【民事訴訟】証人尋問

2018-12-07

民事訴訟の証拠調手続として,①書証,②人証(証人尋問,当事者尋問),③鑑定,④検証があります。
ここでは,証人尋問について説明します。

 

一 証人尋問の基本的な流れ

証人尋問は,当事者双方の主張が出揃い,争点及び証拠の整理が終了した後に,①証人尋問の申出(証拠申出書,尋問事項書,陳述書の提出),②証人の採否の決定,③同行または呼出による証人の出頭,④証人への人定質問(人違いでないことの確認),⑤証人の宣誓,⑥証人への尋問(主尋問,反対尋問,補充尋問)という流れで行うのが通常です。

 

二  証人とは

証人とは,自ら経験・認識した過去の事実を訴訟で供述する第三者のことです。
当事者やその法定代理人以外の第三者は証人となります。
裁判所は,特別の定めがある場合を除き,何人でも証人として尋問することができます(民事訴訟法190条)。

 

三 証人の義務

証人は,原則として,出頭義務,証言義務,宣誓義務を負います。

 

1 出頭義務

尋問の申し出をした当事者は,証人を期日に出頭させるよう努めなければなりません(民事訴訟規則109条)。
また,証人は,期日に出頭することができない事由が生じたときは,直ちに,その事由を明らかにして届け出なければなりません(不出頭の届出。民事訴訟規則110条)。
証人が正当な理由なく出頭しないときは,①訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすること(民事訴訟法192条),②罰金・拘留に処せられること(民事訴訟法193条),③裁判所に勾引を命じられること(民事訴訟法194条)があります。

 

2 証言義務

証人は,原則として証言の義務を負います。
証人が正当な理由なく証言を拒む場合には,訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすることや罰金・拘留に処せられることがあります(民事訴訟法200条,192条,193条)。
ただし,証人は,刑事訴追を受けるおそれがある場合や守秘義務を負う場合等,一定の事由がある場合には,証言拒絶権が認められ,証言を拒絶することができます(民事訴訟法196条,197条)。

 

3 宣誓義務

証人は,特別の定めがある場合を除き,宣誓する義務を負います(民事訴訟法201条1項)。宣誓した上で,虚偽の証言をした場合には,偽証罪となることがあります(刑法169条,170条)。
証人が正当な理由なく,宣誓を拒んだ場合には,訴訟費用の負担を命じられたり,過料に処せられたりすることや罰金・拘留に処せられることがあります(民事訴訟法201条5項,192条,193条)。

 

四 集中証拠調べ

証人尋問及び当事者尋問は,できる限り,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければなりません(民事訴訟法182条,民事訴訟規則101条)。
また,証人及び当事者本人の尋問の申出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。

五 尋問の申出

1 証拠申出書の提出

証人尋問するにあたって,当事者は証人尋問の申出をします。
証人尋問の申出は証拠申出書を提出して行います。
証拠申出書には,①人証の表示(民事訴訟規則106条),②尋問予定時間(民事訴訟規則106条),③同行か呼出しか,④証明すべき事実(民事訴訟法180条1項,民事訴訟規則99条1項)を記載します。
また,証人尋問の申出をするときは同時に尋問事項書2通を提出しなければなりません(民事訴訟規則107条)。尋問事項書は証拠申出書に添付します。

 

2 陳述書の提出

尋問の申出をする際,証人の陳述書を作成して提出することが通常です。
陳述書は,主尋問で聞く予定のことについて記載します。
陳述書は主尋問を代替,補完するものであり,尋問時間を短縮することができますし,主尋問で証人がどのようなことを述べるのか予想できますので,反対尋問の準備にも役立ちます。

 

3 証人の採否

証人尋問の申出に対し,裁判所は証人を採用するか決定します。
証人を採用する場合には,尋問時間や順序等も決めます。
また,呼出が必要な証人については,呼出状が送られます。

 

六 尋問の順序

証人尋問は,①主尋問(尋問の申出をした当事者の尋問),②反対尋問(他の当事者の尋問),③再主尋問(尋問の申出をした当事者の再度の尋問),④補充尋問(裁判長の尋問)の順序でするのが原則です(民事訴訟法202条1項,民事訴訟規則113条1項)。 また,当事者は,裁判長の許可を得て,更に尋問することができます(民事訴訟規則113条2項)。
ただし,裁判所は,適当と認めるときは,当事者の意見を聴いて順序を変更することができます(民事訴訟法202条2項)。
また,裁判長は,必要があると認めるときは,いつでも自ら証人を尋問したり(介入尋問),当事者に尋問を許すことができますし(民事訴訟規則113条3項),陪席裁判官は,裁判長に告げて,証人尋問することができます(民事訴訟規則113条4項)。

 

