも時効の中断の効力が認められていましたが(旧民法147条2号),改正後は,仮差押え等に時効の完成猶予の効果はあるものの,時効の更新の効果はありません。仮差押え等の後に本案訴訟が提起された場合には,裁判上の請求に当たり,裁判上の請求による時効の更新があります。

 

(4)催告による時効の完成猶予

催告があったときは,その時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。

催告による時効の完成の猶予期間中に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力はありません(民法150条2項)。

 

(5)承認による時効の更新

時効は,権利の承認があったときは,その時から進行を始めます(民法152条1項)。

承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しません(民法152条2項)。

承認については,改正前の時効の中断と内容が同じです。

 

2 時効の停止事由の見直し

改正前の民法では,時効の停止事由として,①未成年者,成年被後見人,②夫婦間の権利,③相続財産,④天災等が規定されており(旧民法158条から161条),これらの事由は,改正後は時効の完成猶予事由となりました(民法158条から161条)。

また,①から③の期間は変わりませんが,④天災等については,改正前は期間が2週間だったのに対し,改正後は期間が3か月になりました(民法161条)。

 

なお,施行日前に時効の停止事由が生じた場合は旧法が適用され(附則10条2項),施行日後に事由が生じた場合には改正法が適用されます。

 

3 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

民法改正により,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度(民法151条)が新設されました。

 

権利についての協議を行う旨の合意が書面(電磁的記録を含みます。)でされたときは,①合意があった時から1年を経過した時,②協議を行う期間(1年に満たないものに限ります。)を定めたときは,その期間を経過した時,③当事者の一方が他方に対し協議続行を拒絶する旨の書面(電磁的記録を含みます。)による通知をした時から6か月を経過した時のいずれか早い時期まで,時効の完成が猶予されます(民法151条1項,4項,5項)。

猶予期間中に再度の合意をすることで,さらに時効の完成を猶予させることができますが,通算で5年を超えることはできません(民法151条2項)。

 

また,催告による時効の完成猶予と協議を行う旨の合意による時効の完成猶予は併用することができません(民法151条3項)。

 

なお,民法151条の規定は施行日前の合意については適用されません(附則10条3項)。

 

 

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