【民事訴訟】消滅時効には気をつけて

2014-11-11

債権回収や損害賠償請求において,債権の成立時から時間が経っている場合には,消滅時効が問題となることがよくあります。

消滅時効とは,一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度であり,債権者からすれば債権が行使できなくなりますし,債務者からすれば債務を免れますので,消滅時効が成立するかどうかは当事者にとって,非常に重要な問題となります。

そこで,消滅時効について簡単にご説明します。

※令和2年4月1日に施行された改正民法により,消滅時効制度の内容が変わりました。このページは改正前の制度について説明しておりますのでご注意ください。

1 消滅時効とは

時効には,取得時効と消滅時効がありますが,このうち消滅時効とは,一定の期間が経過すると権利が消滅してしまう制度です。

 

時効制度は,①長期間にわたる事実状態を尊重し,法的安定性を図ること,②時の経過により,証拠が散逸し,立証が困難となることの救済,③権利の上に眠る者は保護に値しないことが根拠であるとされております。

 

2 消滅時効の対象となる権利

①債権,②債権・所有権以外の財産権です。

 

3 消滅時効の要件

消滅時効は,①時効期間の経過と,②時効の援用が要件となります。

(1)時効期間の経過

時効期間については,権利を行使することができるときから起算(民法166条1項)します。

例えば,期限がある場合には,期限が到来した時から進行を開始しますし,停止条件が付いている場合には条件が成就したときから進行を開始します。

また,消滅時効期間は,初日は不算入として計算します(民法140条)。

時効期間については,原則として,債権は10年債権・所有権以外の財産権は20年ですが(民法167条),これより短い時効期間も規定されています(民法169条から174条)。

また,不法行為の時効期間は3年(民法724条),商事債権の時効期間は5年(商法522条)と規定されている等,民法その他の法令に,時効期間に関する特別の規定がありますので注意が必要です。

(2)時効の援用

消滅時効の効果は,時効期間の経過によって発生するのではなく,当事者が時効を援用することによって生じます(民法145条)。

当事者の時効の援用が要件とされているのは,時効による利益を受けるかどうかを当事者の意思に委ねる趣旨です。

時効を援用できる「当事者」は,権利の消滅により直接利益を受けるものに限られております。

債務者のほか,保証人や物上保証人等も援用ができます。

 

4 消滅時効の効果

時効の効力は,起算日にさかのぼります(民法144条)。

つまり,債務の元本が時効により消滅した場合には,さかのぼって債務が存在しなかったことになるので,利息や遅延損害金の支払義務もなかったことになります。

 

5 時効の中断

権利が消滅しないようにするため,時効の中断の制度があります。

(1)時効の中断事由

消滅時効の中断事由として,①請求(民法147条1号,民法149条から153条),②差押,仮差押え又は仮処分(民法147条2号,民法154条,民法155条),③承認(民法147条3号,民法156条),④その他(民法290条等)があります。

①請求には,裁判上の請求(訴訟(民法149条),支払督促(民法150条),和解・調停の申立て(民法151条),破産手続参加,民事再生手続参加等(民法152条))と,催告(民法153条)があります。

催告とは,例えば,内容証明郵便で弁済しろと請求することをいいますが,催告をしても,6か月以内に,裁判上の請求や,差押え,仮差押え,仮処分をしなければ時効中断の効力は生じないので(民法153条),注意してください。

③承認は,債務者が債務の存在を認めることです。

債務者が債務の存在を認めたり,一部の返済をしたりすることが承認に当たります。, 債権者としては,後で債務者から時効を主張されたときに備えて,債務者が承認した証拠をのこしておくことが考えられます。

(2)時効中断の効果

時効中断の効果は,当事者(中断行為をした人とその相手方)とその承継人(時効の対象となる権利を譲り受けた人や相続人)との間においてのみ効力を有します。

また,時効が中断すると,中断事由が終了したときから,新たに進行を始めます(民法157条1項)。裁判上の請求によって時効が中断した場合には,裁判が確定したときから,新たに進行を始めます(民法157条2項)。なお,確定判決(裁判上の和解等確定判決と同一の効力を有するものも含む。)によって確定した権利については,短期消滅時効にかかるものであっても,時効期間は10年となります(民法174条の2第1項)。

 

6 時効の停止

未成年者や被後見人に法定代理人がいない場合等,時効の中断をすることが困難な事由があるときに,一定期間,時効の進行が停止します(民法158条から161条)。

時効の中断とは異なり,時効期間が振り出しに戻るわけではありません。時効が停止されている一定期間だけ,時効期間が延びることになります。

 

7 時効利益の放棄

時効完成前には,時効の利益を放棄することはできませんが(民法146条),時効完成後に放棄することは可能です。

また,時効完成後に債務者が債務を承認すると,時効完成を知らなかったとしても,信義則上,その債務について時効を援用することができなくなってしまいます。

なお,債務者が時効利益を放棄したとしても,その効果は保証人や物上保証人には及ばないと解されています。

また,放棄後に,新たな時効の進行が始まると解されています。

 

8 除斥期間

消滅時効に類似する制度として,除斥期間があります。

除斥期間とは,権利の行使期間であり,一定期間内に権利行使をしないと権利が消滅してしまいますが,①中断がない,②援用は不要,③権利の発生時から起算する,④権利消滅の効果は遡及しない点で消滅時効と異なります。

例えば,不法行為による損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから,3年で消滅時効にかかりますが,不法行為の時から20年を経過すると除斥期間により権利が消滅します(民法724条)。

 

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