七 尋問の方法

1 一問一答式の原則

質問は,できる限り,個別的かつ具体的にしなければなりません(民事訴訟規則115条1項)。

 

2 尋問事項

①主尋問は,立証すべき事項及びこれに関する事項について,②反対尋問は,主尋問事項に現れた事項及びこれに関する事項,証言の信用性に関する事項について,③再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行います(民事訴訟規則114条1項)。
これらの事項以外の質問については,相当でないと認められるときは,申立て又は職権により制限されることがあります(民事訴訟規則114条2項)。

 

3 禁止される質問

当事者は,①証人を侮辱し,又は困惑させる質問,②誘導質問,③既にした質問と重複する質問,④争点に関係のない質問,⑤意見の陳述を求める質問,⑥証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問をすることはできません。ただし,②から⑥については正当な理由がある場合は質問することができます(民事訴訟規則115条2項)。
違反する場合には,申立て又は職権により質問が制限されることがあります(民事訴訟規則115条3項)。

 

4 書類に基づく陳述の禁止,文書等の利用

証人は,裁判長の許可を受けた場合を除き,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法203条)。

当事者は,裁判長の許可を得て,文書等を利用して証人に質問することができます(民事訴訟規則116条1項)。文書等が証拠調べをしていないものであるときは,相手方の異議がないときを除き,質問前に相手方に閲覧する機会を与えなければなりません(民事訴訟規則116条2項)。裁判長は調書への添付その他必要があると認めるときは,当事者に対し,文書等の写しの提出を求めることができます(民事訴訟規則116条3項)。

5 対質

対質とは,複数の証人を在廷させて同時に取り調べることです。
裁判長は,必要があると認めるときは,対質を命ずることができます(民事訴訟規則118条1項)。対質を命じたときは,その旨調書に記載されます(民事訴訟規則118条2項)。対質を行うときは,裁判長がまず証人を尋問することができます(民事訴訟規則118条3項)。

 

6 文字の筆記等

裁判長は,必要があると認めるときは,証人に文字の筆記その他の必要な行為をさせることができます(民事訴訟規則119条)。

 

7 後に尋問すべき証人の扱い

証人尋問は,後に尋問する証人を在廷させないので行うのが原則です(隔離尋問の原則)。
後で尋問する証人を在廷させると,先に尋問した証人の証言内容の影響を受ける可能性があるからです。
もっとも,裁判長は,必要があると認めるときは,後に尋問すべき証人の在廷を許すことができます(民事訴訟規則120条)。

 

8 証人への配慮

証人への配慮の観点から,①付添い(民事訴訟法203条の2,民事訴訟規則122条の2),②遮蔽措置(民事訴訟法203条の3,民事訴訟規則122条の3),③テレビ会議システムの利用(民事訴訟法204条,民事訴訟規則123条),④傍聴人の退廷(民事訴訟規則121条)がなされることがあります。

 

八  異議

当事者は,①民事訴訟規則113条(尋問の順序)2項,3項の裁判長の許可,②民事訴訟規則114条(質問の制限)2項の裁判長の制限,③115条(質問の制限)3項の裁判長の制限,④民事訴訟規則116条(文書等の質問への利用)1項の裁判長の許可について,異議を述べることができます(民事訴訟規則117条1項,民事訴訟法202条3項)。
異議に対して,裁判所は決定で直ちに裁判しなければなりません(民事訴訟規則117条2項)。

 

九 尋問の結果について

1 口頭弁論調書への記載

証人の陳述は口頭弁論調書に記載されます(民事訴訟規則67条1項3号)。
ただし,裁判長の許可があったときは,証人の陳述を録音テープ等に記録し,調書の記載に代えることができますが,裁判長が許可をする際に当事者は意見を述べることができますし(民事訴訟規則68条1項),当事者の申し出があるときは証人の陳述を記載した書面を作成しなければなりません(民事訴訟規則68条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部となります。

2 簡易裁判所の場合

簡易裁判所の事件では,簡易迅速な処理の観点から,裁判官の許可を得て証人の陳述を口頭弁論調書に記載することを省略することができます(民事訴訟規則170条1項)。
調書の記載を省略する場合,裁判官の命令または当事者の申出があるときは,裁判所書記官は,当事者の裁判上の利用に供するため,録音テープ等に証人の陳述を記録しなければならず,当事者の申出があるときは,録音テープ等の複製を許さなければなりません(民事訴訟規則170条2項)。
この録音テープ等は訴訟記録の一部とならないので,控訴があった場合,控訴審の裁判官は録音テープ等を聴くことはできません。そのため,当事者は,録音テープ等を複製してもらい,自分で反訳書面を作成して,反訳書面を書証として提出することになります。

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2016 ながせ法律事務所 All Rights Reserved.